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2016年06月17日(金)

はじめの一歩を踏み出すために - 理解しておきたい「職人型ビジネス」と「起業家型ビジネス」の違い

経営ハッカー編集部
はじめの一歩を踏み出すために - 理解しておきたい「職人型ビジネス」と「起業家型ビジネス」の違い

職人ビジネス

スモールビジネスオーナーが陥りやすい「命取りの仮説」という言葉をご存知ですか?

「はじめの一歩を踏み出そう」の著者、マイケルE.ガーバー氏は、「大半のスモールビジネスは、命取りの仮説を信じている」と言っています。

命取りの仮説とは、「事業の中心となる専門的な能力があれば、事業を経営する能力は十分に備わっていると考えること」です。たとえばこんな感じです。

「私は、どのように仕事をすれば良いのかを知っているから、どのようにしたら上手くいくビジネスが創れるのかを知っている」という考え方は一見、正しいことのように思えますが、実はこの仮説は間違っているばかりではなく、多くのスモールビジネスが短命で終わってしまう原因となっているのです。

「専門的な能力」と「ビジネスを運営する能力」は別物

「髪を上手に切る能力があれば、美容室を経営できる」 「家を建てる腕があれば、工務店が経営できる」 「プログラミングのスキルがあれば、IT企業を経営できる」

このように考えている人は、多いのではないでしょうか。しかし、専門的な能力とビジネスを運営する能力は別物なのです。

なぜならば、髪を切る、家を建てる、プログラミングをする、こういった職人的な仕事をすることと、ビジネスを経営することは、似ているようで違うものだからです。

起業や独立を目指す大半の人は、学校を卒業して、まずはどこかの会社に入ります。そこで専門的な能力を身につけます。そして十分に能力が備わり、「自分一人でもやっていける」という自信が得られたとき、起業・独立をします。

しかし、さきほど述べたとおり、会社で身につけた「専門的な能力」と「ビジネスを運営する能力」は別物なのです。そのことに気づかないままだと、確かに自分を管理する上司はいなくなったものの、今度はいつまでも収入の不安に苛まれたり、“仕事に自分が管理される”という事態が続いてしまいます。

仕事をやめれば収入はストップします。自分でビジネスをしているといっても、その実態は会社に行かなければ給料をもらえない会社員と同じ状況なのです。

規模の大小に関係なく、「職人型ビジネス」は存在する

そこで、「職人型ビジネス」と「起業家型ビジネス」の違いを理解することが大切になってきます。簡単に言えば、二つの違いは次のようになります。

  • 職人型ビジネス: 自分が現場にいないとまわらないビジネス
  • 起業家型ビジネス: 自分が現場にいなくても成長するビジネス

職人型ビジネスにありがちなのは、ビジネスオーナーの専門能力によって会社をスタートしたパターンです。税理士は税理士として、デザイナーはデザイナーとして、コンサルタントはコンサルタントとして独立します。

ただ、そのサービスを提供することができる人材が、会社の中で自分しか存在しないがために、いつまでたっても自分が現場で働き続けなければならない職人型ビジネスになってしまいやすいです。

これは何も1人や2人で運営されている小規模会社の場合のみならず、何十人も社員がいる会社でも当てはまります。

  • 創業社長の勘や経験によって意思決定が行われている会社
  • 優秀な社員の活躍によってのみ成り立っている会社
  • 社員が増えるほど混乱が生じる会社

などなど、規模の大小に関係なく、「職人型ビジネス」は存在します。

スターバックスの業態はコーヒーショップというごく普通のビジネスだが…

一方、起業家型ビジネスの大きな特徴としては、「革新的」であり、「拡張可能」なことです。

ここで言う革新的とは、革新的な技術を持っているとか、これまでにないビジネスモデルであるということを意味しているのではなく(それがあれに越したことはないですが)、 “普通のビジネスを革新的な方法で行う”ことを指しています。

たとえば、スターバックスの業態自体はコーヒーショップというごく普通のビジネスです。ユニクロもどこにでもあるアパレルショップです。しかし、どちらの会社も世界的な会社になっています。つまり、普通のビジネスを革新的な方法で行うことで成功するビジネスになっています。

また、起業家型ビジネスは、その革新的な方法を「誰でも実践できる社内の仕組み」として整えています。それによって、店舗数や社員数、顧客数が増えたとしても、クオリティを落とさずにサービスが提供できます。つまり、「拡張可能」なのです。

「革新的」であり、「拡張可能」であることで、ビジネスの急速な成長が可能になっていきます。

「起業家型ビジネス = 自分が現場にいなくても成長するビジネス」と書くと、仕事は社員に任せて社長は好き勝手自由に遊んでいる、と思われる方もいらっしゃるかも知れません。実際、いま、世の中には、会社を仕組み化して、自分は自由に遊びほうける、というようなノウハウも出回っています。

しかし、仕組み化とは、いま述べた「革新的」で「拡張可能」な起業家型のビジネスを追及することなのです。経営者や社員が雑多な作業に追われることなく、起業家的な仕事に時間とエネルギーを使えるのが起業家型のビジネスです。

起業家型ビジネスを目指すには?

いま見てきた職人型ビジネスと起業家型ビジネスの違いを生み出す大きな要因は、焦点の違いです。

職人型ビジネスでは、“自分”に焦点が当たっています。自分の能力、自分の技術、自分の商品、自分の収入などなど。一方、起業家型ビジネスでは、“顧客”に焦点が当たっています。彼らにとって、自分に職人的能力があるかどうかは関係ありません。

マイケルE.ガーバーは、「ビジネスは、顧客のための夢からスタートする」と言っています。

成功する起業家は、顧客の生活をどう良くするか、顧客の不安・不満をどう解決するか?顧客がまだ気づいていない機会や課題は無いか?からビジネスをスタートさせます。

事業の中心となる専門的な能力があれば、事業を経営する能力は十分に備わっていると考える命取りの仮説に陥らないためにも、「自分の顧客はなにを夢見ているのか?」を想像してみてはいかがでしょうか。

清水直樹 一般財団日本アントレプレナー学会代表理事
大学卒業後、マイクロソフト日本法人に入社。その後独立し、海外不動産の紹介会社を起業した後、モバイルコマースの創業メンバーとして参加し、上場を目指すが頓挫。その後、海外の経営ノウハウをリサーチし続け、2011年に世界No.1のスモールビジネスの権威、マイケルE.ガーバーと出会う。同氏の日本におけるマスター・ライセンシーとなり、2013年には日本初のE-Myth社認定コーチ(E-Myth社はマイケルE.ガーバーが創った世界初の中小企業向けビジネスコーチング会社)になる。現在は、日本の中小企業がワールドクラスカンパニーになるための支援活動に力を注いでいる。

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