貸倒れの防止方法|発行済みの請求書、全額入金されていますか?
会社を経営するうえで大切な進捗指標は多々ありますが、取引先からの入金もそのなかの一つだと言えるでしょう。毎月締日が近づくと、請求書発行や入金確認など、忙しいと思いますが、今回は“入金が入ってこない”場合、「貸倒れ」に関する話をみていきましょう。
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1)「貸倒れ」とは
「貸倒れ」とは、一般的に売掛金や貸付金などが回収できなくなり、会社の損失となることを差します。法律上、貸倒れはその内容から3つ(法律上・事実上・形式上)に区分され、それにより会計処理も異なります。まずは貸倒れのパターンから確認していきましょう。
- 法律上の貸倒れ:相手の会社が会社更生法等の適用を受け、債権が法律的に消滅する貸倒れ
- 事実上の貸倒れ:相手の会社の資産状況等からみて、その全額が回収不能な場合場合の貸倒れ
- 形式上の貸倒れ:相手の会社との取引停止後、1年以上経過した場合の貸倒れ
2)なぜ貸倒れは発生するのか
それでは、なぜ貸倒れは起きてしまうのでしょうか。様々な理由によって支払いができなくなり、それが貸倒れにつながって行きます。倒産の原因を見てみましょう。 <参考:中小企業庁 倒産の状況> 圧倒的に多いのは販売不振、つまり思うように売上が上がらないため倒産に追い込まれるパターンです。その他の理由も大枠で包括すると、必要な利益額が稼げなかったということでひとくくりにできるでしょう。利益額が想定以下だった結果、関係する取引先に貸倒れとして負担が降りかかってきます。
3)貸倒れが発生したらどうするべきか
貸倒れが発生した場合、損金を計上する会計処理を行い、貸倒引当金を引き当てるのが一般的な運用方法です。しかし、本来貰い受けるべき金銭が回収できなくなることがほとんどで、貸倒れが発生すると金銭的な損失をこうむってしまうでしょう。
・貸倒れが起きた場合目指すべきなのは「損失の最小化」
貸倒れを防止できればそれが理想的ですが、貸倒れは取引先の財務状況などの外的要因が関係するため、貸倒れの防止は現実的には難しく、損失の最小化を目指すのが適切です。
・貸倒れ防止の方法
今回は外部専門家や保険等による対策ではなく、できるだけ経営者や営業担当者によって実現可能な、社内でできる対策を対象とします。
先の「倒産の状況」の表で、倒産理由の一位は販売不振でした。裏を返せば、貸倒れは天災のように突発的に発生するのではなく、多くの場合予兆を伴いながら徐々に表面化するということになります。
4)貸倒れ対策、4つのポイント
今回は下記の4つを対策ポイントとして記載しました。4つのポイントを参考にして、将来降りかかってくるであろう損失を最小化しましょう。
- 契約書類(基本契約、見積書、注文書など)
- 入金確認と連絡
- 損失拡大防止措置
- 専門家への相談
それでは個別の対策ポイントを掘り下げてみましょう。
1. 契約書類
新規取引の開始に伴い、契約書を締結しようとしている場合や、すでに契約を締結して取引を進めている場合はどのような点に気を付けておけば良いのでしょうか。
・契約書の様式
継続的な売買や役務提供を前提とした取引の場合、多くは基本契約+個別契約という形をとると思います。2種類の契約書があるということではなく、会社間の取引に関する汎用的な契約は「基本契約」、仕様や内容に関する注文や修正は「個別契約」としてお読みください。
基本契約書の大部分は、契約を締結する時点(取引の開始前)で想定された事実に基づき記述されます。基本契約書の内容は、標準的な納期や締め払い、機密情報の扱いについてです。しかし、実際の商売は流動的で多様性に富んでおり、将来発生しうるすべての状況を網羅した基本契約書は現実的ではありません。そのため、注文書や納品書などの個別契約において、必要な数量や納期などの流動的な内容について「個別契約」として契約を取り交わします。
また、買い手と売り手では買い手が売買の力関係において優位です。特に取引の開始時点や、取引が順調に繰り返されているときはその傾向は顕著になります。そのため、汎用的な条項について記載する基本契約書では、買い手にとって有利な条項(納期、瑕疵担保責任など)ほど具体的になりやすく、買い手にとって不利な条項(貸倒れ、担保など)ほど抽象的な表現になりやすい傾向があるので、注意が必要です。
貸倒れ対策としての、基本的な契約書活用方針
日本企業の習慣として、基本契約書の作成には法務や弁護士などの専門部署が関与する事があります。個別契約書については、営業や調達など現場部署が中心になって裁量する傾向が強く現場のスピードが優先される事が多いです。
個別契約が別途発生する際は、すでにその前提となる商談が買い手とその先の納品先で進んでいる事もあり、時間的制約の中で条件を詰めていく必要があります。そのため、立場の弱い売り手は個別契約の方が自社に有利な条項を盛り込みやすいと言えます。個別契約のチャンスを積極的に活用し、貸倒れによる損失の最小化を図っていくべきではないでしょうか。
個別契約書で抑えるべきポイント
個別契約では、基本契約よりも低リスクな内容をその時点の動向に合わせて盛り込むという事が大切です。
商品の売買取引を例に考えてみましょう。業界内で経営状況が芳しくないと噂の会社から通常を大きく上回る金額の注文が入ったとします。売掛の回収ができれば大きな利益になりますが、貸倒れた場合には損失が発生します。このような場合にどのような対策が考えられるでしょうか。
ひとつの案として、今回の個別注文についてのみ、支払完了前の商品への第三者による担保権等の設定を禁止する条件を個別契約で取りかわす方法があります。このケースでは、仕入れ時の目論見が外れ、販売が予定通りうまく行かない事態が想定されます。取引先は支払に窮し、商品を引き渡したのに売掛の回収が予定通りに進まなくなってしまいます。そのまま全額が貸倒れたとすると、損失は請求書に書いてある全額になり、大きな損害を被ってしまいます。
しかし、納品した商品を回収することができれば、こちら側の損失はある程度軽減できます(請求額-商品原価=損失)。納品した商品を他の取引先(金融機関など)が担保に取れないように個別契約で条件を付加しておけば、商品が回収でき、損失が軽減されるというわけです。
同じような方法ですが、基本契約に定められた売買条件が買い取りであれば、それを委託販売(消化仕入、販売代行)に変更し、所有権自体を保ち続ける方法もあります。いずれにしても、基本契約通りの取引をした場合に対象となる損失を、より軽微な対象に変更するという条項を盛り込むことが大切です。
2. 入金確認と連絡
個別契約に基づいて取引が実行され、約定日が来ました。しかし、入金が確認できません。そのような場合はどうするべきでしょうか。
入金確認は早めに行う
まずは約定日(支払予定日)の翌営業日に入金確認することが大切です。オンライン口座など、実際に窓口で記帳しなくても入金確認する方法は多数あり、確認の負担は軽いため、対象となる取引先の与信や信用度に関わらず、できるだけ速やかに確認しましょう。早めの確認は損失を軽減します。
入金が確認できない場合は
入金が確認できない場合、すぐに請求先の担当者へ電話で連絡をします。メールは回答に時間がかかり、このような緊急の用件の媒介としては適しません。連絡すべき内容は以下の3点です。
- 当社側で入金確認ができていない事の報告
- 支払指示や振り込み手続きなどの処理の進行状況の確認
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- 次回の入金予定の確認
一番重要なのは次回の入金予定ですが、時系列的に前工程に該当する1番と2番を確認することで円滑にコミュニケーションが可能です。
入金予定日を聞いたら、メールで結構ですので先方に内容を再度共有しておきます。メール文章であれば経理処理の証憑として利用できますし、法的な問題へ発展した際に文面を活用できるでしょう。
入金確認でやってはいけない事
入金が無いことに対して腹を立ててしまう、もしくは変にへりくだってしまうケースをよく見かけます。あくまで「入金が確認できない」という客観的事実の確認をする作業ですので、淡々と、事務的かつ速やかに実行するのが望ましいです。
入金確認への苦手意識が強いのであれば「経理処理の備忘」など、先方に起因しない外的な要因を整えて確認すると良いと思います。
実際に、入金の期ずれなどは不正な会計処理に良くあるパターンのため、税務調査ではその経緯や理由を聞かれる事は多いです。税務調査に備えるという言い方であれば先方の理解を得やすいでしょう。
3. 損失拡大防止のための措置
再三の通知にも関わらず支払いがされない取引先や、期日通りに入金されない事が頻発する取引先などにはどう対処すれば良いのでしょうか。
基本的な考え方
まず、このような取引先は、すでに貸倒れの強い兆項が出ていると認識した方が良いでしょう。
貸倒れによる損失拡大防止のため、このような取引先からは追加の取引依頼(注文など)が入っても、売掛金の全額回収が完了するまでは取引が履行されないように、受注や発送の部署に対し取引の一時停止を通知しておきましょう。このような場合は、取引が収益ではなく損失になる可能性が高いためです。
取引の一時停止をする督促のタイミングは経営的な判断が要求されます。しかし、遅延に際して、こちらが誠意をもって汲むべき特段の事情がある場合は、支払日以前に連絡や相談が入るものです。それを前提とし、事前の連絡が無いのであれば、すでに貸倒れの強い兆候と判断し、速やかに損失拡大防止に取り組むのが適切だと思います。
入金が確認されない場合の理想的な社内のスキーム
入金が確認できないなど、異常が発生したときに、速やかに管理者にそれが伝達され、各部署が従うべき指示が発行されるのが理想的であり、人的に行われるのではなくシステム等で自動に処理されることが望ましいです。
例えば、入金の消込が完了するまでは売上伝票の発行処理ができないように受注システム自体に処理が追加されているのは望ましいシステムの作り方だと言えるでしょう。自動化が望ましいのは、一律の基準で全体が処理され、憶測や個人的な判断などに影響されないためです。「明日になれば入金されるだろう」「あの会社は大丈夫」というような憶測は好ましくありません。
注意した方がいい事
契約書において、支払が遅延した場合でも取引を継続する旨が記載されているのであれば、弁護士に相談の上適切に対応をしてください。このような場合、本来はトラブルに発展する前にあらかじめ条文の変更などを申し入れておくのが適切です。この機会に継続的な取引をしている会社との契約書を見直してみると良いと思います。
4. それでも回収できない時のために
いろいろと交渉を重ね、社内でできることは一通りやりました。しかし売掛の回収ができません。どうすれば良いでしょうか。
弁護士への依頼
まず、弁護士に依頼し、督促や法的手段を行うことを検討しましょう。依頼費用などのコストが発生しますので、その回収にかかるコストと貸倒れ損失を比較検討する必要があります。また、弁護士の連絡により取引先が姿勢を硬化する事があり、かえって交渉が難航したり将来の取引に影響したりするようなこともありますので、事前によく弁護士と相談すると良いでしょう。
貸倒引当金の準備
貸倒引当金は、将来的に貸倒れなどの取り立て不能な事態が起こりうる場合に備え、見込み額として計上する引当金です。上限額はありますが、損金計上もできます。貸倒れによる損失はいつか必ず起きるものと考え、早めに会計士や税理士への相談をしておくようにしましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。貸倒れへの対策は、実際に問題が表面化してからでは後手に回ってしまい、うまくいきません。経営上想定される様々な問題について日ごろからロールプレイングを重ね、「こういう問題が起きたらどう対応するか?」を考慮した仕組みづくりを進めてください。今回まとめた内容も、それらの会社の仕組みづくりの一部であり、根底にあるのは内部統制の充実です。
内部統制が十分であれば、貸倒れ損失の最小化だけでなく、社内不正の抑止、商品やサービス自体の品質向上など、様々なメリットがあります。また、そのための費用や手間についても、新しいサービスや商品が台頭し、驚くほど安価で簡単に内部統制の充実ができるようになって来ています。是非ともご自身の会社の状況に合わせて対策をご検討ください。 [sc:invoice_header_728_90 ]