ショートレビューとは?上場準備のショートレビューのタイミングと内容、費用、チェックリストについて詳しく解説
ショート・レビューとは、監査法人等が株式上場を検討している会社に対して、株式上場に向けての課題を抽出するための調査のことです。IPOの準備にあたって、どのタイミングで実施すべきか?その内容とチェックポイントは?ショートレビュー報告書や準備すべき資料の事例を紹介しながら徹底解説します。
ショートレビューとは?
ショートレビューとは、監査法人等が株式上場を検討している会社に対して、株式上場に向けての課題を抽出するための調査のことを言います。短期調査、予備調査、クイックレビューとも言います。
株式上場をするには証券取引所の審査基準をクリアする必要がありますので、上場基準からみた財務基盤、内部管理体制、事業計画、ディスクロージャーなどを整備する上での課題の洗い出しを短期間(1~3週間程度)で調査します。
これらの課題に対して、自社が上場までに何をしなければならないのか、いつまでに何をすべきか、要改善事項の全体像とロードマップが見えてきますので、上場準備を効率的に進めるための処方箋として、ショートレビューは自社の現状を正確に把握するための企業診断のようなものだと言えます。
ショートレビューを受けるタイミングと費用は?
では、いつショートレビューを受けるのがよいのでしょうか?まず、上場までの準備スケジュールを確認しておきましょう。
上場までの準備スケジュール
株式を上場するには、少なくても2年半から3年以上の準備期間(2年間の会計監査期間と上場審査に2~3か月)が必要です。
上場目標年度から遡って3期以上前(直前々期の期首まで)にはショートレビューを受けて、上場に向けた課題を洗い出して、しっかりと体制を整備していく必要があります。上場に向けた課題の抽出にあたっては、まず上場基準がクリアできるか、その前提として監査法人による会計監査の受け入れ体制があるかなどが確認されます。
監査法人等によるショートレビューは、一概には言えませんが一般的に150万円~400万円程度の費用がかかります。費用の見積もりは、調査の範囲(財務のみに絞るか、それ以外の分野にも対象を拡大するか)、調査工数(何人のスタッフで何日かけて調査するか)などによっても異なります。プレショートレビューのようなサービスを提供しているところもあります。
上場の意思決定をしている場合は、社長直轄で社内に上場を検討する担当者を任命するなどして上場に必要な準備事項の確認やショートレビューに必要となる最低限の内部資料等の整備をしておくのが望ましいと言えます。
なお、上場プロジェクトチームの編成は、ショートレビューを受けた後に、どのような上場準備が必要かロードマップが明確になった後で組織横断的なプロジェクトを編成するのがスムーズです。
ショートレビュー前に準備しておくこと
ではそのために、企業はどのような準備が必要なのでしょうか?ショートレビューは実際にどのような調査をするのか確認してみましょう。
ショートレビューの内容
ショートレビューでは、事前打ち合わせに基づき企業が提出した資料を監査法人等が確認し、関係者にインタビューを行います。これらの調査結果を報告書にまとめて、報告会が開催されます。
ショートレビューの報告書の内容は概ね以下のような内容です。
- 実施した調査の概要
- 調査結果の概要
- 上場審査(形式基準)における結果
- 上場審査(実質基準)における結果
- 会計処理基準について
- 貸借対照表の個別勘定について
- 損益計算書の個別勘定について
- 営業損益分析について
- 管理体制の整備状況について(経営計画、販売・製造・管理体制等)
- 諸規定の整備状況について
- 内部監査制度の整備状況について
- 特別利害関係者等との取引状況について
- ディスクロージャー体制の整備状況について
- 資本政策について
- 株式公開までの準備スケジュール、等
主なショートレビューの準備資料
ショートレビュー時に企業が提出する主な資料は以下のような内容です。提出する資料は企業毎に異なります。追加提出が依頼されることがあります。
- 会社案内(パンフレット)、製品案内(カタログ)、等
- 登記簿謄本、定款、社内規定、組織図、等
- 株主名簿、役員一覧、役員および主要株主との取引内容、取締役会議事録、等
- 過去3期分の財務諸表(決算書、事業報告書、税務申告書、勘定科目内訳書等)
- 経営計画書、事業計画書、等
- 主要な販売先、仕入先、外注先一覧及び実績の推移、基本契約書、業務フロー
- 勘定科目一覧、会計処理基準一覧、原価計算関係資料、帳票書式、等
会計監査を受ける前に整備しておきたいポイント
ショートレビューの結果、改善が必要な事項(会計監査の受け入れ体制の整備やその他の上場準備作業など)が多くなり、想定以上に会計監査に入る前の事前準備に時間がかかるケースもあります。
ショートレビューを受けた後、2年間の会計監査期間に入る前の「体制整備期間」をできるだけ短縮するためには、何をすればよいのでしょうか?
日本公認会計士協会では、上場前の2年間の監査期間に入る前に準備しておきたい事項として以下のような項目を挙げています。
- 会計処理の根拠資料は検証可能な状態で整備されていますか?
- 会計処理の根拠資料はすべて網羅的に保管されていますか?
- 内容の不明な残高が勘定科目に残っていませんか?
- 発生主義で会計処理を行うために必要となる情報は収集できますか?
- 実地棚卸はきちんとやっていますか?
- 在庫の受払記録は作成していますか?
- 固定資産台帳に記載されている資産は実存していますか?
- 原価管理を行うための体制は整ってますか?
- 連結範囲の確定前に、整理すべき関係会社はありませんか?
- 子会社でも連結決算に対応できるだけの体制が備わっていますか?
ショートレビュー前に、必ずしも上記のような体制が整備されている必要はありませんが、上記のような監査法人の視点を参考にして準備を進めてはいかがでしょうか。
(参考)
日本公認会計士協会「新規上場準備のための事前準備ガイドブック」より抜粋
上場を検討中の方がショートレビューを受ける前に情報収集するには
なお、上場を検討中の方で、まだショートレビューを受けるのが少し早いかな、と思われる方は、日本取引所グループ(東証一部二部、マザーズ、JASDAQなどの新興市場)のウェブサイトを参考に情報収集してみてください。
それぞれの株式市場の違い、上場基準などの基本情報はわかっているが、具体的にどのような審査のチェックポイントがあるかを確認してから上場戦略を考えたいという方には、以下のサイトがあります。
新規上場基本情報のページでは、主に、各市場の違い、上場要件、上場スケジュール、最近のIPOの状況などの概況が掲載されています。
上場を検討している企業や、IPOをサポートする関係者向けに市場ごとのガイドブックが閲覧できます。
例えば、マザーズやJASDAQ編では、上場制度の概要、形式要件、上場審査の内容、事前チェックリスト、上場審査に関するQ&A、上場前の株式等の譲受け又は譲渡及び第三者割当等による募集株式の割当て等について、新規上場時の公募又は売出しについて、企業組織再編に係る取扱い、上場に伴う費用などが掲載されています。
まとめ
株式上場はゴールではなく、戦略を実行するための1つの手段であり、新たなスタートにとなります。
投資家を始めとする様々なステークホルダーに対して企業の社会的責任を果たし、企業価値を高め続けていくためには、財務面のみならず顧客や取引先のロイヤリティ、従業員のエンゲージメント、地域社会やグローバル社会との関わり方など、企業を取り巻く360度の視野からの未来志向のマネジメントが必要です。
これは上場企業に限ったことはありません。いつでも上場できるだけの体制を整備しておき、戦略的に最適なタイミングで資本市場からタイムリーに資金を調達するできるようにするためにも、上場の意思決定をしたら、早めに監査法人等に相談して事前準備を進めることが重要です。