ポールダンサー個人事業主 まなつさんに教わった「疎かにしがちだけど、仕事とるのに大事なのは〇〇」という話
経営ハッカーの中山です。 突然ですが、ポールダンスってご存知ですか?
床から天井まで垂直に伸びた柱(ポール)を使って、柔軟性や筋力を駆使して、昇り降り・スピン・倒立などの体操的な技を複雑に組み合わせたダンスで、(ショーパブ等で披露する)ショーダンスの枠にとどまらず、エクササイズや競技として世界中で親しまれています。
今回は、ポールダンスを職業にする女性フリーランス、「まなつ」さんを取材させていただきました。
まなつさんは高校を卒業して1年間ニートをした後、ロンドンに留学。勉強しながらウエイトレスをし、20歳で帰国してからは高級キャバクラで働いたりバニーガール等をしつつ、渋谷のITベンチャーでライティングや編集の仕事もこなして、今の職業はポールダンサー(&ときどきライター)。
住所は不定。趣味は予約で特技は発券。歌って踊って騒いで、人の話をよく聞く仕事に従事し、海外を放浪しつつ、文筆業もするという、紆余曲折を通り越して波乱万丈なモーレツ人生を謳歌するまなつさんの登場です。
※まなつさんのブログ
※ニホンジンドットコムの連載 「おっぱいが大きかったので会社員を辞めてポールダンサーになった話」(全8話)
ダンス9割、執筆1割な仕事スタイル
―― ポールダンサーと文筆業を仕事にするって、あまりロールモデルがないですよね?どうやってセルフプロデュースしているのかとか、仕事につなげているのかって話をお聞きしたく。まずはダンスと執筆の比率を教えてもらえますか。
お店への出勤は週5~6日ぐらいです。それ以外のときもイベントの主催者さんとスケジュールのやりとりをしたりとか、書類をつくる事務もあるので、ずっと働いている感じです。
―― 普通のサラリーマン以上に働いていますね。執筆ではどんなことを?
書くほうは、ニホンジンドットコムさんやハートクローゼットさん等の媒体でコラムを書いたりとか、ですね。それ以外にもWebサイトの校正をやっています。
―― Webページの誤字がないかとか、この文章表現おかしくない、みたいな編集業?
ええ、ベンチャー企業を辞めた後も、そこから1年ぐらいはフリーとしてお仕事をいただいていて、それも辞めてからは校正をしたり。自分の色を出せる記事も書くし、ニュースサイトの原稿等もちょこちょこ書くことも。ポールダンスは関係ない記事です。
―― ダンサーとライターの割合比率はどれくらい?
ダンスが圧倒的に多くて、9対1くらい。
―― 書く仕事と踊る仕事を両立する人って、珍しくないですか。
他のジャンルのダンサーさんだったらいるかもしれないですけど、ほとんどいないと思います。ポールダンサーで個人ブログを書く人や、最近ではインスタグラムをやる人はまあまあいるんですけど、本格的な長文を書ける人は少ないかなと。
―― 文書と踊りでは、表現スキルが違いすぎますもんね。
ですね。それでも文章を書く人の割合は増えている気がします。SNSが発達して、誰もが書くのが当たり前というか、書ける場所が普通にあるということに皆気付いたんじゃないでしょうか。
執筆に目覚めたキッカケは、中学時代の創作小説
―― もともと書くのが好きだった?
文章を書きはじめたのは中学のときです。当時、好きな子がいたんです。相手は女の子で、初恋で。当時は携帯サイトが流行っていて、「魔法のiらんど」とかが人気でした。日記とかブログが浸透しだした時期でしたね。
―― 2000年前半はテキストサイトとかも人気でしたね。
アンパンマンとか有名なアニメキャラの二次創作的な小説を書いてみたんです。どこかに載せようとか、人に読んでほしいって目的じゃなくて、ただ書いてみただけ。で、試しにその好きな子に読ませました。そしたら、彼女にめっちゃウケて、「すごく面白い、才能あるよ!」って言われてうれしかった(笑)。
―― それが原体験。
ウケたいって気持ちが発端になって、文章を書くのが楽しいなと思って、ブログを始めたんです。
―― 中1でですか?
中1か中2ぐらいかな。同人もやっていました。絵は描けなかったので、小説だったんですけど、小説を書くサイトをやっていました。で、そのサイトにブログ機能が備わっていて、それでブログを書きはじめたんです。
―― けっこう若い頃ですよね。
13か14歳ぐらい。その頃は熱心に毎日書いていました。本格的にライティングの勉強を始めたのは20歳を越えて上京してからなんですけど、それまでずっと日記は書いていました。mixiが出はじめて、みんなが長文日記を書いているのを見て、私も同じように書いてみたいと思って。家族仲がすごく悪かったので、家族の愚痴とか…。
―― いろいろ吐いてたんですね。
吐き散らかしてました。
―― ある意味ストレス発散の機能もあったのかも。
今となっては認知療法だったと思っています。自分で自分の認知療法をしていたなと。今も書いていて、「あ、今自分は認知療法やってるな」って思うときがありますね。
営業のコツは「シンプル&カジュアル」
―― ダンスでも文章でも、表現するのが好きなんですかね。でも、勝ち負けには執着していないような。
勝ちたいとは思うんですけど、逆にすごく負けず嫌いで。だから負けるかもしれないんだったらやらない、みたいな。勝てる土俵でしか勝負しない。もしくは、土俵に私しかいないところにしか行かない。絶対勝てるのってそれじゃないですか。自分しかいなかったら私が勝ち。
―― 自分にとっての土俵をつくっちゃえばいい?
わざわざ他人が100人とか200人ひしめいているところに乗り込まなくても、自分で自分の土俵をつくって、「はい、ここが私の場所」って宣言したら、誰も来れないと思います。
―― オンリーワンとしてトップに上り詰めちゃう感じですね。
そのほうが楽かなというのはありますね。
―― 制作会社に入って、辞めて、バニーガールに戻って、それも辞めてポールダンスで食っていく……ってなって今に至るわけですが、浮き沈みはありました?
ものすごくありました(笑)。
―― 1人でやっていくうえでのセルフプロデュースや営業はどうされているんですか。
ポールダンスの仕事で話しますと、すごく簡単なことです。名刺をつくって、配りまくる。それが第1段階。別に「よし、飲み屋に行って営業するぞ」って気合入れて出向くわけじゃなくて、どこかに飲みに行って偶然隣に座った人に、「私、ポールダンサーなんです」って名刺を渡すとか。
―― わりとカジュアルですね。
相手が強烈な変人じゃない限り、「良かったら会社の忘年会とかどうですか」とか言って渡します。
―― 営業というより、声掛けレベルですね。
いきなり「よろしくお願いしますっ」な感じではないです。飲んで、しゃべって、互いに仲良くなったら、「実はこういう仕事してますよ」と。たったこれだけで、けっこう営業になっているものです。
自分がすごく好きなクラブのイベントに出演したいって憧れていたとき、けっこう大規模なパーティーだったので、ポールを始めたてのころは「私なんかがとんでもない…」って尻込みしていました。ただ、主催者にわりとしつこく「出たいなー、出てみたいな~」って言い続けました。そしたらあるとき、数か月先のイベントに誰を呼ぼうか主催者が迷ってて、「じゃあ、出てみる?」って声をかけてもらえました。
コネクションは大事だけど、直談判できる度胸も必要
―― 今思えば、何が利いたんですかね?
主催者が面倒くさかっただけかも(笑)。「出たがっている子もいるし。そこそこキャリアもあって能力もわかっているし、だったらいけるやろ…」みたいなかんじでオファーいただけました。
―― パッと思い出してもらえたのが、まなつさんだったということですよね。
地道な活動が功を奏しました。地道&直接頼むのが一番早いですね。例えば出演したいお店があったら、「出演させてください」って言う。
―― ダイレクトに伝えちゃうんだ。
経験上、直談判が一番手っ取り早いです。
―― 直談判できなかった時期もあった、と?
ポールダンス始めたてのころは自信がなくて……周囲には自分より上手でキレイなポールダンサーさんがたくさんいたので、私ごときがそんなイベントに出るなんておこがましいって自主規制していました。でも、とあるパーティーに出演したところ、「今度こういうイベントをやるんだけど、うちでも踊ってもらえない?」と言ってもらえるようになって、なんにもしなくても仕事がちょこちょこ入ってくるようになったんです。
―― 自信が付きますね。
いけるんじゃないかと思いまして。1回頼んでダメでも、「じゃあ空くまで待ちます」みたいな。ちょっと時間をおいて、「どうですか、最近」みたいな。特別なことはしていないです。
―― プライドが邪魔したり、過度に自主規制して行動できない人も少なくない気がします。
ポールダンサーという職業は特殊でして、ポールダンスだけで生計を立てている人って、個人的な感覚ですが、日本にせいぜい150人か200人くらいのはず。そもそも総人口が少ないので、売り手市場ではあると思うんですよね。
―― じゃあ、まなつさんはその中の一人だ。
今のところはそうですね。趣味でやっていて、たまに大会に出るとか、副業としてお小遣い稼ぐ…みたいな中間層は大勢います。べつに「ポールダンスで食えている人=偉い」とかではなくって、特殊な仕事ではあるけど、1回コネをつかんで目立つことができれば、わりと仕事が入ってくる…みたいな状態にはできると思います。
とはいえ、最初は自分からいかないと何も起きないので、まずは直談判すること。あと多いパターンは友達づて、コネクションですね。「今度こういうイベントで4人ポールダンサーが欲しいんだけど、良かったら一緒に出ない?」って仲のいい子が誘ってくれるというのが一番多いパターンだと思います。
―― 1回頼んで断られて、「もうダメ…」って落ち込む人もいますが、そんな人達に何か伝えるとしたら?
それが自分にとってすごく大事だったら、諦めないんじゃないかなー。でも、気概がないとやっていけないとは思います。
日本がポールダンサーにとって仕事しやすい国である理由
―― 好きとか憧れだけでは厳しいものもありますよね。
憧れだけでは厳しいです。重要なのは「好き」って情熱。まあ、行動が伴わないとポールダンスで食っていくというのは厳しいですが、35歳ぐらいまでは余裕かなと。
―― そうなんですか?
ニホンジンドットコムの連載の最終回にも書いたんですけど、日本は他の国と比べてポールダンサーが生きやすい国なんです。理由は、ショーパブがあるから。座席で接客して、お客さんにお酒をつくったり談笑して、ステージで踊って、また席に戻って接客する…的な。
―― 初めて知った…。なんせ、行ったことがないものですから。
キャバクラとショーが合体したようなお店がちょこちょこあります。そういう場所に行って踊ればお金がもらえるんです、1日いくらとか、時給で。それを週5でやれば、別に食うには困らない。水商売なので時給はわりと高め。堅実な生活をすれば貯金もできます。見た目に気を使って真面目にやって、周りの人をないがしろにしたりせずにこつこつ働けば35歳ぐらいまでは余裕で食べていけると思います。ただ、ポールから落ちる事故もあるので、怪我は気を付けなくてはいけないです。
―― 落下することがあるんですか?
私は絶対落ちないことを信条にしているのでほぼ落ちません。でも、酔っ払って踊って、落ちて怪我したり骨折してしまう人は稀にいますね。1日1日のお金で生きているし、休んだからって有休があるわけじゃないから怪我は本当に避けたいです。
―― 健康保険とかも…。
ないです。落ちて怪我をしたところで、労災もないですよ。自己責任。治療費も自腹なんです。
―― 完全に個人として請けてるわけですね。
お店で保険をかけてくれていて、怪我をしたら保険金が出るってケースもありますが、普通はないです。基本は自己責任。コンディション管理は気を遣ってます。最初はまったくなんにも知らずというか気付かず、お声を掛けてもらって初めてイベントに出て、その後もなんとなくそのイベントに出させてもらったりとかして。会社を辞めて、ポールダンサーになるきっかけのお店に入ってからは、週に6日、夜から朝までみたいなかんじで無我夢中で働いていました。働き始めてから、体調管理や安全面に気をつけなければいけないと気づきましたね。
―― ハードですね。
かなりハードでした。当初はキャラを考える余裕もなかったです。週6出勤なのでキャラもへったくれもない、とにかく踊らなきゃみたいな。ただ、そんな中でも「こういうふうにしたらウケるんじゃないか」とか「こういう衣装は合うんじゃないか」とか考えていました。
※日々の体づくりに欠かせないプロテインやサプリメント
踊りがうまくて、若くて、美しければ仕事がとれる…わけじゃない
―― キャラ付けを真剣に考えはじめたのは、そのお店を出てフリーになってから?
ですね。20代半ばになってから。20代前半は若さを武器になにも考えずにやってこれました。年下もいなかったですしね。でも、20代半ばになったら、後輩が現れてきたんです。しかもすごく上手な子もいて。
―― 焦りを感じた?
焦りだったのかな…焦りかもしれないし、もっと別の、「今の方向性のままではダメかもしれない」「間違った道を歩んでいるかも」みたいな感情は芽生えましたね。後輩は若いし、かわいいし、スタイルも良い。しかも、私と違って幼少からバレエを習っていたりとか、10年の体操歴があるとか。
―― 素養がある人たちがライバルになってきた、と。
経験値、若さ、美貌を持ち、しかもポールがめちゃめちゃ上手な子がいっぱいいました。彼女らも一生懸命営業はします。ただ、私のキャリアの長さもあると思うんですが、私のほうが仕事は取れていました。同じように営業をしても、私のほうがギャラが高かったり、仕事量も多かったり。
―― 軽い自慢に聞こえる…(笑)
いや、それってやり方の問題なんだって気付いただけです(笑)。ダンスがうまいとか若くて可愛いから必ずしも仕事が取れるわけじゃないんだなと。それこそセルフプロデュースの話ですよね。自分のスタイルを確立させられたら、絶対に稼げると確信しました。
―― 踊りがうまくて、若くて、美しければOKって単純な話ではない?
ではないです。ヒトコトで言うと「愛嬌」です。お店で本格的にダンサーとして働く前に、別の場所でも踊っていたんですが、そこは本格的なショーではなくて、「空いている時間に踊ってもいいよ」くらいの感じのお店だったんです。お客さんが「ポールダンス見たい」って言ったら踊ればいいじゃんな感じでした。
私以外に20人ぐらいポールダンサーがいました。みんなすごく上手。技術もあるし、ムキムキ。私は一番ひょろひょろで難しい技はできない下っ端。「やべえな、この中じゃポール踊れないな」って思ってました。お客さんから「君もポールやってんだったら踊りなよ」と言われても、「いやいや、めっちゃ下手なんで無理です、無理です」と断り続けてたんですけど、断り切れなかったときがあって仕方なく舞台に立ったんです。
―― ふむふむ。
他の子がポールを踊ると、2000円~3000円ぐらいチップをもらっていました。私なんかが踊ってもチップとか無理だわ、もらえないわって思ってたんですが、お店中のお客さんからなんと3万円くらいもらったんです。
―― 何が起きたんですか?
じーっとお客さんの目を見て踊ったんです。笑顔で。他のみんなはポールがめっちゃうまいんですよ。でも、愛嬌に欠けていて、「私すごいでしょ、私上手でしょ」ってかんじで空を見て踊ってたんですね。誰とも目を合わさないで。ショーパフォーマーとしてはそれも一つの表現方法で、自分の設定した役を演じて、終わったらお礼してサッサと引きあがるのも正しいとは思いますけど。
男も女も「愛嬌」が命
―― まなつさんは何が違ったんでしょう。
私は自信がなくて緊張してて、自分の中のキャラ設定もないので、踊っている間ずっとお客さんのほうにニコニコ視線を送りました。そしたら、「すっごく良かったよ!」って大好評で。難しいことはできないから、せめて笑顔だけはしっかりと…って心掛けただけでたくさんチップをいただけた。そのときに気付きました。「技だけじゃないんだな…」って。一生懸命さとかなのかな。
―― ただうまいだけだと、アートを見ている感じになっちゃいそう。
そうです。セクシーな衣装を着た体操でしかないんです。
―― 演技中に言葉を発するとか、お客さんに話しかけたりするものなんですか?
いえ、基本はしゃべらないです。視線でのコミュニケーションだけ。チップをたくさんいただけたのは良かったですが、「あの子、ポール下手なくせになんであんなにチップもらってんの」ってやっかまれました。しかも一番下っ端だったので。
―― 他のダンサーさんは、愛嬌に気づいてなったんですかね。
「私たちのほうがポールうまいのに、どうして」って気持ちがあったんだと思います。愛嬌もあってポールも上手なダンサーたちからは、「まなつちゃんは、お客さんの目を見てるからちゃんともらえるんだよ、そういうのお客さんは喜ぶからね」って伝えてくれたので、私の勝手な思い込みではないと思ってます。男の人にしてみたらなんでもパーフェクトにできる女より、一所懸命がんばってる子のほうが応援したくなるんですよね。それがたとえ演技でも…。
―― それはダンスの世界だけじゃなく、どこででも。
だと信じてます。「私はポールが上手です!(ドヤッ)」って自信満々のキャラでいくよりも、「ポール始めたばっかで全然うまくないんです」とか「ポールダンス一生懸命がんばります!」のほうが、「こいつかわいいな」って思うんじゃないでしょうか。踊る間も視線を送り続ければ、「かわいいな、じゃあチップやるか」って(笑)。「まだまだです、一生懸命がんばります!」って言っといて、いざ踊り始めてめっちゃ上手だったら、それはそれでギャップだし。
―― かわいげが重要なのか~
そりゃ私がお客でもチップあげたくなるわ、みたいな。みんなやればいいのにと思うんですけど、実践する人は不思議なくらい少ない。かっこいい系のダンサーが多いですね。
―― 男性にも当てはまりますかね?
当てはまると思います。男も女も愛嬌だと思います。
水商売ならではの”顧客満足度”の計り方
―― まなつさんから見て、どんな男性が愛嬌があると思います? 男は「これがカッコいいんだ、女性にウケるんだ」と思っているけど、女性から見ると「違うんだよな」ってあるじゃないですか。「筋骨隆々 × タンクトップ = カッコいい(男性の願望)」 vs 「やりすぎはちょっと…(女性の本音)」みたいな。
自分の弱いところを認められる人じゃないですかね。例えば、筋肉をバキバキに鍛えてムキムキの肉体なのに、「実はオレ、おなか弱いんだよ」って弱点をさらっと言えちゃう、とか。弱さをひた隠しにするんじゃなくて、実は自分にはこういう弱いところがあって、恥ずかしいと思っているんだけど、それも自分自身なんだってさらけ出せる。「頭に10円ハゲが出来ちゃった、どうしよう、ちょっと見てよ」って言える。相手が気を許せるような言動ができるのって、ひとつの愛嬌じゃないですかね。やっぱり人間、完璧すぎる人よりも一箇所でも欠点がある人の方が魅力的なんじゃないかと。
―― 鎧でガチガチに固めない感じ?
私も25歳ぐらいまで鎧でガチガチに固めてました。でも、これではあかんと。「私すごいでしょ、私きれいでしょ、私かわいいでしょ」だけでは、見ているお客さんは疲れちゃう。私も仕事の一部でいろんな人のポールダンスを見る機会がありますけど、自分のいいところ、素晴らしいところだけ出そうとするダンサーだとちょっと…。
―― 「確かにうまいけどさ」な感覚ですかね。
「はいはい、うまいうまい。きれい、すごい、私にはできない」…としか思えない(笑)。そういう人よりも、人間の業(ごう)だったり、人間の欲とかダンスの技術以外の何かをショーの最中に感じさせるダンサーのほうが魅力的に映ります。他にも、ダンスはすごくかっこいいのに、接客はお笑い系って子とかは売れてますね。愛されキャラです。愛嬌たっぷりです。
―― 愛嬌って大事なんだな…。
年齢も性別も関係ないです。
―― かといって、ダンサーとしての技術の研鑽を怠るわけではないですよね。
もちろん日々練習はします。でも、それ以上にポールダンサーはお金をお客様にいただだく立場なわけで、お客さんに「今日は楽しかった。ポールダンス見れて良かった」とか、「ダンサーの子、すごくいい子だったな」って感じてもらえるようなショーをしたいなと思ってます。
―― 顧客満足。
顧客満足度を大事にしています。
―― 顧客満足度ってどうやって計るんですか? チップの額?
チップの額も大事な指標ではあるんですけど、男の人って優しいので、1人がチップを入れたら、じゃあ俺も入れなきゃってなって、結果的にチップが増えることもあるんです。良かったと思っていなくても、「それが夜のお店のマナーだし」と、1,000円入れてくれる方もいらっしゃいます。チップが多かった=満足いただけたのかなとは考えますけど、けっしてイコールではないです。
―― それは場合によりますもんね。
ショーが終わった後に客席でお話をして、そこでの反応でわかることも。
―― 肌で感じる?
肌と空気で感じますね。
曲で差別化、踊り方で差別化、土俵は自分でつくる
―― 話は変わるのですが、ポールダンサーっていわばちょっとしたアスリートじゃないですか。ダンサーとして注目する別競技ってありますか?
これは欠かさず観る!ってのはないんですけど、テレビでやっていたら見ちゃうのは体操と新体操です。単純に動きがすごいなと思って見入ってしまう。
―― ポールダンスに通じるものがあるから?
ですね。フィギュアも観ますし、ミュージカルも好きです。ミュージカル映画のDVDを買って振りを参考にしたりとか。「この曲、自分も使っちゃおうかな」って考えたり。演技も参考になるというか、演技も込みだと思っているので。
※ダンスの振り付けの参考にするDVD、その他エクササイズや解剖学の教科書
―― セルフプロデュースで気を付けていることってありますか?
ポールダンスって洋楽にあわせて踊る子が多いんです。
―― 私もそんなイメージがありますね。
リアーナとかNE-YOとか、流行っているアメリカの曲とかR&Bとか、そういうので踊る子が多いんですけど、私はJポップとか歌謡曲で踊るのが好きです。それもある種の差別化なんですかね。気づいたらしちゃってたんですけど。洋楽で踊るのがそんなに楽しくなく、シャ乱Qとかで踊るほうが楽しかったから。
―― へえ~
小学校や保育園のころから他人と行動するのが得意じゃなくて。元来、集団になじめる感じではなく、1人でできることのほうが好きだし得意。人と関わるのは嫌いじゃないものの、1人の時間がないと疲れちゃうんです。4人組で踊るダンサーチームとか2人のユニットを組んでいる子とかがいて、同じ衣装で合わせてすごくかわいいなとは思うんですけど、私は人と踊るのが苦手。
―― お笑いにたとえると、漫才ではなくてピン芸人かな。人に勝つよりも、人と違うことが大事?
自分だけの土俵を自分でつくるほうがいいです。
―― じゃあ、フリーランサーとしても、人を押しのけたり踏み台にするよりは、自分だけの城を建てることにエネルギーを注ぐタイプ?
ですね。自分で道をつくったほうが、1人の道だし、自分が先頭になれるからラクじゃん…くらいに考えてます。人の背中を見なくて済みますから、超気持ちいいですよ。
―― その代わり、切り拓く苦労はありますよね。
切る瞬間は大変かも。でも、鍬なのか斧なのかわかんないですけど、一度振り下ろしてしまえば、あとは勢いでどうにでもなるんじゃないですか。
―― 最初の1歩が大事ってことか。
1歩だけだと思います。しかも小さな1歩だっていい。スタートラインを5センチでも越えただけでも一歩は一歩。
―― それが進むコツかもしれないですね。
「とりあえずやる」みたいな。ブログもそうです。こつこつ毎日記事を書いて、いつかどこかの雑誌とか、書籍編集者の目に留まって、ゆくゆくは作家デビュー…とか妄想してました。そしたら、たったの4記事目であんなことになっちゃった(笑)。
―― わずか4記事目で?
「バズらせよう!」って狙ってすらいませんでした。ただ、書き終わって読んだら、「私、めっちゃいいこと書いてんじゃん…」って思って。それでニホンジンドットコムの仁田坂さんに記事リンクを送ったんです。
―― 自分から送った?
もともと知り合いだったので、「すげえいい文章書けたから、ちょっと読んでみてよ」って送り付けました(笑)。その前後に爆発的なアクセスが起きて…。小さな1歩が、ローリングストーンのごとく回りましたね。
貯金も休みもなかったけど、一歩踏み出して世界一周してきた
―― 「老若男女、愛嬌が大事!」が一番驚きで、勉強になりました。
愛嬌は大事。あと、気軽にお願いすること。もちろん、関係性のない人にいきなりお願いはしませんけど、「これどうですかね、できないですかね、無理ですかね」みたいな。「やってみたいんですけど、どうですか」とか。ダメ元でもいいから頼んでみる。
―― 軽いノリですね。
「どっすか」くらいで(笑)。このパターンが私は多い。断られても、「何々さん紹介しようか」ってなることもあるし。行動したら別の道が開けることもあります。1歩踏み出して閉じちゃっても、1列隣にズレれば開くことはある。以前までは完璧主義で、頭固くて、「これじゃなかったらダメ」だと思いこんでいたんですけど、じつは道はたくさんある。
―― 道は1本だと信じ込まない。
そのほうが絶対にいい。寄り道したことが楽しかったりとか、いろんな人に出会えたりとか。結果的に楽しかったらそれでいいや、みたいな。時間はかかったけど、この道は楽しかったって思うようにしてます。
やりたいことリストをつくって更新しているんですけど、私が本当にやりたいことは10年間ずっと同じで、10年前にやりたかったことを今実現できたりしているんです。
―― たとえば?
日記を書き続けているんですけど、「世界一周をしたい」って10年前に書いていたんです。で、こないだ世界一周をしてきました。10年前の日記には、「お金がない、時間がない、仕事が休めない(から行けない)」と理由があって達成できなくて。当時の私は、「世界一周するには100万円の貯金と1年間のオフをつくらないと実現できない」って思いこんでいました。が、実際は貯金もないし2カ月しか休めませんでしたが…。
※世界一周中に訪れたスペイン・バルセロナ市民の憩いの場、シウタデリャ公園
―― 行けてしまった。
実際回れたたのは5カ国だけで、大したことはしていないけど、文字通りぐるっと西回りで世界一周はしました。1年かけて100万円なきゃ絶対世界一周できないよって思ってたのに、そんなことなかったな~って。
―― 一歩間違うと、100万を貯めるってことだけに一生懸命になっちゃいそう。
とりあえず一歩踏み出してしまえばいいんですよ。私の一歩は「片道分の飛行機チケットを買う」でした。買ったら行かざるを得なくなる。自分を追い込んじゃうと、グダグダ言ってられなくなります。
他に一歩の例を挙げると、会社を辞めたからポールダンサーとして食っていかなきゃいけない。元の道には戻れないし、戻る気もない。ポールダンスを1年半訓練して、レッスン代もそこそこ払ったから、初期投資を回収するぞ~というのもありました。
―― いろんなPDCAのサイクルを回しているような感じですよね。ダンス業界の話ではありつつも、仕事や生き方に通ずる普遍的なお話です。
あいさつをするとか、連絡をこまめにとか、メールに即レスする…そういう地道な行動が信用につながる。人間ですよね。人間的な部分。性格が悪い、連絡が遅い、遅刻する人は、いくらかわいくてどんなにダンスが上手でも頼みづらい。
―― あてにできないですよね。
「かわいいし、スタイル良くてポールもうまいけどちょっとな…」みたいな。
―― そうなっちゃいます。
だったら、ポールの技術はそこそこでも、なんならちょっとぎこちないけど、一生懸命踊ってくれるし、連絡も早いからこの子にしよう、ってなりますね。がんばり屋さんで、時間と約束が守れて、人間性がしっかりしている人に仕事は行く。それをひっくるめてポールダンサーに必要なのは「コミュ力」ですかね。
―― 人としてきちんとしているって部分?
人としてきちんとしているというのが、やっぱりポールダンサーの一番大事な条件かなと。フリーでやっていく以上、嫌われたらおしまい。信用を失ってしまったらそこで試合終了。
―― 会社が守ってはくれないですからね。
誰も守ってくれない。店すら守ってくれない(笑)。自分しか頼れるものがない。体の管理をして、いっぱい練習して、本番のときは絶対に落ちない、怪我をしない。連絡にはちゃんと返事して、仕事を取りまとめて、さらに営業も欠かさず…を地道に続けないと。食えている人はそれを知らず知らずのうちにやっているんです。
―― 価値あるお話、ありがとうございました!