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ガンダム世界の経済・企業・戦争 ジオン軍の財務力を探る!

経営ハッカー編集部

ガンダム世界の経済・企業・戦争 ジオン軍の財務力を探る!

「……地球連邦に比べ我がジオンの国力は30分の1以下である。にも関わらず今日まで戦い抜いてこられたのはなぜか! 諸君。我がジオン公国の戦争目的が正しいからだ!」
 ……ジオン公国総帥ギレン・ザビの演説の一節です。

1978年から79年にかけてテレビ放送されたアニメ『機動戦士ガンダム』は大ブームを巻き起こし、近年でも新作が制作され続けている一大コンテンツです。
 
今もなお大きな人気を誇る理由の一つがその世界観のリアルさです。その後作り続けられたシリーズでもその世界観は踏襲され、さらに設定が書き加えられています。こうやって今日までに築かれた確固たる設定の数々が、世界観やストーリーに厚みと重さをもたらしています。

さて、今回はそんなガンダム世界の経済や政治を分析し、実社会にも通用する組織運営の教訓について探ってみたいと思います。

第1章 宇宙世紀の経済

貨幣経済ではない?宇宙世紀

『機動戦士ガンダム』の魅力は?と問われると「人間ドラマ」「メカ」などの意見が出てくると思います。ここで「財務がリアルで」と答える人は見たことがありません。それもそのはず、実はガンダム世界、あれほどリアルに描かれていながら「お金」に関する部分は殆ど出てこないのです。最初のテレビシリーズ、いわゆる「ファーストガンダム」ではほぼ皆無。唯一、アムロが故郷に帰った時に、物売りをしていたおばさんに対して連邦軍人がコインを投げつけたシーンがあるくらいです(第13話「再会、母よ……」)。

なぜ金銭授受のシーンが無いのか。恐らく製作者サイドが子供が観るテレビアニメで金銭のやり取りを描く必要はない、と判断したからだろうとは思います(興味がなかっただけかもしれません)。
 
そんな中で注目されるシーンが、第38話「再会、シャアとセイラ」の1シーンにあります。
 
ブライト「……私には検閲する権利もあるが、教えてもらえんか?トランクの中身と差出人のことを」
セイラ「トランクの中身はきっと金塊だと思います」
ブライト「間違いないのだな?」
セイラ「恐らく」
ブライト「差出人は?」
セイラ「……シャア・アズナブル。赤い彗星です」
 
妹セイラに軍を辞めてもらいたい兄シャアは彼女に、現金ではなくトランク一杯の金塊を贈ります。ここから見て取れるのは、ジオンと連邦では共通の通貨を使用してはいないのでは、ということ。そして宇宙世紀でも「金」には高い価値があるということです。

いつの時代も役立つのは「金」

コロニーのイメージ

実はその後に作られたガンダムシリーズの作品では、何度か異なる通貨単位らしきものが登場します。 『ポケットの中の戦争』では「ハイト」「クール」が。『Zガンダム』では「セント」。そして『ガンダムZZ』では「ギラ」。そう通貨単位がバラバラなのです。これだけ単位がバラバラなところを見ると、ガンダム世界では統一通貨は無く、各スペースコロニーごと(もしくはコロニー集団のサイドごと)に固有の通貨を持っているのではないか、と想像されます。
 
その後の作品である『逆襲のシャア』の中でも、シャア率いる「ネオ・ジオン」軍が小惑星アクシズを地球連邦から譲渡される時に、その対価として金塊が支払われています。ここでも、通貨ではなく「金」を絶対価値として使用しているのです。
 
ただ、考えても見てください。人口が100億を超え生活圏が宇宙にまで広がっている時代に「共通の通貨を使用している」というほうが、リアリティがありません。またこうした価値観では貨幣経済が重要視されず、金などの他の鉱物資源を含めた複数の通貨単位があったように想像されます。
 
スペースコロニーという不安定な居住空間で暮らす人々「スペースノイド」にとって、その政府が発行する通貨は不変的な価値があるものではなかった、というのがガンダム世界の経済概念として考えられるのです。
 
さて、今度はガンダム世界の企業を見ていきましょう。

第2章 ジオン軍のR&D

軍需産業は儲かる

モビルスーツの開発は開戦当初、ジオン軍が大きくリードしていた分野です。特に、ご存知の方も多い、緑色の一つ目のモビルスーツ「ザク」の活躍は連邦軍を苦しめました。
 
しかし1つの製品に依存している企業は、他社がより高性能な新製品を開発してしまうと、瞬く間にシェアを奪い返されてしまい、対抗する術がありません。

ゆえに研究開発(R&D)に巨額を投入することになるわけですが、軍事兵器の場合、顧客は軍隊だけ。実際の兵器メーカーも基本的にはクライアントの要望に則って製品を開発しそれを買ってもらう、という形になります。

宮崎駿監督の映画『風立ちぬ』でも描かれていましたが、軍から次世代採用機のスペックが提示され、それに対応した機体を各社が提案、コンペを経て正式採用されるというのが実際の流れのようです。軍需産業というのはフロービジネスとストックビジネスの両方の面があります。採用されたら生産・メンテナンスまで一手に引き受けることができるので、イコール巨額の利益を得ることができます。
 
米ロッキード・マーティンやボーイング、英BAEシステムズなどの企業は非常に巨大で、最先端の技術を誇っています。また独クルップやユンカース、戦前日本の中島飛行機などの企業は軍隊と密接に関係することで短期間に急成長を遂げました(中島飛行機は設立から僅か30年弱という短期間で東洋最大の飛行機会社へと成長。戦後解体されましたが、その技術は富士重工業(現SUBARU)へと受け継がれています)。
さて、ガンダムの世界でも兵器メーカーが登場します。R&Dの面からジオン軍を見てみましょう。

コンペでモビルスーツを決めていたジオン軍

ジオン軍のモビルスーツ・ザクを生産していたのはジオニックという会社です。ジオニック社はジオン公国に拠点を置く機械メーカーであり、ジオン公国で最も古くに創業した企業、という設定があります。その名前からしても半官半民の、ジオン公国最大級の企業であろうことが伺えます。ジオン軍もまた複数の企業に要望を出し、コンペを経て採用していた、という設定をとっています。

コンペで争ったであろう形跡がアニメでちらほら見受けられます。モビルスーツのコンペなのですが、ジオニック社製ゲルググとツィマッド社製ギャンとの争いです。他に例を挙げるとザクやグフ、ゲルググなどはジオニック社、ドムやギャンはツィマッド社の製品とされています。また他にも水陸両用モビルスーツ・ズゴックやモビルアーマー、ビグロやザクレロを生み出したM.I.P社があります。
 
生産された製品が軍に納入されるとそれに応じた金額が支払われます。兵器は一般的に機密部分が多く、また最新鋭の機器が詰まっていることから自ずと高価です。参考までに、日本が米ロッキード・マーティン社から購入した戦闘機F-35Aは一機あたり130億円ともいわれています。生産については軍からの支援(人員・用地・施設)が見込まれますし支払いが滞る不安もない。ですから企業は生産体制を心配する必要がなく、利益の大部分をR&Dに振り分けることができる、というのもこの産業の特徴かもしれません。

また、その技術開発力が企業の存在意義にもなりますので、普段なら赤字に転落すると真っ先に削られてしまうR&D費用が逆により多く投入されるようになる。戦況が厳しくなった時でも「新兵器開発」の名の下に、さらに資金が注ぎ込まれる嫌いがあります。 結果、ジオン軍も旧日本軍も、敗戦近くになるほど新型の投入が多くなってくるのです。

モビルスーツ独占企業、アナハイム・エレクトロニクス

他方、地球連邦軍はアナハイム・エレクトロニクス社に兵器開発を一任しています。月面に拠点を置くこの巨大コングロマリットは、ほぼ独占的に連邦軍のモビルスーツ開発を引き受けている会社です。連邦軍が勝った一年戦争後には、敗戦国の旧ジオン軍の技術者も吸収し、地球圏で唯一のモビルスーツ開発会社となっていきます。ガンダムの続編 『逆襲のシャア』までに登場するガンダムは全て、このアナハイム社が生産したものです。
 
アナハイム社の企業としてのスタンスは、自らモビルスーツを提案、持ち込むというものでした。それゆえ、諸外国から高く評価されているのでしょう、敵味方を問わず、時には敵対する両組織が共にアナハイム社製のモビルスーツを使っている、という戦況もありました。アナハイム社はガンダム世界のなかで「死の商人」と呼ばれているのですが、その所以はここに由来しているのでしょう。

ただ、一年戦争開戦当初はアナハイム社にはそこまでの力はありませんでした。モビルスーツを開発する技術は無く、ジオン公国の各社に遅れをとっていました。しかし鹵獲したザクを徹底的に分析することと、積極的に連邦軍に働きかけ予算を獲得したことで極めて短期間でザクを上回る高性能な新型モビルスーツ・ガンダムを開発、戦線に投入することができてから状況が変わるのです。
 
ガンダムを開発したことで、モビルスーツ市場で後発企業だったアナハイム社は、その市場シェアを奪い取ることができました。その後ジオンの技術者を吸収して(M&Aをするのと同じように)そのエンジニアリングを受け継ぎ、さらに飛躍的に規模を拡大させていきます。そして独占企業化し、景気創造型企業として地位を不動のものにしていきました。
 
開戦当初は圧倒的な戦力差があり(ジオン軍→モビルスーツ、連邦軍→宇宙戦闘機のみ)、ジオン軍はそこに勝機を見出しました。しかし、結局はR&Dと生産力に勝る連邦軍に圧倒されていったのです。しかしジオン軍で培われた技術力は戦後のアナハイム社の拡大に貢献し、以後のモビルスーツ開発へ寄与しました。技術開発に投入した資金というのは企業のワクを超え継続されていくもの、という一つの証しになっているようにも見えます。

第3章 ジオン公国の国家体制……ジオンの財源はどこにあったのか?

なぜジオン軍は開戦を決意したのか?

今度は、冒頭のジオン公国総帥ギレン・ザビの演説の一節「……地球連邦に比べ我がジオンの国力は30分の1以下である。にも関わらず今日まで戦い抜いてこられたのはなぜか!」を引き合いに出して、ジオンが地球連邦と開戦しようとした理由を考えてみたいと思います。

ここでいうギレンの「国力30分の1」という発言は何について語っているのでしょうか。具体的ではありません。軍事予算で考えるとアメリカ軍(6470億ドル)とイスラエル軍(約200億ドル)が約30分の1です。また兵員で考えるとアメリカ軍(208万人)に対してオーストラリア軍(79,700人)程度が近いか、と思われます(共に『Global Firepower』2018年軍事力ランキングより。ちなみに中国軍は1510億ドル、296万人。アメリカの軍事費がどれだけ圧倒的なのが分かります)。

「30分の1」というとこれだけの差があるわけです。しかしジオンは宣戦布告をしました。
 
企業の経営企画にとっては、事業を推進するにあたり、損益分岐点をどこに設定し、そこまでにどのような施策を図るか、というのは重要なポイントです。開戦のタイミングも同じです。第二次世界大戦時、日本とドイツが予想していたよりも早く戦端が開かれてしまいました。結果、双方とも準備が整わないうちに戦況が進み、次第に劣勢になっていきました。

一年戦争の前史ともいえる『ジ・オリジン』では開戦の10年以上前、ザビ家が政権を得た段階からモビルスーツの開発など着実に軍事力の強化を図っていた様子が描かれています。
 
果たしてジオン軍が開戦したのは最適なタイミングだったのでしょうか?開戦からおよそ10ヶ月、連邦軍が新型モビルスーツ・ガンダムを投入するまではジオン軍が優位に戦況を進めていきます。こうした事実を鑑みれば、好機だったのでしょう。何より開戦時にはまだ連邦軍はモビルスーツを開発できていませんでした。ジオン軍のみモビルスーツがあり、戦況を有利に展開していたというのはやはり開戦を決定づけた一つの要因だったと思います。

しかし、果たしてそれだけで30倍もの敵に勝てると信じられるのでしょうか?

宇宙は資源の宝庫

ここで注目するのは、ジオン軍の持つ資源基盤です。宇宙世紀に入ると、宇宙で使われる資源を地球から打ち上げるのは非効率なので、多くのエネルギー資源を宇宙で賄う必要がありました。

前項で金について述べましたが、宇宙空間に浮かぶ小惑星には金以下、プラチナ、タングステン、鉄、ニッケルなどが大量に蓄積されているといいます。

日本の人工衛星はやぶさ2が小惑星リュウグウに到達、表面からサンプルを採取しようとしていますが、それも新しい資源獲得先として小惑星に注目しているからです。

地球連邦軍の基地として登場する小惑星ルナツーという惑星があるのですが、こちらも火星と木星の間の小惑星帯に実際にある小惑星ジュノーの資源採掘用に移動してきたもの、とされています。

地球から最も遠いコロニー国家であるジオン公国は、これらの資源採掘用の小惑星を多く確保していました(後にジオン軍残党が立てこもる小惑星アクシズも元は資源採掘用でした)。
 
またガンダム世界で汎く使われている核融合エンジンの燃料ヘリウム3は、木星付近で採取され地球に運ばれているとされています。この木星往還船団もまた、ジオン公国が押さえていたのではないでしょうか。第39話に登場するジオン軍パイロット、シャリア・ブルも「木星帰りの男」として描かれています。
 
やはり、これらの原材料費が確保できているというバックボーンがあったからこそ、30倍もの規模を誇る連邦軍に戦いを挑むことができたのではないでしょうか。

さて、次にジオン軍が奇襲を選んだ理由を探りましょう。

ジオンが奇襲を選んだ理由

多量の資源を保持していたとはいえ、彼らの環境は恵まれたものとは言い難いものがありました。なぜなら、木星への往還には10年以上の時間がかかり、小惑星からの資源も、地球で採掘される量と比較すれば見劣りする状況です※。結局、こうした点がジオン軍に短期間で決着をつける、という作戦を立てさせた大きな理由になったと思われます。
 
その先方は、さながら奇襲に近い宣戦布告となり、間を置かずに次々と各コロニーを制圧していきました。スペースコロニーを大質量兵器として地上に落下させる「コロニー落とし」と、モビルスーツを使った攻撃によって地球連邦軍に大打撃を与える作戦が多方面で展開されました。それらを経て、降伏に持ち込むというのがジオン軍の作戦でした(「ブリティッシュ作戦」)。

逆に言えば、長期戦にずれこんでしまうと、あらゆる面で連邦軍が優位な状況でしたから、できる限り短期間で決着を付けなければならない、というのジオン軍側の切実な事情がありました。まるで第二次世界大戦時の日本のような状況だったのですね。
 
しかしジオン軍の目論見は外れてしまいます。連邦軍はジオン軍の基盤の弱さを見透かし、降伏しませんでした。結果、泥沼化した戦局に対してジオン軍が選んだのが、地球降下し資源を確保するという作戦でした。
 
……後に資源基地オデッサを地球連邦軍に奪還されてしまう時、ジオン軍の突撃機動軍大佐マ・クベは「(今までに打ち上げた資源で)ジオンはあと10年戦える」と言いました。これは短期決戦分の資源しか用意していなかったジオン軍が、オデッサから得た資源によって長期戦でも持ちこたえられるようになった、ということを表す証左と言えます。

※ルナツーのモデルである小惑星ジュノーの直径は234kmほど。それでも小惑星の中では大型の部類です

第4章 ジオンは敗北していない?

ギレンは敗北を意識していない

一年戦争は、0079年12月31日の宇宙要塞ア・バオア・クーでの戦闘が最後になります。その翌日、ジオン政府は地球連邦政府と停戦協定を結び、戦争が終結します。

ア・バオア・クーでの戦闘に際し、ジオン公国総帥ギレンは兵士たちに演説します。
 
「我が忠勇なるジオン軍兵士たちよ。今や地球連邦軍艦隊の半数が、我がソーラレイによって宇宙に消えた。この輝きこそ、我らジオンの正義の証しである。決定的打撃を受けた地球連邦軍にいかほどの戦力が残っていようと、それは既に形骸である。あえて言おう。カスであると!」
 
我々は優位にある、と兵士を鼓舞するギレンの心中には敗戦の意識があるのでしょうか?その直前、独断で和平交渉に向かったギレンの父デギンは、ギレンによって殺害されています。つまりギレンは戦争を継続するつもりだった、と捉えられています。ただ、果たしてこの段階でギレンにどのような勝算があったのでしょうか?

改めて客観的に連邦軍・ジオン軍の置かれた戦略的な状況を見てみましょう。すると、ジオン軍はそれほど切迫した状況にはなかったことが見えてきました。
 
例えばモビルスーツの差ですが、ジオン軍がザク・ドム・ゲルググを主戦力として配備しているのに対し、連邦は新開発されたジムと旧来からのボールがほとんど。唯一ガンダム一機のみが圧倒的なスペックを持っているという状態です(ジムにはドムを上回る性能があるのですが)。

それにパイロットたちの技量にも差がある状況でした。配備されたばかりのジムに乗る新人パイロットたちが実際の戦闘でどれだけ活躍できるのか、非常に疑わしいところです。

また拠点についても宇宙要塞ソロモンが連邦に奪われていますが、月面都市グラナダやジオン本国にはまだ連邦軍の手は及んでいません。

では、まだこれだけ余力のあるジオンがなぜ敗北を受け入れるという選択をしたのでしょうか。

降伏のタイミング……リーダーの最も難しい決断

ジオン国民は、戦争継続に反対だったのでしょうか?おそらくその答えは否です。なぜならコロニー住まいの人達(通称スペースノイド)はジオン国民が主体となっており、一年戦争後も軍残党やゲリラを支持し、連邦軍に反抗し続けているからです。後に『逆襲のシャア』で描かれたスペースノイドの生活は、決して裕福なものではありませんでした。連邦政府から棄民として扱われてきた彼らは、一年戦争から13年を経てもスペースノイドの自治独立というジオン建国の精神を掲げ、抵抗運動を続けています。そこには、ジオン公国時代を忌むべき時代として捉える風潮は見えません。

以上のことから、ジオン公国政府が降伏を選択した段階では、国内には「まだ戦えるのになぜ降伏したのか?」という意見が多かったのではないかと推察できます。

ギレン総帥はヒトラーのように軍服を着ていることからも、軍権を握った独裁者としてのイメージが強い人です。しかし独裁者として財政を壟断し、国民に重税を課して北朝鮮のような先軍主義の政策をしていた、ということではなさそうです。また太平洋戦争下の日本のように戦時体制を敷いて「欲しがりません勝つまでは」と国民に我慢させて戦争を継続していたのでもなさそうです。おそらく支持率も高かったでしょう。
 
第一次世界大戦でドイツは戦場が国内に無く、国民生活に戦争が影響する前に降伏しました。そのため国内では「まだ戦えるのに」「降伏したのは共産主義者などの勢力による『後ろからの一刺し』のせいだ」という意見が根強かったと言われています。それが後にヒトラーの台頭を許すことになりました。
 
企業で例えるならば社員のモチベーションも高く、財政的な余裕も充分でありながら、規模の縮小やプロジェクトの停止、もしくは倒産してしまった、ということと同じでしょう。

経営陣としてみれば先を見越した判断だったはずなのに、社員たちは不満だった。それが経営陣への批判や離反になってしまったというわけです。
 
ジオン軍の敗北は結局、デギン・ギレン・キシリアというザビ家首脳陣の意見の対立によるものでした。経営方針が異なるリーダーたちがそれぞれに行動してしまった結果、戦力を集中投下することができなくなったのです。そのため、まだ財政的に余裕があり国民から支持されているにもかかわらず、敗北という道を選択をせざるを得なかったのです。

まとめ 21世紀経済に、ジオンは何を問いかけているか

ジオン公国の経済について概観してきましたが、その後の宇宙世紀の経済はどうなっていったのでしょうか。
 
『ガンダムUC(ユニコーン)』では、連邦政府成立と深く関連しているビスト財団が登場し、キーマンになっています。また『ガンダムF91』はブッホ・コンツェルンという富豪が、私兵軍団を率いてコロニーを制圧、コスモ・バビロニアという国家を作るというものです。

『Zガンダム』『ガンダムZZ』に登場し、主人公たちが所属する組織エゥーゴは、アナハイムなどが出資して運営されている組織、とされています。
 
ガンダム世界のこういった組織は「国家対国家」という形ではなく、テロ組織のようなグループが戦争の新しいアクターとなっていく、という現代社会の世相を予見しているようにも思いますし、同時に企業同士が離散集合し戦いを続けている社会経済のカリカチュアであるようにも思えます。

対して今「国家資本主義」とも称される中国の台頭が注目されています。企業と国家の方針が一致し、足並みを揃えて突き進んでいくその姿は、開戦前に着々と戦争準備を進めるジオン公国の姿に重なります。
 
戦争とはノーガードの殴り合いであり、無限に消費だけして経済的生産性の全くないものです。ヒト・モノ・カネを投下し続け、最後までリングに立っている者だけが勝者たりえる戦争。そこで戦い、敗北したジオンの姿は経済戦争の中を生き抜くための示唆を与えてくれます。

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