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2014年10月09日(木)

ネットで安物買いする理由は、興味を惹く良いモノを「知らない」だけ

経営ハッカー編集部
ネットで安物買いする理由は、興味を惹く良いモノを「知らない」だけ

楽天大学学長 仲山進也インタビュー【後編】

楽天大学学長・仲山進也氏インタビュー前編に引き続き、『あのお店はなぜ消耗戦を抜け出せたのか ネット時代の老舗に学ぶ「戦わないマーケティング」』の著者・仲山進也氏が、どんなにがんばっても大手資本に太刀打ちできない「消耗戦」を抜け出して、楽しくかつ顧客満足度を高めるビジネスの方法を指南します。文末に前編のリンクがございますので、ぜひ前編からご覧ください。 仲山進也 仲山進也プロフィール 仲山 進也(なかやま・しんや) 北海道生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。シャープを経て、1999年に社員約20名の楽天へ移籍。2007年に楽天で唯一のフェロー風正社員となり、2008年には仲山考材株式会社を設立、Eコマースの実践コミュニティ「次世代ECアイデアジャングル」を主宰。著書に、『楽天大学学長が教える「ビジネス頭」の磨き方』(サンマーク出版)『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則――『ジャイアントキリング』の流儀』(講談社)『あのお店はなぜ消耗戦を抜け出せたのか ネット時代の老舗に学ぶ「戦わないマーケティング」』(宣伝会議)などがある。 [sc:ebook_mynumber ]

「老舗スタイル」のお店は、お店を開く目的がはっきりしている

山田 SEOなど、テクニカルな知識も入ったWEBマーケティングの本を出している私が言ってしまうと身も蓋もないんですけど、マーケティングとかデータ分析をそこまでやっていないネットショップのほうが、利益率が高かったり、楽しそうにやっていることが多いですよね。そうした分析にかかりっきりになっているお店のほうが、毎日シンドそうだったりして……(笑)。

仲山 確かにそうですね。そもそも、「売上を上げたい」とみなさん言いますけど、それはなぜかというと、「みんなが売上を上げようとしているから、自分も売上を上げたい」と思っている気がするんですね。何のために売上を上げるのか、売上を上げることでどうなりたいのかについては、あまり考えていない。 仲山進也2 山田 はい。

仲山 「老舗スタイル」の畠中さん(「卵の庄」店長)がどうしてネットショップを始めたのかといえば、卵の需要が少ない時期に、余る分の卵をネットで売れたらラッキーという目的で始めたんです。だから、必要以上に売上を伸ばす気はサラサラない。自分は何のためにネットショップを開くのかってことがはっきりしているんですね。「みんなが売上を上げようとしているから自分も……」と思っている時点で、消耗戦のスタートラインに並んでしまっているようなものです。それで売上を上げるために、みんなと同じような勉強をするから、頑張れば頑張るほどシンドくなる。

山田 SEOを極めようが、Googleアナリティクスを解析して有益なデータを見出そうが、そんなことを細々と時間をかけてやっているうちに、シンドいところに行ってしまっていると。

仲山 それって時間がかかることだし、さっき話したように(前編を参照)、サーバーを自分で立てなきゃいけなかった時代と変わらないことをやっているような気がします。価値創造をやる時間がなくなるという意味で。

 

「自己中心的利他」の人が増えればおもしろい

山田 商売じゃなくて技術をやってしまっている。これからの時代のネットショップに大切なのは、何にために商売をするのかってことですよね。それが競争力の源泉だと思うし、ほかの人にはマネできないことですから。

仲山進也3仲山 そう思います。

山田 この本に書いてある一番おもしろいところも、そこなのかなって思いながら読んでたんです。

仲山 読んでいただいた人の感想でよく出てくるのが、「自己中心的利他」というキーワードなんです。これは、お客さんに喜んでもらえることをおもしろがって、自己中にやりたいことをやるということ。一人とか少人数でやっていたときは、「自分が楽しい」と思えることがモチベーションになるけど、売上が伸びてスタッフも増えてくると、「自分が楽しい」と思っていることが必ずしもスタッフのモチベーションに直結しないと気づくわけです。すると、「みんなが同じ方向を向ける経営理念が必要だ」「世のため、社会のためにやらないといけないのか」なんてモヤモヤし始める。でも、「自己中心的利他」の考え方の人は、自分のなかでやり続ければいいと思えることがはっきりしている。そんな人が増えるといいですね。

山田 対外的で、聞こえの良い理念をつくってもつまらないですからね。

 

変人が集まる環境を提供できれば、不安は解消されるし、変人を貫ける

仲山 「みんなと一緒」という基準で動いていると、みんなと一緒じゃないことが不安になります。だから、僕が楽天の中でやっていることは、変人が集まりやすいような場をつくることなんです。

山田 変人ですか(笑)。

仲山 自分よりも変な人がこんなにいっぱいいる、しかもちゃんと食べていけている、とわかる環境を提供すれば、不安は解消されるし、変人を貫けるようになると思うんです。ひよってみんなと同じような道に進もうものなら、「お前らしくない」なんてダメ出ししてくれる人が集まっているというか。

山田 いいですね。独立してビジネスするときに重要なのは、「こんな生き方しているんだ」という人に触れられる環境を維持することだと思っていて。私はフリーランスに近い形で仕事をしてきましたけど、「雇われから外にでていろいろな人に会ってみると、いろんな生活の仕方、仕事の仕方があることに気がついたんです。これはすごいと感動しました。どうやって食べているんだろう?」って思える人を見ていると、精神安定剤になるし、やる気にもなるんです(笑)。似たような人ばかりが集まっているところにいると、自分も同じようにしないといけないんじゃないかと必ず影響される。自分の意思がどんなに強くても。

仲山 山田さんが「いまはネットショップを出店する環境が整ってきて、チャンスのような気がする」とはじめにおっしゃってましたけど、実店舗だと半径何kmみたいな商圏があって、その中で食べていかないといけないわけですよね。だから、ヘンなことをやるというより、無難な商売になっていく。

山田 そうですね。

仲山 ネットショップの良いところは、全国を相手にできるので、ヘンなことをやっていてもそれに共感してくれる絶対人数が確保できれば食べていけるところなんです。そういうことに気づいているのが、変人スタイルをやれている人の共通点ですね。

 

僕らが安いモノを求めてしまうのは、興味を惹く、良いモノを「知らない」だけ

山田 判子屋さんの「邪悪なハンコ屋 しにものぐるい」もそうですよね。

仲山 ここのお店は、開店当時の目標が「スタッフ一人の給料分」だったから、万人受けする必要はまったくない、と考えたそうです。それがエッジ立ちまくりのスタンスを貫けた要因として大きいと思います。

仲山進也4 山田 お店の名前もヤバイし、衝撃を受けました(笑)。ところで、いま、ネットショップって全国に数十万はあると思うんですけど、これだけ小さなお店がやっていける環境が整っているのは、日本だけじゃないかと思うんです。交通インフラも整っているし、送料、発送の問題もない。日本全国しっかり指定した日と時間に商品が届く国って他にあるんでしょうかね。小さい個人のネットショップでも安心して買えるのも日本ならではのように思えます。どことは言いませんが、国によっては、ネットの小さな個人店からは怪しくてとても買い物ができない(笑)。

仲山 そうですね。あと、独自の価値という点でいうと、ものづくりをやっている人。日本には、こだわって良いものをつくっている人が多いんですけど、いままでは価値をわかってもらえる機会があまりなかったわけですよね。そういう人たちが楽天に出店すると、スイッチが入りやすい。「ネットショップは『よいモノをありがとう』ってメールをもらえて楽しい。オレのこだわりをわかってくれる!」と。

山田 僕らが安いモノを求めてしまうのって、ただ単に「知らない」からなんですよね。知らないからありきたりなモノを調べて、わざわざ高く買う必要がないから安く買う。興味を惹くモノ、良いモノがどんどん出てきたら、世の中は変わると思います。

仲山 本のなかに、「2回買った人はリピーターではない」という話があって。楽天のデータサイエンティストと店舗さんが集まって、もっといいデータの分析方法がないかってブレストしてたときに、「老舗スタイル」の店舗さんだと意外な数字が出てこないんですよね。数字を見ても新しい発見がない。

山田 データをいくら分析しても、たいしたデータが出てこないんですよね(笑)。

仲山 ふだんからお客さんと接していて、お客さんのことをよく知っていれば、「数字を見て初めてわかること」はあまりないってことなんです。逆に言うと、お客さんと接することがあまりない、分業が進んだ組織の場合は、市場調査でニーズや市場規模を確認して、想像上のペルソナを設定して、みたいなことをやらないといけない。そのためにデータを見て、「お客さんという想像上の生き物」に思いを馳せることになります。老舗スタイルの店長さんは、「常連の田中さん」のように、実在するお客さんをペルソナとしています。

 

ちゃんとした商売人にとっては、いい流れがきている

山田 ネットかリアルかは関係ないところで、いいお店が決まってくるということですね。最後に仲山さんに伺いたいんですが、ネットショップがファスト化して、安くて早くてまあまあ良いみたいなところばかりに人が群がっていくのか。それとも、「老舗スタイル」みたいなお店が増えていくのか、どちらだと思いますか?

仲山 結局、いまの日本にどういう店が多いのかといえば、独自のことをやってない人が山ほどいます。ただ、二極化するとは思います。「まあまあ安くて、まあまあ早くて、まあまあ良い」という中途半端なところは淘汰されそうです。

山田 地方の駅前や国道沿いって、どこにいっても同じような店が入っているじゃないですか。最近では東京ですらそんな感じがしています。ネットもそうなってしまったらつまらないなと思うんです。

仲山 いまは「決まったモノを買うならamazonでいいじゃん、便利だし」ということを、アンテナ感度がそんなに高くない人でも薄々感じられる流れになっています。そういう意味では、どんなネットショップにしたらいいのか、考えざるを得ない時代になっていますから、早めに路線を変えようとか決心しやすくなっています。だから、きちんとした商売人にとってはいい流れだと思いますね。

山田 わかりました。本日はありがとうございました。

仲山 こちらこそありがとうございました。

前編にもどる

インタビュアー山田案稜 山田 案稜(やまだ・ありゅう)株式会社パワービジョン代表取締役。同志社大学哲学科卒業後、システムエンジニアを経て2007年にWEBマーケティング専門会社パワービジョンを立ち上げ、中小企業から東証一部上場企業まで幅広くWEB事業のコンサルティングを手がける。最近は、スタートアップ企業のマーケティングにも積極的に取り組んでいる。著書に、『すぐに使えてガンガン集客! Webマーケティング111の技』、『世界一ラクにできる確定申告 ~全自動クラウド会計ソフト「freee」で仕訳なし・入力ストレス最小限! 』『Googleアドワーズ&Yahoo!リスティング広告 最速集客術 ~SEMの極意』(いずれも技術評論社刊)、『小さな会社のWeb担当者になったら読む本――ホームページの制作から運用・集客のポイントまで』(日本実業出版社刊)、『WebクリエイターのためのWebマーケティング』(ソシム刊)などがある。

 

『あのお店はなぜ消耗戦を抜け出せたのか ネット時代の老舗に学ぶ「戦わないマーケティング」』宣伝会議[発行]/ 仲山進也[著]

仲山進也書籍『あのお店はなぜ消耗戦を抜け出せたのか ネット時代の老舗に学ぶ「戦わないマーケティング」』 定価 本体1,600円(+税)/四六判/240ページ/ISBN 978-4-88335-313‐2 広告界のニュースサイト「Advertimes(アドタイ)」での12回の連載は、毎回その日のアクセスNo.1となるほどの人気。そちらに書き下ろしコンテンツを加えて書籍化しました。来年の消費増税10%に向けて、「いかに顧客の支持を得るか」に対して敏感になっているこの時期に読んでいただきたい1冊です。

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