アルバイトの人の源泉徴収についてわかりやすく解説
アルバイトの人に支払う給与について、きちんと所得税及び復興特別所得税(所得税等)の源泉徴収を行っているでしょうか。「給与の支払額が少額だから、税金は関係ないだろう」と源泉徴収のことを考えていない方をよく見受けます。
しかしながら、給与の支払額が少額でも源泉徴収をしなければならないことがあり、その義務を怠った給与の支払者にはペナルティが課されます。アルバイトの人に支払う給与の源泉徴収について、正しい知識を習得しましょう。
1)税額表
毎月、または毎日の給料や賞与から源泉徴収する所得税等の額は税額表を使用して算出します。税額表には月額表、日額表、賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表の3種類があり、給与の支払い方に応じて、使用する税額表が異なります。
具体的な税額表の使い方は、多少複雑になるのでここでは割愛しますが、国税庁のホームページに詳細な説明が掲載されています。
税額表は、年間を通した源泉徴収税額がほぼ年税額に一致するように設計されていることから、所得税率、給与所得控除、その他配偶者控除等の人的控除が税制改正で変更されると、必ず税額表も改正されます。
したがいまして、手計算や表計算ソフトで給与計算をしている人は、古い税額表を使用したままにせず、必ず正しい年分の税額表を使用してください。また、給与計算ソフトを利用している人も、タイムリーにアップデートすることを忘れないようにしてください。
国税庁のホームページでは、各年分の税額表が掲載されています(「源泉所得税関係」-「源泉徴収税額表関係」)。
2)甲欄、乙欄及び丙欄
三種類の税額表には、それぞれ甲欄及び乙欄が設けられています。また、日額表については更に丙欄が設けられています。
甲欄は「給与所得者の扶養控除等申告書」を給与の支払者に提出している人に使用する欄で、乙欄はそれ以外の人に使用する欄です。これらの欄を見比べると分かりますが、甲欄は一定金額以下については税額が生じない範囲があるのに対して、乙欄はどんなに少額であっても必ず税額が生じます。
甲欄は上述のとおり、年間を通した源泉徴収税額がほぼ年税額に一致するように金額や税率が定められているため、年税額が生じないレベルの給与収入については税額が生じないよう設計されていますが、乙欄は確定申告をすることを前提に多めに税額を徴収することになっているためです。
ただし、給与を勤務した日または時間によって計算しており、雇用契約の期間が2か月以内あるいは、日雇いの人に対する給与で継続して2か月を超えて支払をしない場合には、日額表の丙欄を使用します。丙欄も甲欄と同じく税額が生じない範囲がありますが、甲欄とは異なり扶養控除等申告書を提出する必要はありません。
表計算ソフトなど、パソコンで源泉徴収税額を計算する場合、月額表の甲欄適用者の給与に限り、税額表に記載の金額に代えて財務大臣が定める一定の算式で計算することができる特例が設けられています。
<参考>月額表の甲欄を適用する給与等に対する税額の電算機計算の特例について
3)給与所得者の扶養控除等申告書
少額の給与支払いしかないアルバイトの人について、源泉徴収税額を生じさせないようにするためには、2)のとおり「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出してもらう必要があります(ただし、丙欄適用者の場合には不要です。)。
たとえ、扶養すべき親族がいなくても、氏名、住所等を記載し、押印してもらった書類を提出させる必要があります。
雇用するアルバイトの数が多いため、この書類の分量が多くなったり、この書類の提出の有無を管理することが煩雑になったりする給与の支払者のために、連記式の扶養控除等申告書が用意されています。
この様式は国税庁のホームページでは配布されておらず、別途税務署から入手する必要があります。ただし、アルバイトの人が自分の氏名等を記載する際に、既に記載されている他人の情報も見えてしまうことになるため、個人情報保護の観点からは利用しないことが賢明かもしれません。
扶養控除等申告書は同時に2か所の給与支払者に提出することはできません。また、年末に在職する甲欄適用者は年末調整をする必要があります。
なお、平成28年分の扶養控除等申告書から、個人番号(いわゆるマイナンバー)を記載する欄が設けられており、給与の支払者は①番号確認と②身元確認を行う必要があります。
<参考>国税分野における番号法に基づく本人確認方法【事業者向け】
4)給与所得の源泉徴収票、給与支払報告書
給与の支払者は、税額表の適用する欄にかかわらず、また、源泉徴収税額の有無にかかわらず、全てのアルバイトの人に対して給与所得の源泉徴収票を作成して交付する義務があります。
また、市区町村が行う住民税の計算の基礎とするために、アルバイトの人の1月1日の住所地の市区町村に対して給与支払報告書を提出する義務がありますので、忘れないようにしてください。
5)事業所得者と給与所得者
給与の支払いをすると、上で説明してきたようなさまざまな義務が生じるため、外注費のような体裁で支払いを行えば良いと考える向きもあります。
しかしながら、税務上は名目ではなく、実質で源泉徴収義務が判断されます。仮に給与所得であると認定された場合には、源泉徴収漏れとしてペナルティが課されるため、単に支払いの名目を代えれば良いと安易に考えるのは禁物です。
事実認定の問題であるため、これらを区別する明確な基準は存在しませんが、次のような要素を総合勘案して判定することとされています。
(1) その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか。
(2) 役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。
(3) まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか。
(4)役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。
6)源泉徴収した所得税等の納期限
原則として源泉徴収の対象となる支払いをした月の翌月10日が納期限となります。ただし、給与の支給人員が常時9人以下である場合には、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署に提出することで、半年分をまとめて納めることができる特例(納期の特例)を適用することができます。
具体的には1月~6月支払い分については7月10日、7月~12月支払い分については1月20日が納期限となります。なお、これらの納期限が土、日、祝日の場合には次の平日が納期限となります。
納期の特例は申請書を提出した月の翌月から適用される点に注意が必要です。例えば、3月に申請書を提出した場合には、3月支払い分は4月10日が納期限に、4月~6月支払い分は7月10日が納期限になります。
毎月納付するときに使用する納付書と納期の特例用の納付書は異なるものですので、使用する納付書に注意してください。
7)源泉徴収漏れがあった場合のペナルティ
源泉徴収をすべきにもかかわらず、それをしなかった場合には、不納付加算税(その納付税額の5%又は10%。仮装・隠ぺいがあった場合には35%)及び延滞税(納付までの期間に応じ、年約3%~約9%)が課されます。
しかも、これらの税金は法人の損金や個人事業所得の必要経費に算入されません。なお、不納付加算税については、うっかりした納付忘れの場合(納付遅れが1か月以内であり、過去一年間に納付漏れがない場合)は、救済措置として課税されないこととされています。
徴収し忘れた所得税等そのものについては、アルバイトの人に対して請求することができます。仮に請求しなかった場合(給与の支払者が負担する場合)には、追加の給与を支払ったものとしてさらに源泉徴収義務が生じます。つまり、循環計算となるため、グロスアップ計算が必要となります。
8) まとめ
このようにアルバイトを雇用して給与を支払うと、それに付随してさまざまな手続きが生じることになります。事業を行うにあたって人の雇用は避けては通れないものであり、しっかり源泉徴収の基本を理解することは正社員を雇用する際にも十分役立つものといえましょう。
なお、源泉徴収は給与の支払いにのみ適用されるものではなく、一定の報酬その他の種類の支払いにも必要となってきます。それぞれの支払内容に応じた源泉徴収の方法を理解する必要があるでしょう。