社員がケガをしてしまったら?シチュエーション別、もらえる労災保険の給付まとめ
仕事中や通勤中に社員がケガをしてしまう、というのはままあることです。外出が多い業務やそもそも危険な作業に携わる方々にとってはもちろんですが、デスクワーク中心で危険とは一見無縁の職種であっても、日常の行動には思わぬ事故のリスクが潜んでいるものです。
社員が仕事中や通勤途中にケガをしてしまった場合、受けられるものとして「労災保険」が思い浮かぶと思いますが、ではこの労災保険はどのような場合に、どのような給付が受け取れるのかご存知でしょうか?
実際に社員がケガをした場合に「労災保険」からどんな給付がいくら受けられるのか、よくある具体的なシチュエーションを交えながら解説します。
労災保険の対象とするもの
具体的なケースを見ていく前に、そもそも労災保険は誰の何を対象としているのかについて確認しておきましょう。
労災保険は、仕事中・通勤中の出来事が原因で生じた病気、ケガ、障害や死亡を対象とする保険です。通勤途中であっても労災になる、というのは意外と知らなかったという方も少なくないのではないでしょうか。
ちなみに、社員の方々が加入している健康保険は「業務外」で使うものになるため、仕事中・通勤中は労災保険、プライベートでは健康保険という区分になります。その対象は「雇われて働く人全て」となっており、これに該当すれば特に加入手続きはなくとも自動的に労災保険の対象となります。たまに「ウチは労災保険に入ってない」と言う社長さんがいますが、人を雇っている時点で強制的にその会社も労災保険の対象とされるのです。
カッターで指を切ってしまった
では、ここからは具体的なケースごとにもらえる給付を見ていきましょう。
デスクワークが中心の社員であっても、物や書類を切るためにカッター等の刃物類を使われることは普段からよくあるでしょう。「指を切って痛い思いをした」という方もいるのではないでしょうか?
ちょっと切って血が出たくらいであれば絆創膏を貼って済ますこともできますが、病院に行かなければならない程度のケガを負ったとき、労災保険の出番になるのです。
健康保険を使うのはNG
まず気をつけたいのは、この場合には健康保険は使えません。先に述べたように、健康保険は「業務外」を対象とした保険であるため、仕事中のケガで保険証を提示しても本来は3割負担で治療を受けることができません。
病院の医師もこの違いに詳しくないことがあるため一旦は保険証が使えてしまうこともありますが、「実は労災だった」ということが後々になって判明すると、保険証で受けた7割分を返還して改めてかかった治療費を労災保険に請求し直す……というかなり面倒な手続きが必要になります。この場合、病院の受付では保険証を見せずに「労災です」と申告するようにしましょう。
仕事中のケガの場合、医師の診察は「無料」
健康保険の保険証を提示して診察を受ける場合、医療費の3割を窓口で支払っていると思いますが、労災保険では仕事中にケガをした場合に本人負担はありません。そもそもの原因が仕事をしていたことにあるため、「業務災害」とみなされて医療費は全額労災から給付が下りることになります。労災の制度に加入している病院であれば、窓口での負担は一切なく無料で医師の診察や治療を受けることができます。 ケガをしたことは災難ですが、いざという時無料で病院にかかれるのは安心ですね。
出がけに自宅マンションの階段で転倒して骨折したとき
通勤中、とくに朝の出勤時は慌ただしく出かけることが多いため、転倒してケガをしてしまう方が多いです。平坦な道で転ぶだけなら軽傷で済むこともありますが、階段で足を踏み外してしまうと、骨折して数ヶ月間働けなくなる…なんて可能性もあります。
では実際、出勤時に自宅マンションの外階段を駆け下りた際に転倒して足を骨折し、2ヶ月ほど会社を休むというようなことが起きた場合に、労災保険の取り扱いはどうなるでしょうか。
家のドアから会社の入り口までは「通勤」
マンションの外階段でのケガなんて労災になるのか、と思うかもしれませんが、労災保険では家のドアから一歩でも出ればそこから先は会社の入り口に着くまでの間を「通勤」としています。つまりマンションの共有部分にあたるような場所でもそこでケガをすれば「通勤災害」とみなされることになるのです。
休業する期間は月給の8割程度が支給
通勤の場合であっても、カッターで指をケガした場合と同様に「無料」で医師の診察を受けることができます。また、今回のようにケガが原因で一定期間働けない場合、その原因が仕事中・通勤中を問わず月給の8割程度が労災保険の給付として支給されることになります。全額が補償されないのは心苦しいところですが、生活費として8割の給付を受けながら医療費はかからず治療に専念することができます。
社食を食べて食中毒になってしまった
社員食堂で集団食中毒が起こったニュースで見かけることがありますが、社食を利用して食中毒になってしまった場合、労災は受けられるのでしょうか。
会社の施設が原因なら休憩中でも労災になる
そもそも通常はお昼休憩の時間に社食を利用するため、それは仕事中ではなくプライベートな時間であるといえそうですが、このような場合でも労災が下りることがあります。
労災保険は簡単に言えば「仕事中に起こるリスク」を補償する保険であるため、社食が会社の管理している施設であればたとえ休憩時間であってもそこで起こった事故であれば労災の対象となり、自己負担なく治療を受けられる可能性があるのです。
なお、厳密には食中毒はケガではなく、病気と呼ぶべきものですが、もちろん労災は病気も対象としているため給付を受けることができます。
まとめ
これらケースのいずれにも共通するのは、「労災に該当するときは、保険証を使ってはいけない」という点です。労災保険を使えば3割負担ではなく無料で治療を受けることができます。
いざというときに安心して治療に専念できるよう、少なくともこの点だけは忘れないようにしておきましょう。