コーポレートガバナンスとは?IPO後に企業が負うべき公器としての責任

十数年前は、日本においても資本市場に会社が上場すると、資金の出し手である株主のものになるという株主資本主義的な考え方が幅を利かせていました。このため株主資本に対する利益率(ROE)の向上が求められ、経営陣は短期の利益を追い求めるといったことが起こりました。その結果、儲けるためになりふり構わない企業行動が生まれ、地球環境の破壊や、ブラックな職場などが生まれ、かえって企業成長を阻害することに繋がっていったのです。このような中、社会の公器である上場企業はどのように振る舞うべきなのかと言った観点からコーポレートガバナンスが真剣に問われるようになってきました。
コーポレートガバナンスとは何か
コーポレートガバナンスは、直訳すると「企業統治」となります。では誰のための企業統治なのかというと、最近では、株主だけでなく、従業員、顧客、取引先、地域社会、地球環境などあらゆるステークホルダー(利害関係者)が対象となってきています。企業が定義するあらゆるステークホルダーが不利益を被らないよう、自主的に経営を監視・統制する仕組みが求められるようになってきているのです。
その理由として、公的な年金基金などの機関投資家による長期保有を前提とする株式購入が増え、短期的な利益よりも中長期的な企業価値の拡大が求められるようになってきているということが挙げられます。
この結果ESG投資といった、投資スタイルも生まれ、企業はよりいっそう地球環境や、社会関係を意識し、株主以外も含めたステークホルダーに対しての社会的責任や価値創造を果たす必要に迫られています。
これらのステークホルダーの要請に応えるために、経営の規律を構築していくものがコーポレートガバナンスなのです。
コーポレートガバナンスの概念が生まれた背景
コーポレートガバナンスは、もともと1960年代から70年代にかけてアメリカで生まれた概念です。それが日本に浸透してきたのは、バブル崩壊後の90年代以降、日本において企業による不祥事が顕著になってきたことがきっかけです。総会屋への利益供与事件に始まり、贈収賄事件、リコール隠し、インサイダー取引など、様々な有名企業による不祥事が相次ぎました。今日も、粉飾決算や残業代未払いなど、問題となる事案が度々起こっています。
一度不祥事が明らかになれば、企業の社会的信用度やブランドイメージの低下を招き、株価も下落して、株主は多大な損失を被ります。それを防ぐために企業経営に規律を持たせる必要性が生まれたのです。
コーポレートガバナンスの目的
コーポレートガバナンスには「ステークホルダーの保護」「透明性・公正性の確保」と言ったもともとの目的に加え、最近では「企業価値の向上」が加わってきました。
目的1 ステークホルダーの保護
経営陣は、時に採算の合わない事業への投資や、不必要な設備投資を行うことがあります。そうすると株主や投資家の利益を損ねることになってしまいます。また、経営資源を浪費することで従業員が不利益を被ることも考えられます。このような、ステークホルダーにとって利益につながらないような行為を防止し保護します。
目的2 透明性・公正性の確保
また、透明性・公正性の高い経営が行われることも大切です。投資家の利益を担保するために、財務状態や経営状態だけでなく、何かトラブルがあればすみやかに開示されることが求められます。さらに上場企業には株主総会開催後6か月以内にコーポレートガバナンスに関する報告書の提出が義務付けられています。
目的3 企業価値の向上
適切な意思決定により、金融資本、製造資本、知的資本、人的資本、社会資本、自然資本などの経営資源の投入によって、企業活動を行い最終的にステークホルダーにとっての企業価値を向上させます。
コーポレートガバナンスの体制構築方法
コーポレートガバナンスを実行するには、まず会社全体の機関設計を行う必要があります。その上で、コーポレートガバナンスの原則を定めた「コーポレートガバナンス・コード」を意識した経営を行う必要があるのです。
コーポレートガバナンスを担保する機関設計を行う
会社法および自社の定款に則り、監督機関、執行機関、監査法人といったように、適切なバランスをもって統治が可能な組織体制の設計が必要となります。そのために、東京証券取引所の有価証券上場規程では、上場会社は下記の機関を置くこととされています。
(1)取締役会
(2)監査役会、監査等委員会又は指名委員会等
(3)会計監査人
このとき、上記(1)、(2)については、過半数の社外役員が必要となります。
なお、IPOを目指す企業は、直前期1年間は上場時と同じ機関設計の下での運用実績が求められるため、直前期までに機関変更をしておく必要があります。
コーポレートガバナンス・コードの遵守
日本取引所グループ(JPX)では、上場企業が遵守する規範として前述の「コーポレートガバナンス・コード」を設定しています。ここでは「株主の権利・平等性の確保」「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」「適切な情報開示と透明性の確保」「取締役会等の責務」「株主との対話」といった5つの原則が定められています。
上場企業は基本的にこれに則った経営を行わなければならず、原則を実施しない場合にはその理由を明らかにしなければなりません。
コーポレートガバナンスと内部統制の違い
コーポレートガバナンスと似たような概念に「内部統制」があります。どちらも公正かつ透明性の高い企業経営を行うために必要不可欠なものですが、両者にはどのような違いがあるのでしょうか。
内部統制とは
内部統制の定義は、金融庁が所管する企業会計審議会が公表している「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」の中で以下のように表されています。(P.8)
「内部統制とは、基本的に、業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守並びに資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセスをいい、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング(監視活動)及びIT(情報技術)への対応の6つの基本的要素から構成される。」
内部統制とは、簡単に言えば社内のリスクをコントロールすることで、最終的には財務諸表の信頼性を高めるための仕組みです。
内部統制とコーポレートガバナンスの違いとは
一方、コーポレートガバナンスは、「コーポレートガバナンス・コード」の中で次のように定義されています。(P.2)
「コーポレートガバナンスとは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行う ための仕組みを意味する。 本コードは、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたものであり、これらが適切に実践されることは、それぞれの会社において持続的な 成長と中長期的な企業価値の向上のための自律的な対応が図られることを通じて、会社、 投資家、ひいては経済全体の発展にも寄与することとなるものと考えられる」
つまり、コーポレートガバナンスとはステークホルダーにとっての中長期的価値の向上を目指した体制構築であることが明示されており、内部統制より広い概念であることがわかります。
企業のコーポレートガバナンス取り組み事例
ここでは、上場企業の代表格であるトヨタ自動車・パナソニック・花王の3つの企業がどのようにコーポレートガバナンスへの取り組みを行っているのか見ていきましょう。
トヨタ自動車の場合
トヨタは、「持続的な成長と長期安定的な企業価値の向上」を経営の重要課題に掲げています。それを実現すべく、これまで顧客に最も近い場所にいる地域が主体となる「地域主体経営」、国・地域別にしている事業部門を4つの事業体に再編する「ビジネスユニット制」、ヘッドオフィスの下に独立したカンパニーを置く「カンパニー制」を導入してきました。さらに、意思決定と業務執行のスピードアップを図り、コーポレート機能の見直しや組織再編を行っています。
パナソニックの場合
パナソニック株式会社では、「企業は社会の公器」という基本理念に基づき、ステークホルダーとの対話を通して説明責任を果たし、透明性の高い事業活動、公正かつ正直な行動を行い企業価値を高めることを重要課題に掲げています。それを実現するため37の事業部を4つのカンパニーで束ねる「カンパニー制」を導入しています。また、取締役会・執行役員制度・監査役会を設け、グループ全体にかかわる意思決定と経営活動の監査を行い、グループ全体のガバナンスを機能させる役割を担っています。
花王の場合
花王株式会社は、健全かつ公正で透明性の高い経営と企業価値の継続的な増大を実現すべく、経営体制や内部統制システムを整備・運用しながら説明責任を果たすことをコーポレートガバナンスの取り組みの基本としており、これが経営上の重要課題であると位置付けています。社外役員にもビジョンが明確に共有されたうえで中期経営計画を達成するための方向性やガバナンス体制、また現在の注力事業や技術イノベーションについて開かれた議論がなされています。
まとめ
今まで見てきたようにコーポレートガバナンスは企業が健全かつ持続的に発展していくためには欠かせない取り組みのひとつです。上場企業がコーポレートガバナンス・コードを遵守するのに対し、機関投資家側が従う規範としては、金融庁により「スチュワードシップ・コード」が設定されています。これによって、相互の対話を行い理解ある投資活動を経て企業価値の増大に向けて双方が努力するものとされています。日本においてはこのような全体のガバナンスシステムの構築により、上場企業の公器性の維持が図られているのです。