ストックオプションとは?ベンチャー企業が人材採用をするための武器、ストックオプションの活用法
ストックオプションとは、株式会社の取締役や従業員が、自社株をあらかじめ決められた期間内に、あらかじめ決められた行使価格で購入できる権利です。ストックオプションは多くは無償で付与され、ストックオプションを付与された従業員は、株価が上昇した時点で権利を行使すれば、売却して差額分の利益を得られます。自社株の上昇が自分の報酬額に直結するため、従業員が会社に忠誠心を持ちやすい制度と言えます。
(同制度はもともとアメリカで生まれた制度で、日本では1997年の改正商法で認定されました。)
ストックオプションの目的
ストックオプションは、日本では主にベンチャー企業に多く採用されています。特に外資系企業の子会社日本法人や、IT系企業に多い傾向があります。すでに大企業のレベルまで成長している多くの企業の株価は、数年間に大きく跳ね上がることは考えにくいため、ストックオプションを取り入れる旨味があまりないためです。一方で、ベンチャー企業はこの先数年で大きく成長する可能性を秘めていますし、また成長途上のためキャッシュに余裕がない、キャッシュを放出したくないという事情がある場合にも適した制度と言えます。賞与としてキャッシュを支払う代わりになるイメージです。ストックオプションを導入すれば、キャッシュを放出せずに人材のモチベーションを上げられ、また優秀な人材を権利行使まで自社につなぎとめておくこともできます。
ストックオプションの付与対象者
ストックオプションの対象者は、当該企業(株式会社)の取締役または従業員です。ストックオプションは2001年の法改正以降は、企業が発行する株式をあらかじめ決められた価格で取得する権利として創設された「新株予約権」に含まれるようになりました。新株予約権は単独での発行が認められており、一般投資家もこの権利を取得できますが、自社の従業員や役員に対してのみ権利を付与する従来のストックオプション制度と新株予約権とは区別することが一般的です。
ストックオプション付与のメリット・デメリット
まず、ストックオプション付与のメリットとしては、以下のようなものがあります。
・キャッシュを使わずに人材を確保できること。
・ストックオプションを付与された従業員は、企業の株価が上がることが自分の利益に直結するため、企業価値を自分のこととしてモチベーションを高く保てること。
・同時に、ストックオプションを行使して利益を得るまでは(仮に現状の給与や待遇に不満足でも)退社しにくくなること。
また、デメリットとしては、次のようなことが考えられます。
・経営不振や不況、不祥事などで株価が上がらなかった場合のモチベーション低下。本来であれば賞与として得られたはずの報酬を得られなくなってしまうため、利益が出なかった場合のモチベーションが低下してしまう可能性があります。
・ストックオプションを行使して報酬を得た直後に退社されてしまうリスクがあること。
・誰かが努力した結果として株価が上がれば、自分が努力しなくても恩恵を受けられてしまうこと。そこで、ストックオプションを付与されていない者とのモチベーションの差が生まれる場合もあります。
・立場が変わって、既存の株主にとっては、大量にストックオプションが行使されることで自分が持っている株の価値が薄くなってしまうため、株主からの不満を集めてしまう恐れがあること。
従って、ストックオプションは あくまでもメンバーが主体的に努力し、会社の業績を上げて初めて実現できるインセンティブであって、自分たちが頑張るためにあるものだということの理解促進や、役職別、勤続年数別、業務別といったようにメリハリをつけ付与する必要があります。また、株主に対しては従業員の意欲が高まることで業績向上に繋がるものであることを十分に説得する必要があります。
ストックオプションの様々な形態
無償ストックオプション
株を購入できる権利を会社から無償で「もらう」のが従来のストックオプションです。前項でメリットやデメリットについて紹介しましたが、無償ストックオプションの課題についてもう少し詳しく見ていきましょう。
無償ストックオプションの大きな欠点として、税制上の仕組みでストックオプションは行使した(株式に転換した)時点で差額分(利益分)が「給与所得」として計上され、課税されてしまうことが挙げられます。課税は売却していなくても発生するので、キャッシュを1円も得ていなくても税金を払うことになります。
さらに、売却して得た利益には給与所得として累進税率が適用されます。株式を売却する際の譲渡所得課税は税率20%ですが、これよりも高い税率となる可能性があるのです。住民税と合わせて最大55%の課税が適用されることになり、思わぬ多額の税負担が発生する可能性があります。こうした高額な課税への対策として、「税制適格ストックオプション」が設けられましたが、定められた条件をすべてクリアしなければならないという高いハードルがあります。
参考:税制適格ストックオプションの要件
・付与対象者が、自社の取締役・執行役または使用人およびその相続人であること(一定の大口株主およびその特別関係者を除く)
・付与対象者が、発行株式総数の50%超を直接または間接に保有する法人の取締役、執行役または使用人およびその相続人に該当している権利行使期間が、付与決議の後2年を経過した日から、付与決議の日の後10年を経過するまでの間であること
・権利行使価格が、ストックオプションについての契約締結時の1株あたりの価額以上であること
・権利行使価格が、年間1,200万円を超えないこと
それから、無償ストックオプションは「報酬」として扱われるため、役員がストックオプションを行使するためには株主総会で承認を得る必要があります。現実的には、ストックオプション行使の議決のために臨時株主総会を召集することは考えにくいですから、年に一度の定時株主総会で決議することとなります。このため、役員にとっては事実上、好きなタイミングで行使できない権利なのです。
有償ストックオプション
こうした課題に対し、無償ストックオプションに代わる制度として導入が進んでいるのが「有償」ストックオプションです。有償ストックオプションは「有償時価発行新株予約権」の俗称で、「冷凍型ストックオプション」とも呼ばれます。「有償時価発行新株予約権」は、会社が発行する新株を予約できる権利を役員や従業員が「買う」権利のことで、従来の(無償)ストックオプションのように権利を「もらう」わけではありません。
有償ストックオプションのメリットとして、資本取引として扱われるため、無償ストックオプションと違って、新株予約権を行使し、株に換えただけでは税金はかかりません。株を売って現金化したときに初めて税金が発生することになります。また、有価証券の譲渡取引なので、税率は差額分に対して譲渡所得課税の約20%となり、税制適格ストックオプションと同様のメリットがあります。発行するときも、株主総会の決議を経ることなく、取締役会決議だけで発行できるので、会社にとっても機動性に優れた仕組みと言えます。
ストックオプションの会計処理
取締役や従業員にストックオプションを無償給付した際に、従来はオフバランスされていたものをオンバランスに変更する会計処理、すなわちストックオプションの費用化を行う必要があります。この会計処理の変更には、原価即事実説と原価即価値説という二つの相対する考え方が根底にあります。
ストックオプションの会計処理にあたっては、公正価値の測定が難点です。ストックオプションはコールオプションであるため、ブラック・ショールズモデルなどを使って計算することが一般的ですが、このとき、何の制限もないストックオプションの場合、付与された権利の価値が株式時価の約40%程度の評価になります。オプション料が株価の40%とすると、企業が相当な利益を上げなければ権利行使してもほとんど儲からないことになります。
そこで、業績の条件を加えることによって、オプションの価値が引き下がる仕組みが多く導入されています。条件達成の難易度によってオプションの価値が変わってくるため、条件によっては、買った人が損をしてしまうこともありますが、そのリスクがある分、オプションの価値は低くなります。とはいえ、あくまでも発行する会社側としては、より会社の業績のKPI(重要業績評価指標)にコミットしてほしくて発行するので、基本的には発行後は業績も株価も上がっていくことが期待できるわけです。
まとめ
給与が十分払えず、競争上不利なベンチャー企業が優秀な人材を採用し定着させるためには、インパクトのあるストックオプション制度などを上手く活用することが効果的です。興味を持たれた方は、ストックオプションに詳しい、会計士や税理士などの専門家に話を聞きストックオプションを検討してみてはいかがでしょうか?