個人事業主の事業継承における、節税対策と相続争い対策 ~親子間継承と第三者継承の違い~
昨今、中小企業の事業承継について多くの問題が叫ばれていますが、それは法人だけではなく、個人事業主についても同様です。 法人同様、親族間の承継だけではなく、第三者への事業承継も一般化しつつある今、それぞれについてどのような点に注意しなければならないのかの論点を整理します。
個人事業主の財産の継承
個人事業主の財産は、以下の3つに分けられます。
- 事業用の動産
- 事業用の不動産
- その他生活用の資産
親子間承継の場合は、いずれ1. 2. 3.すべてを引き継ぐことになりますし、第三者承継の場合は、1.2.もしくは、1.のみを引き継ぐことになります。
親子間での事業用の動産の継承
親子間承継の場合、まず事業用の動産について、その実質価格を算定します。
実質価格=事業用の「資産」(事業用預貯金、商品、売掛金、備品など)−事業用の「負債」(買掛金、未払金、預り金など)
(かなり儲かっている方については、営業権を考慮する必要があるのですが、滅多にないのでここでは割愛します)
その差額が110万円を超えないのであれば、生前に贈与をしたとしても、贈与税はかかりません。110万円を超える場合であっても、承継する資産の範囲の検討をすることによって、贈与税がかからない範囲にとどめるようにしましょう。
親子間での事業用の不動産の継承
そして、事業用の不動産については親子間で使用貸借契約を結び、相続時まで所有権の移転はしないのが一般的です。使用貸借契約で賃料のやりとりがなくても、同一生計親族の場合は建物の減価償却費や土地建物の固定資産税などを事業所得計算上の経費として計上することができます。
第三者への事業用の動産の継承
第三者への承継については、事業用の動産は親子間承継の場合と変わりません。
第三者への事業用不動産の継承
不動産の使用貸借か賃貸借かは当事者間の相談によりますが、一般的に賃貸借によることが多いようです。というのも、同一生計親族でないので、建物の減価償却費や土地建物の固定資産税を経費にできないためです。
事業を引き継いだ第三者と親族の相続争いを避けるために
また、不動産に関しては、次の代のことも考えておかなければなりません。特に事業を引き継いだ第三者と不動産を相続した親族が懇意でない場合、地代をめぐって紛争が発生する可能性があります。
できれば当事者だけではなく、不動産を引き継ぐであろう親族も含めて、今後について話し合う場をもつことが必要かもしれません。場合によっては、承継した第三者が不動産を買い取る、といったケースも考えられます。
生前に承継する場合、承継の時期は所得税の確定申告の関係上、12月31日承継とすることが多いようです。確定申告書の提出と同時に、元の事業主の廃業届や新事業主の開業届など、各種書類も一緒に提出するようにしましょう。新事業主が社会保険に加入していた場合、それらからも脱退しなければなりません。
また、財産の引継ぎをする際には、贈与契約書や売買契約書の作成を忘れることのないように。税務署対策はもとより、当事者間で「言った」「言わない」の争いになることを避けるためです。