全然違う!仕事における日本人と南米人の価値観ギャップ
「サービス残業」「過労死」という言葉をニュースで見るのが当たり前の昨今です。悲しいことです。
これらの言葉が注目されだした背景には、ワークライフバランスを意識した若者達の台頭や、グローバル化を推進する企業、あるいは様々な電子媒体を利用して入ってくる海外の仕事現場の情報などが影響しているのだと思います。
今回は、パラグアイにおける仕事に対する価値観や、人生の豊かさについて現地生まれ現地育ちの日系三世男性パブロさん(仮名)に話を聞いてみました。彼の仕事歴はおよそ10年。バイリンガルという特性を活かして、日本の国際協力機構や日系企業でも働いた経験があります。 パブロさん(仮名)
仕事は生きる為にしています(きっぱり)
松田 まず仕事について聞かせてください。あなたにとって仕事ってどんな存在?
パブロ パラグアイでよく言うように、「No se vive para trabajar,Se trabaja para vivir(仕事の為に生きていない、生きる為の仕事)」…つまり、生活するためにしてます。 スペイン語では、そういうよね。極端な話、どんな仕事でもいいの?
うーん…どんなにいい給料でも、心を殺されるよう職場なら意味がないと思うので、そういった仕事はしたくありません。できるだけやっていて楽しいこと。あと、職場環境が良いのも重要です。同僚とか上司とか、周りにいい人達がいる職場は多少きつい仕事でも辛くありません。
環境はとても大事だよね。ちなみに仕事を選択するときに重要なのは、給料と仕事の辛さだったら何対何ぐらい?きつくて給料のいい仕事か、楽だけど給料の低い仕事だったら?
4(給料)対6(辛さ)ぐらい。仕事を選ぶ基準だったら、楽しい、辛いよりも拘束時間のほうが重要ですね。
リアルな線だ(笑)。拘束時間が大切なのか…日本で仕事している人とは価値観が少し違うな。職場の話が出たけど、例えば嫌な上司がいたとして、あなたがその会社に見切りつけて退職するのに必要な日数ってどのくらい?
実は、前に死ぬほど嫌な上司が職場にいたんです。あるプロジェクトに参加していて、職場に見切りをつけようと思ったんですが、後一ヶ月で終わりだったから我慢しました。
どうして我慢したの?
直属の上司だけが嫌な人だったんです。同僚も上司の上司も、他の人は本当にいい人達ばかりだったのと、勤務時間や給料の条件もよかったからです。それがなければすぐ辞めてたと思います。だから職場に見切りをつけるタイミングは、私の心がばっきばきに折れたときですね。
このときのプロジェクトの期間はどのくらいだった?
私は5年いたんですけど、嫌いな上司がいたのは1年くらいでした。
じゃあ、1年間は周りに支えられてなんとかできたってことだ。お給料はちゃんともらえていた?
最低賃金のほぼ2倍くらいもらっていたんですけど、それくらいあるとまあよいかなと。勤務時間と仕事量によりますけどね。
勤務時間は8時から5時までだよね?
そうです。じつは、それよりもう少し短かったですね。
パブロさんの職場
嫌われる上司は、世界共通!?
ちなみに、上司の何が(どんなとこが)嫌だったの?
色々積み重ねです。仕事はくれない、それどころか取り上げる。信用してくれない。私に注意しないで上の上司に愚痴を言う。上司の周囲の人達にも、、等などです。
なるほど、、なかなかの絵に描いた嫌な上司だね。しかし、仕事くれないってのはどういうこと?
仕事をまわさないんですよ。私が積み重ねてきた仕事とかも全部取り上げる。それで、しょうがないから周りの人の仕事をフォローしてると、「何をやっているの?何してるのかわからない」とか言われてしまう。それも、私に直接じゃなくて周りの人に。
酷いね…。しかし、仕事をなんも振ってくれないっていうと何もしなくていいって事でしょ?他のパラグアイの人からしたらご褒美に見えてしまうんじゃ?
それまでやっていた仕事を奪われて窓際族になるのと、最初から暇とか徐々に暇になるのとでは違いますよ。何もしてなくても文句言わないなら開き直れるけど、文句は言うんです...しかも、間接的に…。
外国人は細かい事は苦手といわれるが、意外と数字計算は好き。
仕事を任されるのってやっぱりうれしいこと?
仕事によります。ただ、大体一番最初に思うことは、「うわ、めんどくせええええ」ですけど(笑)。でも、嫌ではないです。苦手な事じゃない限りは。
任されるって、信頼されてるってことだからうれしいよね。好きな仕事、嫌いな仕事あったら教えてくれる?
好きな仕事は、経理関係です。色々なイベントのコーディネートしたりするとか、周りのサポートとかもですね。事務処理とか書類集めたり、情報集めたり。大嫌いなのは通訳・翻訳・文書作成です。
日本語を使えるのに、翻訳と通訳は嫌なのかー。頭の回線を切り替えるのがめんどくさいのかな?
翻訳は大嫌いっていうわけではないですけど、スケジュールがタイトだと嫌です。通訳は言葉が回らなくなるのであんまり…。
一人で黙々とする作業と、誰かと一緒にやる作業ならどっちが好き?
両方好きですね。黙々とやるのは経理の締めとかで、イベント準備とかだとみんな一緒みたいな。
日本では「経理なら経理」、「イベントならイベント」ってかんじでずっと同じ仕事をやる傾向があるんだけど、それについてどう思う?例えば、営業は営業、事務は事務なんだよね。
私はもともと経理だったんだけど、経理ゆえに会計が必要なイベントに連れ出されてましたね、スペイン語でいうとcontabilidad +administracion(会計兼運営)でした。
そういう職種があるんだ。初めて知った。
本当はないんですけど、そういうプロジェクトだからです。
パブロさんの職場
仕事に対するパラグアイのメンタリティは両極端
仕事感の話に戻るけど、あなた自身や周りの友達とかで、仕事でどんなことを嫌がるとか、どんな仕事が楽しいとかってある?忙しい時期が終わってうれしいとか、今日はこんな楽しい仕事だったとか、大きな仕事を受注したとか、、そういう仕事に関する喜怒哀楽とか。
私はイベントが終わったときに、すごく気持ちのいい疲労感を感じました、あとは経理の締めが終わったとき、楽しい仕事はそういったものですね。
やり切った感があると楽しいんだね。そういう時の喜びって、よっしゃー!やってやったぜ!?それともいやー、やっと仕事おわったわ!?のどっち?つまり、仕事の達成感なのか、もう仕事しなくてもいい解放感なのか。
両方です。
一般的に「パラグアイ人って仕事をしない」って言われるけど、企業に勤めている人はちゃんと仕事するし、責任感を持っているよね。まぁ、そういう人もいないと国として成り立たないけども(笑)。
パラグアイ人は両極端なのかもしれません。ぜんぜん仕事しない人とキッチリ責任を果たす人と。
サービス残業、過労死のイメージは?
ちょっと話を変えて日本の話について意見を聞かせてほしい。サービス残業ってどう思う?理解できる?
あり得ないですよ!狂気の沙汰です。
じゃあ、日本企業では普通の光景なんだけど、「上司がなかなか帰宅せず職場に居残っていると、部下は先に帰りにくい」って感覚は理解できる?
できませんね。例えばですけど、「今日はサービス残業をするけど、翌日はそのぶん遅れて出社してもよい」とか、フレキシブルな勤務体制があればまあ受け入れられるけど。
そんな制度がある日本企業は聞いたことがないな(笑)。
今までいた職場は、アシスタントが帰らないと上司が帰れないという感じでした。部下が職場に残って困るのは、早く帰りたいけど帰れない上司です。パラグアイでは、業務が残っていても、「知らんがな。退勤時間になったから帰るで」って感じでさっさと帰宅する社員がほとんどですよ。
いままで働いていた職場って、日本企業の話?
はい、そうです。
日本人の上司もやっぱり早く帰りたがるの?
そうでもないです。早く帰りたがる人は信用してくれるから普通に帰ります、信用してくれない上司はずっとオフィスにいますね。例の上司はビルの管理人さんにまで、「頭がおかしい」と言われていました。休日や祝日もふらっと出社して、ずーーーっと夜遅くまでいたりして。管理人さんは最後の一人が帰るまで休めないからすごく嫌がっていました。
それはウザい(笑)。
そもそも南米には「お先に失礼します」って文化がありません。だから、上司より先に帰りにくいという概念がありません。「じゃあ帰りますー」「また明日ー」だけですよ。
超フランクだ。
「先に帰るもなにも、すでに定時で業務終了してんじゃん」みたいな。
パラグアイは私生活と仕事、見事に分かれているよね。逆にパラグアイの家庭で旦那さんの帰宅が遅いと何か言われる?日本人なら「ごめん、仕事が長引いた」って言い訳すればいい。パラグアイには、それに準ずる言い訳がある?
…考えたことなかったですけど...「会議が終わらなくて」とかですかね?
働きすぎな日本人サラリーマンの方々に、どんなことを伝えたい?
「なんのために仕事してるのか、考えてください。生きるための仕事であって、仕事のために生きるのではないと思います」ですかね。
パラグアイにとっての豊かさ、幸せとは
仕事とか、家庭とかさ、色々あるけど人生の豊かさってなんだと思う?パブロにとっては何が幸せ?ちなみに、あるパラグアイ人に「あなたはいま幸せ?」って聞いたら、「仕事があって、家族があるって幸せだよ」と言っていた。
それ素敵な回答ですね。私は月並みだけど…「大切な人と平和に暮らす」ですかね。そのための手段のひとつが仕事だと思っています。
素晴らしい回答だと思う。本当はそういった生活こそ豊かってことだよね。日本では、周りよりも金を稼ぎたいとか、会社でのし上がって出世したいって理由で仕事を頑張る人もいて、それはどう思う?
それがその人にとっての人生の豊かさで、夢や目標に向かって走ることができる人は、尊敬します。私はあまりそういった情熱を持ちあわせていないので。
パブロさんは人生の夢ってある?
ないですよ。
ないんだ。
普通に大切な人と平和に暮らしたいです。縁側で日向ぼっこ的な。
もし選べるのであれば、就きたい職業ってある?
なりたい職業...特にないですけど...いまやってることの延長ですかね。イベント会場の担当とかも面白そうですね。厳密にいうと、パラグアイ中央銀行の仕事とかも興味ありますけど…うーん、やっぱり特にないですね。
イベント運営会社、面白そう。中央銀行、比較的かたい職業だね。
中央銀行は、公務員だから安定してて、さらに勤務時間が短いから最高なんです(笑)。
6時間勤務とか?
そんなもんだと思います。
南米人に聞くと、、過労死問題はやっぱり異常すぎる!
最後に日本の過労死についてコメントしてほしい。いま、日本ではわりとホットな話題なんだけど。
過労死ってすごいですよね。パラグアイではあり得ない。いったいなぜ起きるんでしょうね?どうして無理してまで働くのでしょう?なんのために?会社のため?会社のために両親はあなたを大事に育てたのですか?と思ってしまいますよ。
なんだろうね。プレッシャーかな。上司とか同僚とか…日本人は生真面目だから仕事に対する責任感が異常に強いみたいな?
パラグアイ人のいい加減さを少しわけてあげたい(笑)。「いい加減は良い加減にすればいい」って金八先生も言っていました。
金八先生、いいこと言うね。
そういえば、サービス残業&過労死といえば、ブラック企業に勤める若い女性が自殺したって事件、去年話題になったじゃないですか。パラグアイでもニュースで読んだ人がいましたよ。
あー、某広告会社ね…パラグアイでも話題になったの?
はい、パラグアイ人たちは普通に「辞めればよかったのに...」って言ってたんですけど、「最低3年は勤務してないと転職しにくいから、自分を追い込んでしまったんだろう」と話す日本人もいました。でも、「最低3年がマナー?根拠は?どうして?」ってパラグアイ人はみんな驚いていました。「追い詰められすぎて辞めるなんて、自殺を選ぶなんて責任感ありすぎや...悲しすぎるやん、そういう時は無責任でもええねん」とか、「社員のこと考えない会社に義理とか感謝ってなんだよ」という意見もありました。
日本では、新卒で入社したら3年間は在籍しなきゃダメ…的な風潮は、パラグアイからみたらどう?
「どうして3年?」って疑問に思います。その日本人に尋ねたら、礼儀、義理、感謝がうんぬん…と言ってましたけど誰も納得できませんでした(笑)。
3年の根拠をちゃんと提示できる人はいないと思うな…。今日は貴重な意見、ありがとうございました!
ありがとうございました。
まとめ
当然、というかやはり!仕事に対する日本人の価値感と南米人の価値観は相容れないもののようです。特にサビ残、過労死という単語はそもそも理解できない。
「お先に失礼します」という文化がないので上司より先に帰るのはちょっと、、という感覚も理解できない。そもそも、部下に残られて困るのは早く帰りたい上司。というホワイトぶりでした。
私も海外生活が長いので気付けば当たり前になっていましたが、パラグアイでは仕事の拘束時間に重きを置く人が多いですね。家庭を中心に人生が回っているからでしょう。