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2016年09月06日(火)

「納期の特例」は万全ではない? 今さら聞けない「源泉所得税」の制度とは

経営ハッカー編集部
「納期の特例」は万全ではない? 今さら聞けない「源泉所得税」の制度とは

納期の特例

7月10日は源泉所得税の納付日でした。毎月10日は原則として源泉所得税の納付日となっていますが、小規模の会社や個人事業主の方の場合、納期の特例の適用を受けていれば、7月10日と翌年1月20日の2回にわけて、預かった源泉所得税を納めてよいことになっています。

この納期の特例制度を受けていると、ついついカンチガイしてしまうのが「すべての源泉所得税について適用できるのではないか」ということ。

つまり、従業員の給料や税理士の顧問料から天引きした源泉所得税だけでなく、原稿料などから天引きした源泉所得税についても年に2回でよいのではないか、と誤解してしまう方がいるのです。

誤解だけで済めばよいのですが、すべての税金は納付期限があります。納付期限を過ぎれば延滞税といったペナルティが自動的に課されます。「知らなかった」では済まないのが税金です。そのため、誰かにお金を払う可能性がほんの少しでもあるならば、源泉所得税の制度は一度きちっと知っておく必要があります。

ここで、源泉所得税を定めている源泉徴収制度がどういうものなのか、納期の特例は何が対象になっているのかを一緒に見ていきましょう。

■源泉徴収制度とは

源泉徴収制度とは、給与や利子、配当や報酬といったいわゆる「所得」を支払う人が、支払うときにその所得にかかる所得税を計算して支払額から天引きし、後日税務署に納める制度のことをいいます。

日本の税務システムは、表向き「申告納税制度」を採用しています。申告納税制度とは、納税者である所得者個々人が、自ら毎年の所得額とそれに課される所得税を計算し、自主的に納付するという制度です。

しかし、これを徹底してしまうと、申告漏れや徴収漏れが発生するおそれがあります。所得税は住民税や国民健康保険料のベースともなっているため、一つのミスが他の税金の徴収や計算に大きく影響してしまいます。

そこで採用されたのが源泉徴収制度です。支払者に税金の預かり納付の義務を課すことで国や地方自治体は徴収漏れを防ぐだけでなく、徴税コストを低く抑えることができます。

■源泉徴収制度の対象となる所得とは

源泉徴収制度の対象となる所得で個人に対して支払われるものは、おおよそ次の通りになります。

<支払対象が居住者の場合>
  • 公社債や預貯金等の利子、投資信託の分配収益など
  • 法人からの配当や利益、剰余金の分配など
  • 給与やボーナスなど
  • 退職手当等
  • 国民年金や厚生年金、日本型401kの年金など
  • 原稿料、講演料
  • 弁護士や税理士などの報酬
  • 保険の外交員や芸能人などの報酬や料金
  • 生命保険契約や損害保険契約に基づく年金
  • その他懸賞金、割引債の償還差益、特定口座内の上場株式の譲渡による所得など

<支払対象が非居住者の場合>

  • 日本国内で支払を受ける利益の分配や資産の譲渡対価、サービスによる収入など
  • その他懸賞金、割引債の償還差益、特定口座内の上場株式の譲渡による所得など

つまり、大部分の所得について源泉徴収制度が適用されることになるのです。「毎年2~3月に確定申告しなくてはいけない人は日本の全国民のうち2割もいない」ということをよく耳にしますが、これを見るとその言葉も頷けます。源泉徴収されているから大多数の人にとってはいらないのです。

■納期の特例制度とは

では、納期の特例制度とはどういうものでしょうか。これは所得税法で定められています。

納期の特例制度とは、本来毎月10日に納付しなくてはならない源泉所得税を年に2回納めてよいとされている制度です。給与の支給人員が常時9人以下の場合、あらかじめ届出を出しておけば、個人事業主や会社経営者は納期の特例の適用を受けることができます。

ただし、すべての源泉所得税が納期の特例の対象となるわけではありません。

■納期の特例制度の対象となるもの

納期の特例制度の対象となるのは以下の通りです。

  • 給料やボーナス、俸給、日雇い労働者の賃金など
  • 退職所得
  • 税理士や社会保険労務士、司法書士などの報酬や料金

先ほど申し上げた源泉所得税の一覧と比較すると、納期の特例制度の対象となるのは、ごく一部であることが分かります。

この3つは見方を変えれば「業種や業界に関係なく、どんな会社でも支払いそうな所得」であると言えます。そのため、源泉徴収制度をよく知らないままに事業を開始し、特例制度に慣れきってしまうと、ある日突然発生したライターさんへの報酬や講師の講演料の源泉徴収を忘れてしまい、後日税務署に指摘されて慌てることになるのです。

■注意のポイントは納付書にあり

では、すべての経営者は源泉徴収制度をきちっとすべて把握しないと人に仕事を依頼できないのでしょうか。いいえ、そんなことはありません。簡単にチェックできる方法があり、ポイントは納付書にあります。

源泉所得税の納付書は、1枚ですべての源泉所得税を網羅しているわけではありません。その所得の内容によって、使うべき納付書が異なります。納付書には、その対象となる所得ごとに次のような略号が付されています。

「給」…給与所得、退職所得等、税理士などの報酬・料金 「報」…「給」の対象となる税理士など以外への報酬・料金、生命・損害保険契約等による年金など 「利」…利子所得、投資信託などの収益の分配など 「配」…配当所得 「非」…非居住者及び外国法人に支払う各種所得 「償」…割引債の償還差益 「定」…定期積金の給付補てん金等及び懸賞金付き預貯金等の懸賞金等 「株」…源泉徴収を選択した特定口座内保管上場株式等の譲渡による所得等

もし、イレギュラーな報酬や料金の支払いなどが発生した場合には、いつも使っている特例納付の納付書の項目をチェックしましょう。そこに記載されていない種類の所得ならば、それは納期の特例の対象外となり、翌月10日までに納付しなくてはならないものに該当します。

事業を行っていく以上、誰かに仕事を依頼する作業は必要です。人の手を借りなければ事業は成長しません。ただ、そこでうっかりミスをして税務署から指摘をされるのはつまらないもの。些細なことで事業の足を引っ張らないよう、日頃の当たり前の作業も時間があるときに見直すようにしたほうがよいでしょう。

鈴木 まゆ子
税理士、心理セラピスト。2000年、中央大学法学部法律学科卒業。12年に税理士登録。現在、外国人のビザ業務を専業とする行政書士の夫と共に外国人の起業支援に従事。現在、会計や税金、数字に関する話題についてのWeb上の記事執筆を中心に活動している。税金や金銭に絡む心理についても独自に研究中。共著に「海外資産の税金のキホン」(税務経理協会、信成国際税理士法人・著)がある。

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