最低賃金制度とは何か だれがどう決めて、どのように見直されるのか?
最低賃金とは、政府が賃金の最低額を定める制度のことです。そのため、雇用者は従業員に対して、最低賃金を上回る額の給与を支払わなくてはなりません。
今回は、そんな最低賃金の基本について詳しく見ていきましょう。
最低賃金は、最低賃金法で定められている
最低賃金は、最低賃金法によって下記の通り定められています。
第4条第1項: 使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
第4条第2項: 最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。
(出典:電子政府の総合窓口イーガブ「最低賃金法:第二章 最低賃金第四条」 )
最低賃金の対象となる賃金は?
毎月支払われる基本的な賃金が、最低賃金の対象となります。最低賃金の対象にならないものは以下のような手当です。
(1)結婚手当など、臨時に支払われる賃金 (2)賞与など、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金 (3)残業代など、所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金 (4)休日出勤手当など、所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金 (5)深夜手当など、午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分 (6)皆勤手当、通勤手当、家族手当など
最低賃金を計算する際は、賃金から臨時的な手当を引いたものを対象とします。最低賃金は、正社員、非正規社員(パート・アルバイト含む)の区別なく適用されます。もし、最低賃金額より低い賃金額を労働者、使用者双方の合意の上で定めていたとしても、それは上記の法律によって無効とされます。
その場合、最低賃金額と同額の定めをしたものとされるため、雇用者は労働者に対し、最低賃金額との差額を支払わなくてはいけません。ただし、最低賃金は毎年審議されるため、その都度変更される可能性があります。
最低賃金には2種類ある
最低賃金には、「地域別最低賃金額」と「特定(産業別)最低賃金額」の2種類が存在します。地域別最低賃金額は、各都道府県ごとに定められており、すべての業種で働くすべての労働者に適用されます。
参考:「平成29年度地域別最低賃金改定状況」(厚生労働省)
一方、特定(産業別)最低賃金額は、ある地域内の特定の産業を対象に定められている最低賃金額です。関係する労使が、地域別最低賃金よりも金額の高い最低賃金を定めることが必要だと認めた産業に対して設定されています。
ただ、適用される産業は都道府県によって異なります。たとえば、北海道なら乳製品製造業、愛知県なら自動車(新車)販売業、大阪府なら鉄鋼業など。タクシー事業者にも特定(産業別)最低賃金額が適用されます。2017年4月時点では、全国233の特定特定(産業別)最低賃金額が定められています。また、地域別最低賃金額と特定(産業別)最低賃金額の高い方が適用されます。
(出典:厚生労働省「特定最低賃金の全国一覧」)
最低賃金の計算方法
最低賃金は、時間額で定められています。日給制や月給制の場合は以下のように計算します。
1.時間給の場合 ・・・ 時間給≧最低賃金額(時間額) 2.日給の場合 ・・・ 日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額) 3.月給の場合 ・・・ 月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
たとえば、「3.」の月給制の場合、東京都で所定労働時間8時間/日、基本給130,000円、職務手当10,000円、職能手当10,000円、精皆勤手当10,000円で働いているとします。
最低賃金の対象となるのは、精皆勤手当を除く150,000円です。1カ月の所定労働時間は8時間×20日で160時間のため、1時間あたりの時給は937円。東京都の最低賃金額932円(2017年8月時点)を上回っていることになります。
最低賃金を払わない場合はどんな処罰が下る?
最低賃金法に違反し、雇用者の支払う給与額が最低賃金を下回った場合、罰金刑に処せられます。地域別最低賃金額以上の賃金を支払わない場合には50万円以下の罰金、特定(産業別)最低賃金額以上の賃金を支払わない場合には、30万円以上の罰金となります。
派遣労働者の最低賃金はどうなる?
派遣労働者の最低賃金には、少し注意が必要です。なぜなら、もし埼玉県(最低賃金額845円)の派遣会社に所属している派遣労働者が東京都の事業場で働く場合には、東京都の最低賃金(同932円)が適用されるからです。
また、派遣先の業種が事業場のある都道府県で特定(産業別)最低賃金の適用対象となっている場合も、その最低賃金額が適用されます。
最低賃金額、25円引き上げへ
2017年8月17日、厚生労働省はすべての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されたと明らかにしました。(出典:厚生労働省「すべての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました 」)
全国平均額は、昨年度から25円引上げの848円。25円の引き上げは昨年度の実績と同じ値上げ幅で、2年連続の大幅な引き上げとなります。安倍政権は「時給1,000円」の目標を実現に向け、最低賃金の引き上げ率を「毎年3%程度」としています。そのため、2年連続で目標が達成されたことになります。
最高額は東京都の958円、次いで神奈川県が956円、大阪府が909円と、いずれも26円の引き上げとなります。大阪は、東京、神奈川に次いで初めて900円を突破しました。一方、最低額は高知、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄の8県での737円となっています。これらの改定額は、9月30日から10月中旬までに、各都道府県の労働局長の決定を受けて、順次発効される見通しです。
最低賃金の引き上げによる、最低賃金額で働く非正規労働者の待遇が改善される一方で、地域間格差の拡大や中小企業への負担増が懸念されています。たとえば、徳島県と兵庫県のように、橋を一本わたるだけでも最低賃金の時給額が約100円異なり、月給にすれば2~3万円もの差が生まれることになります。そのため、多少通勤時間が増えてでも賃金の高いエリアに働きに出る人が増え、地方では労働力不足に陥る可能性があります。
最低賃金は上昇傾向、対応が必要
少子高齢化で働き手が減少する中、都心部のサービス業などでは時給の上昇が続いています。時給が増え、労働者の可処分所得が増えれば、個人消費を刺激し景気回復につながります。ただ、経営基盤がぜい弱な企業にとっては、業績の重しにつながりかねません。
人手不足に加えて政府の後押しもあり、今後も最低賃金は上昇するとみられます。企業には、生産性を高めて人件費増に対応するなどの工夫が求められています。