従業員が休職するとき、社会保険と労働保険の資格はどういう扱いになるのか?保険料の支払いは?
多くの企業では、従業員が私傷病で業務につけなくなった際の休職規定を就業規則で設けているでしょう。
私傷病(ししょうびょう)による休職は、あくまで労働者側の事情なので、「労働していない時間は給与もない」というノーワークノーペイの原則に基づいて、無給となる企業も多くあります。
しかし、従業員は休職期間中、業務を離れているとはいえその地位は保持しています。その場合、社会保険の取り扱いはどうすべきか迷っている人事担当者も多いでしょう。今回は、そうしたケースを見ていきます。
休職期間も社会保険料の負担は必要
休職は、育休や産休のように、法律で定められている制度ではありません。休職期間や給与の取り扱いなど、あくまで、企業ごとの就業規則に沿った運用が求められます。
ただし、休職期間中、会社から支払われる給与がなかったとしても、厚生年金や健康保険といった社会保険料の負担額は会社負担・本人負担ともに、就業中と変わりません。ここが、社会保険料が免除される育休と異なる点です。
通常、社会保険料は給与からの天引きという企業がほとんどでしょうが、給与がないとなると天引きもできなくなります。しかし、無給の上に病気で治療費などもかかる従業員に、さらに社会保険料を請求するのは心情的にも難しいというケースもあるでしょう。
会社が立て替えて支払った場合、休職期間が終わっても病状回復のめどが立たず退職となったら、立て替えた社会保険料の徴収が難しくなることも考えられます。まずは休職を認める前に、従業員と社会保険料の徴収方法について話し合う必要があります。
なかには、従業員から保険料の支払いを拒まれるケースもあるので、支払方法についても就業規則に明記しておくとよいでしょう。
3割の企業が休職中は「無給」
労働政策研究・研修機構の調査によると、病気休職の休職期間の上限については、「6か月~1年未満」としている企業が22.0%に上っています。従業員が業務に就けない一方で、この期間中の社会保険料を企業側が立て替えるとなれば、中小企業などは特に大きな負担になるのではないでしょうか。
また、病気休職中の賃金については、「全額あり」が全体の7.2%のみとなっています。一方、健康保険上の「傷病手当金」に加え各種健康保険組合における独自の傷病手当付加金を含めた企業負担がある「一部あり(傷病手当金+傷病手当付加金)」は19.4%、「一部あり(傷病手当金のみ)」が29.2%、「なし」が33.5%となっており、休職中は無給という企業が3割を超えています。(参照:労働政策研究・研修機構「労働条件の設定・変更と人事処遇に関する実態調査(平成17年)」 )
なぜ休職中も社会保険料は下がらないのか
休職期間中に給与がゼロになっても、だからといって社会保険料が安くなるわけではありません。
社会保険料は、給料の額をもとに算出した標準報酬月額をベースに算出されますが、標準報酬月額を引き下げるには条件があり、休職はこの条件にあたらないためです。ただ、毎月の給与支払額に応じて、保険料がかかる雇用保険や所得税はかからなくなります。
会社からの給与がなしになった場合でも、社会保険には「傷病手当金」という制度があります。これは、私傷病による休暇を取らざる得ない労働者やその家族の生活を守るための制度です。傷病手当金の支給額は、給与の約3分の2、支給期間は最長1年6ヶ月となります。
傷病手当金を会社が受領し、保険料を控除することもできる
従業員に支払われる傷病手当金を企業側がいったん受領し、社会保険料などを差し引いた上で従業員に支給することも可能です。その場合は、「傷病手当金支給申請書」の受取代理人欄に傷病手当金を従業員の口座ではなく、会社の口座へ振り込む旨を記載します。
この手続きを経ることで、会社の口座に傷病手当金が振り込まれますので、振り込まれた支給額から社会保険料を控除した上で、従業員に支給することになります。従業員には、健康保険から手当金がいくら支給され、いくら保険料を控除したかを記した明細を作成し、振り込みとともに通知しましょう。
なお、保険料の負担割合は法律で決められています。いくら休職中の従業員が就業できないとはいえ、会社が負担すべき社会保険料を従業員に請求することはできません。たとえ、労働者とのあいだでそうした合意がなされても、労働者側が不利になる契約は無効とみなされます。
休職でも社会保険の受給資格は喪失しない
休職期間が長期にわたる場合でも、基本的に社会保険の受給資格は喪失しません。休職期間の終了に伴う退職や解雇、雇用形態の変更などがあった場合のみ、受給資格を喪失します。ただ、なかには、休職期間が長期にわたり、かつ復職のめどがたたない場合、無給での休暇であれば受給資格喪失が妥当という通達も下されています。
この場合の「長期」は数カ月単位ではそれにあたらず、また専門医の判断により復帰のめどがついている場合も認められません。社会保険の受給資格を喪失すれば、国保や国民年金に切り替える必要が出てくるので、従業員とよく話し合う必要があります。