【楽天大学学長が指南】ネットショップの時流は「老舗スタイル」にあり?
楽天大学学長 仲山進也インタビュー【前編】
日本最大のECショッピングモール「楽天市場」において、加盟店4万1000店の成長パートナーとして活躍する、楽天大学学長である仲山進也氏が、価格競争、過当サービスではない、「顧客との関係性を深める」ビジネスの方法を「究極の対面販売の道」として推奨。今回は『あのお店はなぜ消耗戦を抜け出せたのか ネット時代の老舗に学ぶ「戦わないマーケティング」』の著者・仲山進也氏が、どんなにがんばっても大手資本に太刀打ちできない「消耗戦」を抜け出して、楽しくかつ顧客満足度を高めるビジネスの方法を指南します。
仲山進也プロフィール
仲山 進也(なかやま・しんや) 北海道生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。シャープを経て、1999年に社員約20名の楽天へ移籍。2007年に楽天で唯一のフェロー風正社員となり、2008年には仲山考材株式会社を設立、Eコマースの実践コミュニティ「次世代ECアイデアジャングル」を主宰。著書に、『楽天大学学長が教える「ビジネス頭」の磨き方』(サンマーク出版)『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則――『ジャイアントキリング』の流儀』(講談社)『あのお店はなぜ消耗戦を抜け出せたのか ネット時代の老舗に学ぶ「戦わないマーケティング」』(宣伝会議)などがある。
売れているモノを売るとなると、激しい消耗戦を余儀なくされる
山田 仲山さんのご著書(『あのお店はなぜ消耗戦を抜け出せたのか ネット時代の老舗に学ぶ「戦わないマーケティング」』)、読ませていただきました。非常に本質を突いた内容で、付箋だらけにしてしまいましたが……(笑)。
仲山 ありがとうございます(笑)。
山田 私のような仕事をしていると、これから起業したい、ネットショップを開きたいという人からよく相談を受けるんです。仲山さんの中で、「こういう人だったらいまの時代のネットショップに向いている」というイメージはありますか?
仲山 うーん、すでに商売をしていて、ファンとなっているお客さんがいるような人だったらイケると思います。この本でいう「変人」タイプです。それに対して、通常の物販で、ゼロから商売を立ち上げるのはだんだん難しくなってきています。10年ほど前だったら、ネットで売れそうなモノを仕入れるルートさえ見つければよかったかもしれないけど、いまはそれも難しい。この本でも書いているように、売れているモノを売るとなると、激しい消耗戦を余儀なくされますから。
山田 確かにそうですね。
仲山 アンテナ感度の高い人は、早い段階からネットショップをやり始めています。いまから始めたいという人は、長いあいだ商売を続けていて、実店舗がうまくいっているから今までネットショップをやる必要がなかった人。または、「みんながやっているからそろそろウチもやらないと」という人かのどちらかだと思うんです。前者であればいまからでもイケるでしょう。とはいえ、実店舗がうまくいっている人はネットショップをやる必要性がそんなにないから、意外と力を込めにくかったりする傾向はあります。
山田 手を抜いたり、甘えが出てしまったり。
仲山 やはりネットの優先順位を上げにくいようです。実店舗の商売が右肩下がりで「ネットショップに活路を!」という人のほうが伸びやすかったりする。そこにかけていますから。
商売に集中できる環境が整っているからこそ、ほかにはない価値を考えないといけない
山田 ここ最近のeコマースの大きな動きだと、ヤフーが「ヤフー・ショッピング」を無料化するなど、初期費用をかけずにネットショップを開ける時代が来ていますよね。freeeのようなクラウド型の会計ソフトを使えば、簡単にデータも管理できて運営コストも下げられる。一見、チャンスなのかなって思うのですが。
仲山 EC業界もだいぶ成熟しつつあるので、ネットショップの特別感ってもはやないんです。そのへんで実店舗を出すのと変わらないというか、結局「あなたはどういう価値をお客さんに提供できるんですか?」ということになる。
山田 なるほど。
仲山 楽天市場ができる前は、自分でサーバーを立てるところから始まって、買い物カゴの仕組みとかもプログラムできないといけなかった。でも、いまは商売に集中できる環境が整っているわけですから、ほかにはない価値を一生懸命考えないといけません。それをやっている人の一例が、この本で紹介している店舗さんなんです。モノを仕入れていただけの人が、お客さんがついたことでPB(プライベートブランド)商品をつくれるようなスケールになったり、レモン部みたいに、モノではないサービスというか、独自の価値を加えた商品をつくっているところとか。
山田 お客さんが部活動としてレモンの苗木を育てて、その過程をSNSで共有するレモン部の“商品”は、コンテンツでもあるしコミュニティづくりでもありますよね。
仲山 「部活型商品」と呼んでいます。コミュニティをつくるというと、何をしていいのかわからない、売上にならないと思われるかもしれないけれど、レモン部の場合は「苗木のアフターフォローをおもしろく仕組み化したもの」と考えると理解もしやすいと思います。
僕らはモノを買うときに、人と喜びを分かち合いたいと思っている
山田 一方で、卵の専門店「卵の庄」の場合は、狙っていないのにコミュニティができあがっていった好例ですね。
仲山 そうですね。店長の畠中さんが、自社で生産する卵をどうやったら全国の人に食べてもらえるか、商品の価値や品質を伝えられるかと工夫しているうちに、コミュニティが自然と形成されていったんです。楽天には「闇市」といって、商品ページにパスワードを設定できる機能があります。もともとは、メルマガにパスワードを書いて、メルマガ読者限定の商品を案内できるようにつくった機能なんですけど、畠中さんは「闇市」を使って「ウチの卵に爪楊枝は何本刺さるか」というクイズを出題し、その答えがパスワードになっているというふうに応用することで、お客さんに楽しみながら商品価値を知ってもらったりしてきた。すると、お客さんとお店との距離が自然と縮まって、「おもしろい卵屋さんがあるんだよ」というふうに、卵とセットでお店のことを紹介したくなるんです。
山田 結局、僕らはモノを買うときに、ただ便利にモノを買いたいだけではなくて、お裾分けというか、人と喜びを分かち合いたいと思っているんですよね。自分がいいと思うモノを共有するために、お金をかけて買い物を楽しむ。自販機みたいな商売では、絶対に出てこない姿勢だと思います。
仲山 みんな、「何かおもしろいことはないかな?」と思っているんです。でも、何がおもしろいかわからないから、確実におもしろいとわかっているディズニーランドみたいなところに行く。「これおもしろくない?」ってお店の人が提案してくれて、おもしろいと思えるモノと出合えれば、お金を使ってくれるし、使い続けてくれるんです。「この商品のある人生は楽しいですよ」ってことを広めていけるかどうかが大事だと思います。
山田 おもしろいことって、自分では検索しようがないですもんね。予定調和なものしか検索できないから。
「老舗スタイル」のお店は、環境の変化も乗り越えていける
仲山 ただ、SNSが普及したことで、おもしろいモノが広まったり、友だちから教えてもらうってことは起きやすくなっていますから、昔と比べると成果が手応えとして返ってくる時間は、だいぶ短くなっていると思います。
山田 おもしろいモノを提供したい人にとって、チャンスは広がっていますよね。
仲山 今回、この本で紹介した商売の考え方って、別に新しいものではなくて、昔からあるもの。でも、EC業界が伸び盛りのときは、手っ取り早くもうかる「一発屋」的なやり方に多くの人が行っていたわけです。そして、業界が成熟してそのやり方ではシンドくなってきたときに、以前からそれぞれの強みを生かして商売をしていた「老舗スタイル」のお店が相対的に元気よく見えてきたんでしょうね。SNSの普及で「老舗スタイル」のお店がけっこう目立つようになって、「ああいうやり方もアリかも」と気づき始める人が増えてきているのが、最近の流れだと思います。
山田 楽しそうですもんね。デバイスの変化に影響されないというか。ユーザーがPCをスマホに持ち替えた瞬間、購入率が下がった商品が出てきているという話があって。例えば、ネット保険は申し込みが減ったらしいんです。検討に時間がかかりますから、情報が限られてしまうスマホでは限界がある。それに対して、「老舗スタイル」のお店はデバイスの使い勝手に関係なく、ユーザーがお店の文化とか、つくり出したモノを愛している気がします。だからこそ、環境の変化も乗り越えていけるのかなって。
仲山 保険みたいな商品は、「この人が勧めるんだったらいいかな?」みたいに、誰かに背中を押してもらいたいという側面のある商品ですよね。すると、いくらネットが便利でも買おうと思い切れない。「老舗スタイル」のように、このお店、この人が勧めるなら買ってもいいと思える環境をつくることができる人には、これからチャンスがあると思います。
[後編へつづく]
インタビュアー山田案稜
山田 案稜(やまだ・ありゅう)株式会社パワービジョン代表取締役。同志社大学哲学科卒業後、システムエンジニアを経て2007年にWEBマーケティング専門会社パワービジョンを立ち上げ、中小企業から東証一部上場企業まで幅広くWEB事業のコンサルティングを手がける。最近は、スタートアップ企業のマーケティングにも積極的に取り組んでいる。著書に、『すぐに使えてガンガン集客! Webマーケティング111の技』、『世界一ラクにできる確定申告 ~全自動クラウド会計ソフト「freee」で仕訳なし・入力ストレス最小限! 』『Googleアドワーズ&Yahoo!リスティング広告 最速集客術 ~SEMの極意』(いずれも技術評論社刊)、『小さな会社のWeb担当者になったら読む本――ホームページの制作から運用・集客のポイントまで』(日本実業出版社刊)、『WebクリエイターのためのWebマーケティング』(ソシム刊)などがある。
『あのお店はなぜ消耗戦を抜け出せたのか ネット時代の老舗に学ぶ「戦わないマーケティング」』宣伝会議[発行]/ 仲山進也[著]
『あのお店はなぜ消耗戦を抜け出せたのか ネット時代の老舗に学ぶ「戦わないマーケティング」』 定価 本体1,600円(+税)/四六判/240ページ/ISBN 978-4-88335-313‐2 広告界のニュースサイト「Advertimes(アドタイ)」での12回の連載は、毎回その日のアクセスNo.1となるほどの人気。そちらに書き下ろしコンテンツを加えて書籍化しました。来年の消費増税10%に向けて、「いかに顧客の支持を得るか」に対して敏感になっているこの時期に読んでいただきたい1冊です。
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