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2019年03月08日(金)

個人事業主から法人成りをする時の資産・負債の対処法

経営ハッカー編集部
個人事業主から法人成りをする時の資産・負債の対処法

個人事業主として活動していれば、抱えている資産や負債が発生しているかと思います。そのような資産ですが、法人成りをした際はどのように扱えば良いのでしょうか。

実際には法人に引き継ぐことができるのですが、引き継ぎ方法にもいくつか種類があります。ここでは引き継ぎにおける対処法を紹介していきます。

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引き継ぐ時の3つの方法とその特徴について

法人化した際に注意すべき点として、個人事業主時代に持っていた資産をどう引き継ぐかということがあります。法人成りの場合、基本的に個人事業主としての事業活動を延長して最初は行っていくことになるため、必要な資産は個人事業主時代と同じものとなります。

その際、個人事業主から法人に不動産や商品などを引継ぐ形になりますが、引継ぎ方にも3つの種類があります。「売買契約」「現物出資」「賃貸借契約」の3つです。ここではそれぞれの種類と特徴について紹介していきます。

売買契約

文字通り、個人事業主が持っている資産を法人側に売却するという引継ぎ方法になります。売却を行うため、金銭のやり取りが発生し資金が必要となります。ただ、どちらも関わる人間は同じになるため、取引自体はいたってシンプルなものとなり、一括の支払いが必要なわけでも無いため、資産によって返済期間を定めて分割の形で返済を進めれば良いこととなります。

利息についても同様で設定してもしなくても問題ないでしょう。個人事業主側としては、引継ぎ資産によって譲渡所得になったり事業所得になったりします。法人側も同様に資産によって仕入れになることもあれば中古資産を購入という形になることもあります。

この引き継ぎ方法のメリットとしては、後に紹介する現物出資と比べて費用やかかる期間を抑えられることにあります。事前に多少の資金が必要となる点をクリアできるのであれば、取引にシンプルさと期間と費用のメリットからこの選択肢を取ることが良いでしょう。

現物出資

現物出資は売却とは異なり、個人事業主側から資産を出資する形となります。この場合金銭以外の出資の形となり、法人の資本金を増やすことができます。個人事業主側からすると、出資をすることで株式を受け取る形となり、特に金銭面でのやり取りは発生しない形となります。

現物出資の対象にできるものは多くあり、賃借対照表に載せられるものであれば基本的に対象とすることができます。そのため、有価証券や不動産、システムやソフトウェアのような無形の資産であっても現物出資の対象とすることができます。

逆に、賃借対照表に載せられない信用度の大きさなどは出資の対象とすることはできません。この引継ぎ方法のメリットとしては、法人成りのタイミングでまとまった資金が必要無いということです。資本金を増やすために資金を用意するのではなく資産を法人に出資する形になるためです。

ただ、本当はそこまで価値が無いのにあたかも価値があるかのように見せるような実態が伴わない出資はきちんと検査が必要となり、価値が500万以下、市場価格より低く引き継ぐ有価証券、弁護士や税理士などから価値の正当性の証明を受けた場合を除き、定款への記載や裁判所が選んだ検査役からの検査が必要とされています。

賃貸借契約

賃貸借契約とは、こちらも文字通り個人事業主の時代に持っていた資産を法人に貸す形態のことです。資産を持っている人間は個人事業主側になるため、引き継ぐというよりは純粋に賃貸契約という認識が近いでしょう。

資金面その他の理由で引継ぎや出資ができない場合に、事業を継続して行うための手段として選ばれることがあります。売却や出資の場合、その後個人事業主は廃業する場合がほとんどのため、個人事業主としての確定申告は最終年度で終わりますが、資産自体は個人事業主に帰属しており、賃貸の対価が入ってくるため個人事業主としての確定申告は引き続き続ける必要があります。

この方法を選ぶメリットとしては、賃貸契約となるため売却に比べてもまとまった資金が必要無いことがあげられます。ただ、賃料が相場から大きくずれている場合は税務関係でのリスクが生じることがあるため注意が必要です。

デメリットとしては、不動産などを賃貸借契約にしていて仮に経営者が引退した場合、引退する経営者に資産は帰属しているため、ゆくゆくは資産が減ってしまう可能性もあります。また、取引先や証券会社、投資家から見ると法人に資産が帰属していないことは基盤が安定していないという評価になることもあり、後に上場を考える際に大きく影響が出てしまう可能性もあります。手段として賃貸借契約を取らなくて良い状態であれば、取らない方が良いでしょう。

資産、負債を引き継ぐ場合の注意事項とは?

ここまで引き継ぐ方法については紹介してきましたが、実際どんな資産や負債を引き継ぐことになるのでしょうか?ここでは引き継ぐ資産・負債の種類ごとに特徴を紹介していきます。紹介するのは「棚卸資産」「固定資産」「売掛金・貸付金・買掛金」「借入金」の4種類です。

棚卸資産

基本的に商品が該当します。棚卸資産の引き継ぎの場合は、売買契約か現物出資で引継ぐこととなります。価格については通常販売価格の70%以上で設定することが必要となります。注意点としては、ずっと棚にあるような商品や傷がついているもの、時期的に今売れることが想定されないものは価格を付けることが困難になるため、個人事業主として売り切るか処理することが必要となります。

70%未満の価格で設定してしまった場合、低額での譲渡として別途税金が課せられる場合があり、個人の場合は所得税に法人の場合は法人税に載せられることになります。

固定資産

不動産や社用車、ソフトウェアなどがこれに当たります。固定資産の場合はどの引継ぎ方法でも行うことができます。売買契約や現物出資を行った場合、個人事業主側は事業で得た所得ではないため譲渡所得となります。こちらについては50万円までの資産であれば非課税で引き継ぐことができますが、不動産などを譲渡する場合多くの売却益が個人事業主側に計上されることとなり、所得税に跳ね返ってくる可能性があります。

法人側に不動産を譲渡する場合、所得税の他にも登録免許税や不動産取得税が課せられることになります。賃貸借契約を活用できるのはこの固定資産の引き継ぎで、個人への大きな売却益や法人側への税負担を軽減することができるため、法人成りしたての場合は固定資産については賃貸借契約を検討しても良いかもしれません。

売掛金・貸付金・買掛金

こちらは売買契約でも現物出資でもどちらでも引き継ぎが可能です。引き継ぐ場合はかなり複雑な処理が必要となるため、個人事業主として処理することが可能なのであればその方が良いでしょう。どうしても引き継ぐことが必要な場合は、別途税理士などへの依頼を検討してもよいでしょう。

借入金

こちらも売買契約でも現物出資でも対応が可能です。引き継いだ場合は借入金にかかる利息を法人の経費として計上することができます。注意点としては、借入金の引き継ぎには個人事業主から法人への名義変更が必要となるため、金融機関に承諾を得ることが必要ということです。

また、担保が発生している借入の場合、価値の見直しによって追加の担保が必要になるケースもあるため事前に確認するようにしましょう。

それぞれの特徴を知って状況に合わせた引き継ぎを

それぞれの資産に対して、状況によってどの方法で引き継いだら良いのかが変わってくることが分かったかと思います。法人成りする際は状況を冷静に見極め対処するようにしましょう。

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