開業すると決めたら押さえておきたい、開業費の゛範囲と制度”
フリーランスとして独立することに決めてから、実際に開業するまでにはいろいろ準備が必要です。事務所を構える人もいれば開業セミナーに通う人もいるでしょう。筆者も開業を決めた後は、セミナーに通ったり、名刺を作ったりとあちこち動き回って開業準備をしました。
しかしいざ帳簿をつける段階になると、「あれ?これは開業費に含めていいの」と悩むことがたくさん出てきました。例えば引っ越した時の敷金や家賃。人と会うために使ったガソリン代や、直接は関係なさそうなセミナーの受講費...これらは開業費に含めてもいいのでしょうか?
開業費に含めるメリット
そもそも、開業費はどこにメリットがあるのでしょうか。それは「開業費を経費化することによって、年をまたいで費用を繰り越しできる」点です。開業費はもともと経費ではなく、「繰延資産」という資産として計上されるものです。しかし、必要に応じて費用に振り替えることができるのです。経費化する方法は2つあり、一つは「5年間で均等償却する方法」で、もう一つは「任意償却する方法」です。
例えば開業費として100万円計上していて、初年度は赤字だったものの翌年度は100万円の利益が出た場合、5年で均等償却することを選べば、毎年20万円を経費計上することになります。しかし任意償却を選んで開業費を2年目に費用化して100万円の利益と相殺できれば、課税対象となる利益は0になるため所得税はかかりません。利益が多く出た年に開業費を費用化することで、節税対策ができるのです。
開業当初はなかなか利益を出すことは難しいかもしれませんが、軌道に乗り始めると利益も大きくなるでしょう。しかり利益が大きくなってしまうと今度は税金の面で不安になります。開業費を費用計上することで少し節税の効果が見込めるのは、フリーランスにとってメリットと言えるでしょう。
開業費とは
そもそも開業費とは、「事業を開始するために必要な準備に支払った費用」、もしくは「事業を運営するにあたって必要な費用」を意味します。経常的に支出するかどうかという視点も大切で、通信費や広告費など継続して使用するものは開業費として認められやすいようです。
また実際に事業を始めたら、携帯の通信費や広告費は費用として計上できることになりますが、これらを開業日前に支出している場合は開業費に計上できることになります。
大まかに「開業費」には以下の費用が含まれます。
- 開業準備のためのセミナー代
- 打ち合わせのための飲食代、交通費
- 名刺や広告代
- 準備に関わる書籍やソフトウェア
- 手土産代
開業費に計上できるためには、それが開業準備にあたるかどうかが鍵となっていました。個人的に悩んだのが「事業には直結しないが、リサーチの目的も含めて開業準備として行ったこと」に対する支出です。例えば、具体的に事業を決めるために他業種に関するセミナーに参加した場合はどうでしょうか?これは書籍にも当てはまりそうです。
ここで使える勘定科目が「調査費」です。調査費の概念を使えば、開業費の幅が広がりそうです。
調査費とは
調査費とは、これから扱う商品などが市場でどのように販売され、どのように使用されているかを調査するための費用です。フリーランスの場合は、属する業界の雑誌を買ったり書籍を買ったりして、市場調査を行うこともあるかもしれませんが、その場合は調査費として開業費に経常することができるようです。
とすると、直接事業に関わらない書籍やセミナー代についても調査費として計上できる場合がありそうです。
開業費に含まれないもの
ここで気になるのが、敷金などの初期費用や家賃、パソコンなどの備品といった比較的まとまった支出ではないでしょうか。自宅を事務所としても使っている場合は、家賃を経費計上できると大きく節税につながります。これらを開業費に入れ込むことができれば、後々かなり助かりそうです。
まず敷金ですが、こちらは残念ながら開業費にはなりません。敷金は基本的には契約解除後に返還されるお金だからです。
次に開業日前までの家賃についてですが、こちらは専門家によって捉え方が異なるようです。開業費に入れ込む考えの人もいれば、家賃として計上するという人もいます。どちらでも間違いではないようですが、自宅と兼用している場合は全額開業費として計上できるわけではなく、事務所として使用している部分のみ按分して計上することになります。
また、持ち家を事務所として利用する場合に、「住宅ローンを開業費に計上できればいいのに」と考える人もいるかもしれませんが、住宅ローンの元金は開業費として計上することも、費用計上することもできません。ただ利息についてはこちらも事務所使用割合に応じて開業費に加えることができます。
パソコンなど高額な備品については、10万円以上のものは資産として減価償却していくことになりますので、基本的に開業費に計上することはできません。
開業費はいつまで遡ることができるのか
筆者の自宅に、開業準備のために数年前に買っておいたプリンタが眠っていたのですが、これは開業費として計上していいのか悩みました。開業費は、開業のための準備でありさえすればどこまでも遡っていいのでしょうか?
この点については「常識の範囲内」と曖昧な表現で説明されていることが多かったのですが、原則として開業日の半年〜1年前までが一般的なようです。これ以上前に支出したものの場合は、もしも税務署から質問された時に「開業費であること」をきちんと証明できることが必要です。開業した日付から遡るほど、ハードルは上がると言えるでしょう。
開業費は使い勝手がいいものの、開業準備として行うことは思った以上に幅が広いものです。開業費の趣旨を把握しておいて、とりあえず開業準備だと思う支出は全て領収書やレシートを保管しておきましょう。