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2017年02月28日(火)

「長時間働く社員=がんばってる」って風潮、いまだにあるよね? - 残業代の仕組みについて、社会保険労務士さんにごっつ詳しく教えてもらった -

経営ハッカー編集部
「長時間働く社員=がんばってる」って風潮、いまだにあるよね? - 残業代の仕組みについて、社会保険労務士さんにごっつ詳しく教えてもらった -

こんにちは。経営ハッカーの中山です。

長時間労働やサービス残業に端を発した「労働時間の管理」「残業代未払い」関連のニュースを見る機会が増えています。労働行政の監督・指導が強化され、是正勧告を受ける会社もあるようですが、サラリーマンの皆さまは、『残業代の仕組み』をどれくらい理解されているでしょう?

長時間労働による健康被害、過労がもたらす労災、安全配慮義務を踏まえた労働時間の管理、そして言わずもがなの適正な賃金…。けっして他人ごとではない労務管理問題ですが、さすがに勤務先にダイレクトに「どーなってるの?」とは訊きにくいでしょう。

ということで、代わりfreeeが特定社会保険労務士の榊裕葵さんに根掘り葉掘り訊いてみました。

榊③ ※特定社会保険労務士の榊さん

厚生労働省が企業名公表基準制度をアップデートしたけれども

――― 企業名公表の対象となる残業の違法労働時間が、従来の100時間から80時間になると厚生労働省が発表したのは良いのですが、労働環境は本当に変わりますか?

労働環境が変わるかと言えば、効果は限定的でしょうね。

そもそも、企業名公表という処分自体が本当に効果があるのか疑問です。有名な上場企業であれば、新卒の学生が集まりにくくなるとか、株価が値下がりする等の影響はあるかもしれません。

ですが、仮に、どこかの中小企業の社名が公表されたとしても、自分に馴染みのない会社であれば、世の中の多くの人は「ふ~ん、そうなんだ」で終わってしまうと思います。

そういった点を踏まえると、罰金や経営者への懲役といった、直接的な刑事罰を強化するほうが、長時間労働の抑止には効果があると個人的には考えています。

――― 企業名公表基準制度は2015年から始まりましたが、どんな会社でも当てはまりますか?零細企業だとどうなりますか?

次項で詳しく述べますが、残念ながら、零細企業は対象外になるでしょう。

――― 一定数の従業員がいて、3か所以上の事業所で100時間を超えれば、指導立ち入り、改善されなければ公表されるようです。でも、この2年で公表されたのが1社だけということは、あってないような制度なのでは?

そうですね。「あってないようなもの」だと私も思います。冒頭でも触れられている通り、今年の1月から公表の基準が緩和されて、2か所以上の事業所で80時間を超えた場合となりましたが、現実的には1か所しか事業所を持たない零細企業が世の中の大半なので、多少公表基準が変わっても、五十歩百歩でしょう。

政府としては、有名な会社の企業名を公表することで一罰百戒としたいのかもしれませんが、実効性というよりも、政治的パフォーマンスの側面が強いように感じます。

一般の社員は、困ったらどうすればいい?

――― 管理職は残業代の対象外ですよね。ということは、いくら残業させられても文句を言えない?泣き寝入りするしかない?

管理職と残業の問題には、2つの着眼点があります。

第1の着眼点は、「その人が本当に法律上の管理職なのか」ということ。

一般的には、課長職以上を管理職として扱っている会社が多いと思いますが、法律上は役職名だけで管理職扱いになるわけではありません。いわゆる「名ばかり管理職」とか「名ばかり店長」とか言われている問題です。

管理職に相応しい賃金が支払われていなかったり、管理職らしい権限を与えたりしていないにもかかわらず、肩書だけ「管理職」にして残業代を支払わないのは違法です。

法律上、管理職と認められるためには、

(1) 経営者と一体的な立場で仕事をしていること (2) 出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けていないこと (3) その地位にふさわしい待遇がなされていること

といった要件を満たすことが必要です。

これらの要件を満たさない場合は、たとえ社内で「管理職」と言われていても、実労働時間に応じた残業代を請求することができます。会社が残業代の支払に応じない場合は、労働基準監督署に相談したり、残業代の支払を求める労働審判や訴訟を起こすことができます。

――― もうひとつの着眼点は?

第2の着眼点は、健康管理上の観点から、「管理職であっても無制限に残業をさせても良い訳ではない」ということです。

会社は、雇用契約に付随する信義則(しんぎそく)※上の当然の義務および、労働安全衛生法を根拠として、社員が心身ともに健康に働くことができる職場環境を整備しなければなりません。これを「安全配慮義務」と言います。

    ※信義則:当該具体的事情のもとで、相互に相手方の信頼を裏切らないよう行動すべきであるという法原則のこと

榊⑤

長時間労働の抑制は、安全配慮義務の重要な要素の1つであり、管理職を含めたすべての社員に対して適用されます。

すなわち、会社は残業代の計算だけでなく、社員の健康管理のためにも労働時間の把握を行わなければならないということです。よく、「管理職は残業代の支払の対象外なので、労働時間の管理をしなくても良い」と勘違いされますが、それは間違っていて、健康管理上の観点が抜け落ちてしまっているのです。

「45時間」「80時間」「100時間」という3つの数字を押さえるべし

――― てっきり管理職は「労働時間の管理対象外」かと思ってました

健康管理のための労働時間管理は、具体的には、厚生労働省が通称「過労死基準」と呼ばれている基準を示しており、会社には、それを超えないように管理職を含めた社員の労働時間を管理していくことが求められています。

過労死基準では、1か月の残業時間に関し、45時間、80時間、100時間という3つの数字を押さえて下さい。

過労死や過労自殺、うつ病などの精神疾患が発生した場合、それが長時間労働に起因するものかどうかは、以下の基準に基づいて判断されます。

「おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できる。」

発症前の1ヶ月以内に100時間以上、または2~6ヶ月の間に月あたり80時間以上の残業がある場合は、「業務と発症との関連性が強いと評価できる」

したがって、会社は通常は月の残業時間を45時間以内に抑え、どんなに忙しくても100時間を超える残業は行わないようにしなければなりません。

――― みなし残業代って錦の御旗さえあれば、企業はいくらでも逃げられるのでは?

決して「いくらでも逃げられる」わけではありません。みなし残業代には3つの着眼点があります。

第1の着眼点は、「みなし残業代を含んだ基本給が、最低賃金を割っていないか」ということです。

たとえば、平成29年2月現在の東京都の最低賃金は932円ですが、「基本給20万円、みなし残業代45時間を含む」という労働契約は成り立ちません。

なぜなら、仮に月の平均所定労働日数を20日、1日8時間労働としましょう。

  所定労働時間分: 932円×20日×8時間=149,120円・・・①   残業部分: 932円×1.25✕45時間=52,425円・・・②   ↓↓↓   ①+②=201,545円

となり、20万円を超えてしまうからです。

ですから、基本給があまり高くないにも関わらず、40時間とか45時間のみなし残業代が含まれていると言われた場合には、最低賃金を割っていないか確認をしてみてください。

過労死基準を超えるような、長時間の残業時間数に相当するみなし残業手当はどうなる?

――― 知らず知らずのうちに最低賃金を割っていた…ということがあり得るとは

第2の着眼点は、「あまりにも長時間の残業を想定したみなし残業代は認められない」ということです。

基本給にみなし残業代が含まれているパターン以外で、役職手当や営業手当など、何らかの手当をみなし残業代として支給している会社があります。

これ自体は、雇用契約書や就業規則に「○○手当はみなし残業代として支給する」ということが明記されていれば法的には問題ありません。

しかし、過労死基準を超えるような長時間の残業時間数に相当するみなし残業手当は、裁判で否定されることがあります。

たとえば、職務手当を15万4400円支払っていて、95時間分のみなし残業代だと会社が主張をした裁判があったのですが、裁判所は厚生労働省の過労死基準を踏まえ、45時間分のみなし残業代しか認めず、それを超える部分の残業に関しては、会社に別途の残業代の支払を命じたのです。

このように、45時間を超えるみなし残業代が何らかの手当として支払われていたり、基本給に含まれていた場合は、裁判で争えば、45時間を超える部分のみなし残業代が無効となる可能性があります(別途残業代の支給が受けられる)。

――― 95時間分のみなし残業代って、いくらなんでも酷いです

第3の着眼点は、「年俸制を採用しても、残業代は青天井にはならない」ということです。

「年俸制にすれば、残業代を払わなくて済みますか」という質問をしばしば受けることがあります。

答えはNOで、年俸制と残業代には何の関係もありません。年俸制の賃金には自動的にみなし残業代が含まれているという解釈は、いかなる法的な裏付けもありません。

おそらく、法律上の管理職に該当して、もともと残業代の対象にならない執行役員とか部長といった立場の人は年俸制で給与が支払われることが多いので、「年俸制=残業代なし」という認識が独り歩きしてしまったのではないでしょうか。

この点、法律上の管理職に該当する人でなければ、年俸制を採用する場合であっても「年俸1000万円とする。うち200万円はみなし残業代とする」とか「年俸800万円とする。ただし、年俸には40時間/月の残業代を含む」といったような明示および労使での合意が必要となるのです。

ちなみに、プロ野球の選手の年俸制をイメージした人もいるかもしれませんが、プロ野球選手はそもそも労働者ではなく個人事業主ですので、同じ「年俸制」という言葉を使っていても、年俸は事業所得であり、もちろん残業代は関係ありません。

「今日は延長で12回まであったから、残業代が付くぞ」とプロ野球選手が言っているのを聞いたことはありませんよね(笑)。

榊④

助けを求めたいときは、都道府県の労働局か、会社を管轄する労基署の「総合労働相談コーナー」へ

――― 100時間越えて残業させられたら、労基署に駆け込んでかまわない?その場合、具体的にどんな行動をすればよい?窓口とか手順とかありますか

結論から言えば、駆け込んでOKです。

100時間越えの残業は、1か月で過労死基準を超える残業時間数になりますので、「過労死基準を超える残業時間数で働かされてヘトヘトです」と相談することができます。

また、会社が36協定を出していなかったり、36協定で定められている上限時間数を超えて残業をさせられた場合は、36協定違反を理由に労基署へ駆け込むことも可能です。

あるいは、残業代が支払われていなかったり、一定時間数を超えた残業代がカットされているような場合は、残業代の未払いも駆け込み理由になるでしょう。

では、労基署のどこへ駆け込めば良いかということですが、都道府県の労働局か、会社を管轄する労基署の「総合労働相談コーナー」です。総合労働コーナーでは、専門の相談員が困りごとを聞き取り、聞き取った内容に応じて、企業への助言や指導をしたり、悪質な場合は立ち入り調査に踏み切ったりします。

なお、実際に駆け込む前に、まずは電話での相談も可能です。

各都道府県の総合労働コーナーの場所や電話番号は、厚生労働省のホームページ内で紹介されています。

――― でも、自分の個人名を出されるのは怖いです。プライバシーは守ってくれますか

匿名での相談も受け付けてくれますが、やはり、会社名や自分の名前を名乗った上での相談のほうが、具体的かつ親身の相談を受けられます。

プライバシーに関しては、立ち入り調査を行う場合も含め、本人が望まなければ通報者を労基署が明かすことはありません。

労基署の調査が終わった後、「犯人探し」を行うような会社もありますが、労働基準法第104条で、労基署へ申告した社員を不利益に扱うことは禁止されています。

とはいえ、通報者が特定された場合、あからさまな不利益取扱いはしないにしても、何らかの形で間接的、陰湿的な報復を受ける可能性は、現実問題として残念ながら否定はできないでしょう。

会社を相手に一社員が戦っても、正直、勝ち目がないと思う

――― 「組合もないし、社員一人が声を上げても、もみ消される。会社にも居づらくなるし…」って考えて、行動を起こせない人は多いような気が…

上述したように、報復を受ける可能性を恐れ、とくに継続勤務を希望する場合は、会社を相手に戦うことは難しいのが現実です。

そこで、会社を相手に戦う場合のコツをいくつかお伝えしましょう。

まず、勤務先に労働組合が無い場合は、仲間を集めて自ら労働組合を作る手があります。同じ悩みを抱えている同僚がいたら、2人以上で労働組合は結成できます。ただ、2人はミニマムなので、できるだけ多くの仲間を集めるべき。労働組合が使用者と交渉力を持つためには「数は力」です。

社内で仲間を集めることが難しそうな場合は、社外の労働組合、いわゆる合同ユニオンに加入するという方法もあります。合同ユニオンは、地域に根差したもの、業種に特化したものなど色々な種類がありますが、会社との交渉はその合同ユニオンが主導してくれて頼もしい反面、自分で紛争をコントロールできなくなる恐れもありますので、加入をするユニオンの考え方や方針などをよく理解した上で加入するようにしましょう。

――― なるほど…!具体的でわかりやすいです

次に考えられるのは、戦う相手が「会社」ではなく「上司」などの特定の人物の場合は、会社を味方に付けることです。会社そのものには不満は無いが、直属の上司からパワハラ的に長時間労働を強いられたり、休暇申請を認めてもらえないので、改善を促したいという場面をイメージしてください。

人事部や、上司の上司などに神妙な顔で相談をもちかけ、「実は直属の上司からパワハラ的に長時間労働を強いられ、一部はサービス残業扱いにされています。一瞬、労基署に駆け込もうかとも思ったのですが、会社に迷惑をかけるのは不本意なので、思いとどまりました。何とかならないでしょうか」といった具合に説明するのです。

そうすれば、自浄作用のある会社であれば、「よくぞ相談してくれた」と、改善に向けた対応を取ってくれたり、上司を異動や解任したり、それが難しい場合は本人へ他部署への異動を打診してくれたりするでしょう。

そのようなトーンで相談しても、人事部や上司の上司が「まあまあ、人生山あり谷あり。ここはひとつ我慢しなさい」みたいないい加減な対応しか取ってくれなかったり、逆に「それは君が甘いよ」と言われてしまうようであれば、会社自体の体質に問題があります。

――― そうやって、組織全体で言いくるめてきたらどうしましょう…

こうなってしまったら、いち社員が会社の体質を改めさせるのは困難なので、見切りを付けるという考え方が現実的だと思います。すなわち、転職です。

ブラックな会社に付き合って貴重な時間を浪費するよりも、新しい職場で気持ちよく働くほうが精神衛生上も良いと私は思います。

なお、長時間労働や残業代の未払いで退職する場合は、雇用保険上は会社都合での退職となりますので、失業手当も3か月の給付制限なく受け取ることができます。勤続年数によっては、失業手当の受給可能日数が自己都合の場合よりも増える場合があります。

タイムカードがない&フレックス制・年俸制を採用する会社の場合

――― タイムカードがない勤務先だと、残業の証拠ないですよね?どう記録保管したらよいですか?

自分なりの方法で、「その時間まで会社にいて仕事をしていた」という記録を残すことが大切です。

たとえば、手帳やスマホのカレンダーなどに、日々出社時間と退社時間を記録しておくことです。気が向いたときだけ記録するのではNGで、きちんと継続的に記録していれば、裁判になった場合も証拠として採用してもらえると思います。

また、会社のPCから自分のメールアドレスに「○時退勤」というメールを送ったり、顧客や取引先に残業時間帯に送ったメールをプリントアウトして保管しておくのも良いでしょう。

スマホで会社のデスクにいる自分を自撮りしたり、最近はGPS機能を使って会社にいたことを証明するスマホアプリもあるようです。

要するに、可能な限り客観的な方法で証拠を残し、労基署に駆け込んだ時や、裁判所に訴えた時に、労働基準監督官や裁判官に残業の事実を証明できるようにしておきましょうということです。

――― フレックス制・年俸制の会社だと、上司からの残業指示や退社指示がない場合も。自主的な判断で残業しても対象になりますか?

上司からの残業指示や退社指示が無かったとしても、残業が黙認されていたり、仕事量からみて残業が不可避だと言える場合は、法的には黙示の残業命令があったとみなされます。

これは、フレックス制や年俸制であったとしても変わりません。

フレックス制は、確かに出退勤時間を社員が自由に決めれるという制度ですが、出退勤時間を記録しなくてよかったり、残業を無制限に行わせて良いわけではありません。

フレックス制の場合も、出社時間と退社時間をタイムカードや出勤簿に日々記録し、会社は1か月の労働時間の総枠を把握した上、月ベースでの残業管理を行わなければなりません。月の労働時間の総枠を超えての労働が黙認されていた場合は、残業代の対象となります。

また、年俸制の場合は、前述したように、そもそも年俸制が残業代の適用を免除する制度とは無関係ですから、所定労働時間を超えて労働をした場合は、通常の月給制の社員と同様、残業代が発生します。

――― 会社規定に、「日給の仕事の場合、1時間以内の残業代は支給されない」とある場合、59分残業したらタダ働き?法的にどうなんでしょう

労働基準法では、残業代は1分単位で集計することとされています。したがって、59分の残業を切り捨てた場合は、法的には59分の未払い残業代が発生していることになります。

なお、1分単位で残業代を支払わなければならないというのは、日給者に限らず、時給制であれ月給制であれ年俸制であれ、同様です。

59分というのは極端にしても、実務上は、15分単位とか30分単位で残業代を切り捨てている会社も少なからずありそうですが、法的にどうかと言われると、違法な取扱いということになります。

この点、法的に正しく対応しようとするならば、所定労働時間の10分前とか15分前とかに業務を切り上げ、終業時刻ジャストになるときには、片付けや着替えを含め、その日の仕事が終わっている状態にすることです。

榊⑦

「長時間働く社員=がんばってる」って風潮、いまだにあるよね?

――― 早く仕事を終えても、なんとなく帰りづらい雰囲気って一般的にありますよね。業務が終われば帰っていいはずなのに、「先に帰る=サボり」と思われるの心外で…

確かに、そういう社風の会社はまだまだありますね。会社全体だけでなく、直属の上司の考え方にもよると思います。

この点、2つの考え方があると思います。

1つ目の考え方は転職です。近年、長時間労働や、育児・介護との両立、ワークライフバランの重要性などが高まっている中、長時間労働を削減しようと考えている会社はどんどん増えています。そのような会社が増えている中、長時間労働を疑問に思わないだけでも問題なのに、早く帰るのを「サボっている」とさえ考える会社に身を捧げる必要はないかと思います。

もう1つの考え方は、環境改善です。自分だけは仕事が早く終わるというのは、仕事に対して何らかのコツをつかんでいるということだと思いますので、自分が持っているノウハウを同僚に水平展開したり、上司に提案したりして、部署全体の残業を減らし、帰りやすい雰囲気を作っていくということです。

会社や仕事そのものは好きなのに、帰りにくい空気が不満なのであれば、帰りやすい職場をつくるための旗振り役を買って出てみるのも面白いのではないでしょうか。業務効率改善のスキルが身について、自らの成長にもつながると思います。

――― なるほど、発想の転換ですね。逆に「残業代が出るなら、だらだら社内に残ったほうが給料増えるわ~」って考える人もいそうで、それはそれで問題ですよね

いわゆる「生活残業」の問題ですね。

私の過去の勤務先にも「5時から男」みたいな先輩がいて、定時内はしょっちゅう喫煙室に行ったり、行方不明になったりしているのに、定時を過ぎると妙に張り切り出していました。

残業代稼ぎに加え、年功序列の色合いが強い会社で、基本給が私より高いことは間違いなかったので、正直言って「なんでこの人が自分よりも給料高いのかな?」と、釈然としない思いでした。

タバコ休憩ばかりの「ケムリーマン」や、パソコンで仕事をしているかと思いきやネットサーフィンをしている「サボリーマン」がいると、他のマジメなサラリーマンのモチベーションにも影響しますよね。

――― 残業代が満額出る職場だとして、だらだらタバコすったり、休憩して残業代を稼ぐって姑息なことやる社員が多いと、そりゃあ会社も「あほくさ」って思うはず

現在、私自身は社会保険労務士法人の経営者という立場なので、もし自社にそのような社員がいたら見過ごすことはできないと思います。

だらだら残業を防ぐためには、会社として、その状況のまま放置しないことが重要です。

放置していると、だらだら残業をしている本人が現状に甘んじて許されることだと思ってしまいます。経営者や直属の上司がしっかりと社員の動きを把握し、定時内の仕事の密度を上げるように指示したり、不必要な残業はさせず帰宅を命じるといったマネージメントが必要です。

給与面においても、だらだら残業した人が得をしないよう、昇給昇進や、賞与の額などで差をつけ、決められた時間内で成果を出した人が金銭的にも報われるような人事考課制度や賃金体系を作っていくことも重要でしょう。

なお、最近は残業ゼロや残業時間が短かった人に「残業しない手当」というものを支払う会社も出てきているようです。面白い取り組みですね。

パーフェクト労務への脱皮がホワイト企業2.0を創り出す

――― 労働者が、「給与が間違ってる、残業代がもらえない、法的な権利が行使できない」っておかしいけど、管理者側も「肥大化する業務負担、過度の法的リスク、過度の締めつけによるカルチャー毀損」に悩まされているのは事実ですね。「特定の誰かが必死にがんばる」って旧態依然の方法ではいかんともしがたいステージにきているかなと

その通りですね。この現状を打破するには、端的に言えば「労働生産性を上げる」ということが解決策だと思います。「労働生産性を上げる」とは、「サービスの品質を落とさずに、労働時間の短縮を実現する」という意味です。

そのために必要なポイントは3点あると私は考えます。

第1のポイントは「経営者のマインドチェンジ」です。

経営者は、社員が気持ちよく働くことができなければ、お客様に良いサービスを提供できないということを認識する必要があります。

近年の成熟した日本社会の中では、大量生産大量消費よりも、斬新なアイデアを出すとか、お客様の心に響くサービスを提供するとか、そういったことがビジネスモデルとして重要になってきました。

社員を無理矢理働かせたり、疲労困憊にさせては、良いアイデアは出ませんし、良いサービスを提供できるはずはありません。

ですから、経営者は長時間労働を前提とせず、限られた労働時間の中で、社員が最大限のパフォーマンスを発揮するためにはどうすべきかを、重要な経営課題の1つと捉え、考えていかなければなりません。

――― ここ、世の中の経営者の皆さんに強くお伝えしたいですね

第2のポイントは「社員側のマインドチェンジ」です。

我が国でサービス残業や長時間労働が黙認されていたのは、社員が良くも悪くも会社に忠誠心を持ち、会社の指示や方針を絶対的なものとして受け入れてきたからです。たとえば、「うちの会社では残業は月20時間までしかつけてはいけない」というような企業のローカルルールがあれば、労働基準法上はおかしなことであっても、社員は容認していました。

ところが、そのような「容認」が、長時間労働やサービス残業の温床になってしまったのです。欧米などで少なくとも一般労働者に関してはサービス残業が見られないのは、経営者が法に反する長時間労働やサービス残業を求めたとしたら、社員が自分の権利に基づき、労働を拒否したり、労働裁判所に訴えたりします。それを経営者も分かっているので、社員に対して違法な労働はさせません。

このように、社員側が権利意識をしっかりと持つことで、良い意味での労使間の緊張関係が生まれ、長時間労働やサービス残業の抑止につながっていくのです。

――― 社員側の意識改革とか変化も大事だと…

第3のポイントは、「IT投資を含めた仕組み作り」です。

「長時間労働をやめましょう」と言っても、気合だけで何とかなる訳ではありません。

業務フロー作り、仕事の見える化、情報の共有化、整理整頓など、様々なアプローチがあると思いますが、業務効率の改善にはITツールの導入が大きな助けになるはずです。

たとえば、クラウドの会計ソフトや給与計算ソフトを導入して事務処理が自動化されれば、直接的な効果として間接部門の業務が効率化されます。

加えて、クラウド効果で情報の共有化や見える化が進み、誰が何時間働いているのかなどをクラウド上の出勤簿で上司や経営者がリアルタイムで把握できるようになります。過重労働に陥る前に、早目早目に手を打つことができます。

クラウドだからこそ、在宅勤務者や時差出勤者などの多様な働き方にもスムーズに対応することができるでしょう。

このように、マインドチェンジおよび、ITによる労務管理の一元化や自動化を通じて、働きやすく、競争力のある会社をつくっていきたいですね。

会社が力強く成長していくためには労使の信頼関係が不可欠です。給与計算のミスは、社員の会社に対する信頼を損なうことにつながりますので、正確に行うことが重要です。当事務所では、豊富な実務経験に基づき、給与計算freeeの運用をサポートいたします。freee 2つ星認定アドバイザー。

人事労務freee

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