退職後でも受け取れる!健康保険の給付金の種類や条件、申請方法
健康保険の保険給付は、原則として被保険者に対して行われますが、退職などにより被保険者でなくなった(資格喪失)後でも、一定の条件のもとに保険給付が行われます。
病気や出産で仕事を辞めて収入がなくなった場合や、家族が亡くなった場合の埋葬を支援してくれる制度です。今回は、退職後でも受け取れる給付と、その条件を見ていきましょう。
傷病手当金
傷病手当金は、労災以外の私傷病(病気やけが)によって、休暇を取らざるを得ない労働者やその家族の生活を守るための給付金です。
退職後に傷病手当金を受け取るための条件
- 業務外の理由による病気やけがによる休業
(業務上の傷病・通勤災害については、労災になります。また、病気と見なされないもの(美容整形など)は支給対象外になります。) - 健康保険に1年以上加入していた
- 業務に就くことができない
- 休職中に給与を受け取っていない
- 退職前に傷病手当金の給付を受けている
給付額
1日あたりの支給額の計算方法(平成28年度以降)
12ヶ月間の標準報酬月額の平均額÷30日×2/3
例えば、月給28万円の人なら、28万円÷30×2/3=約6,222円と計算できます。
この月給には、通勤手当や残業手当といった各種手当も含まれます。
給付期間
傷病手当金の支給期間は1年6ヵ月です。この間に完治して復職し、再び症状が悪化して休職したとしても、同じ病気やけがによる休職ならば、引き続き傷病手当金の支給が認められます。
申請方法
退職前に給付を受けている必要があるので、退職する前に勤務先を通じて健康保険組合などに提出します。
注意すべき点
傷病手当金を受け取っている場合、雇用保険の失業給付は受け取れません。失業給付は「働きたい意思はあるが働けない人」向けのものなので、傷病で働けない人が傷病手当金を受け取りながら失業給付を受けるのは矛盾するからです。
(出典:全国健康保険協会『病気やケガで会社を休んだとき』)
出産育児一時金
健康保険に加入している被保険者が出産したときは、出産費用の補助を目的として「出産育児一時金」が支給されます。
退職後に出産育児一時金を受け取るための条件
- 健康保険に1年以上加入していた
- 退職後6カ月以内に出産した
給付額
一時金の支給額は1児あたり42万円です。もし双子や三つ子を出産したら、子どもの人数だけ分支給されます。なお、正常な分娩がされなかったとしても、妊娠85日(4ヵ月)以後の早産、死産(流産)、人工妊娠中絶は出産と見なされて、一時金が支給されます。
給付期間
原則として、直接医療機関に支払われます。
申請方法
出産した医療機関を通じ、加入している健康保険組合に申請します。出産費用が一時金よりも超過した場合は差額を支払い、下回った場合は医療機関で手続きをした後に、後日差額の還付を申請します。過不足分がない場合は、保険者自身が手続きすることはありません。
注意点
配偶者が保険に加入している被扶養者が出産したときは「家族出産育児一時金」が支給されます。ただし、女性の被保険者が退職して被扶養者になった場合には、「出産育児一時金」か「家族出産育児一時金」のどちらかのみの支給になります。
(出典:全国健康保険協会『子どもが生まれたとき』)
出産手当金
上の出産育児一時金と混同されやすいのが出産手当金です。こちらは、女性が出産のために仕事を休み、その間に給与の支払いを受けなかった場合に穴埋めし、経済面で支援するための制度です。
退職後に出産手当金を受け取るための条件
- 健康保険に1年以上加入していた
- 退職日が手当金の支給期間に入っている
- 引き継ぎや手続きを含め、退職日に出勤していない
給付額
支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額÷30日×(2/3)
※職場の規定で給与が一部でも支払われる場合は、給与との差額になります。
給付期間
出産42日前(多胎の場合は98日)から56日目までの範囲内で、仕事を休んだ日が対象になります。出産が予定日を過ぎた場合でも、超過分を含めてカウントされます。退職後に手当金を受け取るなら、この給付対象期間内に退職しなければなりません。
申請方法
- 出産予定日や退職日が決まったら、勤務先に手当金の受給資格があるかを確認する
- 産休・退職前に勤務先で申請書(健康保険出産手当金支給申請書)を受け取る
- 入院するときに、申請書を持参し医師に記入してもらう
- 出産後、申請書を提出する
- 2週間~2ヶ月後をめどに出産手当金が振り込まれる
退職時に申請書が受け取れなかった場合は、最寄りの社会保険事務所でも受け取れます。勤務先や医師の記入欄もあるので、退職や出産を控えて忙しい時期ですが、段取りを確認しておきましょう。
注意点
申請を忘れていた場合も、過去2年間にさかのぼって全額の申請が可能です。忘れてしまった、知らなかったという場合もあきらめずに申請しましょう。
(出典:全国健康保険協会『出産で会社を休んだとき』)
埋葬料・埋葬費
被保険者であった労働者が亡くなった場合に、埋葬料もしくは埋葬費が支給されます。
退職後に埋葬料(埋葬費)を受け取るための条件
- 資格喪失後3ヵ月以内に亡くなったとき
- 資格喪失後の傷病手当金もしくは出産手当金の継続給付を受けている間に亡くなった場合
- 資格喪失後の傷病手当金もしくは出産手当金の継続給付の終了後3カ月以内に亡くなったとき
給付額
5万円
※埋葬料を受け取る人がいない場合は、実際に埋葬を行った人に、埋葬料(5万円)の範囲内で実際に埋葬に要した費用(霊柩車代、霊柩運搬代、お供物代、火葬料、僧侶への謝礼・お布施など)が「埋葬費」として支給されます。
給付期間
一時金方式で支給されます。
申請方法
市区町村長の埋火葬許可証、死亡診断書、死体検案書、検視調書のいずれかのコピーを添えて、申請書とともに健康保険組合に提出します。
退職時に被扶養者であった方以外が申請する場合は、生計維持を確認できる書類(住民票等)、「埋葬費」として申請する場合は、各費用を証明する領収書が必要です。
注意点
労災による死亡の場合は、労災保険からの給付があるので、埋葬料(埋葬費)の申請はできません。
(出典:全国健康保険協会『ご本人・ご家族が亡くなったとき』)
もしものために健康保険に関する「情報の備え」を
このように条件さえ満たせば、退職後であっても受け取りが可能な「健康保険」は複数あります。たとえ退職後に収入が不安定になっても大きな支えになってくれるかもしれません。ぜひこれらの情報を備えておくことをおすすめします。