創業70年の老舗豆腐屋が、豆腐作りにもう一度集中できるようになったワケ
はじめまして。つづく株式会社の井領(いりょう)明広といいます。実は私、2017年まではfreee株式会社で働いており、2018年から独立して長野県に移住、地方企業のクラウドサービスの導入支援を行っています。(詳細はこちら)
地方でも、「クラウドサービスを活用したい!」という方はかなり増えてきています。しかし、「周りに相談できる人がいない....」「一人でできるか不安」という方が大半です。そういった企業の導入〜活用支援を行っています。
長野県は、農業・食品・製造業・林業といった、「よいモノ」を作る職人企業がたくさん存在しています。今回は創業70年の老舗豆腐屋である「両国屋豆腐店」オーナーの石垣さんに経営のクラウド化に関するインタビューをお届けします。
当初は壁一面がメモ書きで埋めつくされ、土日も含めた毎日2時間を事務作業に追われていた状態でした。そこからひとつずつ新しいサービスを導入していき、たった1年で新商品開発や売上アップまで実現。その舞台裏や当時の率直な気持ちを聞きました。
~日本人が忘れかけた豆腐、 富士見にはあります~
株式会社NTTデータイントラマートにて、金融・製造業向けシステムコンサルティングに従事。後に、freee(フリー)株式会社にてクラウドサービスの導入支援コンサルタントを経験。
現在、長野県 御代田町・上田市の2拠点で、中小企業のクラウド化・業務自動化支援を行う「つづく株式会社」を経営。
水産食品の商社から戻って、豆腐屋を継ぐまで
ーーーー両国屋豆腐店について教えてもらえますか
両国屋は、私の祖父がこの場所ではじめて、私で三代目です。昭和24年創業、私で三代目。元々は量販店中心で、今では近所の学校給食をはじめとして、近隣中心に豆腐や油揚げの製造販売を行っています。
ーーーー創業当初から学校向けの豆腐販売をされていたのですか?
もちろん、給食向けは提供していましたが、こちらから積極的に売る、ということはありませんでした。私が跡を継いだのが15年前なのですが、そのころは量販店が中心でした。量販店向けは価格競争になりやすいのですが、しばらくは量販店中心に続けていまして、価格競争が厳しくなっていきました。それで、量販店から学校給食向けに、徐々に、注力し始めました。これが10年前です。
ーーーー最初から給食向けに注力していこう!と決めていたのですか?
いいえ。量販店向けを減らすと売上が減ることは目に見えていますので、めちゃくちゃ不安でした。しかし、「このままでは未来はない、何か新しいことをしなければ」と思い、方向を少し転換したのです。そして徐々に、経営が安定していきました。元々豆腐屋を継ぐ前に水産食品の商社に勤務していたことも、経営に役立ちました。
ーーーー水産会社のキャリアがどのように活かされたんでしょう?
新卒で営業に配属されたのまして、運よく入った部署ができたばかりの大阪支店でした。ここで営業から加工、パートさんへの指示、配送と一通りの仕事のやり方を学ぶことができました。何が役に立つかわかりませんね(笑)。
豆腐屋なのに、豆腐に集中できない
ーーーー経営が安定したのはいいことですが、それに合わせて事務作業も増えていったんですよね
そうです。一日のうち、事務作業にあてる時間がどんどん増えていきました。夜、明日仕込む豆腐の予定を集計して、仕込みの準備をします。これが大変で、FAXで注文変更があったりすると、「あれ、この修正ってもう記録したっけ?」と混乱します。
ーーーー事務作業にはどのくらい時間をかけていたんですか?。
夕方になると、FAXの注文とにらめっこしながら集計作業をしますが、2時間くらいはかかりました。平日だけでなく、土日も含めて毎日です。長時間かかることもさることながら、ずっと一日中、事務作業がちゃんとできてるか不安で、頭の中につねに「黒いモヤモヤ」がある感じでした。そのタイミングで井領さんのクラウドサービス活用セミナーに参加し、藁にもすがる思いでお願いしました。
ーーーーそんなに事務作業を気にかけていたら、豆腐づくりや経営に手が回らないのでは?
そのとおりです。豆腐について考えている時間は2割ぐらいしか取れませんでした。前から、商品のパッケージを研究したり、新規開拓で営業に出たいとか思ってましたが、その時間が作れない。毎日やりたいことはあっても疲れて終わる……の繰り返し。これから抜け出したかったですね。
事務作業のために事務所に戻る必要が無くなり、さらに年600時間を削減
ーーーーまず最初はkintoneを活用して、受注〜生産管理をクラウド化しましたね。
最初は「kintone」の名前さえ知らなかったので、これからどうなっていくのかがわからず、正直不安でした。しかし実際に導入してみると、その効果はものすごく大きかったです。
ーーーーどんな効果が現れました?
今までは、注文を毎日集計して、次の日になったらまた明日の仕込みのための集計をして...と全て手作業で数を数えていました。それが今では、kintoneに注文情報を1度入れるだけで、見たい情報はすぐに確認することができるようになったんです。また、これまでは受注予定を見るにはいちいち事務所に帰る必要がありましたが、外出先からスマホで注文状況を確認できます。もはやスマホは無くてはならない存在です。
若い人がよく、スマホがネットが繋がらない人を「ネット難民」と呼びます。以前は「ネットがつながらなくて何が困るの?」と思ってましたが、今ではその気持がよくわかります。
ーーーーどれくらい時間が削減できましたか?
まず毎日の事務仕事が「2時間→30分」と4分の1にまで減りました。月間では50時間、年間で600時間くらいは減りました。驚きですよね。いままで事務作業にこんなに時間を使っていたなんて...。
freeeを導入して、経理も自動化
ーーーーその後、freeeを導入しました。
導入前までは母親が弥生会計で記録をしていたのですが、そろそろ引退させようと思ってました。freeeでだったらkintoneのように効率化ができるだろうと思い、導入しました。
ーーーーこれも最初はやはり不安でしたか?
kintoneでクラウドを使うメリットがイメージできていたので、比較的スムーズでした。ただ、今までネットバンキングは使っていなかったし、クレジットカードで経費を支払おうという発想がありませんでしたので、新しいチャレンジでした。
ーーーー今のfreeeの活用状況を教えてください。
銀行の入出金記録はもちろん、クレジットカードの経費支払はfreeeで自動処理をしています。また、kintoneの請求情報をfreeeに取り込んでいるので、請求書ー入金チェックも自動化しています。請求金額と入金額が合っているかを自動で確認できるのは、とても便利ですね。
まさかクレカで豆腐が買ってもらえるとは!
ーーーーそして、iPadレジであるSquareも導入したんですね。
長年使ったレジは老朽化していたので、Squareを導入しました。導入に伴って、クレジットカード決済の導入(VISA、Master、JCB)も行いました。最初は「豆腐なんてクレジットカードで誰も買わないだろう」とタカをくくっていたのですが...。
ーーーーどうなりました?
予想に反して売れるんです。しかも、クレジットカードを使ってくださる方は、まとめてたくさん買ってくれる方だったりして、新しいお客様も増えています。置いておくだけならお金がかからないのに、「うちでカードを使えます」という宣伝になって新しいお客さんの来店につながっているんです。
ーーーーレジの集計作業もなくなりましたね。
毎日自動でクレジットカードと現金の売上を記録してくれるので助かってます。今までは経理担当の母親に報告して、記録してもらっていたので二度手間でした。これが自動集計されるため、きちんとレジの現金管理もできるようになってます。
ーーーー昔ながらのレジ導入には1店舗100万円ぐらいかかると聞いたのですが、iPadとSquareでどれくらいかかりましたか?
全部で6万円ほどだったと思います。しかも補助金も出たので、いくらかは戻ってきましたね。こんなに短期間で効率化も宣伝効果も実感できると思っていなかったので、良いチャレンジになりました。
空いた時間で、商品開発、売上アップも実現
ーーーークラウドサービスの活用で、ビジネスはどう変わりましたか?
空いた時間で色々チャレンジできました。例えば最近は新商品開発に乗り出しました。柔らかい『トロっとろ』豆腐を提供開始して、ご好評をいただいています。沖縄県 石垣島の海水からとれた天然ニガリを使っていて、長野県の甘い大豆と合わせて非常に濃厚な商品となっています。
いままで、一丁何十円という豆腐の世界にいたので、イベントで販売したときに1つ200円単位でどんどん売れていく体験は新鮮でした。
ーーーー商品開発以外でチャレンジしていることは?
ずっとやりたかった「営業活動」も行えるようになりました。おかげで隣の市の小中学校から新しいお仕事も生まれましたよ!今までは、新規訪問時にもパンフレットを考えたり、宣伝文句を考えたりする余力がなかったのですが、今回はしっかりと準備ができたため、近隣の小学校でも評判になりました。
ーーーー最近、長野県産大豆の豆腐に切り換えて、小学校に喜ばれたとか?
はい。小学校にアンケートを取って、長野県産大豆に変えて売上アップに繋げられました。それまではカナダ産の安価な大豆で対応していたのですが、栄養士さんたちに「値段が上がる長野産と、今までのカナダ産どちらが良いですか」というアンケートを取ってみました。
はじめは、「きっと、結構カナダ派が多くて、値段上げることに抵抗がある方もいるだろう」と思っていたのですが、すべての小学校が長野産の大豆を選び、しかも感謝の言葉もいただきました。長野県産の大豆を使うと原価も上がり、仕入れも難しくなります。しかし、多くの小学校の要望も集めることで、仕入れ交渉も成功しました。ニーズがある良質な大豆を使った高単価の商品を提供し、売上や利益も上がるのは理想の形の一つですよね。
ブランディング活動にチャレンジしたい
ーーーー効率化の先に、これからは何にチャレンジしたいですか?
「長野県産を使っています」「こんなことにこだわっています」というのも大事なのですが、お客さんから見て両国屋の豆腐がこうだからいいよねと思っていただけることの方が大事だと考えるようになりました。自分たちの思い込みではなく、お客様が、両国屋に何を価値と感じているのか、そしてその価値を伝えていかなければならないということがようやく理解できてきました。
ーーーーまさにブランディングですね!
そうですね。そこをもっと追っていって、お客さんにうちのよさをいいなと思っていただくためには、どういう言葉やサービスで伝えればいいのかを勉強したいと思っています。
両国屋の事例:「クレジットカードでコストも時間も節約できると思いませんでした」70年続く長野の豆腐屋さんが、支払いの半分をクレカ払いに
~日本人が忘れかけた豆腐、 富士見にはあります~
株式会社NTTデータイントラマートにて、金融・製造業向けシステムコンサルティングに従事。後に、freee(フリー)株式会社にてクラウドサービスの導入支援コンサルタントを経験。
現在、長野県 御代田町・上田市の2拠点で、中小企業のクラウド化・業務自動化支援を行う「つづく株式会社」を経営。