人事評価制度を活用して、40時間の残業削減に成功した企業の取り組み
「働き方改革」を合言葉に、企業には「残業削減」の波が押し寄せています。2017年3月、政府が残業時間の上限について協議し、繁忙月に例外として「100時間未満」まで認めるとしたニュースは新聞の一面も大きく飾りました。
>>「1日何時間残業すると健康を害するのか」(プレジデント)
人手不足の時代背景もあり、企業は競うように施策を打ち出して自社が「ホワイト企業」であることをアピールしています。実際に残業時間が大幅に減った企業もあるでしょう。そんな中で問題となっているのが、残業時間削減によって残業代が減り、社員の不満が募ってしまうことです。
一般に日本人は残業代も見込んだ給与総額を生活費としているので、急に会社が「残業を減らすぞ!」と言い出して、それに素直に従った結果、給与が減って困ってしまう人が多いもの当然です。それでは、どうやったら企業も社員も両者が納得して残業時間を減らせるのでしょうか。
ある中小企業が人事評価制度を使って残業40時間減に成功した方法を紹介します。
「生産性」を給与に反映させる
前提として、この会社では、人事評価制度の結果を絶対評価で基本給に反映させていました。その評価項目の数値目標の中に、「生産性」に関する項目を入れたのです。ここで、営業職と非営業職に分けて「生産性」をどのように評価したかを見ていきましょう。
営業職は「予算」を達成するために「どのくらいの時間」をかけたのか
営業職の数値目標というと、「個人受注金額」「チーム受注粗利」のようなものがよくあるでしょう。しかしこれだけだと、「どうにかして目標を達成したい!」と考えた社員は、残業をしてたっぷりと時間をかけてしまっているかもしれません。
例えば、同じ予算金額を達成したAさんとBさんがいます。Aさんは効率的に仕事をしていて残業10時間以下、Bさんは目標を達成するために時間をかけすぎてしまって残業45時間。Bさんは残業が多かった分、Aさんよりも多く残業代をもらっています。
会社として評価すべきは生産性高く予算金額を達成したAさんのはずなのに、生産性の低いBさんの方が金銭的に得をしてしまうのはよろしくないですよね。Bさんのようなタイプの人の中には、残業代をもらうためにダラダラと仕事をする癖がついている人もいるかもしれません。
そこで、営業職の数値目標を「受注金額」から「時間当たりの受注金額」として生産性を計るようにしました。
もちろんこの他にも評価項目がありますが、それらから算出される評価点によって査定が行われます。よって、生産性の高いAさんの方が基本給は上がります。Bさんは、残業代で多くもらっている分もあるかもしれませんが、評価が低いとマイナス査定となり基本給が下がってしまう可能性もあるので、残業代目当てでダラダラ長く働くこともなくなっていくでしょう。
非営業職はダイレクトに「残業時間」を評価項目に入れる
営業職のように予算数値を持っていない非営業職は、評価をするのが難しいとおっしゃる方も多くいます。ですが、だからといって非営業職に対して「何を評価しているのか」「どうやったら給与があがるのか」をグレーにして説明責任を果たせないのは、労使紛争も増えている今の時代は労務リスクになります。
非営業職も営業職と同じように、数値目標を設定することが重要です。その数値目標の中に「生産性」を入れるのですが、営業職のように予算を持っていないメンバーは、もっと分かりやすく「残業時間」をそのまま評価項目としました。
早く帰って給与も上がる!
ただ「残業を減らすように!」と声掛けをするだけでなく、会社が上記のような評価項目を設定することで、「会社は決して残業代を削減するために残業を減らせと言っている訳ではなく、生産性が上がった分をきちんと社員に還元しますよ」というメッセージを社員に伝えることができます。社員も「ダラダラ残業して評価が下がる(基本給が下がる)なら、効率よく働いて早く帰ろう!」と意識が変わってくるでしょう。
残業が減ったのに業績が上がった!
この会社の社長様は、「正直なところ、以前は深夜残業もあったのに今は19時にもなると残っている人は少なく、本当にうちの会社は大丈夫なのか…」と少し心配になったそうです。しかし、それは杞憂に終わりました。社員全員の生産性が高まり短い時間で成果を出せるようになったので、結果として会社の業績は上がったのです。
社員にとって給与は大切です。給与が増えるか減るかが掛かっていれば、残業削減への取り組みにも熱が入るでしょう。実際に評価制度を運用する上では、今回紹介した「生産性」以外の目標項目をどのように設定するかも重要になります。(仕事が全く終わっていないのにただただ早く帰ってしまっては元も子もないですからね)
人事評価制度は会社からのメッセージです。「残業削減」に限らず、会社が社員に何を求めているのかをきちんと評価項目に反映し、給与に結び付けていくことが改革成功の大きな一歩となるのです。