労働基準監督署の調査の種類を徹底解説
「労働基準監督署の調査」と耳にしても、実際に調査を受けたり、調査の結果改善・是正を求められたりした経験のある人事総務担当者は少ないのではないでしょうか。
ここでは、複数ある労働基準監督署の調査の種類を徹底解説するとともに、調査の対応方法についてもまとめました。
労働基準監督署による調査、その4種類
労働基準監督署による調査には、次の4種類があります。
1.定期監督 労働基準監督署が計画的に、対象となる事業場を選定して調査を行う調査です。労働基準法などの労働関連法令に違反していないかどうかを全般的に調査します。原則として、労働基準監督官は予告なしで現れますが、中には事前に調査日程を連絡し、事業場と調整してから実施することもあります。
2.申告監督 労働者から告訴や告発があった場合に行われる調査です。企業に労働基準関係法令違反がある場合、労働基準法では、労働者が労働基準監督官に行政指導を求めることができると定められています。
申告監督には、定期監督のように労働者の申告であることを明かさずに調査するケースと、労働者からの申告であることを明かし、事業主に呼び出し状を出して調査するケースがあります。主に、従業員や退職者による残業代未払いや違法解雇等についての告発がされた場合、その内容を確認するだけでなく、法令全般を遵守しているかどうか調査されます。
3.災害時監督 一定規模以上の事故など大規模な労働災害が発生した際、原因究明や再発防止のために実施する調査です。
4.再監督 1~3の調査が実施された事業場に対し、指摘事項がきちんと是正されているか確認するための再検査です。過去に指導を受けた事業場が決められた期日までに是正報告書を提出していない場合や、是正報告書の内容に問題があった場合などに実施されます。
立ち入り調査で提出を求められる書類
労働基準監督署による立ち入り調査があった場合、さまざまな会社関係の書類を提出するよう求められます。中には、調査日や揃えておくべき書類についてあらかじめ通知されることもありますが、多くの場合、労働基準監督官は予告なしでやってきます。いざというときに慌てないためにも、日ごろから重要書類はきちんと揃えておきましょう。
また、労働基準法は事業場ごとに適用されるので、労働基準監督官は本社だけに現れるとは限りません。営業所や工場などへの捜査が求められたとしてもすぐに対応できるよう、書類などを明らかにしておくべきです。
・会社組織図 ・労働者名簿 ・就業規則 ・雇用契約書(労働条件通知書) ・賃金台帳(給与明細書) ・タイムカード(出勤簿) ・時間外・休日労働に関する協定届 ・変形労働時間制など、当該企業で必要となる労使協定 ・変形労働時間のシフト表 ・有給休暇の取得状況の管理簿(有給休暇届) ・健康診断個人票 ・総括安全衛生管理者の選任状況がわかる資料 ・安全委員会・衛生委員会の設置・運営状況がわかる資料 ・産業医の選任状況がわかる資料
労働基準監督署の調査、一連の流れ
では、実際にはどんな調査がなされるのか。調査の一連の流れを見ていきましょう。
1) 予告 事前に予告してしまうと、日ごろの勤務状態をありのまま確認することが出来なくなるため、原則として事前通知なしで調査は実施されます。中には、電話やFAXであらかじめ調査予定日を告げてから訪問する場合や、準備しておく帳簿や書類などの事前連絡がある場合もあります。 また、現地調査を行うほどでもない内容の場合、来署依頼を出して帳簿などと一緒に事業主を労働基準監督署まで出頭させることもあります。
2) 調査 労働基準監督官は基本的に2名で訪れてきます。事業内容、違反の可能性などによって内容は異なりますが、主な調査は以下の通りです。
・労働関係帳簿の確認 ・事業主または責任者に帳簿類勤や勤務実態の確認、不明点などをヒアリングする ・事業場内の立ち入り調査をし、労働者にも勤務実態などをヒアリングする ・機器・設備を確認する ・改善指導や指示を口頭で行う ・是正勧告書や指導票、使用停止等命令書を交付する
3) 是正勧告書または指導票、使用停止等命令書の交付 立ち入り調査の結果、事業場内で法令違反や改善点が見つかった場合、企業は労働基準監督官から是正勧告や指導を受けなければなりません。法令違反の場合は、違反事項と是正期日を記した是正勧告書を交付されます。もし、法令違反ではないものの、改善の必要があると判断された場合は、指導票が交付されます。また、これら是正勧告書と指導票の両方が交付されることもあります。
施設や設備に不備や不具合があり、労働者に緊迫した危険が迫っているような場合は、機器・設備の使用停止等命令書が交付されることもあります。危険性が高い場合は、その場で機器・設備の使用停止を命じる行政処分が下されることもあります。
是正勧告書や指導票は、調査当日にその場で交付されるだけでなく、後日指定された日時に労働基準監督署に出頭して交付されることもあります。多くの場合は後日交付となるようです。 後日、是正勧告書や指導票の交付を受ける際には、実務担当者ではなく事業主や責任者が出頭しなければなりません。労働基準監督署において、受領日、受領者の職位、氏名などを署名し、捺印して書面を受領します。
4) 是正(改善)報告書の提出 是正勧告や指導票を交付された場合、決められた期日までに指摘された違反内容を改善しなければなりません。是正・改善が済んだら、是正(改善)報告書を提出します。報告書には決められた書式はなく、違反内容と是正した内容、是正完了日などを記載し、会社名、住所、代表者名を記入の上、押印して提出します。
実際の立ち入り調査内容はどんなもの?
労働基準監督署の調査のうち、定期監督については、どのような基準で調査対象の企業を選定するかを、厚生労働省のサイトで「地方労働行政運営方針」として毎年公開しており、ある程度の傾向を知ることができます。実際の調査内容は以下のようなものです。 (出典:厚生労働省『「平成29年度地方労働行政運営方針」の策定について』)
1) 労働条件 近年増えているのが、違法残業や未払い賃金に関する従業員からの告発を受けての申告監督です。従業員を雇用する際に、きちんと労働条件を記した通知書を交付しているか、内容は適切なものであるかを調査します。
また、就業規則が適法であり、勤務実態に即した内容で作成されているか、労働基準監督署にきちんと届け出されているか、また規則がパートやアルバイトにもきちんと適用され、従業員に対して周知されているかなども調査されます。
2) 労働時間 タイムカードや出勤簿などの記録を調査し、時間外労働・休日労働をしている場合はきちんと把握しているか、36協定の届出が適切に行われているかなどを調査します。残業時間の端数まですべて確認されますので注意が必要です。
3) 賃金 法で定められた必要記載事項がすべて、賃金台帳にきちんと記載されているかどうかを確認します。残業代が適切に支払われているか、残業代の計算方法は法に則っているか、また最低賃金が守られているかなどをチェックします。
4) 年次有給休暇 従業員の年次有給休暇の取得状況をチェックします。年次有給休暇管理台帳や有給休暇の申請届は適切に保存しましょう。
5) 安全衛生管理 安全管理者等の選任状況、産業医の選任状況、安全衛生委員会等の設置状況を調査します。施設や設備に不備や不具合があり、従業員に危険が迫っているような場合は、その場で行政処分が下されることもあります。
6) 健康管理 従業員の健康管理に関するデータも調査対象です。定期健康診断個人票や健康診断結果報告書、産業医による面接指導の結果などの提出が求められます。
労働基準監督署の調査は拒否できるの?
労働基準監督官が予告せずにやってきた場合、原則として調査を拒否することはできません。ただ、担当者や責任者が不在などの理由で急に対応が出来ない場合、やむを得ない事情がある場合などは、丁寧に応対をし、依頼すれば日程を変えてもらえる可能性があります。
監督官の臨検を拒む、妨害する、尋問に答えない、虚偽の陳述をする、求められた帳簿などの書類を提出しない、虚偽の書類を提出するなどの行為をした場合は、労働基準法第120条違反として、30万円以下の罰金に処されることになっています。
また、調査の結果、是正勧告を受けたとしても、是正勧告はあくまで行政指導なので、企業に対する強制力はありません。そのため、従わなかったからといって事業主や社員が罪に問われることはありません。
ただ、労働基準監督官は司法警察としての権限も持ち合わせています。悪質なケースに対しては、送検手続きをとることも可能です。また、是正報告書を提出していない場合や、是正報告書の内容に問題があった場合などは、労働基準監督官による再監督が実施されます。
決められた期日までに是正(改善)報告書を提出できない事情がある場合は、労働基準監督官に相談しましょう。やむを得ない事情があると認められれば、期日が延長される可能性もあります。必ず、労働基準監督官に相談の上で了解をとることが大切です。
日ごろからの労務管理で調査を防ぐ
定期調査は、労働基準監督署によって調査対象が選定されるため、調査を防ぐことはできません。しかし、従業員からの申し立てによる申告調査は、日ごろから労務管理をきちんとしていれば防ぐことは可能です。
調査に入られても慌てることのないよう、付け焼き刃の調査対策ではなく、労働環境の適切な整備が大切と言えるでしょう。