社会保険の加入義務と加入方法・納付時期を税理士が徹底解説|知っておきたい経理の基本
社会保険は種類が多く、なかなかそれぞれの加入義務や加入方法について把握するのは難しいもの。今回は、健康保険、厚生年金、労災保険、雇用保険の加入義務と加入方法について税理士が丁寧に解説します。
社会保険とは?
日常生活する中でよく耳にする社会保険ですが、社会保険って一体どのような保険なの?と思われた方も多いのではないのでしょうか。
社会保険の体系は以下のようになっています。
それでは、どのようになったら社会保険(広義)の加入義務が生じるのかと言うと、会社を設立したときや初めて社員を雇ったとき、企業規模が大きくなったときに社会保険(狭義)、労働保険の加入義務が生じてきます。
ポイントは①法人経営か個人経営か、②適用業種か非適用業種か、③使用する労働者の人数はどのくらいか、の3点です。社会保険(狭義)は、健康保険法(被保険者に該当しない場合は国民健康保険法)、厚生年金保険法(被保険者に該当しない場合は国民年金保険法)により法整備が行われており、労働保険は、労働者災害補償保険法(以下、労災法)、雇用保険法により法整備がされています。
社会保険(狭義)は、健康保険法の代わりに国民健康保険法、厚生年金保険法の代わりに国民年金保険法があり、労働者が保護されているため、加入義務のない企業はたとえ労働者の一定数の希望があっても、加入義務は生じません。これに対し、労働保険は、労働者を保護する他の受け皿となる法律がないため、加入義務のない企業も、労働者の一定数の希望があれば加入義務が生じます。
それでは、以下それぞれ保険制度について説明します。
1)健康保険
健康保険は、業務外の病気や怪我、またはそれによる休業、出産や死亡といった事態に備える公的な医療保険制度です。
1. 適用事業とは?
・国、地方公共団体又は法人で常時従業員を使用する事業 ・個人経営で常時5人以上の労働者を使用する事業(第一次産業・理美容・飲食接客娯楽業・法務・宗教事業等を除く。)
2. 適用対象労働者は?
正社員、通常の労働者の労働時間のおおむね4分の3以上のパート・アルバイト。40歳以上65歳未満は、介護保険第2号被保険者となり、介護保険料も徴収します。
3. 加入手続きは?
健康保険・厚生年金新規適用届を5日以内に管轄の年金事務所(協会健保である場合は年金事務所、健康保険組合である場合には健康保険組合)に提出します。
2)厚生年金
民間企業の労働者が加入する公的年金制度です。厚生年金は、基礎年金たる国民年金(1階部分)にさらに上乗せして支給される(2階部分)ものであり、その保険料の一部は、自動的に国民年金へ拠出されています。
1. 適用事業とは?
・国、地方公共団体又は法人で常時従業員を使用する事業 ・個人経営で常時5人以上の労働者を使用する事業(第一次産業・理美容・飲食接客娯楽業・法務・宗教事業等を除く。) ・船員が乗り組む船舶
2. 適用対象労働者は?
健康保険と同様に、正社員、通常の労働者の労働時間のおおむね4分の3以上のパート・アルバイトが対象となります。
3. 加入手続きは?
健康保険・厚生年金新規適用届を5日以内に管轄の年金事務所に提出します。
3)労災保険
社員が、勤務時間中に職場もしくは出かけている時に交通事故等に遭い怪我を負ったとき、その治療費・働けないことによる給与などを国が補償してくれる制度です。保険料は、事業主のみ負担します。保険率は平成27年度労災保険率表を参照して下さい。
例えば、金融業に該当し社員の給与が年額400万円であれば、その保険率は0.25%になるため、保険料は年額10,000円となります。
1.適用事業とは?
労働者を使用する全ての事業です。(個人経営で労働者一定数以下の第一次産業を除く。)
2. 適用対象者は?
適用事業に使用され、労働の対償として賃金が支払われる者であれば、常用・臨時雇・日雇・アルバイト・パートタイマー等の名称や雇用形態に関係なく、労働者としてその事業に使用されている間は、すべて労災保険の保護を受けることとなります。
3. 加入手続きは?
労働保険の適用事業となったときは、まず労働保険の保険関係成立届を10日以内に所轄の労働基準監督署又は公共職業安定所に提出します。そして、その年度分の労働保険料(保険関係が成立した日からその年度の末日までに労働者に支払う賃金の総額の見込額に保険料率を乗じて得た額となります。)を概算保険料として申告・納付します。
<参考> 労働保険成立手続き(厚生労働省)
4)雇用保険
別名失業保険とも言います。社員が退職した場合に、新しい就職先が見つかるまで、生活費を保証する目的で給与の一部を国が支給するものです。こちらの保険料の負担は、社員も負担します。
保険料率(H27年度雇用保険料率表)は、一般事業であれば1.35%でこのうち会社が0.85%、社員が0.5%負担します。たとえば、社員の給与が年額400万円であれば、会社は0.85%の年額34,000円、社員は0.5%の年額20,000円を負担します。
1. 適用事業とは?
労働者が雇用される事業です。(個人経営の第一次産業で、常時5人未満の労働者を使用する事業を除く。)
2. 適用対象労働者は?
適用事業に雇用される労働者であって、65歳以上で新たに雇用される者等以外は、原則として被保険者となります。被保険者の範囲は次のとおりです。
・一般被保険者(65歳未満の常用労働者で労働時間が週20時間以上の者) ・高年齢継続被保険者(65歳を超えて引き続き雇用される者等) ・短期雇用特例被保険者(季節的に雇用される者等) ・日雇労働被保険者(日々雇用される者、30日以内の期間を定めて雇用される者)
3)加入手続きは?
雇用保険の適用事業となった場合は、労災保険の手続きに加えて、10日以内に雇用保険適用事業所設置届を所轄の公共職業安定所提出し、労働者を雇用した日の翌月10日までに雇用保険被保険者資格取得届を提出しなければなりません。
5)保険料の納付
社会保険料(狭義)は各社員の標準報酬月額をもとに翌月末日に支払います。労働保険料は申告に基づく前払いを行い、後に精算する仕組みを取っています。
そのため、労働保険関係成立日から次の3月31日までの賃金を概算で算出し、その賃金額に対して労災保険料率及び雇用保険料率を乗じた金額を、労働保険料として支払います。支払時期は、1年に1~3回です。
まとめ
社会保険料率については、現状の料率を基に解説しましたが、毎年改定が加えられており、健康保険料・介護保険料改定は3月頃、労災保険料・雇用保険料は4月頃改定の可能性があります。厚生年金保険料はH29年9月まで一定率上昇します。
また、H28年10月より社会保険(狭義)の適用が拡大されます。500人を超える企業は、労働時間が週20時間以上のパート・アルバイトを健康保険・厚生年金に加入させる義務が生じます。こちらについても、今後の動きに注意が必要です。
以下、想定される年間の主な業務を整理しましたので、参考にしてみて下さい。
※労働保険の成立手続に関しては、こちらの厚生労働省のページもご確認ください。
この記事は、UKトラストグループ様に寄稿いただきました。