相続税の未払いにはどんなペナルティが待っているの?
親族が亡くなってすぐ、悲しんでいる暇もなく考えなくてはならないのが、相続の話です。ときには多額のお金や財産が絡むこともあり、家族の間でも慎重に考えなくてはならない問題となります。これは少子高齢化が進む中でも特に重い問題と言えるでしょう。
さて、今回は「相続の際にかかる相続税」について見ていきます。気になる相続税はいくらくらいかかるのか、もし払わなかったらどうなるのか、税務署は相続税の未払いにどんな権限があるのかなどについて、解説します。
実際相続税ってどれくらいかかるの?相続税の基礎控除とは?
まず、どれくらいの相続税が発生するのかを見ていきましょう。ただし、相続税には「基礎控除」という、税金のかからない範囲があります。
計算式は以下の通りです。
基礎控除額:3,000万円+600万円×法定相続人の数
例えば、法定相続人が妻と子供2人の計3人だと、3,000万+600万×3人=4,800万円分は相続税が免除されることになります。生命保険金や死亡退職金については、「500万×法定相続人の数」が非課税限度額となります。 (出典:国税庁「No.4152 相続税の計算」)
相続税の計算の仕方
土地・建物などの不動産、預金などの財産から、借入金や未払金等といった債務を引いたものが正味の遺産額になります。また、故人が生前通院していた場合の未払い医療費や、葬儀費用や個人で受け取ったお香典などもマイナスできるので、葬儀屋さんの費用やお寺に支払ったお布施などの額は控えておき、領収書なども保管しておきましょう。
例えば、正味1億円の遺産を、妻と子ども2人(長男、長女)の3人で案分するとします。そして、案分する比率は法律で定められている通り、妻(50%)子ども(25%ずつ)とします。
この場合の相続額は、以下の通りです。
妻 1億円 × 1/2 = 5,000万円 長女1億円 × 1/4 = 2,500万円 長男 1億円 × 1/4 = 2,500万円
控除額を差し引いた相続税額は、以下の通りです。 3,000万以上5,000万円以下の場合は税率20%、1,000万円以上3,000万円以下の場合は15%が適用されます。
妻 5,000万円 × 20%(税率) - 200万円(控除額) = 800万円 長女 2,500万円 × 15%(税率) - 50万円(控除額) = 325万円 長男 2,500万円 × 15%(税率) - 50万円(控除額) = 325万円
この場合、相続税の総額は1,450万円となります。次いで、法定相続分で相続税の総額を案分します。
妻 1,450万円 × 1/2 = 725万円 長女 1,450万円 × 1/4 = 362万5,000円 長男 1,450万円 × 1/4 = 362万5,000円
配偶者には、法定相続分に対する税額控除があるため、この場合の相続税は免除されます。 実際に支払う相続税は、子ども1人につき362万5,000円となります。 (出典:東京税理士会「相続税の計算方法」)
相続税未払いのさまざまなペナルティ
上記の例のように、基礎控除額額を超える遺産を受け取った場合は、税務署での申告が必要です。相続税の申告は、相続の発生から10ヶ月以内に行わなくてはなりません。10ヶ月以内に支払わなかった場合は、ペナルティとして延滞税が加算されます。延滞税の計算式は以下の通りです。
(1)納期限の翌日から2ヶ月以内に納付した場合 ⇒ 「年7.3%」と「前年の11月30日の公定歩合+4%」のいずれか低い方
(2)納期限から2ヶ月を超えた場合 ⇒ 年14.6%
また、申告期限内であっても金額を過小に申告した場合には「過少申告加算税」が加算されます。正当な理由なく期限までに申告しなかった場合は、「無申告加算税」というペナルティもありますので注意しましょう。さらに、隠ぺいなどの悪質なケースには「重加算税」が課されます。ただし、重加算税は、過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税の代わりに課せられるので、同時に発生することはありません。
ただ、「申告書を提出したが、財産の隠蔽などが発覚したケース」には重加算税30%、「申告書を提出せず、財産の隠蔽などが発覚したケース」には重加算税40%と重いペナルティが科されるため注意が必要です。 (出典:相続税申告手続きガイド「相続税のペナルティ」)
相続税の修正申告には延滞税がかかる
相続税を申告してから新たな財産が見つかった場合や、相続人が増えてやり直しをした場合は、修正申告をします。税務署から指摘を受けて修正申告する場合は、上記の「過少申告加算税」がかかります。ただし、自ら誤りに気づいて修正すれば、加算税は課せられません。なお、修正申告にも「延滞税」がかかります。延滞税については年度によって割合が変わわりますので、国税庁のウェブサイトを確認することをおすすめします。 (出典:国税庁「No.9205 延滞税について」)
相続税の支払いは「時効」で逃げ切れる?
相続税の支払いには「5年間」という時効があります。ただし、ウソや不正といった意図的な脱税行為は7年まで時効が延長されます。「7年待てば逃げ切れるということ?」と思われた方もいると思いますが、税務署はそんなに甘くはありません。財産の多い家庭はあらかじめマークされており、ほぼ間違いなく税務調査が入るからです。税務署は、過去の銀行口座の入出金記録などをすべて確認します。
また、法定相続人だけでなく、親族すべての口座について調査がなされます。税務調査は過去10年にさかのぼることが可能なので、生前に贈与を受けていた場合なども、税務調査によって明らかになる可能性があるのです。税務調査によって相続税のごまかしがあった場合は、上記のペナルティが科されることとなりますので、注意しましょう。
テレビや小説のような巧妙な脱税は可能?
財産を過少申告するのも、ほぼ不可能でしょう。税務署は思ったよりも絶大な権限を持っており、全国津々浦々、メガバンクから地方の金融機関まで、すべての口座を調べることができるからです。また、不動産の登記は電子化されていますので、所有者をすぐに調べることができます。税務署は、普段から脱税行為がないか目を光らせているプロフェッショナルです。脱税しようとして思いつくような手口は通用しませんので、テレビや小説のような巧妙な脱税はまず不可能と考えた方が良いでしょう。
相続税の支払いから逃れるのは難しい
一般庶民の場合は、さまざまな控除をあわせると、それほど相続税について心配する必要はないと言えます。ただし、控除額を上回る遺産を受け取った場合は、基本的に相続税の支払いからは逃れられないと考えた方が無難です。
親しい家族が亡くなった直後は、なにかとバタバタしがちだと思います。しかし、どのような理由であろうと税務署に「忘れていた」は通用しませんので、忙しい中でもきちんと相続税の支払いを行うようにしてください。もし不明な点がある場合は、専門家に相談してみることをおすすめします。