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2017年12月15日(金)

これって脱税?最高に重い追徴税「重加算税」の判断ポイント

経営ハッカー編集部
これって脱税?最高に重い追徴税「重加算税」の判断ポイント

フリーライター(元東京国税局職員)の小林義崇です。

以前の記事で、申告に誤りがあったときや、期限内に申告できなかったときに課せられる「追徴税」について解説しました。

>>脱税は割に合わない?大きく変わった「過少申告加算税」と「重加算税」

今回は、追徴税のなかでも税率がもっとも高い「重加算税」について深掘りしたいと思います。一般的に、「脱税」と呼ばれ、査察調査が入るような事案は、この重加算税が課せられています。

申告した税額が少ない場合に課せられる「過少申告加算税」や、申告期限から遅れた場合に課せられる「無申告加算税」と異なり、重加算税は、納税者の行為がポイントとなるため、判断は難しくなります。

判断基準は、「仮装・隠ぺい」行為

まずは、重加算税がどういうときに課せられるのかを理解するため、条文を見てみます。すべて紹介すると長くなるため割愛しますが、ポイントとなるのは、以下の文言です。

「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」(国税通則法第68条より抜粋)

簡単に言い換えると、「税金に関係する事実を、仮装・隠ぺいした」ということです。仮装・隠ぺい行為に基づき、本来より税額の低い申告書を提出したり、まったく申告しなかったりした場合に、重加算税が課せられることになります。

ポイントは、行為が判断基準となっている点です。脱税というと、「税金を意図的に逃れようとした」というマインドの部分が注目されがちですが、法律上はマインドは関係ありません。

ですから、税務署は、「脱税しようとしました」という話を聞いただけでは重加算税を課すことができません。「脱税しようとして、◯◯をした」という点まで追求してはじめて、重加算税を課すという判断になるのです。

それでは、「仮装・隠ぺい」とは具体的にどのような行為を指すのでしょうか?この解釈について、国税庁では、「事務運営指針」という方針を定め、公開しています。税務職員は、基本的にこの方針に従って、処分を行なっています。

事務運営指針では、仮装・隠ぺい行為を具体的に例示しています。本記事では、すべてを紹介しませんが、代表的なものを以下に掲げます。

1 いわゆる二重帳簿を作成している
2 帳簿や領収書、契約書など(以下「帳簿書類」)を破棄したり隠している
3 帳簿書類を偽造したり、取引先と通謀して架空契約書をつくっている
4 本人以外の名義や架空名義で取引を行っている(脱税目的でないことが明らかな場合を除く)
5 税務調査の際の質問に対し虚偽の答弁等を行う、または取引先に虚偽答弁等を行わせている

これらを見てお分かりのように、通常では行われないような、明らかに“怪しい”行為が、仮装・隠ぺい行為と見られています。

税務調査のとき、申告されていない取引に関する売買契約書や、改ざんされた領収書が見つかると、税務職員は目の色が変わるものです。調査に力が入り、仮装・隠ぺい行為を示す証拠を集めようと考えるでしょう。

ただし、いかに怪しい書類が見つかったとしても、申告内容とリンクしていなければ問題ありません。

たとえば300円の領収書が500円に改ざんされていることを税務署に把握されたとしても、申告されている経費が300円であれば、ペナルティは何もないのです。経費を500円としていたときに、はじめて重加算税が課されることになります。

また、気をつけておきたいのが、「行為者」の問題です。仮装・隠ぺい行為は、仮に納税者本人ではなく配偶者や親族などが行った場合でも、納税者本人に重加算税が課されることになるからです。

確定申告をすべて妻に任せていて、夫がまったく知らないところで妻が仮装・隠ぺい行為をはたらき、申告額を少なくしていた場合、夫の税に対して重加算税が課せられるというわけです。

申告は人任せにせず、最終責任は納税者自身が負うということを自覚しましょう。

判断の分かれ目はどこにある?

重加算税の判断については、税務署と納税者の間で争いになる場合が少なくありません。さきほど紹介した事務運営指針や、過去の裁判例も多くあるのですが、「どの行為が仮装・隠ぺいにあたるのか」という判断は、プロの税務職員であっても難しい場合が多いからです。

ですから、自分としては、仮装・隠ぺい行為をしていないつもりであっても、税務職員がどう見るかにより、重加算税をかけられてしまうという可能性も、ないわけではありません。

その場合は、国税局や税務署に対して税務調査のやり直しを要求する「再調査の請求」を行うか、第三者機関である国税不服審判所に「審査請求」を行うことにより、救済される可能性があります。

なお、国税不服審判所のホームページでは、どの程度の税務処分が取り消されているかが公開されています。平成28年度の実績を見てみると、審査請求全件のうち、12.3%について納税者の主張が認められ、税務処分が取り消されています。

<国税不服審判所ホームページより抜粋>

国税不服審判所では、審査請求がなされた場合、処分の妥当性について調査し、「裁決」という判断がなされます。過去の裁決事例の一部はホームページに掲載されているため、こちらで、審査請求が認められた場合と、認められなかった場合を、それぞれ把握することができます。

<国税不服審判所ホームページより抜粋(赤枠は筆者)>

公表されている裁決のうち、重加算税について争われたケースを2つ、簡単にご紹介します。

【認められなかった(重加算税がかかった)場合)】

参照した裁決はこちら

このケースでは、納税者は「税理士に任せていたから、脱税行為はしていない」と主張していたとのこと。

ところが、国税不服審判所で調査したところ、この納税者は、税額を過少に申告しようとして、現金の存在を税理士に隠していたようです。

つまり、納税者が言う、「税理士に任せていた」ことは事実ですが、意図的に税理士に渡す情報をコントロールして、脱税したということで、この一連の行為は、仮装・隠ぺい行為にあたると判断されています。

【認められた(重加算税が取り消された)場合】

参照した裁決はこちら

一方、このケースでは、重加算税が取り消されています。

裁決を見てみると、税務署は「納税者が意識的な過少申告を行った」と主張をしていますが、具体的に、どんな行為があったのかという点を立証できていません。

さらに、国税不服審判所が独自に調査したところでも、納税者による仮装・隠ぺい行為を確認できなかったようです。行為がなければ、重加算税を課すべきではないという判断でした。

これら2つのケースを見てわかるように、判断の分かれ目は、やはり行為です。仮装・隠ぺい行為があったと国税局や税務署に認定されれば重加算税が課されますし、逆に、いったん重加算税が課されたとしても、仮装・隠ぺい行為がなかったと納税者が立証できれば、重加算税は取り消されるということです。

とはいえ、こうした争いをすること自体、負担が大きいことですから、そもそも疑いをかけられるような行為をしないよう、心がけておきたいところです。

1981年生まれ、福岡県北九州市出身。埼玉県八潮市在住のフリーライター 西南学院大学商学部卒。 2004年に東京国税局の国税専門官として採用。以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事する。2014年に上阪徹氏による「ブックライター塾」第1期を受講したことを機に、ライターを目指すことに。2017年7月、東京国税局を辞職し、ライターとして開業。
Twitter:小林義崇

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