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2016年07月29日(金)

雇用保険とは何なのか、誰のためのどんなメリットがある制度かを解説

経営ハッカー編集部
雇用保険とは何なのか、誰のためのどんなメリットがある制度かを解説

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雇用保険は万が一の失業に備えるための社会保険制度として広く認知されています。しかし、雇用保険は失業に対する備えだけでなく、育児や介護で収入が少なくなる方への支援など、あまり広く知られていない役割もあります。今回はそのような雇用保険制度を深く掘り下げて、一体どのような制度なのか?誰のためにどのようなメリットがある制度なのか?を中心に解説していきます。

1.雇用保険とはどのような制度? 2.適用事業者と被保険者の範囲 3.保険給付 4.雇用保険のポイント 5.まとめ

1.雇用保険とはどのような制度?

雇用保険の大きな目的は、労働者が失業した場合や雇用の継続が困難になったときに生活や雇用の安定を図るために必要な給付を行うことです。労働者が失業したときの生活支援や再就職の支援を行うことは広く知られていますが、それだけの社会保険制度ではありません。育児や介護などの理由で休業しなければならない場合も一定の要件のもと給付を受けることができ、定年再雇用などで賃金が減った場合などにも継続して就労できるように給付を受けることができる制度です。

雇用保険は国(厚生労働省)が管理運営を行い、その事務手続きや給付業務は各地の公共職業安定所(ハローワーク)で行われます。主な財源は加入事業主から納められる保険料ですが、国庫も一定の割合を負担して雇用保険の維持運営は行われています。

・保険料

雇用保険の保険料は労災保険と合わせて各都道府県の労働局へ事業主から納めます。労災保険料は全額事業主負担ですが、雇用保険料は事業主と労働者で下表のとおり定められた保険料率でそれぞれ負担します。

保険料率 (出典:厚生労働省

労働者が負担する労働保険料は賃金総額に上図①の保険料率(一般の事業だと4/1000)を乗じて求められます。なお、事業主の負担割合が多くなっている理由は、労働者も負担する失業等給付の保険料以外に事業主を助成するための「雇用保険二事業」の保険料を負担しているからです。

2.適用事業者と被保険者の範囲

・適用事業者

適用事業者とは労働者を雇用している事業者を指します。ほとんどの事業が基本的に雇用保険法上の「強制適用事業」となり、その業種や規模を問わずに事業主は労働保険料の納付や各種届出などを行う義務を負うこととなります。個人事業の農林水産業等で従業員数が5人未満などの事業所は例外的に「暫定任意適用事業」と分類され、労働者の意思により任意で雇用保険に加入することが可能です。

・被保険者の範囲

雇用保険の適用事業に雇用されている労働者は基本的に本人の意思とは関係なく、雇用保険の被保険者になります。つまり、会社勤めをしている人などは本人が希望しなくても基本的に雇用保険に加入しているのですが、労働者の雇用形態や年齢等により以下のように分類されます。

①一般被保険者 下記②~④にあてはまらない65歳未満の雇用保険被保険者。

②高年齢継続被保険者 高年齢継続被保険者とは、同一の事業主の適用事業に65歳に達した日の前日から引き続いて65歳に達した日以後の日において雇用されているものと法律上定義されています。つまり、65歳になる前から同じ事業主の下で働いている被保険者は65歳になると高年齢継続被保険者となります。これは定年後の再雇用などの雇用形態も含まれますが、65歳になってから新たに雇用された方は65歳以前からの継続的な雇用ではありませんので被保険者とはなりません。

③短期雇用特例被保険者 短期雇用特例被保険者とは、季節的に雇用されるもののうち④に該当しないものと規定されています。季節的に雇用されるものとは、4か月以内の期間を定めて雇用される方で、一週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の方を指します。4か月の定めを超えて1年以上同じ事業主で雇用される場合は1年を超える日から①または②に該当します。

④日雇労働被保険者 日雇労働被保険者とは日々雇用される方、または30日以内の期間を定めて雇用される方と定義されています。

パートやアルバイト等の雇用形態で働く方は1週間の所定労働時間が20時間以上であることと、同一の事業主に31日以上継続して雇用されることが見込まれれば雇用保険の被保険者となります。なお、国家公務員や地方公務員などは法令等で特別な身分保障が行われており、一般の民間労働者と比べて身分が安定していることや、失業時の保障は雇用保険を超える給付が約束される仕組みのため雇用保険の適用はありません。

3.保険給付

それでは、具体的な雇用保険の保険給付について確認していきましょう。以下の①から④を総称して失業等給付と呼びますが、雇用保険の被保険者は支給要件に当てはまればこれらの給付を受ける資格があります。

①求職者給付

 失業した求職者が就職活動をする間の生活安定を目的として給付されます。一般被保険者が失業した場合には「基本手当」、「技能習得手当」、「寄宿手当」、「傷病手当」が支給され、高年齢継続被保険者が失業した場合には「高年齢求職者給付金」、短期雇用特例被保険者は「特例一時金」、日雇労働被保険者は「日雇労働求職者給付金」がそれぞれ支給されます。

・基本手当 基本手当は被保険者が定年や倒産、契約満了等により離職した場合、求職の申し込みをハローワークに行うことで基本手当の給付を受けることができます。ただし、離職前に一定期間雇用保険の被保険者であることが条件ですが、この期間は離職の理由により異なります。

一般被保険者の自己都合退職などの場合は、離職の日以前2年間で通算して12か月以上の被保険者期間があることが条件です。一方で、倒産や人員整理による解雇、病気などにより就労ができなくなる方はそれぞれ「特定受給資格者」、「特定理由退職者」と呼ばれ、離職の日以前1年間で通算して6か月以上の被保険者期間があると基本手当を受給することができます。

雇用保険の性質上、やむを得ない理由で離職する方には手厚い保護を与える考えに基づいていますが、これは給付日数にも違いが表れています。下表は一般の被保険者が離職した場合の給付日数ですが、被保険者であった期間のみに応じて給付日数が定められています。

一般の受給資格者 (出典:ハローワークインターネットサービス

特定受給資格者は被保険者であった期間や被保険者の年齢により給付日数が定められていて、年齢が高くなるほど(60歳まで)、また、一つの事業に長く携わった労働者の方ほど再就職が難しくなる等の理由で給付日数が多く設定されています。特定理由退職者も2017年3月31日までに離職した方は特定受給資格者と同様の給付日数が定められています。

特定受給資格者 (出典:ハローワークインターネットサービス

雇用保険で給付される1日あたりの金額を「基本手当日額」と呼びますが、これは離職した直前の6か月間で毎月決まって支払われていた賃金に応じて決まります。直前の6か月間で毎月決まって支払われた賃金の合計額を180で割った金額のおよそ50%~80%(60歳以上65歳未満は45%~80%)の金額が基本手当日額となりますが、一定の金額を超えると上限が設けられています。この「基本手当日額」が上記の給付日数分基本手当として給付されます。

・技能習得手当 技能習得手当とは、基本手当の受給資格者が再就職に備えて公共職業安定所長の指示した公共職業訓練等を受ける場合に支給されます。技能習得手当には公共職業訓練等の受講日数に応じて支給される「受講手当」と訓練を受けるために施設に通う旅費の「通所手当」があります。

・寄宿手当 寄宿手当は、基本手当の受給資格者が公共職業訓練等を受けるために養っている家族のもとを離れて別居する場合に支給されます。寄宿手当の月額は10,700円で、家族と別居して寄宿していた日数分を計算して支給されます。

・傷病手当 傷病手当とは、基本手当の受給資格者が求職の申し込みを行った後、15日以上継続して病気やケガのために就職することができない場合に支給されます。基本手当は求職の申し込み後、職業に就く能力と意思のある方に支給されますが、病気やケガで15日以上就労できない方には支給されません。それをカバーするために傷病手当として基本手当日額相当額が受給資格者に支給されます。

・高年齢求職者給付金 高年齢求職者給付金は、高年齢継続被保険者が失業したときに支給されます。雇用保険の離職前被保険者期間に応じて、30日分または50日分に相当する金額が一時金で支給されます。

・特例一時金 特例一時金は、短期雇用特例被保険者が失業認定をされた日に支給される給付金です。特例一時金の給付を受けるためには、離職の日以前1年間で通算して6か月以上被保険者であった期間が必要になります。

・日雇労働求職者給付金 日雇労働被保険者は事業主に使用される度に、日雇労働被保険者手帳に雇用保険印紙を貼り付けてもらいます。日雇労働被保険者が失業したときには、失業の日の属する月の前2か月間で通算26日分以上の雇用保険印紙が貼りつけられていると日雇労働求職者給付金の支給を受けることが可能です。

②就職促進給付 就職促進給付は失業者が再就職することを支援するために「就業促進手当」等が給付される制度です。「就業促進手当」には「再就職手当」や「就業促進定着手当」、「就業手当」、「常用就職支度手当」があり、その他の「移転費」や「広域求職活動費」もあわせて就職促進給付が行われます。

・再就職手当 再就職手当は、基本手当の受給資格のある方が安定した職業に就いた場合に支給されますが、基本手当の支給残日数が定められた給付日数の3分の1以上残っていなければなりません。つまり、90日間基本手当の給付を受けられる方だと、基本手当の給付が30日以上残っている状態で再就職しなければ支給されません。

・就業促進定着手当 再就職手当を支給された方がその再就職先に6か月以上継続して雇用されていて、再就職後の賃金が離職前の賃金に比べて一定の割合で低下している場合は就業促進定着手当の支給を受けることができます。

・就業手当 就業手当は、基本手当の受給資格者が基本手当の給付を所定日数の3分の1以上、かつ45日以上残した状態で再就職手当の支給対象とならない雇用形態で就業した場合に支給されます。

・常用就職支度手当 常用就職支度手当は、基本手当等の受給資格があり、障害などにより就職が難しい方が安定した職業に就いたときに一定の要件に該当すると支給されます。

・移転費 移転費は、ハローワークの紹介した職業に就くために転居する場合に一定の要件に該当すれば交通費や移転料が支給されます。これは公共職業訓練等を受けるために転居する際も同様に支給されます。

・広域求職活動費 広域求職活動費は、ハローワークの紹介により遠方にある企業へ求職活動のために赴く際に支給される活動費で、交通費や宿泊費が規定により支払われます。

③教育訓練給付

教育訓練給付とは、一定の条件を満たす一般被保険者または一般被保険者でなくなったときから1年以内の方が厚生労働大臣の指定する教育訓練を受講し、終了した場合に教育訓練給付金が支給される制度です。教育訓練給付金の額は支給対象となる教育訓練の内容によって異なりますが、おおよそ教育訓練施設に支払った教育訓練費の20%または40%に相当する金額が支給されます。この教育訓練給付の制度は平成26年に大幅な見直しが行われ、専門性の高い中長期的なキャリア形成に関する教育訓練は、従来(20%)よりも多くの給付金(40%)が支給される制度となりました。

④雇用継続給付

雇用継続給付は、一般被保険者が再雇用などで賃金が減った場合や、育児や介護等の理由で雇用の継続が難しくなった場合に給付金が支給される制度で、「高年齢雇用継続給付」、「育児休業給付」、「介護休業給付」があります。

・高年齢雇用継続給付 高年齢雇用継続給付は、雇用保険の被保険者であった期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の一般被保険者の方が対象です。原則として60歳時点の賃金と比べて賃金が75%未満になった場合に、減った賃金の15%を上限として65歳になる月まで支給されます。高年齢雇用継続給付には、60歳以降も同じ事業主に引き続き雇用される際に支給される「高年齢雇用継続基本給付金」と、基本手当を受給し、60歳以後に再就職した場合に支給される「高年齢再就職給付金」があります。

・育児休業給付 育児休業給付は、一般被保険者が1歳または1歳2か月未満(保育所に入れないなどの事情があれば1歳6か月まで)の子を養育するために育児休業した場合に「育児休業給付金」が支給される制度です。育児休業する直前の2年間で、賃金の支払われた日数11日以上の月が12か月以上あることが支給要件となります。

育児休業給付金の支給額は育児休業期間中に支給される賃金によって異なり、育児休業前の30%以下の場合は休業開始時賃金日額の67%(育児休業の開始から6か月経過後は50%)が月額285,621円(6か月経過後は213,150円)を上限に支給されます。育児休業期間中の賃金が30%以上80%未満の場合は休業開始時賃金日額に支給日数を乗じた金額の80%から支給されている賃金を差し引いた金額が支給されます。なお、育児休業期間中の賃金が育児休業前の80%以上支給されている場合は育児休業給付金が支給されません。

・介護休業給付 介護休業給付は、一般被保険者が家族を介護するために介護休業した場合に「介護休業給付金」が支給される制度です。介護休業する直前の2年間で、賃金の支払われた日数11日以上の月が12か月以上あることが支給要件となります。介護休業給付金の支給額は、原則として休業開始時賃金日額の40%が支給日数に応じて支給されます。また、同じ家族の介護休業を複数回にわたって行った場合でも要介護の状態が異なっていれば介護休業給付金の対象となりますが、通算で93日までしか支給されませんので注意が必要です。

雇用保険は上記の給付以外にも「雇用保険二事業」と呼ばれる事業を行っています。具体的には、失業を予防することを目的とした「雇用調整助成金」や離職者の円滑な再就職を促すための「労働移動支援助成金」、労働者のキャリアアップのための「キャリア形成促進助成金」など、事業主を助成するための事業を行っています。

4.雇用保険のポイント

雇用保険は身近な社会保険制度ですが、間違えた認識を持たれている方がいらっしゃるのも事実です。例えば、雇用保険で使われる「失業」の意味ですが、単純に離職して無職の状態を指す言葉だと理解している方が少なくありません。しかし、雇用保険における「失業」は就労する能力と意思のある状態を意味しますので、就業する意思がないとみなされると求職者給付などが支給されないこともあります。

また、基本手当を受給する際には離職票の提出後7日間の待期期間(離職の状況等をハローワークが確認する期間で、その間は基本手当が支給されません。)がありますが、自己都合による退職等では7日間の待期期間後さらに3か月間基本手当を受給できない給付制限があります。これは多くの方がご存知のことですが、無計画に離職すると再就職にも影響を及ぼす可能性がありますので注意が必要です。

5.まとめ

雇用保険について解説してきましたがいかがでしたか?雇用保険は主に労働者の離職後の生活安定や雇用の継続を目的とした労働者のための社会保険制度です。しかし、制度上給付金の支給要件等が分かり辛くなっていることが難点でもあります。 雇用保険の全てを理解するのはなかなか難しいことですが、ご自身に関係することだけでも理解を深めてみてはいかがでしょうか。きっと、今後のライフプランニング設計に役立つときが来るでしょう。

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