労働者には健康診断を受診させなくてはならないのか?そしてその費用は会社持ちか?
事業を立ち上げた皆さんも会社員時代には年に1回、健康診断を受けた記憶があるかと思います。この労働者に対しての定期的な健康診断はそもそも実施しなければならないのでしょうか。実は「労働安全衛生法」に定められた労働者に受診させる義務となっているのです。
代表的なものに以下の健康診断が挙げられます。
1.健康診断の必要性
(a)新入社員を初めて雇い入れしたとき:その新入社員が3か月以内に受診した健康診断結果を提出していれば健康診断は省略できます。 (b)1年に1回ごとの定期健康診断 (c)坑内作業や深夜業務等の特定業務者には6か月ごとの健康診断 (d)海外派遣者向けの健康診断 (e)給食従業員向けの検査
代表的なものは、(a)雇い入れ時と(b)定期健康診断です。特に(a)の健康診断は雇い入れをしたときに健康診断を受診させる必要がありますので、その他の会社員と同じ時期に健康診断を受診させることが適切と会社側で考えて、4月頃などの年度初旬に健康診断を受けさせる会社が多いのはその為でもあります。
また、あまり世間的に知られていませんが、1か月の時間外労働が100時間を超えて、疲労の蓄積が認められる労働者からの申し出があった場合には、医師による「面接指導」を事業者は行わなければなりません。ブラック企業による労働者の過労死を防ぐための手段です。
2.労働者には全員受診させる義務があるのか
ところで、会社は労働者全員に健康診断を受けさせる必要があるのでしょうか。基本的には常時使用する労働者に対しては医師による健康診断を行わなければならないとなっています。しかしながら、事業を立ち上げたばかりの経営者の場合、パートやアルバイト等の短時間労働者と呼ばれる従業員に働いてもらっていることが多いでしょうし、飲食店やサービス業等では尚更ではないでしょうか。
区分けとしては以下のように、常時使用する正社員の労働時間と比較して定められています。
(a)常時使用する労働者の4分の3以上、週所定労働時間働かせている場合には健康診断を受けさせないといけません。 (b)常時使用する労働者の2分の1以上4分の3未満、週所定労働時間働かせている場合には健康診断を受けさせた方が望ましいとされています。つまり努力義務です。
3.監督官庁への報告等は?
労働者への健康診断を受診させたあと、事業主は所轄の労働基準監督署に「定期健康診断報告書」を提出する義務がありますが、現在は常時50人以上の場合とされていますので、新規で事業を立ち上げた経営者等には報告事項等は特にありません。
その代わり、健康診断の結果と通知は本人に知らせるとともに健康診断の結果を5年間、事業所で保管しなければなりません。また医師の所見により職場の変更等が望ましいという措置を受けた場合には、適切な処置を講ずることになっています。
この健康診断の労働者への受診義務を安易に考えてはいけません。「労働基準監督署に定期報告していないから、ばれることはないから大丈夫」と思ってしまうと大変な目にあいます。義務を怠ると50万円以下の罰金が処せられることがあります。
4.定期健康診断料の経費処理
労働者一人に対しての健康診診察料を、どのように対処すべきか困ってしまうかもしれません。実は法律で決まっている健康診断なので事業主が負担することになっています。もちろん、労働者が事業主の指定した医療機関では無く、別の医療機関で健康診断を受けたとしても同様の処置をします。この場合の勘定科目は「福利厚生費」です。
ところで健康診断を受けるとなると、数時間から半日仕事を中断して受けることとなります。給与は払わなくてもよいのでしょうか。
(a)一般健康診断:受診している間の賃金は労使間で定めることになっています。 (b)有害業務等を扱う労働者に対する特殊健康診断:会社負担となっています。
ただ一般的に、健康診断を受けるのに1時間ほど仕事を中断して受けるので、会社負担で給与を持ってくれているのがほとんどとなっています。
5.まとめ
労働者への健康診断の必要性はご理解いただけたでしょうか。事業を立ち上げた際には、経営のことだけが精一杯で、労働者に対する福利厚生等の関係には目がいかないものです。それでも法律で決まっていることですから、従業員の為にも是非とも受診させましょう。
住んでいる市区町村によってはパート・アルバイト従業員の方が受けられる国民健康保険被保険者向けの健康診断というのも定期的に行われています。無料で受診できる地域もあるようですし、人間ドック等の補助も実施してくれるようです。
そのような制度は土曜・日曜や夜間等、仕事に支障が来さない時間に実施してくれますので、大いに利用して労働者にも受信してもらいましょう。そして後日、健康診断料を健康診断結果通知書と一緒に持参した際に、領収書も併せて事業所に提出してもらって清算をするという方法がベストかもしれません。その場合、労働者に支払う賃金については深く考えなくても労働者も納得してくれることの方が多いようです。