人の上に立つ人間じゃない私が編集長になるまで
@人事編集長の安齋(あんざい)と申します。
チームビルディングに関する言葉に、「フォロワーシップ」という考え方があるのをご存知でしょうか? フォロワーシップとは、「集団の目標達成に向けてフォロワーがリーダーを補助していく」こと。
早稲田大学ラグビー蹴球部の元監督である中竹竜二氏らが提唱しています。従来のようにリーダーが引っ張っていくだけではなく、フォロワー(部下)が自発的にチームに貢献していくマインドを指します。
フォロワーシップを意識すれば、たとえリーダーがリーダー的な素質を持ち合わせていなくてもチームを率いていくことは可能です(もちろんリーダー自身もフォロワーシップを発揮し、組織に貢献する必要があります)。
私自身、現在はとある媒体(紙とWeb)の編集長を務めておりますが、私の性格は決して人の上に立つタイプではありません。どちらかというと、「この人についていって大丈夫だろうか」と人を不安にさせる性格と言ってもよいのかもしれません。
今回は、そんな私がなぜ編集長として媒体を率いていくことになったのか、実際に編集長になってみてどのような苦労に遭遇したのか、について述べようと思います。
<参考記事> 「天才でもカリスマでもない、普通の人のためのリーダーシップ」
引っ込み思案だった幼少時~学生時代
私は昔から引っ込み思案でして、小学校・中学校・高校と、あまり目立たないように生活してきました。授業中に先生に指されるのが苦手で、ずっと先生と目を合わせないようにしているような学生だったのです。先生に指されると、顔を真っ赤にしながらボソボソと発表していました。
大学時代は少し活発になり、学生団体の立ち上げなどに参画しました。しかし役職はあくまでも「副代表」であり、自分から前に出るようなことはせず補佐に徹していました。私は総じて地味な学生であり、到底人の上に立つ者とは思えない人間でした。学生時代の私を知る人は、いま私が編集長を務めていると聞いたらきっと驚くはずです。
面接の席で編集長就任を打診される
そんな内気な私が、いかにして編集長になったのか。実は私自身が「編集長をやりたい」と名乗り出たわけではありません。ここからは、私が編集長に就任するまでを見ていきましょう。
私は東京で数年間、Web編集者・ライターをしていました。ひょんなことから大学時代を過ごした仙台にUターン就職をすることに決めた私は、人材紹介会社を使ってとある会社を見つけます。それがいま所属している会社です。選考過程では、「今までの経験を活かして編集職かライター職に就ければいいな」くらいの感じでいました。
ところが面接の席で、「編集長にならないか」と打診されてしまいます。肩書きがもらえることに魅力を感じた私は、その重責について深く考えることなく快諾してしまいました。面接は1回で終わり、2015年3月入社が決まりました。
入社初日、社長から会議室に呼ばれました。会議室にいたのは、ライター、デザイナー、web担当者、マーケティングなどの職種の人たち。そこで社長からメディア事業の話があり、説明が終わると社長は会議室を出ていきました。残されたメンバーが、のちに媒体を作っていくメンバーになります。
そこから、編集長としての仕事が始まりました。ここではじめて、媒体を立ち上げるプロジェクトがまったくの白紙であることに気づいたのです。しかもWeb媒体だけでなく、紙の媒体も立ち上げなくてはならないという衝撃の事実も知りました。
「紙の経験なんてない…。」 ずっとWeb媒体を経験してきた私は正直焦りました。翌日にはさっそく社長に「自分にメディア立ち上げなどできるのでしょうか?正直不安です」と相談。社長からは「十分能力があるから大丈夫」と言われました。
「6月ローンチ」目指して始動、しかしチームはバラバラ
web媒体のローンチは2015年6月1日に決まりました。つまり、私の試用期間中に媒体を立ち上げなくてはならないというスケジュールでした。いま振り返れば、かなりタイトなスケジュールだったと思います。紙媒体のほうも7月1日発行に決まり、さっそくプロジェクトが動き始めました。
しかしながら、私はあくまでWeb媒体出身。恥ずかしながら、DTPの意味すら知らなかったのです。もちろんラフ作成をしてデザイナーに依頼するというフローも、初めて知りました。
※DTP(Desktop publishing、デスクトップパブリッシング) 書籍、新聞等の編集に際して行う割り付けなどの作業をパソコン上で行い、プリンターで出力を行うこと。
紙の媒体もWebサイトもまだ存在していない以上、思い描いている媒体のイメージを資料で説明するしかありません。デザイナーに対しては、「誌面管理表」と呼ばれるページ割が書かれたExcelファイルなどを用意しました。これは各ページにどのような記事が収録されるのか一目でわかるようにしたもので、できるだけ紙媒体のイメージが浮かぶように作成しました。
さらに私自身、誌面デザインのセンスがなく、デザイナーに依頼する際にどのように説明すれば良いのか迷いました。そこで、実際に発行されている雑誌の中でデザインに使えそうなページを印刷し、「こんなデザインでお願いします」と依頼することにしました。この方法はデザインセンスの無い私の唯一のコミュニケーション手段であり、うまく機能しました。
雲を掴むような形でプロジェクトをスタートさせてしまったので、当然メンバーには不信感が生まれます。私自身も媒体のコンセプトなどをメンバーに共有するのが遅れ、メンバーの不安を増強させてしまいました。結果として、メンバーごとにイメージする媒体のデザインが異なるという事態に陥りました。
これはマズいと思い、編集会議とは別に定期的にデザインのミーティングを設定することにしました。コミュニケーションは「質」より「量」だと考え、とにかく媒体のイメージを説明することにしたのです。
はじめのうちは編集部(私とライターの2名)側とデザイナー側で意見の相違がありました。写真をどこに配置するのか、どんなフォント・色を用いるのか。デザイナーさんにはデザイナーさんのプライドがあり、「この写真は使えませんね」と言われることもありました。最終的にはデザイナーさんの思い描くものを尊重しながら、誌面デザインを作っていきました。
とにかく形のないものをつくる段階だったので、メンバーにひたすら説明しました。はじめはメンバーそれぞれバラバラの考えを持っていましたが、真摯に説明する機会を増やすことで、少しずつ認識の共有ができるようになりました。そしてなんとかWeb版6/1ローンチ、紙媒体7/1発行に間に合わせることができました。
キーマンを見つけられた
私の場合、チームに調整能力・事務処理能力に長けた人がいたのが救いでした。その人はメンバーとの信頼関係も良好で、主体的に行動できる人です。彼がいなければ、私のチームは崩壊していたことでしょう。彼と協力体制を築き、チームをうまく回すことができました。
執筆者への打診やWeb版のPV施策は私、紙媒体のプロジェクト進行は彼、という具合で、二人三脚で媒体を運営していくことが可能となりました。「1人でWebと雑誌の両方を見るのは正直無理…」と感じていただけに、本当に助かりました。現在、彼と私は「編集部」として、デザイナーやWebディレクター、営業などのメンバーとやりとりをしています。
メンバー一人ひとりが当事者になるための権限移譲
人はいつも他人のせいにしがちです。「○○さんがこう言っていた」とか「○○さんが決めたから」と言い訳をしてしまいます。ですが、もし「私ならこうする」と自分で考え、実際に行動できるメンバーが集まったらどうなるでしょう? きっとメンバー全員が当事者となり、高いパフォーマンスを発揮するチームになるに違いありません。
私の媒体も、メンバー各自が自主的に考え、行動しています。まさにフォロワーシップが生かされている集団なのです。プロジェクト開始当初は「私が引っ張っていかなければ」と焦っていましたが、常にチームを引っ張っていくことがリーダーではなく、時にメンバーに任せるということも重要なのだということを学びました。
いつも文句を言う人の対処法
どの会社にも文句を言う人はいるものです。そういう人たちは、うまくいっているときには褒めないくせに、ちょっとでも失敗すると批判をしてきます。
こういうタイプの人間の言葉は気にしないのが一番です。何か言ってきたり、陰でコソコソと悪口を言ったりしてきても、それを受け流していきましょう。文句を言う人の性格を変えることはできませんから、自分自身が「動じない人間」になることが大切です。
目上の人だったり、無視できない人だったりする場合はどうするか。その場合は「なるほど、そういう意見もありますね」といったん同意したうえで、「私はこのように考えていました。このやり方なら、こんな効果が期待できると思います」と持論を展開します。
それでも文句を言ってきたら、「その意見も含め、考えます」と言ってその場をクローズさせるのが一番。文句を言う相手は怒りでイライラしているので、相手がクールダウンするのを待ちましょう。
まとめ:1年4か月経って振り返る
編集長になって1年4か月。本当にあっという間でした。編集長になったことでメディアという”資産”を世の中に残すことができ、本当にうれしいです。いわゆるゼロをイチにする仕事は初めての経験でしたが、何もないところから形あるものを作っていくことの楽しさを感じることができました。
性格はそんなに変わらないので、いまだに「人の上に立つ」ことには慣れません。いまだに急なアクシデントに焦ってしまう自分がいます。しかもコミュニケーションがそれほど得意ではないので、相手に説明するときも時間がかかってしまいます。
ですが、媒体を成長させる「情熱」だけは持っているので、その熱い気持ちでメンバーとコミュニケーションしています。たとえ説明が下手くそでも、熱い想いを持って説明すれば、きっとわかってくれると信じているからです。これからも、情熱を絶やすことなく仕事を全うしていきたいと思います。
なお、今後はプロデューサー的な役回りをしてみたいと考えています。具体的にはお金を集め、編集長をはじめとするメンバーをセレクトし、媒体をプロデュースする仕事です。これからも何らかの形で情報発信に携わっていきたいと考えています。