改正電子帳簿保存法で、企業の書類保存プロセスはどう変わるのか?(中編)
改正された電子帳簿保存法について、freeeの認定アドバイザーであり、『平成28年度改正対応こうなる! 国税スキャナ・スマホ撮影保存』を出版された「佐久間税務会計事務所」の佐久間 裕幸先生に、2016年1月1日から「改正電子帳簿保存法」について詳しいお話を伺いました。
今回は中編をお届けします。
タイムスタンプはまだまだ浸透しきっていない
――今ではタイムスタンプは浸透している…のでしょうか?
タイムスタンプ業者は今では5社ぐらいまで増えてきましたし、個人でネット登録をすると、月間5件までタイムスタンプの無料体験サービスできる的な会社もあったりして、だいぶやりやすくはなっています。
だから、われわれがお客さんの大事な契約書をつくって、契約書として相手との関連があまりない場合。たとえば社内の取締役会議事録とか。でも後からつくったのではなく、「絶対にいついつの時点にもうあったんです」って証明したい場合があるじゃないですか。いくら日付をうって代表印が押してあっても、いつでもバックデートで作れます。
――ですよね。
でも、そのときにタイムスタンプがあれば、タイムスタンプ会社の証明日時は2016年何月何日ってちゃんと出てくるわけです。ちゃんと分と秒まで記されます。その後ファイルを改ざんしたらその認証ができなくなりますので。
だから、つくった時点でタイムスタンプ付けたら、その後は絶対にいじれません。そういう意味では素晴らしい制度なんですけど。まだ普及してないときに使えと言われちゃったと。
――それは厳しいですね。ところで、平成27年から電子署名が撤廃されてちょうど1年になるかというところですか。
施行が9月だったので、もうすぐ1年ですね。タイムスタンプだけになり、電子署名はいらないのが今回の改正です。これである程度動いていくのかな…という気はしています。
政府側は、「これで大丈夫でしょう」って要件にまでおろしてくれたので、制度を使って企業の生産性アップにつなげるのは民間企業の役目。ボールは政府から民間に投げ返された状態ですね。
――約10カ月経ち、普及はしていますか?
そこのデータはまだ出ていません。国税庁の年度でいうと、7月から6月までのデータが何か月か後に公開されると思います。
――まだしばらく先の話ですね。では、体感だとどうですか?
まださほど動いていない印象です。というのは、大量のデータを扱うからこそスキャナ保存をしたいんです。100枚程度だったらいらないんですよ。つまり、申請したいのは本来大企業のはずなんです。
ただ、大企業は業務の流れを一つ変えるだけでもけっこう大変。情報システム部門が現場部門とやりとり調整して、法務部門が、「え?紙なくなるんですか?」とか、経理部門が「そういうのがなくなると現場が改ざんした上でスキャナかけるんじゃないですか?」とか、いろいろみんな言い始めるわけです。
――なんとなく想像ができます。
平成27年の改正までは、実質は大企業限定の制度だった
あとは、軽減税率含めた消費税が入るっていう期日が延びましたけど、差し当たりは来春から動くはずだったわけじゃないですか。システム部門の人たちって、たぶんそれが頭にあって、「スキャナ保存はその後だ」みたいなことはあったと思います。
消費増税は19年に延びたとはいえ、それまでの間にきちんとインボイス発行できるようにとか、システムの設計から現場でのスタートまでって、やっぱりそれぐらいの速度感じゃないですか。最初の半年でしっかり要件を詰めて、1年ぐらいかけて開発して、テストをして、これで大丈夫だよねと。特に請求書とか領収書とか、お客さんとやりとりする書類なので、間違いがあったら大変なので、かなりしっかり検証するはず。
――なるほど。
その上で現場に説明したり、ユーザ説明会とかやるわけです。今までのように消費税の法案可決がされて、「はい1年ちょっとでやりますよ」みたいなのは、やっぱりちょっと厳しかったんですよね。だから、軽減税率どうなんだって心配してたのが延びたのはよかったんですけども。 ただ、システム部門の人は、やっぱりそんなことを考えるさなかにスキャナ保存が緩和されても、やっぱりすぐには乗らないのではないかと。
――中小企業とか零細だとそんなに必要ないのかも?
そんなに必要はないと思います。27年改正の段階で国税の人と話したときは、そもそも中小企業団体から、たとえば経団連は大企業で、東京商工会議所、日本商工会議所みたいなところが中小企業の意見を出すんですけど、そういうところの要望に乗ったことはないって言っていました。大量にあるからスキャナ保存したいんです。少なければ紙の保管でいいですからね。
――じゃあ零細企業だとますます、特に困りはしないんですね。
平成27年までのスキャナ保存は、日本のトップ1万社までの制度だったかもしれないですね。
平成28年の改正で”スマホ撮影”が解禁された
――いわゆる名だたる上場企業さんみたいなところですね。これが平成27年改正で緩和されてほぼ完成したのでしょうか?
もう一つ段階進化があります。それが今年の28年改正でスマホでの撮影保存がOKになった点。今まではスキャナに読み込むことで、書類の大きさとかまで全部読み取って電子データとして持ってなきゃいけなかったわけですけど、スマホで撮ると大きさがわからないわけです。
――近くで撮ればサイズが大きく映りますね。
固定台の付いたしっかりしたスキャナで読み込まなくても、ペン型で読み取ってもいいし、スマホで写真を撮ってもいいと。領収書やレシートは小さいですよね。それをスマホで撮影して、freeeのサーバーへ送ると帳票として読み込んでくれるわけです。しかも仕訳までしてくれます。その際にタイムスタンプも一緒に付けるし、後で帳票の検索もできますっていうサービスをfreeeが提供してくれていれば、スマホ撮影保存の要件を満たします。
営業マンがあちこちで接待したり、打ち合わせ会議をしたり、あるいは新幹線に乗ったり、そういった精算のときの領収書を会社に集めると、数百枚、数千枚になります。それが集まると大変です。集めるまでの移動コストもありますし。
――さらに日数もかかってしまう、と。
旅費精算書とか書いて、その裏なり2枚目なりに貼って、それを社内便に乗せて本社に送ったりするわけですが、そんな作業がスマホ撮影保存で無くなりますよね。今度は中小企業のほうがやりたいって話になるかと思います。
しかも電子帳簿保存はクラウド会計と相性がいいんです。スマホで撮った写真集めて、画像を整理するデータベースのシステムを持って、タイムスタンプを付けてっていうシステムを自前で運用しようと思っても、中小企業はとても負担しきれません。
――ですよね。
でもクラウド会計のfreeeへ送れば仕訳案にまでしてくれるので、旅費の精算書を見て経理の人が一生懸命打つ必要はなくて、どんどんfreeeのサーバーに送られていく。経理はそれをチェックしていれば作業が終わります。
作業量が何分の1かになりそうです。
――だと思います。そうすると小規模企業でも使えます。freeeの月間の使用料金の中でそういうことができたらば、大きな負担なくスキャナ保存、スマホ保存ができてしまう。
スマホ撮影のおかげで社員が少しずつ楽をできる
重要書類を電子保存できることよりも、スマホで社員が少しずつ楽できるってことのほうが中小零細にはより刺さるかもしれません。
今まで大企業向けだった電子帳簿保存法が、初めて200万社、あるいは個人企業も含めると300万~400万社の事業者に向けて開放された改正なわけですよ。
――法人、個人事業主どちらでも問わず、誰でもいいんですね。そういえば確か7年間は紙で保存せねばならないルールが確かあったと思うんですけれど、電子保存だと原本は不要なのですか?
ちゃんと申請してルールに則っていれば破棄OKです。
――倉庫の大量の保管資料が、これからは消せるっていうことですよね。
今後は倉庫に入る荷物がなくなり、7年間とか経つと、その倉庫のものも全部捨てることができます。移動コスト、管理コストが不要になります。
――ちなみに、廃棄する前にチェックは必要ですか?
27年のスキャナ保存だと、まず契約書等を受け取る人がいます。つくって渡した後の控えを持つ人がいて、読み込む人がいて、読み込んだ後ちゃんと読み込めているとチェックする人もいます。三者が社内にいないといけないです。一部をアウトソーシングでもいいわけですけど。それが終わっていれば捨ててOKです。
――撮影し終わったからといって、その場で破って捨ててはまずいですね。
28年のスマホ撮影保存でも、もらった人が撮影するからスマホ撮影保存なんですね。もらってきた領収書を社内に来て経理の人がわざわざスマホで撮る必要ないわけで。もらった人が撮るからスマホ保存っていう要件になってます。
スマホで撮るからっていう要件ではなくて、受け取った人、あるいは作成した人自身が撮って、3日以内にタイムスタンプを付けた場合にはという要件になっておりますね。
あと社内でそれがちゃんと確認できると。さらに小規模企業の場合には、その確認を顧問税理士がやれば、会社の人は関わってなくてかまいません。
次回は「スマホ撮影が零細企業にメリットが多い話」、「スマホだけではなく、ガラケー撮影もOK」について触れます。お楽しみに。
取材協力 「佐久間税務会計事務所」佐久間 裕幸様
関連リンクはこちら
領収書・請求書は、紙で保存から電子保存へ 紙の保存コスト年間3000億を削減するe-文書法を、クラウド会計ソフトfreeeの人が世界一優しく解説!(Paper Hack)