社員が全員辞めた。dely・堀江の語るピボットから得た学びとは
レシピ動画メディア「KURASHIRU」の運営をおこなっているdely株式会社。同社の代表取締役を務めるのが堀江裕介氏です。スタートアップ時のフードデリバリーサービス事業から撤退し、メディアに転身。サービス開始から5カ月で月間再生数1億回にリーチする急成長を遂げた同社のマインドと経験、「学び」について話を聞きました。
ピボットしてメンバーが全員辞めた
もともとはフードデリバリーサービス事業で会社を立ち上げました。ピボット(※注訳1)したのは、LINE株式会社が同事業に参入してくることがわかったタイミングです。
(※注訳1)ピボット・・・企業がプロダクトやサービスを転換させること
ただ、大手企業の参入が事業撤退の大きな要因となったのではありません。「自分たちが目指しているサービスの実現は難しいだろう」と思ったためです。現在では参入したすべての企業が撤退してしまっているので、需要がなかったということですかね。
女性向けのキュレーションメディア「KURASHIRU」を始めたのは2015年4月ごろから。小資本から始められる事業なこともあり、ごく軽い気持ちで始めました。メディアを立ち上げるにあたり、どんなジャンルに特化しようか試した中で「食」に着目しました。たとえばファッション。時代とともに流行りは風化されてしまいますが、「食」はコンテンツが古くならずにストックできます。つまり、情報が資産として積み重なっていくのです。
しかし、順風満帆だったわけではありません。メディア事業を始めた途端、「メディアをやるために入ってきたんじゃない」と共同創業者以外の全員が辞めてしまいました。優秀なメンバーたちに辞められるのは本当に辛かったです。ただ、その時の辛さが今自分自身の「いいチームを作ろう」「社員を大切にしよう」という気持ちを強くしてくれていると思います。
不安と戸惑いからスタートした動画への移行
2016年2月ごろから、ユーザーにとってよりわかりやすくするために、コンテンツを動画にしようと動き始めました。コンテンツの強みとなるし、企業として本気で動画の制作・編集体制を作れば、ナンバーワンを目指せると直感があったためです。とはいえ、それまで自社で動画を手掛けたことはありませんでした。いきなり「動画をやるぞ」と言ってもきっと社内のメンバーは戸惑うだろうと思ったんです。だから、まずは僕が動画を作り、出来上がったものを見せて「ちょっと面白そうだぞ」と興味を抱いてもらおうと考えました。
動画をSNSへ投稿したら、周囲の人からの良い反応をもらえました。その様子を見てメンバーのモチベーションも変わったように思います。そのタイミングで「KURASHIRU」の記事から料理動画に移行させることに決めました。
現在の動画。手軽に作れるレシピを動画でわかりやすく解説することでユーザーの心を掴んだ
最近では、月間の動画再生回数が1億回を突破。多くのユーザーに支持されるようなサービスに成長してきたと感じています。
価値観を共有してチームのカルチャーを作る
僕らはフードデリバリーから撤退し、今の形になりました。ピボットは悪いことではありません。ベンチャー企業は、小さなピボットを繰り返しながら成長していけばいいと思います。
ただし、ピボットする際には企業のビジョンを明確にして、社内の価値観を共有していく必要があると感じています。それがおろそかになっていると、一つのサービスが終了した途端に人が辞めてしまいます。
弊社では「食を広げる」や「料理で世の中を幸せにする」といったコンセプトやビジョンの共有はされています。ただ、これからもっと増員するにあたっては労働に関する価値観の共有を求められます。これまで僕らが守ってきた働くうえでのルールや優先順位の付け方を社内に示していく必要性を強く感じます。それが後々チームのカルチャーになっていくと考えているためです。
僕らが自然と守ってきたルールは「本質的であれ」とか「嘘はつかない」といったものです。たとえばですが、だらだら残業ばかりして「働いている」風をアピールしても評価つながりません。どれだけその人が結果を出せているか、チームを助けられているか、そういった本質的な部分だけを見ます。
後者に関して「遅刻」を例に挙げると「寝坊が原因で遅刻してしまったことには怒らないけど、遅刻に対して嘘の言い訳をするのはダメ」ということですね。
こういった価値観やルールを浸透させるためには社内のコミュニケーションが欠かせません。アルバイトの従業員も意見交換できるように出来上がった動画制作時に作った料理を一緒に食べられる交流の場を設けて、オープンかつフェアに接しています。
ビジネスはスポーツよりも結果を出しやすい
会社の運営について、失敗に対する恐れはもちろんあります。でも、失敗よりも怖いのは事業の停滞です。同業他社に追いつかれないよう、前へ進まないといけませんね。
起業を迷ってる人に言いたいのは「何でしないの?」っていうこと。僕はスポーツをずっとやってたんですけど、スポーツに比べてビジネスの世界は努力が反映されやすい。一生懸命に諦めずにやれば生き残れると思います。大人になれば夢を諦める人が多いですよね。我慢して一生懸命やっていれば、周りが勝手に諦めていってくれる。実は、ビジネスは勉強やスポーツよりも結果を出しやすいのかもしれませんね。