【節税対策】自宅を事務所にする前に、考えておきたい税金への影響
フリーライターの小林義崇です。
最近はフリーランスの仕事や副業をされる方も増えています。ここで、迷ってしまうことのひとつに、「自宅で仕事をすべきか、外に事務所を借りるべきか」というものがあるでしょう。
自宅を仕事場にすると、一部の光熱費や家賃などを必要経費とすることで所得税を下げることができますが、デメリットも存在します。今回の記事では、代表的なメリットとデメリットをご紹介しますので、自宅を事務所にするか検討されている方は、参考にしてください。
必要経費の原則
まず最初に、所得税における必要経費の原則的な考え方について説明します。ここを理解しておかないと、本来認められる以上の金額を必要経費にしてしまい、税務調査で指摘されかねません。
所得税の計算上、個人事業による事業所得や、副業による雑所得などに対し必要経費に算入できる金額を簡単にまとめると、実際にかかった費用のうち、以下のものとなります。
①売上の原価(商品の仕入額など) ②売上を得るために直接かかった費用(商品の発送費用など) ③販売費や一般管理費等(事務所の家賃など)
①や②は、この支払がなければ収入を得られないわけですから、あまり迷うことはありません。
問題は③です。売上に直接結びつかなくとも払っている費用は少なくありません。たとえば名刺を作る費用や、打合せをするときのお茶代など。こうした費用は、プライベートとビジネスのものが混在するため、判断を迷いがちです。
必要経費の申告誤りは多く、国税庁はホームページに掲載している「タックスアンサー」において、次のように説明しています。
「個人の業務においては一つの支出が家事上と業務上の両方にかかわりがある費用(家事関連費といいます。)となるものがあります。 (例)交際費、接待費、地代、家賃、水道光熱費 この家事関連費のうち必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます。」(下線は著者)
下線を付した部分に注意が必要です。家賃や水道光熱費は、原則は必要経費になりません。ただし、例外的に、”明らかに”業務に直接必要な金額だけ区分できる場合のみ、必要経費として認められるのです。
この原則を理解した上で、「自宅兼事務所」について考えてみましょう。
自宅兼事務所にするメリット
自宅の一部を事務所にするメリットは、「コストが少なくて済む」ことです。外に事務所を借りると家賃や光熱費などが別途発生しますし、収納やデスクなど新たに購入するものも出てきてしまいます。
そこで、自宅の空いたスペースを事務所として使えば、そうした追加のコストを避けられるだけでなく、家賃の一部などを必要経費に入れることで節税メリットを受けることもできます。
自宅兼事務所にかかるコストのうち、必要経費にできるものとして代表的なものを挙げます。これらのコストのうち、「業務遂行上直接必要な金額」が必要経費として認められます。
1 家賃 2 固定資産税 3 光熱費 4 通信費 5 減価償却費
このほかにも、事業として料理をするような場合は、水道代やガス代の一部も必要経費にできるなど、事業の内容次第で必要経費の範囲は変わってきます。
必要経費を算定するには、上に掲げたような費用を、「プライベート用」「事業用」に分けなくてはなりません(この割合を「事業割合」といいます)。事業割合の算定方法は、法律で定められているわけではないため、各自が自分なりに説明できる方法で算定しなくてはなりません。
とはいえ、一般的な計算方法も存在します。自宅のなかでオフィス部分と居住部分を分け、その床面積の割合を事業割合にするというものです。具体的に計算例を説明しましょう。
【事例】 事業用部分(オフィス用の部屋など):10㎡ 居住用部分(寝室、キッチンなど):30㎡ 共用部分(トイレ、廊下など):20㎡ 合計 60㎡
まずは、事業用部分と居住用部分の割合を算定すると、 10/(10+30)=0.25となります。 この割合を共用部分の面積に掛けると、20×0.25=5。 つまり、共用部分20㎡のうち、5㎡を事業用部分として加算できます。
自宅の床面積60㎡のうち、事業用部分は、10+5=15㎡ということになりますから、建物全体における事業割合は、15/60=0.25とになります。
この0.25を家賃などの金額に掛けることで、必要経費とできる金額を算定することができます。家賃が10万円であれば、そのうち2万5千円が事業用として、必要経費として認められるというわけです。
ただし、この計算方法は、あくまでも一例です。家賃や固定資産税などは床面積に応じて配分するのが合理的でしょうが、たとえば電話代だと、床面積は関係ありません。正確に必要経費を算定するには、通話履歴などから事業に関する通話代金だけを抜き出すことになります。
とはいえ、頻繁に通話をする人は毎回の通話代金を個別に算定するのも面倒でしょう。その場合、毎月の通話の状況を踏まえて、およその事業割合を考えて、電話代の総額に事業割合を掛けるという方法でも、通常は問題になりません。
必要経費の算定にあたっては、どういう方法であれ、合理的に説明できる方法を選ぶようにしましょう。
自宅兼事務所にするデメリット
上記で説明したように、自宅兼事務所は家賃などを必要経費とすることにより節税効果が期待できますが、気をつけなければならないデメリットも存在します。場合によっては、自宅兼事務所にすることにより、むしろ税金が増えてしまうケースもあるのです。
税金の制度には、“居住用だからこそ”受けられる特例が存在します。代表的なものは「住宅ローン控除」です。住宅ローン控除は、年末時点で残る住宅ローン残高に応じた金額を所得税から差し引くことのできるもので、節税メリットが大きな特例です。
この住宅ローンは居住用部分に限って適用できる特例です。仮に本来の住宅ローン控除の金額が10万円あったとしても、年の途中から自宅の30%を事務所にした場合には、住宅ローン控除は10万円×70%=7万円となってしまいます。
さらに、住宅ローン控除には、「床面積の2分の1以上が専ら自己の居住の用に供される家屋である」という条件がありますから、必要経費を増やそうとして、むやみに事業割合を増やすのも注意が必要です。
また、将来自宅を売却するときにも注意すべきことがあります。
不動産を売却し、購入したときより高く売れるなど利益が発生した場合は「譲渡所得」として所得税が課せられますが、「居住用財産の譲渡所得の特別控除」という特例の条件を満たせば最大3,000万円までの譲渡所得について、所得税は課せられません。
ただし、この特例も住宅ローン控除と同じく、居住用財産に限って使える制度です。たとえば譲渡所得が1,000万円あったとして、事業割合が20%あったとしたら、1,000万円×20%の200万円の譲渡所得については特例を受けることができません。
これらの特例を使うために、「自宅兼事務所を再び居住用に戻す」という方法もありますが、税務署からは「特例を使うために、居住用と偽装したのでは」という疑問をもたれかねません。
疑問を持たれないためには、実際に外部にオフィスを借りて、事業の拠点を移しておく必要があるでしょう。
今回紹介したように、自宅兼事務所にすることにはメリットもありますが、将来的にデメリットとなるリスクもあります。よく考えた上で仕事環境を作っていきましょう。