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2016年11月29日(火)

ITよりも地域性に根付いたビジネスを。シンガポールで日本企業が成功するカギとは

経営ハッカー編集部
ITよりも地域性に根付いたビジネスを。シンガポールで日本企業が成功するカギとは

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日本でも注目を集めているシンガポールでの起業。楽天や富士通、ブリヂストンなどの大手企業からYOYO HoldingsSPARK X LABなどといったスタートアップ企業も参入しています。「シンガポールは税金が安くスタートアップ天国」などという話を聞きますが、文化や言語の違う国でビジネスをおこなうのは困難が伴うと考える方も多いのではないでしょうか。

そこで、日本企業のシンガポール進出を支援している「日本アシストシンガポール」の関泰二さんに、シンガポールでビジネスを成功させるカギを伺いました。

東日本大震災をきっかけに起業

僕は大学院を卒業したのち、起業して中国でビジネスを始めました。ただ、当時は日本の企業が儲かる仕組みにはなっていない社会システムだと感じ、中国ビジネスを撤退。それでも華人とのビジネスをしたいと思っていました。そこで考えたのは、香港かシンガポールで働くこと。シンガポールで仕事を探して目に止まったのは在京シンガポール大使館商務部の商務課長でした。

さっそく応募してみたらなぜかシンガポール政府国際企業庁からオファーをいただき、そこで働き始めたんです。4年ほど働いたとき、日本を襲ったのが「東日本大震災」です。震災当時、東京のシンガポール大使館に勤務していた僕に、津波の被害を受けた国内企業から「工場は流されてしまったが、技術やノウハウはある。なんとか東南アジアで商売ができないか」という相談を受けたのです。

しかし、当時の僕はシンガポール政府の一職員。シンガポール企業を日本へ進出させたり、日本に投資させたりすることがミッションです。日本の企業を支援することはできませんでした。しかし、日本の中小企業の技術がなくなってしまうのはもったいない。そう感じて、起業を決意したんです。

seki2オフィス入り口にあるネームプレートにはJESCOや伊藤園など日本でも馴染みのある企業の名も

言語の壁を感じた体験から、スムーズな起業のサポート事業を開始

日本人がシンガポールで事業を始めるのは容易ではありません。まず避けて通れないのが言語の壁です。ビザの申請からオフィスのレンタル、自身が住む部屋の契約や経理関係、現地スタッフの求人など、何から何まですべて英語で対応しなければなりません。

僕がシンガポール政府に勤務していたときも、言語の壁は痛感していました。パソコンひとつとってもそうです。支給されたパソコンはもちろん英語のもの。エクセルやワードを使っても、copyとpasteくらいしかわからない状態です。それでも、提出書類はすべて英語で執筆しなくてはなりません。英語で仕事をおこなうのにはとても苦労したんですよ。

その経験から、少しでも楽をしてもらうためにシンガポールでのビジネス環境を整えるアシストをしたいと思いました。そして、レンタルオフィス以外にも会社設立等のお手伝いをさせていただくサービス事業も開始させたんです。

seki3日本アシストシンガポールのオフィスは10名ほどのスタッフとともに働く。シンガポールやマレーシアなど、さまざまなな国籍のスタッフが集う

もはや「日本人」がメリットとなる時代ではない

シンガポールで開業したときに、まず始めたのが「現地の優秀な人材」の確保です。日本人がクライアントなので、「日本語ができること」を第一条件に、受付業務のスタッフを募集しました。日本人はもちろん、さまざまな国籍の人と面接したんです。そのなかで採用したのは韓国人とベトナム人。結局、日本人は一人も採りませんでした。

その理由のひとつは、日本人がシンガポールで働く目的が、「憧れ」や「観光気分」であることが多かったから。採用時には、僕を踏み台にして、起業するようなマインドを持った人材を集めたいと思っていました。しかし、応募してきた日本人からはその気合を感じられなかったのです。

もうひとつは、僕たちはネイティブ並みの日本語力を求めていなかったから。シンガポールで事業を進めていくうちに、完璧な日本語はあまり必要ないと感じました。それよりも、一生懸命な姿勢で相手に伝えることがで大切。そのほうが相手の心は動いてくれます。

日本企業を相手のする僕らのビジネスですらそうだから、おそらくシンガポールの企業においても「日本人であること」だけでは強みになりません。今の時代に求められるのは、国籍よりも個々の能力。高い能力とマインドを持つグローバルな人材だと考えています。

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その国の悩みに着目してビジネスをおこなう方が良い

シンガポールに限らず、東南アジアではスタートアップの波が来ていますよね。特に、シンガポールやカンボジアは外資規制がほとんどない国。進出を考えている日本企業は少なくないでしょう。

ただし、Webサービスやアプリケーションの開発などのIT関連事業はあまり向いていないと思います。デジタルインフラが整っている時代に、これらの国までわざわざ行く必要がないんですよね。

水不足問題に注目したシンガポール大手企業「ハイフラックス」

東南アジアを拠点に考えるならば、先進国にはない独特の悩みに着目するのがポイントです。たとえば、シンガポールなら水。シンガポールは小さな国で、面積のほとんどが平地です。そのため貯水が困難で、水不足に陥ることもしばしば。お隣のマレーシアから水を輸入しているんですね。

そこに着目したのがハイフラックスという水処理会社です。水の濾過装置を販売している会社で、シンガポール政府から水再生処理プラントなどの建設や運営を受注するなど事業を拡大。いまではシンガポールでも超大手の会社となりました。

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日本企業が成功するにはローカライズさせる必要がある

日本企業がシンガポール市場で成功するためには、単に「日本で売れている商品を売ればいい」というわけではありません。日本とシンガポールでは生活様式が異なる。だから、商品を売るためにはその国の生活様式に合わせたアプローチが必要なんです。

以前、日本企業から、

「シンガポールでドレッシングを売るにはどうしたらいいか」

と相談されたことがありました。このとき、僕がアドバイスしたのは、日本で売れている商品がシンガポールでそのまま売れると考えないで、現地の生活や文化を理解するようにした方がよいということです。

シンガポールに住んでいる人の多くは外食の頻度が高く自炊する文化があまりありません。つまり、家で料理をしてドレッシングを使うシチュエーションが少ないのです。そういったライフスタイルは、実際に現地に住まないとわかりませんよね。

ドレッシングを売るためにシンガポールチキンライスに着目

では、どう市場に参入するのがよいのか。いろいろな方法がありますが、僕はシンガポール人のソウルフードに着目しました。シンガポールのソウルフードはシンガポールチキンライス。それとドレッシングを組み合わせて販売できないかと考えたのです。

そこで、30人ほどのシンガポール人を集めてドレッシングをかけたシンガポールチキンライスを食べてもらうことにしました。彼らの反応は良好。日本でサラダ用として売っていたドレッシングを、シンガポールではチキンライス用のものとして売った方が売れる、ということがわかったんですよ。

日本企業がシンガポールで成功するには、現地のニーズを理解してローカライズする必要があります。僕はこれを「デザインを変える」、つまり「リデザイン」だと考えています。

インフラの課題を解決するソリューションに可能性がある

欧米あたりに行くとハーバード大学を卒業したスーパーエリート相手にビジネスをしますよね。でも僕だったら、行かずにまだそこまで注目を浴びていない国に行って、その国の第一人者となろうと思う。

前述のように、発展途上国の多くの国ではインフラの課題を抱えています。そこに起業家の人たちが参入して新しい仕組みを作れば、飛躍的に伸びるビジネスとなる可能性がまだまだあるんですよ。

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関 泰二
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科国際関係学修士課程修了。シンガポール政府国際企業庁にてシニアマーケットオフィサーなどを経験したのち、2011年に日本アシストシンガポールを設立し代表取締役に就任。レンタルオフィス事業を中心に、日系企業の東南アジア展開を支援している。

人事労務freee

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