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2019年05月29日(水)

上場とは?スケジュールとメリット・デメリットを解説

経営ハッカー編集部

 就活生の呼び込みや集客などで、「東証一部上場企業」であることを大きく掲げ、強みとしてアピールする企業があります。上場企業なのか、そうでないかを目安にして企業のランク付けや評価が行われることも珍しくありません。
 上場という言葉の定義や上場する条件、スケジュールやデメリットについて解説していきます。

上場とは

 上場という言葉の定義は、株式や債券などの有価証券や商品先物取引の対象となる商品を、取引所(市場)において売買可能にすることを指します。
企業の場合は、株式会社が発行する株券や債券などを証券取引所で取引することが認められる、ということを意味します。

上場には市場・形式ごとに定められた条件があります。
ここでは例として、東京証券取引所第一部(東証一部)・第二部の条件をご紹介します。

項目 東証一部上場要件 東証二部上場要件
株主数 2,200人以上 800人以上
流通株式
  1. 流通株式数 2万単位以上
  2. 流通株式数(比率)上場株券等の35%以上
  1. 流通株式数 4,000単位以上
  2. 流通株式時価総額 10億円以上
  3. 流通株式数(比率)上場株券等の30%以上
時価総額 250億円以上 20億円以上
事業
継続年数
新規上場申請日の直前事業年度の末日から起算して3年以上前から取締役会を設置し継続的に事業活動をしていること 左に同じ
純資産の額 連結純資産の額が10億円以上
(かつ、単体純資産の額が負でないこと)
左に同じ
利益の額
または
時総額
以下のどちらかの要件を満たすこと
  1. 最近2年間の利益の額の総額が5億円以上であること
  2. 時価総額が500億円以上(最近1年間における売上高が100億円未満である場合を除く)
左に同じ
虚偽記載
または
不適正意見
など
  1. 最近2年間の有価証券報告書等に「虚偽記載」なし
  2. 最近2年間(最近1年間を除く)の財務諸表等の監査意見が「無限定適正」又は「除外事項を付した限定付適正」
  3. 最近1年間の財務諸表等の監査意見が原則として「無限定適正」
  4. 申請会社に係る株券等が国内の他の金融商品取引所に上場されている場合にはあっては、次に該当するものでないこと
  • 最近1年間の内部統制報告書に「評価結果を表明できない」旨の記載
  • 最近1年間の内部統制監査報告書に「意見の表明をしない」旨の記載
左に同じ
株式事務
代行機関の
設置
東京証券取引所(以下「東証」)の承認する株式事務代行機関に委託しているか、当該株式事務代行機関から株式事務を受託する旨の内諾を得ていること 左に同じ

単元株式数及び
株券の種類

  • 単元株式数が100株となる見込みのあること
  • 新規上場申請に係る株券等が、次の1~3のいずれかであること
  1. 議決権付株式を1種類のみ発行している会社における当該議決権付株式
  2. 複数の種類の議決権付株式を発行している会社において、経済的利益を受ける権利の価額等が他のいずれかの種類の議決権付株式よりも高い種類の議決権付
  3. 無議決権株式
左に同じ
株式の譲渡制限 新規上場申請に係る株式の譲渡につき制限を行っていないこと、又は上場の時までに制限を行わないこととなる見込みのあること 左に同じ
指定振替機関に
おける取扱い
指定振替機関の振替業における取扱いの対象であること、又は取扱いの対象となる見込みのあること 左に同じ
合併などの
実施見込み
次の1.2に該当しないこと
  1. 合併、会社分割、子会社化もしくは非子会社化もしくは事業の譲受け、もしくは譲渡を行った場合又は2年以内に行う予定のある場合で、新規上場申請者が当該行為により実質的な存続会社でなくなる場合
  2. 新規上場申請者が解散会社となる合併、他の会社の完全子会社となる株式交換又は株式移転を2年以内に行う予定のある場合
左に同じ

引用:http://www.jpx.co.jp/equities/listing/criteria/listing/

株式市場の種類

株式市場は大きく分けると、機能・商品・市場別に分類されます。

機能別

  • 発行市場:株式会社の証券が、発行者から直接もしくは証券会社や銀行などを介して投資家に一次取得される市場
  • 流通市場:すでに発行された証券が、投資家の間で取引される具体的な市場

商品別

  • 現物市場:株式や債券などの現物取引が行われる市場
  • デリバティブ市場:先物・スワップ・オプション取引を店頭で行う市場

市場別

  • 取引所市場:証券取引所を通して株式の売買を行う市場
  • 私設市場:私設取引システムPTS(Proprietary Trading System)により、金融商品取引所を介さず電子的な取引によって有価証券を売買する市場

 

日本におけるおもな株式市場は次のようになります。

東京証券取引所

  • 市場第一部:大企業向けの市場
  • 市場第二部:中堅企業向けの市場
  • JASDAQ:新興企業向けの市場
  • マザーズ:ベンチャー企業向けの市場

名古屋証券取引所

  • 市場第一部:中京地区の大企業向けの市場
  • 市場第二部:中京地区の中堅企業向けの市場
  • セントレックス:ベンチャー企業(新興企業)向けの市場

日本では東京、名古屋、福岡、札幌に証券取引所がありますが、中心的なのは東京証券取引所の市場第一部(東証一部)です。

上場までのスケジュール

 上場申請するまでには、通常は少なくとも3年以上の準備期間が必要となります。
ここでは準備期間を3年(3期)とした場合のスケジュールや、申請後の流れを簡単にご紹介します。

申請3期前~2期前

 まずは監査法人が上場に向けたショートレビュー(予備調査)を実施し、上場に向けた問題点の洗い出しと改善策の検討、申請までのスケジューリングを行います。

申請2期前

 申請直前2期分の公認会計士または監査法人の監査証明が必要になるため、申請2期前になる頃には内部体制を監査に対応できるレベルまで整えておく必要があります。内部監査によっても状態確認を行い、修正すべき点は迅速に行います。

申請~審査

 取引所に申請するには主幹事証券会社の審査を受け、推薦を受ける必要があります。その後、取引所に上場申請し、取引所審査が始まります。
 まずは、東証から送付される質問事項へ回答します。上場申請理由や事業内容、今後の計画などを詳細に回答します。
 その後、ヒアリングや事業施設の調査などを受けながら審査が進んでいきます。ヒアリングは多くの場合3回程度実施されます。事業内容や業界環境の詳細、また株主や役員について、経理の状況や予算についても細かくヒアリングがなされます。
 最後に、社長や監査役、会計監査人へのヒアリングが行われます。

東証上場の場合は申請から審査完了までに、およそ3か月の審査期間を要します。マザーズやJASDAQの場合は、審査期間が少し短くなり2か月程度となります。

上場するメリット

企業にとって、上場することで得られるおもなメリットは次の3点です。

社会的信用および知名度の向上

 一定の基準をクリアした優良企業として認識され、取引先や金融機関、社会一般からの信用度が高まります。上場企業として社名を知られる機会も増えるため、優秀な学生や人材を集める点でも有利になります。

財務体質の強化

 株式公開によって新株予約権・新株予約権付社債の発行など資金調達手段が多様化するとともに、自己資本が充実し財務体質が強化されます。

経営管理体制の充実

 上場企業となることで、社会へ情報開示される企業としての規律ある組織的な経営がなされることとなります。内部統制が十分機能した経営管理体制を整備することで、「上場企業で働く身である」という適度なプライドとプレッシャーを従業員に与えることによる士気・モラル向上も期待できます。

上場するデメリット

では、企業から見た上場に伴うおもなデメリットも見ていきましょう。

コスト・事務業務量の増加

 上場維持のためには、証券取引所や監査法人などにかかる費用が継続して必要になります。株式上場によって流通性が高まれば株式に関する事務手続きも増えますし、定期的な財務情報公開のためにも手間やコストを割かなければなりません。

第三者による買収のリスク

 自社の株式を誰でも売買できるため、株価や市場の需給状況次第では買収を仕掛けられる可能性があります。

経営責任・社会的責任の増大

 大勢の株主を持ち、社会に広く知られていることはメリットでもありデメリットともなります。企業が株主の不利益となる行為をした場合は、提訴される可能性があります。その場合代表取締役は、自身の責任の有無にかかわらず賠償責任を負うことになります。
社会的に認められた企業である以上、従業員の不祥事や社内の会計ミス、コンプライアンス違反などがあった場合、非上場の企業に比べ世間の目が一層厳しくなることを覚悟しておかねばなりません。

まとめ

 上場にこぎつくまでには、少なくとも3年程度以上の準備期間と2~3か月の審査期間を要します。また、上場後も、維持のための費用や労力が必要です。
その分多方面においてメリットが多くなりますが、デメリットも存在します。

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