通勤中&仕事中に怪我をしたときの療養給付の手続きについて
仕事中もしくは通勤中に起きた事故が原因で、病気や怪我を負った場合、労災保険から給付を受け取れます。さまざまな給付がありますが、病院で治療を受ける場合に支給されるのは療養給付です。今回は、労災保険で療養給付を受ける場合の手続きについて詳しく見ていきましょう。
療養給付を受けるとどんなメリットがある?
療養給付を受けると、労災病院や指定の医療機関の治療や投薬を無料で受けることができます。これを「現物給付」といいます。一方、近くに指定の医療機関がなく、他の病院で治療したり、他の薬局で薬の処方を受けたりした場合にも、かかった治療費が支給されます。こちらは「療養の費用の支給」といいます。給付対象になるのは、以下の項目です。
- 診察
- 薬剤または治療材料
- 処置、手術その他の治療
- 居宅における療養上の管理およびその療養に伴う世話その他の看護
- 病院または診療所への入院およびその療養に伴う世話その他の看護
また、通院費については、自宅や勤務先から2キロ以上先の医療機関にかかった場合で、
同一市町村内に適切な医療機関がないなどの条件に当てはまれば支給されます。
(出典:全国健康保険協会『療養の給付』 )
療養給付を受けられる期間
療養給付を受けられるのは、労災によって受けた傷病が「治癒するまで」です。これは、損傷を受けた身体の部位が回復したり、病気が治って職場に復帰できる状態となったりした場合だけでなく、「医学的にこれ以上の治療効果が認められない」と判断された場合にもあてはまります。
ただし、せき髄損傷など20の疾病となった方に対しては、治癒後に症状が悪化した場合でも円滑な社会復帰を進めるため、診察や保健指導、薬剤の支給といった「アフターケア制度」があります。
(出典:厚生労働省『療養費はいつまでもらえるのですか』 )
(出典:厚生労働省『アフターケア制度のご案内』 )
療養給付を受けるための手続き
1. 指定医療機関で治療を受けた場合
怪我や病気の治療を受けている医療機関を通じて、勤務先を所轄する労働基準監督署長に「療養補償給付たる療養の給付申請書」(通勤災害の場合には「療養給付たる療養の給付申請書」)を提出します。申請書は厚生労働省のウェブサイトからダウンロードするか、労働局や労働基準監督署から取り寄せます。
2. 指定医療機関以外で治療を受けた場合
受けた治療に応じて、「療養補償給付たる療養の費用請求書」(通勤災害の場合、「療養給付たる療養の費用請求書」)を勤務先を所轄する労働基準監督署長へ提出します。さらに、支払った費用の「領収書」を添付します。なお、鍼灸やあんまマッサージを受けた場合は、事前に医師の診断を受けて、必要と認められた場合のみ給付対象になります。
(出典:厚生労働省『療養(補償)給付の請求手続』 )
勤務先が労災申請に協力してくれない場合
申請書類には、請求する労働者の氏名や住所、性別、生年月日、治療を受ける医療機関の名称や住所といった情報のほか、労働災害が発生した日時やその経緯を説明する欄があります。
労災が認められるのは、病気やけがが業務中の事故に起因するケースであり、雇用主側に落ち度があったことを証明しなければなりません。明らかなケースでない場合、証明するために多大な労力や時間がかかり、ときには企業側と裁判で争うケースもあります。
ただ、中には、「労災隠し」といって明らかに労災であるにもかかわらず、それを認めようとしない企業もいます。会社の評判が下がる、労働基準監督署の訪問を受けたくない、メリット率適用事業所(労働者数100人以上の事業、20人以上100人未満で災害度係数0.4以上の事業など)の場合は労災保険料の料率がアップする、といった理由で、「労災を使うと面倒だ」という先入観があるようです。
企業側に、療養補償給付を受けるための手続きを拒否された場合は、所轄の労働基準監督署に相談しましょう。会社に労災の証明をしてもらえなかった事情を労働基準監督に申し出て、その旨を記載した文書を添付すれば、申請が認められます。
(出典:厚生労働省『労働災害が発生したとき』 )
労災隠しは雇用側・労働者側双方にメリットなし
労災隠しをする企業の中には、療養給付を使えば治療費が無料になるにも関わらず、労働者側に健康保険を利用して3割負担で治療するよう迫るケースもあるようです。また、けがや病気で4日以上仕事に就けない場合、健康保険の傷病手当金を申請するように指示されることもあるかもしれません。傷病手当金は、「12ヶ月間の標準報酬月額の平均額÷30日×2/3」で算出しますので、直近3カ月の平均給与の8割相当が補償される労災保険の休業補償給付のほうが労働者にはメリットがあります。そもそも傷病手当金は、私傷病のための手当なので、労災の代わりにはなりません。
労災隠しをした企業は、原則として代表者が書類送検されることになり、余計面倒なことになります。また、会社側や経営者の意向におもねったり脅されたりして、労災であるにもかかわらず健康保険を使って3割負担で受診した場合、健康保険組合に対する詐欺とみなされたり、労働者側へ治療費の全額返金を求められたりすることもあります。
ただし、もし健康保険を使わずに自由診療扱いとし、全額を雇用側が補償するというのであれば、労災保険を使わないやり方として認められます。どうしても会社側が労災を嫌がり、労働者側も出世や昇給など今後の労働環境のことを考えて会社側に従いたいというのであれば、健康保険を使わずに治療費を全額負担してもらえるように交渉するというのもひとつの方法といえるでしょう。どちらにせよ、後々のトラブルを回避するためにも、その場しのぎではない判断をするようにするべきです。
また、労災保険はすべての事業所に加入が義務づけられているものですが、もし加入していない事業所で労災が起きた場合も、労働者には給付や補償がなされます。一方、労災に加入していなかった企業にはペナルティが科されます。
労災申請は労働者にとってメリット大
労災保険には、治療費を保険から支払ってもらえるというメリットや、休業した場合の補
償や後遺症が残った場合の年金なども受け取れるというメリットがあります。会社側がなんと言おうと、会社側には労災を行使するか否かを決める権限はありません。すべては、労働基準監督署が決定することなので、労働者の権利としてきちんと請求すべきでしょう。
(出典:厚生労働省「療養(補償)給付の請求手続」 )