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2019年04月10日(水)

freee×宝印刷共催 IPO準備セミナー ~実務経験者と共に語るIPO準備のリアル開催レポート~

経営ハッカー編集部
freee×宝印刷共催 IPO準備セミナー ~実務経験者と共に語るIPO準備のリアル開催レポート~

近年IPO市場は活発な動きを見せており、昨年は90件を超える企業がIPOを実現しました。(5年前対比で17%増)IPOへの関心が今後ますます高まることが予想される一方で、内部統制の構築や管理部門体制の整備など、IPO準備実務に頭を悩ませていらっしゃる企業様が多いのも現状です。

2019年3月7日に行われた本セミナーでは、昨年IPOを実現されたポート株式会社取締役 加藤広晃様をゲストにお招きし、管理部門体制の構築やバックオフィステクノロジーの活用など、IPO準備のリアルを皆様へお伝えしました。定員70名を大幅に超え抽選とさせていただいたため、お聴きになれなかった方も含めて当日の内容をご紹介いたします。

開会のご挨拶freee株式会社SMB事業部部長 渡邊俊

渡邊:本日はご多忙の中お越しいただきありがとうございます。本セミナーは宝印刷様との共催であり、またIPOを2度実現されているポート株式会社の加藤様をお招きしております。

freeeのエンタープライズプランはちょうど2年前にリリースしました。リリース当初は、本当にクラウドで大丈夫か、監査法人がなかなか推奨してくれない等様々な厳しいフィードバックを受けながら成長してきたプロダクトです。2年経ち、ラクスル様をはじめとする様々な会社がfreeeを用いて上場することによって、徐々にマーケットの認知が変わりつつあります。昨年一億円以上資金調達をした企業のうち、トップ100社をリストアップした中で41社が実はfreeeを導入しているのが現状です。

よって我々としてもIPO支援を強化できつつあると実感しております。皆様におかれましては本日有意義な時間をお過ごしいただけることを願っております。どうぞよろしくお願いいたします。

IPOマーケットの現状と今後の留意点 株式会社タスク(宝印刷グループ)専務執行役員トータルソリューション事業部事業部長河野真宏さん

司会:それではまずはじめにIPOマーケットの現状と今後の留意点について、河野さんよりお話いただきます。河野さんよろしくお願いいたします。

河野さん:皆様、こんにちは。株式会社タスクの河野と申します。本日はよろしくお願いいたします。私のパートは大きく4つで構成しております。初めに弊社の事業内容の紹介、2つ目に2018年のIPOトレンド、3つ目に審査の動向、最後に上場する際どのようにすれば効率的に進めることができるかについてお話ししたいと考えております。

株式会社タスクの事業内容

私は株式会社タスクには2006年から参加しており、今年で13年目となります。大型IPO案件や特設注意市場銘柄解除コンサルティングプロジェクトリーダーをしております。また、IPO実務セミナーの講師も務めております。弊社は株主の招集通知および開示資料印刷等上場会社の開示全般の業務を行う宝印刷株式会社を親会社とし、審査の手続きや書類作成等、そこまでに至るプロセスを親会社と一緒に支援している会社でございます。

また、弊社は今年で24年目になりまして、今までに500社以上をご支援してきました。また、弊社のコンサルティングスタイルは、アドバイザリー業務はもとより、実際に手を動かしながらコンサルティングを実施しています。企業の「人手が足りない」「提出までに時間がない」「ノウハウを残したい」等の諸問題に対応します。さらに、豊富な支援実績から、主幹事証券会社、取引所の審査の動向を把握しており、このノウハウが申請書類の作成や上場準備のアドバイスに大きく寄与しております。

最近のIPOのトレンド

それでは、本題の方に入らせて頂きます。まず、去年2018年のIPOトレンドについてお話ししていきたいと思います。2018年のIPOは、90社でありました。そのうち63社がマザーズに上場しています。マザーズへのこのIPOの社数は過去最高ということです。今後はマザーズ市場、新興市場への上場もともに増えていくと考えられます。業種別にみると、例年通りサービス系とIT系が全体の6割を占めており、今後もこの傾向が続いていくと考えられるでしょう。

新規上場会社の主な顔ぶれとしては、ユニコーンと言われている非常に時価総額の高いメルカリやMTGが挙げられます。そして、RPAホールディングスのように働き方改革を行なっている企業の業務支援を行なっている会社もトレンドになっています。また、Kudanやテクノスデータサイエンス・エンジニアリングといったAI、ビックデータ解析関係も挙げられます。最後にソフトバンクやキュービーネットホールディングスというようなファンドのイグジット案件、さらに子会社上場も今後ますます増えていくでしょう。

今年の展望ということで、2019年の新規上場社数は、前年同様堅調に推移するものと言われています。もしかすると、100社超えるかもしれません。また経営者のIPO志向も依然として旺盛だと思われます。それ以外のトピックとしましては、政府がユニコーン企業の育成・拡大を進めていることが挙げられ、大学発ベンチャーの会社様も上場が増えると予測されます。地方企業のIPO準備も今年来年あたりから増えていくと予想されます。実は私も東京以外の名古屋や北海道、新潟のような地域にある会社様のIPO準備をお手伝いしています。

現在600社を超える企業が直前期、直前々期のステージにいると言われています。そのうち上場する会社は毎年90~100社前後ですから、IPOは非常に狭き門だということがわかります。

月で言うと、12月、3月のような上場集中月は、上場審査部のリソースの関係もあり、実質的に社数制限していると言われています。また最近、各種業法、労働基準法、景品表示法、下請法等の法令遵守に関連した審査質問は、増えているように感じます。社会的な注目も高く、IPO準備においては、こういった法令遵守ができる体制の整備と関連諸法令の遵守には十分注意頂きたいですね。

審査の動向は?

続きまして、審査の動向についてお話ししたいと思います。先にお話した通り、社会的に関心の高い事項については、上場審査時にも特に慎重に審査される傾向にあるようです。エナリス、gumi、エフオーアイがその一例です。中期経営計画・年度予算の蓋然性や労働基準法をはじめとしたコンプライアンス関係や経営者が関与する取引などの項目が最近のトピックといえます。全体的に見ると上場審査は厳格化の傾向にあると思います。

その他としては、上場承認を取り消している会社が出ている点が挙げられます。理由としては内部管理体制や株価です。

実務的な話では、Ⅱの部やマザーズ各種説明資料などの申請書類の記載要領の改定があります。過去と比べても大きな改定で、記載ボリュームが増えています。現在作成中の企業様は、フォーマットが古くなっている可能性もあるため、気をつけてもらいたいです。また、市場再編論も出ており、今後IPO準備にも影響が出てくるかもしれません。

上場準備の具体的な進め方

ここから、実際の上場準備の進め方の話になります。上場準備のスケジュールは、一般的に直前前々期(N-3期)、直前前期(N-2期)、直前期(N-1期)、申請期(N期)に分かれます。実際、上場の準備をしている会社様は非常に多いので、証券会社や監査法人もリソース不足の状態となっております。当然、人手が足りない状態となりますと、どうしても案件に優先順位がついてきます。

最近は、Ⅱの部やマザーズ各種説明資料などの申請書類の作成期限が早まっている傾向にあります。申請書類は引受審査開始の約1ヶ月前程度に出来上がっていれば大丈夫という感じでしたが、現在はそれよりも数か月前にドラフトの提出を求められる事が増えてきました。

理由としては、先ほどお話ししたリソースの話とも関連しますが、早めに申請書類を提出させることで、引受担当者が効率的に会社の課題を確認できる事が挙げられます。規程の整備や内部監査の運用などの内部管理体制や、事業内容、業界分析、中計などのコーポレートストーリーの整理が出来ていないと原稿が書けないわけですから、必然的にこれらの内容は直前前期末までには整備されていないといけないと思います。

その中で特にポイントになるのが、組織体制の整備、社内規程等の整備、そして業務フローの整備の3つです。

組織体制の整備

まず、組織体制の整備とは、組織、職務権限、業務分掌を決定することです。何故これらを先にやっておく必要があるかと言いますと、人材の採用に直接関係するからです。つまり、既存の組織と上場を見据えた組織を見比べた時、必ず経理担当者が足りない、内部監査の経験者が足りない等、人の補充に組織体制が関係してくるということです。先にあるべき組織体制を作らないと何が足りないか見えてこないのです。

組織の決め方は、まず経営組織の部門と階層を決めることが先決です。これが決まらないと、権限の方も決まらないのです。

組織の箱ができた後、その組織にどんな役割を担わせるかという業務分掌を作成していきます。

次に、誰にいくらまで決裁させるか、権限の委譲も含めて職務権限の決定を行います。

これら、組織、業務分掌、職務権限は組織的な経営の幹にあたる要素だと思います。

そして、手続きをどういう風にすれば良いのか、幹が決まりましたら、個別規程を作成し業務フローの整備に入るという流れとなります。上場準備の中で大事な点は、経営組織、社内のルールづくりをやって、これをPlan, Do, Check, Action(PDCA)で回して見直しもするということです。

社内規程等の整備

社内規程は会社における憲法の位置付けです。取締役会や監査役会の運営等をはじめとした経営基本規程、組織、権限、分掌、稟議、会議体のあり方を定めた組織関連規程、文書管理、印章管理などの手続を定めた総務関連規程、販売、購買、棚卸資産管理に代表される業務関連規程、経理・決算、財務、原価管理等を定めた経理関連規程、就業や賃金などを定めた人事・労務関連規程、コンプライアンスや内部通報制度などを定めたコンプライアンス関連規程などがあります。全体で50~70程度の規程を定める必要があります。個々の規程を制定するうえで重要なポイントは、雛形をそのまま部署名だけ変えて使うのではなく、実態に即したルールをつくることです。

業務フローの整備

最後に業務フローですが、特に販売や購買といった企業活動に大きくかかわる業務フローについては、上長の承認やダブルチェックなどの統制が適切に組み込まれ、運用されているかの現状把握のためにも早期に着手すべきと考えています。

また業務フローに関してですが、紙の文化はもう古いです。どこの会社もワークフローやシステムを使って管理しています。紙とワークフローを比較しますと、紙は決裁にいたるまで、非常に手間がかかってしまいます。さらに資料を紙で打ち出し、添付しなくてはいけないなど煩雑です。承認漏れや、承認者が不在の場合、意思決定が遅れるといったことが起きてしまいます。ワークフローを導入すれば、こういった課題は解決できると考えます。エビデンスをデータの形で保管することが可能となり、証券会社や監査会社から提出を求められた時すぐに提出することができるからです。このようにシステムを使った効率化は早めに取り組んだ方が良いと考えます。

2度のIPOを実現した実務経験者が語るIPO準備のリアル ~ポート株式会社 取締役 公認会計士 加藤 広晃 さん

司会:次に実際のIPOの準備において、どのようなことが必要となるのか実体験に基づいたお話を加藤さんよりお話いただきます。加藤さんよろしくお願いいたします。


加藤さん:私は、メタップスの上場責任者を経験し、上場を経て独立したタイミングで2017年にポート株式会社に入社しました。ポートという会社は、立ち上げて8期目が申請期でありました。つまり、7期目がN-1期(直前期)で6期目がN-2期となります。入った当時の業績は4期連続赤字でした。

会計上は赤字でありましたが広告宣伝費の投資によるものであったため、証券会社に広告宣伝費を除いた営業利益を見せたところ、事業自体では利益が出ていると理解してもらえました。しかし、銀行や監査法人には、本当に黒字になるのか訴求しづらい状況にありました。

さて、会社自体は、インターネットメディア事業をやっています。元々は新卒の採用コンサルティングの事業を営んでいましたが、キャリアパーク!やマネットに代表される、インターネットメディア事業を展開し始め、4期目から現在の社名ポートとなりました。

ポートはIPOを1社実現した私にとっても難易度が高く感じました。なぜなら社員が150名とメタップス入社時と比較して5倍も大きな規模だったからです。また、メタップスのときは、上場準備2期間前に入社しましたが、ポートでは1期間前の入社と時間的に半分の状況でした。

最後まで気を抜けないのは事業計画です。この計画だから、このようなバリエーションで、将来これぐらい伸びる、だから投資家がお金を出す価値があるということを証明する過程が重要なのですが、現実には事業計画の作成と、予実の精度の高さを維持することは最後まで難しいものです。

システム面で言えば、当時の会計システムは、スタンドアローンでパソコン一つに全てのデータが入っているというものであり、一度に1人しか見ることができないし、パスワードを知っている人なら別の人が見ることができるレベルのセキュリティでした。そこで、システムを変えることに決定し、freeeを導入しました。

次にIPOコンサル導入についてお話しします。メタップスに在籍していたときは、IPOコンサルを使ったことがありませんでした。しかし、ポートでは、時間も限られており、IPOコンサルに手伝って頂きました。具体的には上場申請資料の作成、上場申請直前の忙しい時期に何でも手伝ってもらいました。

上場申請書類の作成は、ポートのメンバーにIPOに強い人材がいなかったので、社内メンバーの育成も含めIPO実務検定という試験を受けながらIPOするには何が必要かを社内で学んでもらいつつ、IPOコンサルにお手伝いをお願いしていました。

また、自分が入ったタイミングと同時に三菱UFJ信託(株主名簿管理人)さん、印刷会社さんとお会いして、印刷会社にマザーズ申請資料ってどのようなことを書けば良いのか、記載例を印刷会社さんから頂きました。

監査法人については、私たちは、運よく設立してすぐに監査法人さんと出会って、監査契約が結べたのですが、現在では会社設立してすぐに監査契約を結ぶことは困難だと思います。監査契約はN-2期の半年前には結べるよう準備しておくのが良いでしょう。
3年以上前から逆算して監査契約を結ぶことを考える必要があります。

IPO準備に関するパネルディスカッション

松場(モデレーター):先ほどIPO準備のご経験ある加藤様からポートさんはどうやっていたかをご説明いただきましたが、今回私がモデレーターをさせていただいて実際どういった形で行なっていたのかというリアルな現状について引き出していきたいと考えております。今回テーマを3つ設定したいと思います。当時営業担当でありました新村も共にモデレータとして参加させていただきます。

IPO向けの会計ソフトとしてのFreeeの使い勝手は?

新村:私はfreeeのIPO向けプランがリリースされた時、ポートの営業を担当させて頂きました。

さて、2年前freeeのIPOプランをリリースしたばかりのときに、ポートさんに使っていただいたということですが、当初はリスクもあったと思います。最初はサブ候補だったと伺っていますが、実際にfreeeを検討されたポイントは何だったのでしょうか?

加藤さん:検討時に比較ポイントになったのはコストと統制の2点ですね。一般的な会計システムを使って2人、3人以上でアクセスできるようにすると、サーバーを立ててクラウド化するためには、数百万円かかると言われています。そういったコストをどう見るか?また、内部統制として権限設定(部長の下に仕訳担当者)した時、アクセスログをとって勝手にデータが変わってないことを確認できるかどうか等確認してから、社内で議論が深まっていきました。

新村:私はfreeeに4年ほどいましたが、4年前というのは中小企業予算向けのクラウドって大丈夫なの、というところから徐々にみなさん変わってきたんだなと感じております。実際にfreeeを入れた後によかったなと感じることってありますか?

加藤さん:監査法人出身者からしますと、”会計が分かっている”ソフトだと感じます。当時、銀行の預金取引記帳はボタン1つで全ての仕訳が可能となるだろうと予想していましたが、freeeもその流れに当てはまった理想的なシステムでした。

新村:freeeはクラウド会計なので、多くの人から常にフィードバックを頂いており、常に進化しております。こちらを感じている部分はありますか?

加藤さん:世の中には業務工程や稟議だけに特化しているような業務フロー支援システムがあります。部署やセクションでシステムがバラバラな会社にとっては、freeeと他のシステムを融合しないとオペレーションが非効率になるため、ワークフロー含めfreeeで完結できると楽ですね。しかし、全体的には、freeeは各機能オプション請求が多くないため、追加費用負担がなくてもどんどん機能が良くなっているという点、評価しています。

新村:ワークフローについて改めてお聞きします。加藤さんは元々は監査法人にいらっしゃったと伺っておりました。現在は当時と大きく変わったと思いますが、監査法人から見た「freeeを使って会計すると実際どうなんだろう」という観点からご意見ありますでしょうか?

加藤さん:監査法人の時代から振り返ると、監査法人は決算が間違っているかどうか虚偽表示を監査しますが、freeeを使うと不正が起きづらくなると思いますね。正確性が担保されるという信頼感はあります。

新村:ありがとうございます。

IPO準備で大変だったポイントについて

松場:特に上場申請資料の作成についてや社内でこういう業務に時間がかかってしまったなどのお話を伺いたいのですが、再度詳しく聞かせてもらってもよろしいですか? 

加藤さん:上場申請資料は労務だったら過去の退職者数を把握する等、経理も労務も経営企画も予算管理も確認するタスクがたくさんあります。やっている事業がコンプライアンス的に大丈夫かどうか、仮想通貨に関する事業をやれば資金決済法上大丈夫か、人材紹介だったら職業安定法上大丈夫か等、多岐にわたってやることがあるので、社員を増やし売上を増やしながら上場申請資料を作成するというのは人手もナレッジも足りない、ということになりやすいと思います。

松場:どうやって乗り越えましたか?

加藤さん:先に申しましたようにIPOコンサルの方に手伝ってもらいましたね。ただIPOコンサルは全部やってくれるわけではないので、ある程度情報をインプットする必要があります。

松場:上場申請期のフェーズでIPOコンサルをお願いする企業が多いと感じますが、実際にはどれくらいでしょうか?

河野さん:統計は取ったことはないのですが、上場されている会社様の3割は弊社から何らかのご支援をしています。全体では7~8割の企業様はなんらかのIPOコンサルを使っているんじゃないでしょうか。

松場:直前前期や上場申請期等さまざまなタイミングでコンサルをされていると思いますが、どういったところで大変だと感じますか?

河野さん:先ほどの加藤さんのお話でもありますが、上場申請書類は審査の中心的な書類になります。その内容をわかりやすく、簡潔かつ明瞭にするところがポイントです。審査は秘匿性が高いので、そういった上場申請書類は外部で閲覧することができません。なので、何をどれくらい書いたら良いかがわからない、こういうことを書くと審査で質問される等さまざまな項目が存在します。経験がない方にとって、そういった点はとっつきにくいと思います。

IPOに向けた管理体制の構築について

松場:それでは、次のトピックに移らせていただきたいと思います。特にIPO準備に際し事前に管理体制の構築が1つの肝と加藤様からお伺いしたのですが、詳細を伺ってもよろしいでしょうか?

加藤さん:大きく3点あります。N-2期より前の会社であれば、いかに監査法人と付き合っていくかが大事です。監査法人に受けてもらうために公認会計士やコンサルに手伝ってもらうということもあります。監査法人は財務経理が中心で、労務系の法令違反がないかなど上場審査時に比べれば限定的な項目しか見れません。実際事業がうまくいっているかどうかは上場時は大事ですが、会社信用力に比べればあまり関係がありません。これが1点目です。これをやっておけば、IPO準備の最初、監査法人のショートレビューが始まります。

2点目は主幹事証券会社となります。主幹事証券会社がこの会社が上場できる可能性があるかどうか判断したり、社長の資質を総合的に確認したりします。監査法人とともに主幹事証券会社と早めにコンタクトを取る必要があります。

最後は、業績が下がっている時申請すると落ちる傾向があるということです。監査、主幹事、リソースと業績がピタリと合うかどうかの3点が大事です。

松場:河野さんなにかご意見ありますでしょうか。

河野さん:加藤さんと同様、監査法人、証券会社、そして業績ですね。実際業績は蓋を開けてみないとわからないことが多いです。実務的な観点で言うと、スケジュール管理がとても大事だと思います。上場が近づくにつれどんどん対応すべき仕事が増えていき、その期限はどんどん短くなります。特に上場申請期になりますと、明日回答くださいとか明後日までに直してください等そういう対応を求められることが増えてきます。

スケジュールが遅れたり上場準備がストップしますと、いつの間にか外部環境が変わってしまったりして、もう一度経営計画を練り直したり、仕切り直したりしなければならなくなります。また、人も辞めてしまうかもしれません。IPOは「行けるときに行かないといけない」ということだと思います。なので、しっかりスケジュールを守ることが大事になります。

IPO準備期におけるあるべき管理体制 ~freee株式会社 SMB事業部アカウントエグゼクティブ松場 勇人

引き続き松場の方から説明させていただきます。私ですが元々はスタートアップおよび上場企業様の営業を担当しておりました。そして、今現在22社のIPO準備企業様を担当させて頂いています。その中で学んだことを皆様とご共有できれば良いなと考えております。簡単に今回アジェンダとして5つご紹介させて頂きます。

Section1「freeeについて」

まず、最初にfreeeについて簡単にご説明できたら良いなと考えております。元々弊社は個人事業主向けに始まったものではありますが、現在は企業の創業期、拡大期、そして上場準備期と幅広いお客様に関してご導入いただいているようなプロダクトを提供しております。特に最近ではIPO準備企業への特別なサポートをする体勢も整ってきております。

Section2「上場準備期のあるべき管理体制」

IPO準備期において業務マニュアルを作成するにあたって、最も重要な点は業務記述書となります。監査法人からもらった業務マニュアルに定義されている業務フローがきちんと運用されているかどうかが一番求められています。

例えば、社長が案件とってきちゃった、これで契約回してよというのはあるべき業務プロセスとは言えません。当然ながら、IPO準備においてリスクになるような要素となります。あるべきフローとは、受注プロセスにおいて、当然ながら相手の与信チェックが通ったもののみ見積もり案を作成し、そして契約書を提出し、最終的にプロダクトが出荷されるようなものです。こういったフローであるべき担当の人があるべき承認プロセスを得て、統制が効いている状況で、これを個別の案件ごとにできている体制を作っていくような環境が大切になっていくと思います。

Section3「スタートアップの管理体制構築が難しい3つの要因」

よく皆様の論点に上がるものとしては、業務を効率化したい、かつ内部統制も効率的にいきたい、といったことに対して人も増やしたくない中でどう対応するかということです。そこで、採用されるのは、社内で組み上げた「神Excel」を使ったり、ここを入力すれば見積書が全部出来上がりますよといった部分的なワークフローソフトだったりです。ですが、IPOの観点で見れば情報の整合性を取ることが非常に難しいので、ほぼ使えないと思います。その結果、業務システムを入れることになりますが、業務の個別システム化によってデータベースの分断化が発生し、確認工数が増えます。データベースが分かれてきますと、内部の情報の整合性の担保が必要となってきます。そして、確認と承認のプロセスが複雑化します。

それでは、最小の人数で統制も効いている体制をつくろうとなるとどうすれば良いのか。こちらに関して、私が知る限りの情報でご紹介させて頂ければと思います。

Section4「IPOに向けた体制の構築方法」

上場準備、上場後の監査に耐えられる管理体制構築には3ステップが必要となります。

Step1現状理解

まず、最初に業務のマニュアルがない状況では、現状理解を最初に置くべきだと思います。業務フローの棚卸ですね。現状の業務プロセスとデータの流れを可視化すると、N-2の段階で監査法人から会計システムをIPOに耐えられるようなシステムに変更してくださいと言われますが、実際会計システムは会計をするときだけに用いるものなので、会計システムを変えただけでは全体業務の最適化には繋がりません。

私個人として重要なものは、営業部と管理部がコミュニケーションする部分、営業部からデータが回ってきて管理部が確認する工程です。この部分に1つの溝が存在します。そして後ろの工程、売掛台帳登録、つまり会計システムに落とし込んでいく部分ですね。ここでもシステムとシステムの溝ができてくるので、データの整合性の担保に課題が生まれてきます。つまり、全体の業務プロセス自体を最適化することによって、逆にそれをしないとIPO段階でその整合性を担保するのに、複雑な業務プロセスを作らざるを得ない必要が出てくるかなと思います。

Step2ソリューション選定

それでは、次にどういったソリューションを選んでいけば良いのかと言いますと、キーコンセプトとしましてシステム層を削減するシステムを選んでいくべきだと思います。

主にシステム化するにあたって、2つのアプローチがあると思います。業務にシステムを合わせるアプローチとシステムに業務を合わせるアプローチです。業務にシステムを合わせるアプローチは当然、業務に合わせ適切な顧客管理システムを導入して、請求システムを入れて、会計システムを入れてと、こういう形で組まれるようなお客様が非常に多いです。しかし、その結果システムが分断され、データベースが増えます。それによって、情報の転記作業と承認プロセスが増えていきます。

なので、最終的に情報収集、情報集約の部分に時間がかかってしまって、月次決算の早期化が達成できなくなってきます。その解決方法は人です。人を採用するしかありません。その結果、システムを入れて個別業務の最適化はできたのですが、全体として人を採用せざるを得ない状況になっていきます。

そこで、よくご提案させていただいているのが、全体業務を最適化する形でシステム数を削減できるようなシステム設計をしていくことです。例えば、顧客管理と営業管理データベースとそのあとのプロセスをクラウド型ERPシステムにします。そして2つのシステムをAPIで連携させます。そうすることによって、システム数を削減し、二重登録がなくなります。データベースが分かれていないので、承認プロセスが一回で足ります。かつクラウドベースなので、データが承認されてデータベースに入ることで、即時に可視化することが可能となります。

なので月次決算の早期化にもつながり、最終的には開示書類の作成等のスピードも上がります。業務のプロセスを比較しますと、システム数を削減することで、人の手が必要とされる工程が減り、その結果、情報の集約の速度が上がり、リアルタイムな経営情報がわかるようになります。そうなってくると全体の工数が減っていくので、そのような業務をする人材採用を減らすことも可能です。

Step3運用構築

しかし、このシステムに共通する点としては、全社員が動かなくては意味がないということです。システムは手段になるので、システムに関係なくIPOは統制をかければ達成することができると思います。しかし、社員をどう巻き込んで達成するかが非常に重要なことだと考えます。そこでは全社員がコミュニケーションするしかありません。そのために一目でわかるマニュアルを作ったり、相談窓口を作ったり、より現場に沿った支援内容を組むことによって全社員の業務改善につながると思います。それでは、最後のセクションに移りたいと思います。

Section5「クラウドERP freeeのご紹介」

それではいよいよ、前述の3ステップへの対応の観点から「クラウドERP freee」の特長について説明してまいります。まず1つ目が、ワークフローから債権債務管理、会計まで一気通貫で行う部分となります。2つ目は外部データとAPI連携で入力・転記業務を排除することが可能となります。3つ目は、仕訳承認、操作履歴、アクセス権限など統制に対応することが可能です。簡単にフローチャート(下図)でお見せすると、従来のバックオフィス業務ではいろんなシステムによって分断されていました。

それをfreeeに切り替えていきますと、業務の流れ自体が一本化していきます。当然データとエビデンスはすべて紐付いているので、試算表を見るだけで請求書の発行の仕方や誰がこの請求書を承認したのかが時系列の履歴として確認することが可能となります。

稟議、経理、会計、レポートが一本で繋がっていくので、この仕組みなんだっけという確認コストがなくなります。ここが一番特徴的です。

ただ、1つご注意いただきたいのは、業務プロセスのアプローチについて2つお伝えしたと思いますが、このfreeeのご採用にあたっては後者のアプローチ、すなわちシステムに業務を合わせるアプローチによって最適化される形になります。当然ながら、現場ではずれていく面があります。なので、現場の部分が求めているニーズと管理体制が作りたいものに対するディスカッションを商談の際盛り込んでおります。

ここで最後にまとめさせていただきますが、IPO準備のあるべき管理体制とは、


1. IPO準備体制=統制が担保された業務フローがあるべき姿で運用される状態
2. 安易にシステム化を進めると業務コストが莫大に増加
3. 現状整理、ソリューション選定、運用構築の3ステップで業務を最適化
4. システム数を削減できるシステム(=ERP)の採用が効果的

となります。


ご静聴いただきありがとうございました。

 

<プロフィール> 

■ポート株式会社 取締役 公認会計士
加藤 広晃 氏

大分県生まれ。一橋大学商学部卒業後、大手監査法人で法定監査やIPO業務に携わった後、ベンチャー企業へ参画。上場準備管掌の経営管理部長として経営管理組織を構築。東証マザーズ上場後は経理財務に特化し、国内外M&AのPMIやIFRS(国際財務報告基準)適用を財務経理常務執行役員として牽引。ポート株式会社へ2017年5月参画し、同社2018年12月東証マザーズ福証Q-Board上場へ貢献。キャリアパーク!:https://careerpark.jp、マネット:https://ma-net.jp


■株式会社タスク(宝印刷グループ) 専務執行役員 兼 トータルソリューション事業部事業部長
河野 真宏 氏

大学卒業後、2006年に㈱タスクに参画。IPO関連のコンサルティングに実務家として幅広く従事。大型IPO案件や特設注意市場銘柄解除コンサルティングのプロジェクトリーダーを歴任。また宝印刷主催のIPOセミナーを始めとして各種セミナーの講師を務める。

 

■freee株式会社SMB事業部 アカウントエグゼクティブ 
松場 勇人

奈良県出身。国際教養大学卒業後、freeeの実現しようとする未来とカルチャーに惹かれ、新卒でfreeeに参画。インサイドセールスを経て、現在は従業員20~100名規模の法人向け営業を担当。IPO準備企業をはじめとしたベンチャー企業を中心に、入社以来約300社の法人への提案を行う。

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