介護保険とは何なのか、誰のためのどんなメリットがある制度かを解説
介護保険という社会保険制度がどのような制度かご存知ですか?現在40歳以上の方は、給与や年金から天引きされている介護保険料という項目をご覧になったことがあるかもしれません。
介護保険とは平成12年4月の介護保険法施行から開始された、比較的歴史の浅い社会保険制度です。しかし、身近に介護を必要とする方がいなければ介護保険を利用することもなく、あまり若年層にまで認知されている社会保険制度ではありません。今回は、そのような介護保険に焦点を当てて詳しく解説します。
<目次> 1.介護保険とはどのような制度? 2.介護保険の保険者と被保険者 3.介護保険の保険料 4.要介護認定 5.介護サービス 6.介護サービス利用時の費用 7.介護保険のポイント 8.まとめ
1.介護保険とはどのような制度?
介護保険とは、高齢化に伴う要介護高齢者の増加や介護期間の長期化に対して、社会全体で高齢者の介護を支えるために創設された社会保険制度です。近年では高齢化が進み、介護を必要とする方だけでなく介護をする方も高齢化していく傾向にあり、核家族化や働き方の多様化も要因となって家族だけで高齢者を介護することは非常に困難な状況となっています。そのため、社会全体で介護を必要とする方の自立した日常生活を支える仕組みが必要不可欠でした。
そのような時代の要請を受けて、従来の老人福祉法や老人保健法などが抱えていた問題点を解決する目的で介護保険という新しい社会保険制度は誕生しました。介護保険では、介護を必要とする高齢者の身の回りの世話をするだけではなく、高齢者の自立支援を目的に掲げ、利用者が自らの選択で様々な保険医療や福祉に関するサービスを受けられるように運営されています。また、介護保険は給付内容と保険料の負担を明確にするために社会保険制度という形態でスタートすることとなりました。
2.介護保険の保険者と被保険者(第1号、第2号)
介護保険の保険者は各市町村および特別区(以後、市町村と記載)です。必要に応じて、国は施策面や必要な措置を行うことで、都道府県は必要な助言および適切な援助を行うことで介護保険事業を円滑に行えるように市町村をバックアップしています。
介護保険では、原則40歳以上の方が被保険者となって介護保険に加入しますが、被保険者も年齢に応じて第1号被保険者と第2号被保険者に区分されます。
・第1号被保険者
市町村に住所がある65歳以上の方が対象となります。被保険者証は一人につき一枚が市町村より交付されます。
・第2号被保険者
国民健康保険や健康保険、共済組合などの医療保険に加入している40歳以上65歳未満の方とその被扶養者の方が対象となります。医療保険に加入していない40歳以上65歳未満の方は原則として介護保険に加入することができないので注意が必要です。被保険者証は要介護認定を受けた方または被保険者証の交付申請を行った方にのみ交付されます。
3.介護保険の保険料の計算と納付方法
介護保険の保険料は、第1号被保険者と第2号被保険者で保険料の計算と納付方法がそれぞれ異なります。
・第1号被保険者の保険料
第1号被保険者の保険料は市町村ごとに被保険者世帯の所得(市町村民税の課税状況)に応じて決まります。保険料は直接市町村へ納付しますが、原則として年金から直接控除される特別徴収の形態で納めることとなります。しかし、65歳に到達した年度や受取る年金の年額が18万円未満の方は市町村から送られてくる納付書で支払います。
・第2号被保険者の保険料
第2号被保険者の保険料は、その被保険者が加入している医療保険によって異なります。例えば、国民健康保険では国民健康保険料の計算の際に所得割に応じて介護分の保険料を計算し、保険料と共に納付書もしくは口座振替で支払います。また、全国健康保険協会等の健康保険では、標準報酬月額に介護保険料率を乗じて保険料を計算しますが、健康保険料と併せて給与から源泉徴収として控除された後、保険料は事業主から健康保険組合等に支払われます。
4.要介護認定(第1号被保険者と第2号被保険者)
介護保険では、主に介護サービスという形で保険の給付を受けますが、介護サービスが必要となったときには、利用するために要介護認定を申請しなければなりません。要介護認定は、介護の必要量を全国一律の基準に基づいて客観的に判断し、市町村の認定調査員による認定調査や主治医意見書に基づいて一次判定が行われ、介護認定審査会で一次判定の結果を受けて二次判定が行われる仕組みです。
この要介護認定で要支援もしくは要介護と判定されて初めて介護保険サービスは利用できます。要介護認定を申請できる被保険者も第1号被保険者と第2号被保険者で異なり、詳細は以下の通りです。
・第1号被保険者
寝たきりや認知症で介護が必要な方や、日常生活を送るために支援が必要と認められる方が申請できます。
・第2号被保険者
加齢を原因とした特定疾病を患い、日常生活を送るために介護や支援が必要と認められる方が要介護認定を申請できます。特定疾病とは、末期がんや関節リウマチ、筋萎縮性側索硬化症などで、特定疾病の範囲については厚生労働省ホームページで確認 することが可能です。
要介護認定を受けると「要支援1、2」、「要介護1~5」の合計7分類に区分されます。これは介護保険サービスを受けるためにどの程度介護が必要かを区分したもので、要支援1、2は日常の生活の一部に介助が必要な方で1より2の方が多くの介助を必要とします。要介護1~5は日常生活を送るうえで介助が必要で、1から5に上がっていくにつれて介護の必要性がより高いと判断されています。この「要支援」「要介護」に応じて受けられる保険介護サービスが異なります。
5.介護サービスの分類(介護給付と予防給付)
介護保険が行っている介護サービスは介護給付と予防給付の大きく2つに分類することができます。
・介護給付
介護給付とは、要介護1~5と認定された方が利用できる介護サービスで、その中でも在宅のまま介護を受ける「居宅サービス」と介護施設に入所して介護を受ける「施設サービス」、市町村が事業者を指定して地域密着型でサービスを行う「地域密着型サービス」があります。
①居宅サービス 居宅サービスでは、居宅介護支援事業所のケアマネージャーが介護サービス利用者の状況を分析したうえでサービス担当者と話し合ってケアプランを作成します。そのケアプランに基づいて以下のような居宅サービスを受けることが可能です。
A.訪問介護 ホームヘルパーと呼ばれる訪問看護員が家庭を訪問して、食事や排泄などの日常生活上の介護や、買い物、洗濯などの生活支援を行います。
B.訪問看護 看護師などが家庭を訪問して、病気療養上の世話や診療の補助などを行います。
C.通所介護 デイサービスセンターに通って、入浴や食事の提供などの介護や機能訓練を受けます。
D.短期入所 特別養護老人ホームなどに短期間入所して、日常生活を送るために必要な介護機能訓練を受けます。医療系ショートステイと呼ばれる短期入所もあり、これは医療機関などに短期間入所して療養上の世話や日常生活上の介護、必要な機能訓練を受けるものです。
②施設サービス 施設サービスでは、まず介護保険施設を選択し、その施設のケアマネージャーが作成したプランに基づいて施設サービスを受けます。施設サービスを提供している主な介護保険施設は以下の通りです。
A.特別養護老人ホーム 家庭で普通に生活を送ることが困難で、常に介護を必要とする方が入所する施設です。食事や排泄などの日常生活を送るための介護から身の回りの世話まで受けることができます。
B.介護老人保健施設 病気で入院していた方などで、病状が安定して病院から退院した後に在宅生活に復帰できるよう、リハビリテーションを中心とする医療ケアと介護を受けることができる施設です。
C.介護療養型医療施設 切迫した病状ではないものの、比較的長期間療養が必要な方が医療ケアやリハビリテーションを受ける施設で、日常生活上の介護を受けることもできます。
③地域密着型サービス 市町村が地域事情に合わせて、指定の事業者を介して地域住民に提供する介護サービスです。
A.定期巡回・随時対応型訪問介護看護 介護と看護が密接に連携しながら昼夜を問わず1日複数回の定期訪問を行い、必要に応じて随時対応してもらうことも可能な介護サービスです。
B.小規模多機能型居宅介護 施設などに通って介護を受けることを中心として、必要なときには短期宿泊や訪問看護が受けられる介護サービスです。
C.夜間対応型訪問介護 ホームヘルパーなどが夜間に要介護者のいる家庭を巡回したり、連絡のあった家庭を訪問して介護や身の回りの世話を行う介護サービスです。
・予防給付 予防給付とは、介護予防サービス計画に基づいて要支援1、2の方が受けられる介護サービスです。予防給付は「介護予防サービス」と、介護給付と同様に地域密着型で提供される「地域密着型介護予防サービス」があります。
①介護予防サービス 介護予防計画担当者などが要支援状態の悪化防止や改善に重点を置いてケアプランを作成します。そのケアプランに基づいて以下のようなサービスの提供を受けます。
A.介護予防訪問看護 ホームヘルパーなどが家庭を訪問し、利用者一人では困難な行為などの支援を行います。
B.介護予防通所リハビリ 日帰りで介護老人保健施設や病院等に併設された施設に通い、心身機能の維持回復と日常生活の自立に向けた訓練を受けることができます。
C.介護予防居宅療養管理指導 医師や薬剤師による療養上の管理や指導を在宅のまま受けることができます。
②地域密着型介護予防サービス 地域密着型介護予防サービスでは、市町村が地域事情に合わせて、指定の事業者を介して地域住民に介護予防サービスを提供します。主なサービスは以下の通りです。
A.介護予防小規模多機能型居宅介護 日帰りで施設などに通って介護予防を受けることを中心として、必要なときには短期宿泊や訪問のサービスを受けることができます。
B.介護予防認知症対応型通所介護 日帰りで施設に通って認知症高齢者に配慮した日常生活上の介護や日常生活に必要な機能訓練を受けることができます。
介護保険では、上記の介護サービス以外にも要介護認定されていない高齢者の方も利用できる一般介護予防事業などを行っています。運営している市町村によって一般介護予防事業の内容はそれぞれ異なりますが、介護予防普及に関する啓発事業や地域介護予防活動の支援などが主な事業内容です。
6.介護サービス利用時の費用
介護サービスを利用するときには、原則として費用の1割を利用者が負担することとなっています。平成27年8月からは第1号被保険者のうち一定以上の所得がある方は以下の条件に両方当てはまると2割負担です。
①第1号被保険者本人の合計所得が160万円以上 ②同一世帯の第1号被保険者の年金収入およびその他の合計所得金額の合計が、単身で280万円以上、2人以上の世帯で346万円以上
また、介護保険では利用者負担が高額になった場合に、上限負担金額を設けるために「高額介護(介護予防)サービス費」や「特定入所者介護サービス費(補足給付)」の制度が設けられています。
・高額介護(介護予防)サービス費 月々の介護サービス費の負担額が世帯合計もしくは個人で上限額を超えた場合には、その超えた部分が払い戻される制度です。所得や住民税の課税状況等に応じて5段階に分類されていて、所得が少ない方ほど自己負担の上限額が少なくなるように設定されています。
出典:厚生労働省ホームページ
・特定入所者介護サービス費(補足給付) 施設サービスを利用する際は、施設サービス費の自己負担以外に居住費や食費、日常生活費の負担が発生します。このうち、居住費と食費については下記の利用者負担段階に応じて自己負担の限度額が設けられています。
具体的には、世帯全員および配偶者が住民税非課税で、預貯金額が単身で1,000万円以下、夫婦で2,000万円以下の方と生活保護受給者が該当します。事前に市町村に申請することで負担限度額認定証を発行してもらえますので、認定証を施設に提示することで介護保険から給付を受けることができます。
出典:厚生労働省ホームページ
7.介護保険のポイント
介護保険のポイントとして、世帯分離について説明します。すでに解説しましたように、高額介護サービス費は所得や住民税の課税状況に応じて介護サービス費用の上限額が決まる制度です。しかし、注目して頂きたいのが、第1~第3段階に記載のある「市町村民税世帯非課税」という言葉です。これは世帯の中で誰も住民税が課税されていないということですが、世帯の中に一般の給与所得者などが含まれていると基本的には住民税が課税されているので、そのような世帯は必然的に第4段階以上の上限額になります。そこで考えられるのが、要介護者と世帯を分離することで介護サービスに係る費用を安く抑えることができるのではないかという世帯分離です。
例えば、70歳で年金収入額90万円(年額)の配偶者が亡くなった母親を息子夫婦が同居して面倒を見ているとします。その母が要介護5の認定を受けて特別養護老人ホームに入ることになり、月額36万円の介護サービスを受けたとします。介護サービス費の自己負担は1割なので、月額の支払は36,000円です。息子と同じ世帯の場合は母親の年金が90万円なので第4段階に該当しますが、その場合の月額上限は37,200円なので高額介護サービス費の払い戻しはありません。
しかし、母親を別の世帯に分離した場合には、第3段階に該当するので36,000円から24,600円を差し引いた11,400円が毎月払い戻されるのです。さらに、特定入所者介護サービス費も第3段階で適用されますので、基準費用額を用いて換算すると、食費で約22,000円、居住費で10,000円から14,000円安く抑えられる算段となります。合計すると月額で4万円超も介護関連の自己負担を減らすことができる計算です。
このように、世帯を分離することで介護サービス関連の自己負担額を減らすことは可能ですが、他の制度も考慮した上で判断しなければ痛い目にあうこともあります。例えば、会社で扶養手当が支給されている場合は同一世帯が要件となっている会社もあるため、世帯を分離すると扶養手当が支給されない可能性もあるので注意が必要です。
上記の例は、遺族年金などを無視して世帯を分離することで最も効果が得られる条件を前提にしていますので、実際の介護関連費用とその他の制度との兼ね合いも考慮したうえで、総合的に世帯の分離については決定することをお薦めします。
なお、所得税法上の扶養家族は実態として扶養しているかどうかが判定基準となりますので、住民票の世帯が分かれていても扶養家族となることは可能です(会社等の給与で扶養控除を適用してもらえない場合は確定申告が必要になります)。また、介護サービス費の自己負担部分は施設サービスの対価が医療費控除の対象にもなるので忘れないように申告するようにしてください。
8.まとめ
介護保険について解説しました。実際に使用したことがなければ知らないような内容も多く、決して理解しやすい内容ではありません。しかし、近年は高齢化に伴う要介護者の増加に伴い、被保険者の年齢引き下げなどが現実味を帯びてきました。
今は介護保険と関わりがなくても、近い将来で確実にあなたの生活に関わる社会保険制度となることは間違いありません。