確定拠出型年金制度とはどのような制度か?メリット&デメリットもあわせて解説

近年加入者数が増加傾向にある確定拠出年金制度ですが、加入者が増加している背景にあるのは制度上の大きなメリットです。また、筆者がこの記事を作成している間にも確定拠出年金制度の改正法案が衆議院本会議で可決され、多くの方の老後の資産形成方法として活用できる制度となりつつあります。
今回は確定拠出年金制度を詳しく解説します。
1) 確定給付年金と確定拠出年金
「確定拠出年金制度」を理解する上でよく比較される制度が「確定給付年金」です。確定給付年金とは公的年金や企業年金などで幅広く採用されている制度で、文字通り給付額(将来支給される金額)があらかじめ決まっている年金制度です。将来の支給額が決まっているので加入者にとっては将来の資産設計をする上で信頼できる年金制度となっています。
将来の支給額が決まっているという言葉を使いましたが、厳密に言えば、将来の支給額を保証している制度です。つまり、運用利回りが予定よりも悪化した時には将来の支給額を確保するために追加の拠出(掛け金)が必要になることもあり、掛け金を支払う立場から考えると拠出額の安定しない不安のある制度でもあります。
一方で確定拠出年金は拠出額(掛け金)をあらかじめ定めて積み立てていく年金制度ですが、確定給付年金との大きな違いは給付額にあります。確定給付年金では初めに目標とする給付額を定めて掛け金を支払いますが、確定拠出年金では年金資産の運用状況に応じて将来の給付額が決定するのです。
参考リンク:確定拠出年金(厚生労働省)
しかも、年金資産の運用は原則として加入者個人が行うことになりますので、加入者自身の判断で運用結果に大きな差が出る制度となっています。日本の確定拠出年金制度は、もともとアメリカで導入されていた制度(内国歳入法401条k項)を参考にしたこともあり、日本版401kと呼ばれることもあります。
以下で確定拠出年金制度の対象者とメリット、デメリットについて確認しましょう。
2) 企業型と個人型
確定拠出年金制度には「企業型」と「個人型」という加入形態があります。それぞれの加入形態には加入できる人の条件が定められています。
企業型の確定拠出年金は、労使の合意に基づいた規約の申請承認を受けた企業が導入でき、加入者はその企業の従業員となります。掛け金は基本的に全額企業が負担しますが、年金規約に定めることで加入者である従業員が掛け金を上乗せするマッチング拠出も可能です。掛け金の上限額は月額55,000円ですが、加入者の企業が他に確定給付年金などの年金制度を実施している場合は月額27,500円が上限となります。
個人型の企業年金は国民年金第1号被保険者の自営業者や厚生年金基金や企業型年金に加入していない企業の従業員が対象となっています。
※注 掛け金は原則加入者個人が全額負担し、自営業者の方は国民年金基金と合わせて月額68,000円までの拠出が可能です。年金制度のない企業の従業員は月額23,000円を限度として拠出することができます。
※注 平成28年5月24日に「確定拠出年金法等の一部を改正する法律」が衆議院本会議で可決しましたので大きな改正点を下記の通りまとめます。なお、この改正法案の施行時期は平成29年1月1日となっていますが、改正事項によっては多少施行時期が前後します。
- 第3号被保険者の専業主婦や公務員が確定拠出年金制度に加入できるようになり、企業年金のある会社員も条件付きで加入できるようになります。(個人型)
- 従業員100名以下の中小企業を対象に簡易版確定拠出年金制度が創設されます。(企業型)
- 現在月額で定められている掛け金の上限額が年間合計額で定められることとなります。(個人型、企業型)
- 確定拠出年金から確定給付年金への年金資産の移動条件が拡充されます。(個人型、企業型)
3) 確定拠出年金制度のメリットとデメリット
確定拠出年金制度のメリットとデメリットは、大きく以下の点が挙げられます。
メリット
- 税制優遇を利用した効果的な将来への資産形成が可能
- 転職時などに年金資産の持ち運びが可能(ポータビリティ)
- 年金資産の積立額が具体的な数字で確認できる
デメリット
- 資産運用を個人で行う手間がかかる
- 基本的に60歳まで年金の受け取りができず最終的な給付額も確定していない
まずはメリットについてですが、税制優遇のメリットにより効果的な将来への資産設計が可能となります。具体的な税制優遇の内容は以下の通りです。
- 個人で拠出する掛け金は全額所得控除の対象
- 年金資産の運用益は非課税(将来の受け取り時に課税)
- 年金を一時金として受け取る時は退職所得控除、年金として受け取る時は公的年金等控除の対象
つまり、掛け金を支払う原資に対して所得税がかからない上に、運用で増えた資産も非課税、さらに受け取り時には形態によって所得控除が受けられる非常に効果的な年金資産の形成方法です。
転職時などにも確定拠出年金制度内で資産を移行できるポータビリティの機能があるため、継続して年金資産を運用することができるのもメリットの一つ。また、インターネットなどで前日時点の年金資産の積立額が時価で確認できることも、効率的な資産形成をする上で大きなメリットとなります。
確定拠出年金のデメリットは、何と言っても資産運用の負担が加入者に掛かることです。運用結果が将来の年金給付に大きな影響を及ぼすので商品選定はどうしても慎重になります。
しかし、無限にある金融商品から運用する商品を選ぶわけではなく、企業型の場合は加入企業が、個人型の場合は申し込みをする金融機関が預金や保険、投資信託などの絞り込んだ商品をリストアップしてくれます。その中から加入者がリスク許容度に合わせて商品を選択するので、前もって運用方針を決定しておくことでそこまで手間のかかる作業にはなりません。
また、積み立てた年金資産は加入期間が短いなどの特定の条件がない限り60歳まで受給することができませんが、これだけ効果的に年金資産を形成できる制度ですので、あくまで60歳以降の資産形成と割り切って考えると決して大きなデメリットではありません。
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4)まとめ
確定拠出年金制度について解説いたしました。今の公的年金の情勢では、今後受給要件がさらに厳しくなることも容易に予想できます。そのような中で、確定拠出年金制度は公的年金の情勢変化に左右されず老後の生活設計を行う上で、必要不可欠な制度となる可能性が高いと思います。ぜひとも関心を持って、確定拠出年金制度に関する理解を深めてみてください。