改正電子帳簿保存法で、企業の書類保存プロセスはどう変わるのか?(前編)
昨年9月30日から、電子帳簿保存法施行規則が改正施行され、その運用が2016年1月1日より始まっています。また、本年9月30日にも追加の施行が予定されています。
電子帳簿保存法は、1998年7月に制定された法律で、国税関係帳簿書類の全て又は一部を電子データによる保存を認めた法律のこと。2005年3月に改正され、紙媒体の書類をスキャナで電子化しての保存の規定が追加されました。
この改正のおかげで、証憑を電子的に保管するための条件が大幅に緩和され、より多くの企業で証憑の電子保存が導入しやすくなりました。
改正された電子帳簿保存法について、freeeの認定アドバイザーであり、『平成28年度改正対応こうなる! 国税スキャナ・スマホ撮影保存』を出版された「佐久間税務会計事務所」の佐久間 裕幸先生に詳しいお話を伺いました。
ものすごく詳しくお話しくださったので、全3回に分けてお届けします。
規制緩和から生まれた”電子帳簿保存法”
――電子帳簿保存法はって、そもそもいつから施行されたのでしょうか。
18年前の1998年です。この年って山一證券がつぶれ、日本長期信用銀行がつぶれ、日本債券信用銀行がつぶれ、都市銀行から日本拓殖銀行がつぶれ…みたいな、日本全体の経済が悪くなっていた状況で、なにかテコ入れしなくてはって時期でした。 そういうときに手っ取り早くできるのが規制緩和で、電子帳簿保存法もそういったキッカケがあったんです。
――規制緩和がキッカケで生まれたんですね。
電子帳簿保存法以前の紙の時代は、大企業の総勘定元帳だけでもすごいボリュームになってしまうんです。たったの1カ月分で段ボール箱が埋まるくらい。上場企業だったらそこまでいきます。 1カ月、1年と経ち、それが10年間分を保存しなさいってなると、「勘弁してくれ…」となるんです。
――保管するのは総勘定元帳だけじゃないですよね。
ええ、得意先元帳、固定資産台帳、あれやこれやあって、大企業から「電子保存でもいいんじゃないの?」ってニーズはあったんです。実際、国税局が調査してるときには、「画面でどうぞ。検索もできますよ」と言うと、「ああそうですか」って喜んで使ってくれます。 そんな実態があり、施行されたのが1998年。予算のかからない景気刺激策だったわけです。
――それまではずっと紙を7年間保管する必要があったわけですよね。
地方に工場がある会社だと、工場の一角に物置をつくって、「調査で3年分は見るから本社に保管して、4年より前のやつは工場へ送っとけ」みたいな。で、10年経ったら捨てる…みたいなことをやってたんです。そんな状況があって、国税としては「では認めましょう」っていうところで始まったんだと思うんです。
平成17年に導入された”スキャナ保存”
――18年前に始まり、段階的に緩和されつつあるんでしたっけ。
次の改正が平成17年ですね。スキャナ保存というものが導入されました。
――約11年前ですか。
これもまた一種の規制緩和です。電子帳簿保存法の98年も帳簿と書類両方電子保存だったんですけど、自分がつくったものの控えを出さないでいいよって話です。請求書の控えってやっぱり会社って保管しておきたいじゃないですか。 それを出力しないで、電子保存でいいですよっていう使い方をしてたわけですよね、それまでは。平成17年になって、じゃあ今度はもらった書類も電子保存したいっていう話でスキャナ保存が生まれました。
――紙の原本は破棄しても大丈夫なんですか?
スキャナ保存して、電子署名とタイムスタンプ付けて、ちゃんと改ざん防止の措置をしてくれさえすれば捨てていいよと緩和されました。 ただ、唯一のネックが領収書と契約書、要するに取引の最初のところで契約書があって、終わったところでお金の決済だから領収書。この出口入口はきっちり押さえたいってことで、「3万円未満のものに限る」って要件が付いてきました。
――3万円以上だったら?
紙で保存せねばなりません。
――では17年以前と同じということですね。
途中の納品書とか送り状とか、あるいは取引が始まる前の見積書、これは電子保存していいよと。でも、契約書が一番大事だったりするじゃないですか。制度ができた当初言われてたのが、大手損害保険会社が電子保存したいんじゃないのって話なんです。 日本に仮に車が5千万台あったとして、5分の1のシェアをその大手が持ってたら、年間1千万枚の任意保険と自賠責保険の紙がそれぞれ来るわけで。
――年間2千万枚ずつ紙が溜まるわけですか。
それはたまらないよね、と。損保の代理店のところで紙があっても、それが営業所へ来た段階でスキャナ保存されて、損害保険会社の中で契約審査部とか、いろんな部署へ回るわけですよね。 入口で電子化されてたら、瞬時に各課へ回るじゃないですか。これ便利じゃないのというようなことで、入れようって話になっていったわけです。経団連主導で進んだという話もありますね。
基準のせいで初期の制度は浸透せず
――でも国税は気乗りしないので3万円という基準を設けた?
おそらく。自動車の任意保険は3万円以上かかるので対象外ですよね。そんなわけで損保会社は手を挙げず、申請を出さなかった。国税庁の発表だと、平成17年から平成26年の間でスキャナ保存の申請って152件しかされていないんです。
――たったの152社?
社というか、件数ですね。ですから、1年目納品書について、もらった納品書をスキャナ保存しようっていって申請1件出した会社があったとして、翌年「これ便利だから請求明細書も電子保存しよう」ってやってもう1件申請ってのも、1社が2件出しても、その152のうちの一部ですから。実際は百数十社だったんじゃないですかね。トータル152件。つまり、ほぼ使われていなかったと言って差支えないレベル。
――金額基準を設けたために、社内で選別しなきゃいけないわけで、面倒そうです。
そうです。社内ルーチン業務として、「これは2万5千円だから電子保存できる、こっちは3万円以上だから紙で保存しなくちゃ」って仕分けて、3万円以上のファイルと、電子保存のシステムで別管理するって、現実的にあり得ないですよね。
――全然浸透しなかったんでしょうかね。
書類が多い場合、発行する側も迷惑なので、大企業同士だったら電子取引に移行したっていいわけです。納品書データとか送って、相手もそれもらって。典型的なパターンは、自動車会社のように数千社の部品会社とやりとりする場合とか。 これに対して、電子取引ができないのは携帯電話の各ショップ。機種変更するたびに、けっこうな用紙を発行するでしょう?そのうちの何枚かは署名したりして。最近はタブレットで署名するパターンもありますけど。ああいうような、企業の1対多で取引するような、BtoCみたいな場合に、スキャナ保存ってすごい便利なんです。でも携帯電話も3万円以上することが多いので使えず。そんなかんじで、制度は使われないままでした。
――それが平成26年近くまで続いた、と。
平成17年当時、これが商売になるって踏んだスキャナ会社が現れたんですが、制度が浸透しなかったので全然駄目だった。 ところが平成26年くらいに「規制緩和が進めばよいのでは」ってことで、内閣府の規制緩和委員会で取り上げられたんですね。「景気対策になる」と判断されたのだと思います。今回も規制緩和の一環で、3万円基準を緩和しようって話になって、平成27年の改正でスキャナ保存がほぼ解禁されました。
ほとんどの企業は導入に消極的だった
――今まで浸透しなかったのは、推し進めたくないって意思が企業内でも働いていたからですか?
企業の経理マンとしては、3万円基準だけではなくて、電子署名がついているか、タイムスタンプが押されているか、業務の流れについての規程を申請書類として提出しておく…という場合に、その流れが変わったら変更申請出さなきゃいけないし、もし調査のときにタイムスタンプ漏れとかがあったらどうしようとか、心配事が多すぎるんです。最悪の場合、「書類がないじゃないですか」って言われたら、青色申告取り消しになりかねません。
――青色申告ってカンタンに取り消されるものですか?
いや、普通はないです。でも、誰しも最悪のリスクって考えるじゃないですか。経理の人たちって、今まで紙の書類を扱って、帳簿に集計して…って商売をしてきたわけで、本能として書類を捨てたくないんでしょうね。
――目に見えないものになってしまうのが不安…。それは企業内部の抵抗感でしょうかね。
内部の抵抗も大きかったと思います。あと、外部の抵抗としては3万円基準。平成27年で電子署名もいらなくなったんですが、たとえばマイナンバーカードの中にも電子署名が入ってますとか普及はしてきてますけども、平成17年の段階って、「電子署名って何?」みたいな世界だったんです。
――概念が全然理解されていなかったとか?
住基ネットカードの中にも搭載できたし、それからわれわれの世界だと国税の電子申告の際に、税理士は電子署名を付けて申告書に電子署名するわけです。そんなものが制度として始まりかけた段階ですね。政府としては政府認証の公的認証をつけるための制度ができてまだ数年みたいな段階なので、国民のインフラになってないわけです。
――言葉すら浸透していないかもしれないですね。
タイムスタンプに至っては、ほんとに電子帳簿保存法をずっと勉強してきた人間がぱっとそれ見たときに、「え?これ何?」って感じで。タイムスタンプというのはどんな制度で、どういう会社が提供していて、どれぐらいの費用がかかるサービスなのか皆目見当が付かなかったんです。
次回はタイムスタンプ、そして平成28年に改正された「スマホ撮影」についても触れます。お楽しみに。
取材協力 「佐久間税務会計事務所」佐久間 裕幸様
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