マイナンバー(個人番号)が社会保障手続で必要になるのはどんな場面か
マイナンバー制度の創設の目的のひとつに社会保障制度の改革が取り上げられています。実際に、マイナンバーはどのようにして社会保障制度の中で使われているかについて解説します。
1.マイナンバーが社会保障改革の一つとなった理由
マイナンバー制度導入の目的として、行政や税制度の効率化の他に社会保障改革が掲げられています。個人それぞれに固有の番号を割り振ることがどのようにして社会保障改革につながるのでしょうか?実は、この背景には「消えた年金問題」についての反省があるのです。
「消えた年金問題」とは、2007年2月、当時の社会保険庁(現在の日本年金機構)の記録管理のずさんさが明るみに出た事件のことです。納付記録はあるものの、持ち主の分からない5000万件もの年金記録があることが国会で明るみに出ました。
発覚当時与党だった自民党も、その後に「私たちが解決してみせる」と豪語して政権に就いた民主党も、全力をあげて過去のデータをさかのぼって年金情報を照合する作業にとりかかりました。しかし、「齋」と「斎」と言った漢字の表記の違いや同姓同名の混在、些細な記入ミスなどにより、本人の特定が困難となりました。つまり、「誰がやっても変わらない」レベルの混乱状況だったのです。
この問題による反省から、与野党双方において、マイナンバー制度が検討されるようになりました。健康保険や年金などを管理する社会保障制度は、国民の誕生から死亡にいたるまでに欠かせない非常に重要なシステムです。ミスや混乱が生じやすい名前による紐づけはやめ、数字による紐づけで本人特定の間違いを減らすことで、国民にとって、より透明性が高く、かつ公平・公正な社会保障システムを実現することができます。
その目的に向かって何度も議論が重ねられ、結果、マイナンバー制度の基盤である「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(番号法)が成立したのでした。
また、同時に、以前から、生活保護の不正受給や社会保険料の徴収漏れが問題視されています。こういったトラブルを未然に防ぎ、無駄な支払いや徴収不足を解消するためにも、マイナンバーによる管理制度は活用できるものとして期待されています。
2.社会保障手続きで必要となる場面とは(雇用保険、健康保険、年金、育児関連など)
個人のマイナンバーつまり個人番号は、社会保障手続において、どのような場面で必要となるのでしょうか。社会保険、雇用保険、労災保険において、それぞれ次のような場面で必要とされています。
(1)社会保険(2017年1月から個人番号記載必要)
社会保険の加入や確認、脱退や給付の際だけでなく、出産や育児により休業する場合も届出にマイナンバーの記載が必要となります。また、社会保険の場合、扶養家族について、誕生や死亡、結婚や離婚などにより異動があった場合については、その扶養家族のマイナンバーもあわせて必要となります。なお、提出者はすべて事業主です。
<70歳未満の被保険者の場合> ・健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届 ・健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届 ・厚生年金保険被保険者資格喪失届 ・健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額算定基礎届 ・健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届 ・健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届 ・健康保険被扶養者(異動)届 ・国民年金第三号被保険者関係届
<70歳以上の被保険者の場合> ・厚生年金保険70歳以上被用者該当届 ・厚生年金保険70歳以上被用者不該当届 ・70歳以上被用者該当届 ・厚生年金保険70歳以上被用者月額算定基礎届 ・厚生年金保険70歳以上被用者月額変更届 ・厚生年金保険70歳以上被用者賞与支払届
<出産・育児休業関連> ・健康保険・厚生年金保険育児休業等取得者申出書(新規・延長)・終了届 ・健康保険・厚生年金保険育児休業等終了時報酬月額変更届 ・厚生年金保険70歳以上被用者育児休業等終了時報酬月額相当額変更届 ・健康保険・厚生年金保険産前産後休業取得者申出書・変更(終了)届
(2)雇用保険(2016年1月から個人番号記載が必要)
雇用保険についても、社会保険と同様、資格取得や確認、給付の際、次の書類にマイナンバーの記載が必要となります。これについても、結婚や離婚で姓が変わったとき、また、育児や介護などの理由で休業する必要が出てきたときの届出にもマイナンバーが必要です。なお、提出者は原則、事業主となっていますが、一部書類については、従業員本人が提出することも可能です。
<原則事業主が提出する個人番号記載の必要な書類> ・雇用保険被保険者資格取得届 ・雇用保険被保険者資格喪失届・氏名変更届 ・高年齢雇用継続給付受給資格確認票、(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書(※) ・育児休業給付受給資格確認票、(初回)育児休業給付金支給申請書(※) ・介護休業給付金支給申請書(※)
※の書類は、給付を受ける本人が提出しても可
さらに、次の書類も雇用保険給付関係の書類ですが、こちらは給付を申請する本人自らがマイナンバーを記載することになります。
<本人が提出する個人番号記載の必要な書類> ・雇用保険被保険者離職票-1 ・教育訓練給付金支給申請書 ・教育訓練給付金及び教育訓練支援給付金受給資格確認票 ・雇用保険日雇労働被保険者資格取得届 ・未支給失業等給付請求書
給付を受けたい本人が申請する場合、マイナンバーの記載だけでなく、番号確認のための書類(通知カードなど)と身元確認の書類(運転免許証など)の両方が必要です(マイナンバーカードがある場合には、これ一枚で番号確認と身元確認が行えます)。
(3)健康保険の給付関係(2017年1月から個人番号記載必要)
出産手当や傷病、死亡、手術などによる高額医療の際、給付申請を行うことになりますが、このときの申請書にもマイナンバーは必要です。なお、このときの提出者は、給付を申請する本人(被保険者)となります。
・食事療養標準負担額の減額に関する申請 ・生活療養標準負担額の減額に関する申請 ・療養費の支給の申請 ・移送費の支給の申請 ・傷病手当金の支給の申請 ・埋葬料(費)の支給の申請 ・出産育児一時金の支給の申請 ・出産手当金の支給の申請 ・家族埋葬料の支給の申請 ・特定疾病の認定の申請等 ・高額療養費の支給の申請 ・高額介護合算療養費の支給の申請等
(4)労災年金の請求(2016年1月から個人番号記載が必要)
以下のような労災年金の請求については、請求する本人自らが所轄の労働基準監督署に直接提出することになっています。そのため、事業主などが労災の請求のためにマイナンバーを記載した書面を提出することはありません(ただし事業主が委任状などにより本人の代理で請求することは可能です)。 また、以下の書類のうち(※)のついているものは診断書の添付が必要となりますが、だからといって、医療機関が本人の代わりにマイナンバーを管理したり記載したりすることはありません。
・傷害補償給付支給請求書(※) ・遺族補償年金支給請求書 ・遺族補償年金・遺族年金転給等請求書 ・傷病の状態等に関する届(※) ・障害給付支給請求書(※) ・遺族年金支給請求書 ・年金たる保険給付の受給権者の住所・氏名・年金の払渡金融機関等変更届出書
社会保障制度と一口に言っても社会保険、雇用保険、労災保険と様々あります。適用時期や提出の主体も内容によって異なっていて、しばらくは混乱してしまいそうです。
ただ、どんな制度でも、開始時は混乱しやすいもの。だからこそ、事業主も個人番号の持ち主である個々人も、それぞれが適切にマイナンバーを管理・活用し、よりよい社会保障制度の実現にむけて努力することが必要なのだといえるでしょう。