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2017年06月13日(火)

経営者でもないのに「うちの会社はテレワークなんて無理」ってなぜ断言できるの?決めつけちゃうの?

経営ハッカー編集部
経営者でもないのに「うちの会社はテレワークなんて無理」ってなぜ断言できるの?決めつけちゃうの?

こんにちは、シックス・アパートの作村(Twitter/Tumblr)です。あと3ヶ月もすると、私たちシックス・アパートが全社的にフルタイム・テレワークを導入して1年になります。1年経ったら少し胸を張ってテレワークの成果を途中報告してもいいかな、と思っている今日このごろです。

テレワーク連載、第5回となる本稿でも、「どこか引っかかって、もやもやしていること」を古典や先行研究をもとにしながら、その正体に迫っていきたいと思います。

本稿の参考文献は、こちらの『新版 福澤諭吉 家庭教育のすすめ』です。在宅勤務のお陰で娘(現2歳)と一緒に居られる時間が増えたので、「家庭教育とは何たるものか」を考えてみるために購入した本です。

はい、テレワークと全然関係ない本です(笑)。1985年に初版が出て、昨年、新装版が再販された本ですから、実際テレワークの「テ」の字も出ません。(過去記事で紹介した本もテレワークとほとんど関係ありませんが。)

しかし、どこかの誰かが何かについて真剣に考えて書いたことは、別のどこかの誰かの考察につながっていくのが、社会文学の素晴らしいところだと思います。教育に関する考察と現代の働き方について、どのようにつながっているのか、書きながら考えてみます。

たかが社員の分際で

プロ野球ファンなら覚えてるだろう巨人の渡辺元オーナー(愛称:ナベツネ)のこの発言

「無礼なことを言うな。分をわきまえないといかん。たかが選手が。」

2004年のプロ野球再編問題真っ只中で、当時の日本プロ野球選手会会長の古田敦也選手が「オーナーと話したい」と言ったとか言わない話が、なんやかんやでスポーツ記者を通じて伝え聞いた渡辺元オーナーが言い放った言葉。

多くのプロ野球ファンの反発を招いたこの言葉、渡辺元オーナーの真意は知るよしもないが、球団と選手の間の従属関係が透けて見える。さて、わたしがテレワークを始めてから、自己紹介を兼ねて最近の活動内容を話すとよくいわれる言葉。

「羨ましいです。在宅勤務なんて、うち(の会社)にはとうてい無理です」

この言葉を聞くたびに、内心、「経営者でもないのに、テレワークは出来ないって、なんで断言しちゃうの?」と思ってしまう。

在宅勤務を始めとする働き方の改革の恩恵を最も受けるのは私たち社員だろうに。だから、ただ希望だけ述べればいいのに、会社を慮って「出来る」ならまだしも、「出来ない」と言ってしまうその理由はなんだろう?

会社に頭が上がらない理由

企業にはOJT(On the Job Training)という社員教育システムがある。結論からいうと、社員が会社に頭が上がらないのはこのOJTが理由だ。上司や先輩からOJTで言語技術トレーニングを施される。言語技術とは、簡潔に言うと言葉を有効に使いこなす技術だ。社会人としていろいろな人達と様々な仕事をする上で、絶対的に必要なものが言語力だ。

言語力はトレーニングによって身につく。言語技術には読み書きだけではなく、話す・聞くのディスカッション能力も含まれる。OJTを通した言語技術トレーニングによって、話す・書く能力が向上し、議論に必要な批判的思考(クリティカル・シンキング)が可能になる。長い時間をかけたこの言語技術トレーニングによって、ビジネスマンの土台が作られる。経験を積んでどんなお客さんとも1時間は話ができるようになるのも、パワーポイントで10枚位の説明資料が作れるようになるのも、OJTによる言語技術トレーニングのお陰だ。

よほどの鈍感力の持ち主でない限り、自分を育ててくれた会社に社員は大きな恩を感じるはずだ。それと同時に、会社と社員は、親鳥と雛鳥の関係になってしまう。

逆から見れば、それだけのコストが企業にかかっている、といえる。日本も欧米諸国と同様に言語技術トレーニングを小学校からの学校教育でやれば、企業のコスト負担も大幅に減るうえ、企業と社員の従属関係(親鳥と雛鳥)から開放されるだろうが、話が逸れ過ぎるのでこの話は別稿に譲りたい。

さて、社員は育ての親鳥に頭が上がらない雛鳥だとすると、「勤務=親孝行」と解釈すればよいのだろうか?

日本企業の裏にある儒教教育

日本の親子間の従属関係は、江戸初期に儒教が官学になって以降の教えに基づくと福沢諭吉は見抜いた。この従属関係は儒教では名分論といわれ、親に尽くすのが子の本分(つとめ)であり、社会秩序維持のために儒教では特にこれを重んじたといわれる。

開国以来、日本の教育は、西洋の自由独立主義と実験実証主義にシフトしていったはずだが、明治15年に自由民権運動の反作用として儒教教育が復活している。このあたりの話は陰謀論や通説がまかり通っているようにみえるが、昨年のアメリカ大統領選挙や先日のフランス大統領選挙などを鑑みるかぎり、国家国民に大きな舵取りを委ねられるとき、世論は2つの思想に分断されて、テニスボールがネット上に引っかかって、どちらのコートに落ちるかわからないような状態に自ずから向かっていくものなのかもしれない。

育ててもらった恩を返すのは当然のことだ。OJT期間とそのあとしばらくは親孝行として、ただ一心に仕事に尽くすべきだ。だがしかし、一人前になった後は、自由独立の身のはずだ。

福沢諭吉は、新しい日本を作るには、まず日本人の頭から文明の精神に逆行するような旧思想(主に儒教)とそれに伴う生活習慣を取り除いてしまわなければならないと考えていたようだ。働き方改革の分水嶺にいるまさにいま、取り除くのは、親孝行という名の会社と社員の隷属関係だろう。

親子の分に比べれば、今に始まったこと

会社は家とは違う。だから、アットホームな会社などは基本的に存在しないのだ。親孝行のために自分を犠牲にする必要はないのだ。会社の考えを忖度(そんたく)して、自らゆとりのある働き方を捨てる必要はない。

言葉は人間のリモコンだ。

「うち(我が社)には在宅勤務は出来ない…」

そう言ってしまえば、それが自分の現実(リアル)になる。

繰り返す。社会が大きな分岐点を迎えるとき、世論は2つの思想に分断されて、テニスボールがネット上に引っかかって、どちらのコートに落ちるかわからないような状態に自然と向かっていくものなのかもしれない。今、日本の働き方議論は徐々に人々を巻き込み、これまで通りの働き方をする人たちと、テレワークなどの先進的な働き方をすすめる人たちの大きな2つの世論に分かれるだろう。この現象そのものが、日本の働き方が大きな分岐点を迎えていることの証拠なのかもしれない。

わたしは働き方改革側に属する人間で、それを背景にしてこの記事も書いている。みんなも自分がどうしたいか宣言すればいい。どっち側に組みしても、日本の働き方が本当に分岐点に差し掛かってるのならば、日本全体の意見は半々に分かれる。

この先、どちらの働き方に軍配が上がるかわからないが、本音で議論に参加していれば、どっち転んでも、「そんな時代もあったね」といつか笑って話せるはず。

中島みゆき『時代』

(引用先) * 三森ゆりか(2013)『大学生・社会人のための言語技術トレーニング』 * 荒木飛呂彦(2007)『スティール・ボール・ラン』第12巻 * 千葉雅也(2017)『勉強の哲学』 * 渡辺徳次郎(2016)『新版・福沢諭吉 家庭教育のすすめ』

事業開発担当として2011年より、シックス・アパート株式会社に勤務。現在は、経営企画も兼務。東京生まれ。社会人としてのほとんどの時間を横浜/鎌倉で幸せに過ごす。一児の父。好きな言葉は「合理的な非常識」。2016年夏、テレワーカーとして働き始める。自らを実験台にテレワークの様々なアイデアに挑む。 ※当連載の内容は個人によるもので、シックス・アパートを代表するものではありません。 Twitterアカウントはこちら

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