20歳前後まで教育を受け、一つの仕事に就き、60歳前後で引退する…なんて世界はもはや過去の話
はじめまして、株式会社みらいワークス代表取締役社長の岡本祥治(おかもとながはる)です。
今世の中では、“雇用関係によらない働き方”として、フリーランスというワーク・スタイルが注目されています。当社は“プロフェッショナル人材が挑戦するエコシステム”を創造することを目指し、日々活動しており、またフリーランスとして活躍されている大勢の方々とお会いし、お話を伺ってきました。また、私自身もフリーランスのコンサルタントとして活動していたこともあり、この十数年の日本の“働き方”への考え方や社会の変化を肌で感じてきました。
今回は、これから迎える長寿命社会で、世の中がどのように変化するのか、そしてその中で生き抜いていくために大切なことはどんなことなのかをお話させていただきます。
日本にも多様性のある働き方をする人々が増えてきたワケ
安倍政権が打ち出している“働き方改革”については既にご存知かと思いますが、これは、日本の少子高齢化と人口減少、それに伴う労働人口の減少によって働き手が不足する未来を危惧し、この状況に手を打つべく打ち出された施策です。
概要としては、『20歳前後まで教育を受け、その後(雇用され)仕事に就き、60歳前後で引退する』という、これまで通例とされてきた労働に対する考え方を変え、残業規制や女性やシニアの労働力の活用や、テレワークの推進、兼業・副業の推進、フリーランスという働き方などの“多様性”を認める社会になろうというものです。
日本は既に働き手が不足し始めており、企業側が多様な働き方を受け入れることができないと、労働力を確保することができず会社が立ち行かなくなるという未来が見えてきています。もちろん、働き手である“人々”の固定観念をなくすことも必要ですが、“多様性”を認めるということは、会社にとって“努力”ではなく必須になっているのです。
この“多様性”ですが、日本には既に多様化された働き方をしている人たちがいます。企業に雇われるのではなく、個人事業主や一人会社などのスモールカンパニーとして活動している方々です。このような方々がこの10年で増えてきているのですが、なぜ増えたのか、少し時間を巻き戻しながら考えてみましょう。
主な要因はふたつです。
ひとつは、1円で株式会社を立ち上げられるようになったこと。小泉改革の中の、いわゆる商法改正の一環で、2006年5月に施行されました。それまでは、有限会社が300万円、株式会社は1,000万円なければ立ち上げることはできませんでした。それが1円あれば設立可能になったのは、とても大きなイノベーションでした。
もうひとつは、ITインフラが整ったことです。今やパソコン1台あればどこでもビジネスができてしまう時代になりました。これは、インターネットやモバイル環境が整備されたこと、日本の仕事に対する文化的な部分が変わったこと、そしてクラウドサービスの進化によるところも大きいでしょう。
このふたつの要因によって、まとまった資金があることが起業の条件ではなくなり、起業の敷居がぐっと下がりました。このような理由で、個人事業主やスモールカンパニーで活動する人が増えたのです。
そして今、このような雇われない働き方で挑戦する人が増えていることと、前述した労働人口の減少による働き手の不足というふたつが掛け合わさったことで、“フリーランスをもっと活用しましょう”という動きが本格化してきました。
これからの社会のために、会社はどのように変わるべきか
フリーランス経験もあり、たくさんのフリーランスの方々と対話してきた私としては、独立している人々に対する考え方や風土を企業側が変えるべきだと思っています。企業は多様性を受け入れることに対して、“受け入れなければならない”とあたかも義務のように考えている傾向がありますが、むしろ逆に捉えるべきです。
新しい働き方を実践している人たちを組織の中で活かすことは、企業自体も変化するチャンスになるのです。変わりゆく未来に向けて、企業も変化を遂げなければならない今、この時流の変化は会社側にとって変化する絶好の機会となるはずなのです。
では、なぜ企業側はその絶好の機会に対し“受け入れなければならない”という捉え方をしてしまっているのでしょうか。それは主に“協調性”や“規律”、“責任感”といった部分への不安が大きいようです。独立して働いている人は組織に属していないため、「規律を守れないのではないか」、「協調性に欠けるのではないか」、「途中で仕事を投げ出してしまわないか」などの、いわゆる“自由人”なのではないかという部分へ強く不安を感じています。
しかし、少し踏み込んで考えてみると、独立して働くということは、『すべての責任を自分で取る』ことを意味します。自己規律がきちんとできる人でないと、食べていくための仕事はできないのではないでしょうか? それどころか、独立している人は「自分で物事を決め、お金を稼ぐ」という経験をしており、そのようなビジネス感覚を持っているメンバーと一緒に働くという事は、企業側に大きなメリットをもたらします。
人を成長させるにあたって、自分で意思決定をさせるということはとても大切なことです。しかし、会社に所属していると、個人で意思決定をできる場面はほとんどありません。結局、決裁者のところにまで案件を上げて、お伺いを立てて……という流れになるでしょう。
個人で活動している方々は、当然ですが意思決定を全て自分で行ないます。荒波に幾度となく揉まれてきた方々なのです。そのような、“自分で決められる人”がいるということは、物事を推進していく上でたくさんの効果を生んでくれます。プロジェクトを進めるのはもちろんのこと、自分で意思決定をしたことがないメンバーに対しての実地訓練にもなるのです。
独立している人は、企業に入ったとき、能動的、主体的に動ける戦力となります。プラスの要素や実力を持っているプロフェッショナルであると捉え、どうやって企業で活かしていくかを考えるべきです。それが、これからフリーランスを活用しようと考えている企業の方々に対して思うことです。
社会人歴10年以内に“大きな変化”を経験したことがあるか?
さて、ここまで“社会がどう変わり、企業はどう変わっていくべきか”という部分を見てきました。次は視点を変えて、“働く側”がどうあるべきかを考えてみましょう。
“高齢化社会(高齢社会)”は、だいぶ昔から言われている言葉ですが、“長寿命社会”という言葉はご存知でしょうか。昨年発売され世界的にもベストセラーになった、戦略的人生設計書『LIFE SHIFT』という本の中で、今後、人が100年“健康”に生きる時代が到来すると予見されています。
人生100年時代が到来すると、『知識やスキルを再取得しながら自分の生き方に関して考える』ステージ、『組織に雇われず独立して働く』ステージ、『異なる活動を同時並行で行なう』ステージ、この3つをくるくると行き来して人生を設計する時代に突入すると考えられています。これまでの『20歳前後まで教育を受け、その後仕事に就き、60歳前後で引退する』という流れ自体が変化するということなのです。
この新しい時代の流れに乗るために大切になってくるのが、『“変化する力”を身に着けること』、『広いコミュニティを持つこと』、『広い情報網を持って変化を“感じる”こと』の3つ。年金問題や高齢社会、長寿命社会など、一昔前の日本と比較しても今既に変化しているのは明白です。明白であるにもかかわらず、変化していることを受け入れられている人、受け入れられていない人がいますね。
自論ですが、働き始めておよそ10年の32~33歳までの時期に大きな変化を経験したことがある人は、比較的柔軟に変化を受け入れることができると感じます。これは転職や起業、独立といったことだけでなく、海外や地方への転勤、社内で全く違う部署で新しい仕事を始めるなど変化の大きさは様々です。
また、変化のタイミングが早いと、その場所から逃げ出したかのようにも見えてしまいますので、経験を積んで仕事をある程度自分のものにして落ち着いたタイミングくらいに変化する……それが10年前後の時期だと私は思っています。働き始めてから10年以上大きな変化なく過ごしてしまうと、変化を受け入れにくくなってしまいます。結果、変化を恐れて二の足を踏み、安全だと感じる同じ場所に居続けてしまうのではないでしょうか。
変化することは、“トレードオフ”の関係にあります。何かを得るためには何かを失います。長く働いた場所から離れることにより失う大きなものの一つが『安定』ですが、それを失いたくないあまり変化することを拒否したとして、ではその『安定』は保証されているのでしょうか?同じように恩恵を受け続けることができるかもしれませんし、そうではなくなるかもしれません。
未来は誰にもわかりませんが、日本を代表する大企業が倒産する、経営不振で海外企業に買収されるなどの例が珍しくなくなっている今、15年20年後に今と同じ水準の給料・報酬・待遇を手にできているかというと、そうではない可能性も高まってきているのも事実なのです。
しかし、15年20年経ったときに次の一歩を踏み出そうと思っても、そのときには残念ながら選択肢はかなり狭まってしまっているでしょう。でも、そんなことはほとんどの人が本当は分かっているのです。分かっていながらも、見て見ぬふりをして、安定していると感じる場所にすがり付いてしまっているだけなのです。
ドラッカーは、もう何十年も前から「プロフェッショナル人材の労働寿命より、企業の寿命の方が短くなっている」と言っていました。このような言葉を聞いたときや社会の変化を感じたとき、その現実を受け止めなければならないのです。
一流大学に入り、大企業へ入社。そのように順風満帆であればあるほど、知らず知らずのうちにコミュニティが小さくなってしまいます。周りからの情報が入ってこなくなり判断材料も限られてしまうため、「自分たちの考えが正しい」と思い込んでしまうのです。行動を起こさなければ情報も入ってこず、いつの間にか井の中の蛙となり、変化に対応することができない人になってしまうかもしれません。
もちろん、私が思う未来観は全ての人にあてはまる、受け入れられる考えではありません。ただ自信を持って言えるのは、「未来は変化するものだ」と考え、それを前提にキャリアを考えるべきだということです。「変化しない」ことを前提にしている人たちは、今の状況がずっと続くことを想定して10年後20年後の計画を立てていますが、それこそ10年後の状況なんてどこにも保証はないのです。
私は、過去の10年を振り返り考えてみても、これからの10年が変わらないわけがないと思っています。だとしたら、“変化に対応できる力”は強い武器になるでしょう。
雇用によらない働き方を政府も推進し始めた今、組織も会社も、人に対して「一生ここで働いてください」「あなたを守ります」などと言ってしまうのは無責任なのではないかと思います。社会も変わるし、会社も変わります。それに合わせて、人も変わらなければいけないのです。
お互いが“依存”することなく、“協力”しあう自律した社会。そんな時代に対応できるよう、社会の変化を受け入れ、自分自身も変わっていくこと。時と場合によっては、自らが周りを変える力も必要になってくるでしょう。見て見ぬふりはしない、それが後悔のない充実した働く人生を送る秘訣かもしれません。
岡本祥治(おかもとながはる)
株式会社みらいワークス代表取締役社長
2000年に慶応義塾大学理工学部を卒業し、グローバルで世界最大級のコンサルティング会社であるアクセンチュア株式会社に入社。IT、業務、戦略領域のコンサルタントとして、プロジェクトを推進。ベンチャー企業へ転職し経営企画室の責任者としてグループ会社の事業管理や新規事業立上げなどに携わった後に、2007年に起業。独立コンサルタントとして活動しつつ、多くの新規事業に挑戦・失敗を繰り返した後に、コンサルタント派遣事業を立ち上げ、10億以上のビジネスへ成長させる。人事の専門家として、BS JAPAN 7chの人事バラエティ番組「人生が変わる人事の話」に出演。
株式会社みらいワークスは、プロフェッショナル人材マッチングサービス『FreeConsultant.jp』や様々な角度から働き方を支援するサービス『「独立」「起業」「転職」あなたはどれを選ぶ?』などの人材調達支援事業を行なっている。