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2019年05月22日(水)

株式上場の条件とメリット、デメリットとは?

経営ハッカー編集部
株式上場の条件とメリット、デメリットとは?

現在、既存にとらわれない価値やイノベーションを創出すべく、多くのスタートアップやベンチャー企業が生まれ、急成長を遂げています。ビジネスで確固たる社会的信用や資金調達を容易にするため、株式上場を目標にしている企業が多く存在します。しかし、日本には約420万企業があると言われていますが、上場企業はわずか3,650社。割合では0.1%にも届きません。

株式上場にはなにが求められるのでしょうか? 今回は各証券取引所の上場基準と上場のメリットとデメリットをあわせて解説します。

株式上場とは

株式上場とは、証券取引市場で発行済の自社株式を第三者が自由に売買できるよう公開することを指します。

多くのスタートアップやベンチャー企業が株式上場を目標に掲げていますが、上場するにはいくつもの厳しい条件があります。各証券取引所によって細かい条件は異なりますが、共通点として

  • 過去数期にわたり安定して利益が出ていること
  • 一定数の株式を発行しそれに応じた人数の株主がいること

が挙げられます。特に日本では各証券取引所の最高クラスにあたる東証1部で上場するには、より厳格な審査が必要になります。次に各証券取引所の特徴と上場基準、条件を解説します。

国内証券取引所の種類と上場基準

それでは、国内の証券取引所と上場基準について紹介します。日本の証券取引所は、日本取引所グループによる東京証券取引所、大阪取引所、TOKYO PRO Market、JASDAQに加え、名古屋、札幌、福岡に各証券取引所が存在します。それぞれを詳しく見ていきましょう。

東京証券取引所

日本を代表する証券取引所(通称:東証)であり、全国で行われる取引の約90%が東京証券取引所で行われています。

1部、2部、マザーズがあり、1部は大手企業向け、2部は1部上場をねらう中堅企業向け、マザーズはベンチャー企業向けです。「東証1部」は多くの経営者にとって目指すべき大きな目標であると同時に狭き門でもあります。

  1部 2部 マザーズ
株主数 2,200人以上 800人以上 200人以上
流通株式数 2万単位以上 4,000単位以上 2,000単位以上
上場時価総額 250億円以上 20億円以上 10億円以上
純資産額 10億円以上 -
事業継続年数 3年以上 1年以上
利益の額
又は時価総額
①または②に適合すること
①経常利益が最近2年で合計5億円以上
②時価総額500億円以上直前期売上高100億円以上
-

 

大阪取引所(旧大阪証券取引所)

関西地区に本社を置く企業向けの証券取引所(通称:大証)です。1部、2部、ヘラクレスで構成されていましたが、2013年に東京証券取引所と経営統合がなされ、名称も大阪取引所と変更。かつては、1部が大手企業向け、2部は1部上場をねらう中堅企業向け、ヘラクレスはベンチャー企業向けとなっており、基本的な構成は東証に準じていましたが、2010年にヘラクレスはJASDAQ、JASDAQ NEOと統合。現在は、独立した証券取引所ではなくなっています。

JASDAQ(ジャスダック)

東京証券取引所によるベンチャー企業および中小企業向けの市場です。これまでに取り上げた証券取引所のベンチャー向け市場と大きく異なるのは、将来有望な新興企業向けに開設された市場であること。取引所ではなく証券会社の窓口で株式売買ができることにあります。

JASDAQは「スタンダード市場」と「グロース市場」の2部構成で、ある程度の業績が必要となる前者と、将来性が期待できるスタートアップが参入可能な後者に分かれます。比較的参入障壁は低く、東証のような上場に必要な時価総額の設定もありません。また、札幌証券取引所福岡証券取引所のように、その土地を活動拠点にしていなければ参入が認められないといった地域的な制約も存在しません。

  スタンダード グロース
株券等の分布状況 ①公募又は売出し株式数が1,000単位又は上場株式数の10%いずれか多い株式数以上
②株主数200人以上
流通株式時価総額 5億円以上
純資産額 2億円以上
利益の額
又は時価総額
①または②に適合すること
①経常利益が最近1年間で1億円以上
②時価総額が50億円以上
-

 

TOKYO PRO Market

東京証券取引所が開設する日本で唯一の特定投資家向けの市場です。他の上場基準と異なり、数値ではなくJ-Adviserと呼ばれる指定アドバイザーが上場適格性要件をチェックして、上場前〜上場後もサポートする仕組みになっています。そのため上場申請から承認まで非常にスピーディなのも特徴のひとつです。

               【上場適格性要件】

  • 上場申請者が、東京証券取引所の市場の評価を害さず、東証に上場するに相応しい会社であること
  • 新規上場申請者が、事業を公正かつ忠実に遂行していること
  • 新規上場申請者のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が、企業の規模や成熟度等に応じて整備され、適切に機能していること
  • 新規上場申請者が、企業内容、リスク情報等の開示を適切に行い、この特例に基づく開示義務を履行できる態勢を整備していること
  • 反社会的勢力との関係を有しないことその他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項

<引用元:日本取引所グループ「上場制度」より>

 

東証1部が上場基準の見直しを検討

東証1部は日本ではトップのマーケットですが、1部の銘柄数が増えているのに対して、他市場の銘柄が伸び悩んでいる状態がつづいています。そのため東証は、上場維持の条件と他市場から昇格する際の条件を厳格化することを検討しています。現在、1部上場の目安となる会社の時価総額は250億円以上に設定されています。もともとは500億円以上でしたが、2008年のリーマンショック以降、1部上場する企業の数が減ったため現在の設定額に変更されました。一方で、2部やマザーズに所属する企業が1部上場を目指す場合では時価総額40億円(JASDAQは250億円)と比較的容易に昇格を果たすことが可能です。

そのため東証1部の全体数を調整する目的で、設定額を500億円以上に戻し上場基準を引き上げ、ガバナンス面では役員の社外比率を1/3にする動きが顕著になってきています。

同時に新興企業の受け入れの再編も検討されています。現状、新規株式公開(IPO)の受け入れとして、東証2部、マザーズ、JASDAQがありますが、投資家にとって差別化が不明瞭とも言われています。そのため、マザーズとJASDAQグロースをスタートアップなどの成長企業向けに、中堅企業向けに東証2部とJASDAQスタンダードを統合する案も検討されています。

名古屋証券取引所

名古屋と中京地区全域に本社を置く企業向けの証券取引所(通称:名証)です。1部、2部、セントレックスで構成され、東証・大証と同様に、1部は大手企業向け、2部は1部上場をねらう中堅企業向け、セントレックスはベンチャー企業向けとなっています。

  1部 2部 セントレックス
株主数 2,200人以上 300人以上 200人以上
流通株式数 2万単位以上かつ流通株式比率 35%以上 2,000単位以上かつ上場株式数の25%以上
又は
上場日の前日までに公募又は売出しを1,000単位又は上場株式数の10%のいずれか多い株式数以上を行うこと
-
上場時価総額 250億円以上 10億円以上 3億円以上
純資産額 連結純資産の額10億円以上 連結純資産の額3億円以上 -
事業継続年数 3年以上 1年以上
利益の額又は時価総額 ①経常利益が最近2年で合計5億円以上
または
②時価総額500億円以上直前期売上高100億円以上
①経常利益が最近1年で1億円以上
または
②時価総額500億円以上直前期売上高100億円以上
高い成長の可能性を有していると認められる事業の売上高が上場申請日の前日までに計上されていること

 

札幌証券取引所

北海道に拠点を置く企業向けの証券取引所(通称:札証)です。基本的に北海道に拠点を置く会社以外は参入が認められず、全体の企業数が少ないこともあって、東京、大阪、名古屋地区のように1部、2部といったランク分けは存在しませんでしたが、既存市場に加え、2001年にベンチャー向けの市場である「アンビシャス」が開設されました。2017年度は名古屋証券取引所の年間売買代金が超え、国内第2位の市場となっています。

  本則市場 アンビシャス
株主数 株主数300人以上 ①500単位以上の公募又は売出し
②株主数100人以上
流通株式数 上場時の流通株式数2,000単位以上かつ上場株式数の25%以上
又は
上場日の前日までに公募又は売出しを1,000単位以上又は上場株式数の10%のいずれか多い株式数以上行うこと
-
上場時価総額 10億円以上 -
純資産額 3億円以上 1億円以上
事業継続年数 3年以上 1年以上
利益の額
又は時価総額
経常利益が最近1年間で5,000万円以上 最近1年間の営業利益の額が「正」。営業利益の額が「正」でない場合において、高い収益性が期待できる場合を含む

 

福岡証券取引所

福岡県をはじめ九州全土に拠点を置く企業向けの証券取引所(通称:福証)です。こちらも札幌同様、企業数が少ないため、1部、2部のランク分けは存在しません。既存市場に加え、九州地区に事業所があるか事業進出計画のあるベンチャー企業向けの市場「Q-Board」が2000年に開設されました。

  本則市場 Q-Board
株主数 300人以上 200人以上
流通株式数 2,000単位以上かつ上場株式数の25%以上
又は
上場日の前日までに公募又は売出しを1,000単位又は上場株式数の10%のいずれか多い株式数以上を行うこと
500単位以上の公募
上場時価総額 10億円以上 3億円以上
純資産額 連結純資産の額 3億円以上
(かつ単体純資産の額 正)
連結・単体純資産の額 正
事業継続年数 3年以上 1年以上
利益の額
又は時価総額
経常利益が最近1年間で5,000万円以上 -

株式上場のメリット

では、株式上場すると具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか?

社会的信用の向上

上場企業は、年間の収支など会社の財務状況を公開する義務があります。取引先も一連の情報を随時確認できるため、社会的信用は向上します。そのため従業員も住宅ローンを組んだり、クレジットカードを作ったりする際の信用が高くなります。

資金調達力の円滑化・多様化

社会的信用の向上に合わせて、金融機関や投資家からの融資を受けやすくなるなどのメリットに加え、時価発行増資、新株予約権・新株予約権付社債の発行など資金調達の手段も増えます。

知名度の向上で営業・採用活動にメリットが生まれる

長期にわたり良好な業績を上げなければ上場できません。そのため企業のブランド力や知名度を武器に、営業活動の確度が上がるなどのメリットや優秀な人材を集めやすくなるといった採用メリットも生まれます。

経営・管理体制の構築・強化

株式上場は、個人的な経営から脱却し、パブリックカンパニーとなることです。そのため、上場準備段階から役員構成、財務管理、内部統制やコンプライアンスの遵守、外部の監査など透明性がある経営体制の構築が必要となります。また経営と資本が分離するため、より経営体制が健全化します。

自社株式売却による利益享受

株式上場時には、創業者が保有している株を公開することになるので、株式の売却によって膨大な利益を得ることができます。大抵、上場時に世間的な注目を集めることになるので、その相乗効果もあって株価も上がります。また従業員に対しても、ストックオプションや持ち株制度などを設けることで、モチベーション向上にも繋がります。

株式上場のデメリット

メリットだけに見える株式上場ですが、もちろんデメリットも存在します。株式上場におけるデメリットは、ときに会社の存在自体を揺るがす要因になり得るので、経営陣には慎重な決断が求められます。

上場までに多大な時間とコストを要する

申請期の直前2期分の監査証明が必要となり、監査法人から財務諸表監査を受けるため監査報酬が発生します。
また上場後も、上場前と比較して年間上場料や監査報酬、四半期に1度の有価証券報告書の作成など維持・管理コストが大きくなります。

株主の意見を尊重する必要がある

経営上の最重要事項は株主総会により決議されます。様々な株主の意見もあるため、幅広い要望に応える必要が生まれます。そのため、直近の業績良化を求められたり、取締役の選任・解任など株主の意向に左右されるため、経営陣の意向を反映するハードルが上がります。

買収リスク

市場に出回る株式は誰でも購入することができます。投資ファンドなど企業買収を目的とする株主が急に出現する可能性もあるため、持ち株比率の見直しや、関連企業間で株式を相互保有するなどの対策が必要です。

社会的責任の増加

メリットに社会的な信頼の向上を挙げていますが、その分責任も増加します。自社の経営情報を随時株主に公表する義務があるため、会社にとって都合の悪いことでもその事実を隠すことはできません。

まとめ

株式上場をするには、各市場の上場基準を満たす必要があり、コンプライアンスの遵守、ガバナンスの強化、情報の透明性なども求められます。会社の規模も大きくなると管理も難しくなるため、財務、会計、経理、人事などのバックオフィスの機能や方針を集約する必要があります。上場には時間もコストも必要になりますので、早い段階から管理体制を構築していくことが求められます。

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