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2016年04月06日(水)

労働関係トラブルを未然に防ぐために必要なこと

経営ハッカー編集部
労働関係トラブルを未然に防ぐために必要なこと

trouble 外国人技能実習生に賃金を適切に支払わず、さらに労基署の調査も妨害したとして、労働基準監督署が最低賃金法と労働基準法の違反容疑で、経営者、および技能実習生受け入れ事務を支援したコンサルタントを逮捕するというニュースがありました。労働関係のトラブルで逮捕されることがあるのかと驚かれた方も多いのではないでしょうか。

逮捕に至る詳細な経緯は不明ですが、労働基準法には、労働基準監督署(以下「労基署」)の職員が立ち入り検査をすることや、必要と認められる場合は、司法警察官としての職権行使をすることが認められています。しかし、すべてのトラブルを労基署が介入して解決するわけではありません。事業主と労働者が話し合いを行い、共に歩み寄って解決することが基本です。ただし、企業側が歩み寄りことを軽んじてルールを無視し続けると今回の事件のような強い権限を労基署が行使することになります。今回のケースでは労基署が最終手段を取らざるを得ないほど悪質だったと考えられます。

労働関係トラブルはなぜ起きるのか

そもそも今回の事件のような悪質なケースは少なく、多くの職場は事業主と労働者との信頼関係のもと、整然と運営されています。とはいえ、昨今の雇用形態の多様化にともない、法令等にのっとった人事労務管理は複雑さを増していく一方です。そのため、間違った人事労務管理が放置されたままになることがあります。事業主の認識不足や思い込み、あるいは法令改正をうっかり見落とし、古いルールをそのままにしたことで、知らぬ間に労働者と事業主との間の溝が深まり、ことが大きくなることが多いように思います。

また、トラブルが顕在化すると、事業主は気の重いことを言い訳に問題から目を背けがちです。相談や協議をする機会を職場に持たない労働者は、ストレスを溜めたあげく法律の専門家の手を借りて、徹底的に戦う姿勢をとらざるを得ず、労働関係トラブルは、大きな火柱をたてて炎上していくのです。職場に労働関係で何らかの不具合が生じていると認識したら、トラブルに発展する前の初期段階で、解決策を職場内で探っていける関係づくりを日頃から行うことが望まれます。

職場で労働関係トラブルを起こすことは大きなリスクです。労働者の士気を下げ、生産性も下がります。それどころか、トラブルの存在が社外に漏れれば、会社の評判を落とし、取引停止をクライアントから通告されたり、新規の人材採用が難しくなったり、ひいては会社の存続そのものが脅かされます。結局双方にとって何もよいことはなく、そこに勝者は存在しないのです。あらゆる人間関係に当てはまることですが、双方が戦い合っても、なんら得をすることはないのです。

しかるべき人事労務管理を考えていただくきっかけとして、ここで労働基準法の目的を確認し、職場に労働関係トラブルが生じたとき、円満解決のために利用することができる制度やその運用状況などを以下で簡単に紹介します。

労働基準法の目的

まず、労働条件の原則(労働基準法第一章総則 第一条)を確認します。

労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない 2 この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。

この文章だけ見ても、労働基準法が労働者を保護することを目的に定められている法律だとわかります。労働に関する法律は、遡れば産業革命以降、強大な権力を持っていた資本家と労働者のパワーバランスを調整するためのものとして、徐々にその形を作ってきました。日本でもヨーロッパ諸国の労働法にならって、労働関係法の中心となる効力の強い法律として、労働基準法が定められています。

労働基準法が定めている最低基準を下回った条件での労働契約は無効とされ、法律を無視したり、明らかに違反するような行為をした事業主には厳しい罰則が科せられます。一番重いものでは1年以上10年以下の懲役、または20万円以上300万円以下の罰金(強制労働の禁止)から、30万円以下の罰金(契約期間や労働条件を明示しなかった場合)まで様々なものがあります。

個別の労働関係トラブル解決のための制度について

もし、職場で労働関係トラブルが発生したらどう対処したらよいのでしょうか。もちろん当事者間で解決を目指すのが基本ではありますが、当事者間の調整が難しい場合もあるでしょう。

そのような場合、裁判という手段が考えられますが、多くの時間と費用がかかってしまいます。そういった背景もあり、個別の労働関係トラブルの解決を無料で援助するサービスを提供し、トラブルの未然防止、迅速な解決を促進する目的で、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」が施行され、この法律に基づいて、以下の支援制度が都道府県労働局で用意されています。

・総合労働相談コーナーにおける情報提供・相談 ・都道府県労働局長による助言・指導 ・紛争調整委員会によるあっせん

この制度は ①総合労働相談コーナー(労働問題に関するあらゆる分野についての相談を専門の相談員が面談や電話で受けるもの)、②都道府県労働局長による、法令や判例等に照らした労働関係トラブルの解決についての助言・指導、③学識経験者により構成される「紛争調整委員会」による労働関係トラブルの自主的な解決促進のためのあっせんという3つのシステムからなっており、いずれについても費用はかかりません。

この制度の運用状況ですが、労働関係の問題への意識の高まりもあってか、総合労働相談コーナーにおける相談件数が、7年連続で100万件を超え高止まりしている状況です。一方で、労働基準監督官が、労働基準法に違反しているとして、司法警察官として最も強い職権を行使し、検察庁に送検した件数には大きな変化は見られません。

労働基準監督署は、事業所へ立ち入り調査し、違法性があれば是正勧告を行います。この是正に従わない場合、書類送検されるケースがあります。よほど悪質なケースを除き、調査や是正勧告の段階で適切に対処すれば、罰則の適用までには至りません。ただし、一定の条件を満たす企業の場合は、この是正勧告の段階で社名を公表する方針を厚生労働省は打ち出しています。

また、SNSを通して、個人が簡単に情報発信することが可能になっている昨今では、たとえ労働関係のトラブルはないと事業主側が思っていたとしても、従業員より対外的に会社に関する情報が発信されてしまう可能性は否定できません。

<関連リンク>

トラブルにならない契約書作成のポイントをわかりやすく解説 入社する社員と交わす「雇用契約書」の必要事項 | 人事の基礎知識 有給休暇が義務化に | 労働基準法、2016年に改正の見込み

まとめ

完璧に会社を労働関係のトラブルから守ることは至難の業ですが、まずは、就業規則等社内の諸規定類の更新状況や人事労務管理システムなどを労働関係法令等と照らし合わせ、法令等に則った人事労務管理が行われているかどうか確認してみてはいかがでしょうか。

労働関係諸法令はその数も多く、法改正も頻繁に行われます。確認作業を事業主単独で実施することが難しいと思われる場合は、公的な無料サービスを利用するほか、社会保険労務士をはじめとする専門家に依頼することによってトラブルの防止に繋がるでしょう

人事労務管理状況のチェックは、健全な経営を維持継続するための必要事項として、年に一度の健康診断という位置づけで、年間スケジュールに組み込むことをぜひ一度ご検討ください。

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