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2018年02月14日(水)

3つの要素で決まる、土地や建物を売却したときの所得税

経営ハッカー編集部
3つの要素で決まる、土地や建物を売却したときの所得税

フリーライター(元東京国税局職員)の小林義崇です。

自宅を買い換えたい、実家が空き家になったから処分したいーー。このように、土地や建物を売却する必要に迫られたら、所得税についてあらかじめ考えておきたいところです。 そこで今回は、不動産の売却にまつわる所得税の基本的な計算方法について解説したいと思います。

計算に必要な要素は、「譲渡収入」「取得費」「必要経費」の3つ

今回解説するのは、不動産のうち、以下に挙げるもの(以下「土地建物等」)を売却して利益が出た場合に課せられる所得税についての説明です。この売却益を、所得税の世界では、「譲渡所得」と言います。

  1. 土地
  2. 土地の上に存する権利(借地権等)
  3. 建物
  4. 建物付属設備(エレベーターなど)
  5. 構築物(煙突や橋など)

譲渡所得は、(譲渡収入−取得費−譲渡費用)という算式で求められます。算式に含まれる3つの要素について、それぞれ見ていきましょう。

「譲渡収入」とは、通常は、土地建物等を売却したときの売値のことです。ときおり、売買契約を結んだあとに土地面積を実測し、追加で代金を清算する場合もありますが、その場合は、清算額も含めて譲渡収入となります。

また、売買契約の条件によっては、物件にかかる固定資産税を、買主が一部負担するということもありますが、その場合は、負担してもらった固定資産税の金額も譲渡収入に加算してください。

次に、「取得費」について説明します。その名のとおり、土地建物等を取得したときにかかった費用のことですが、内訳は、主に以下のとおりです。

  1. 購入代金
  2. 購入時に支払った仲介手数料
  3. 契約書に貼付した印紙代
  4. 不動産取得税

これらの費用は、自ら土地建物等を購入したときはもちろん、相続によって引き継いだ場合であっても譲渡所得から差し引くことができます。たとえば、親が購入した土地を、子が相続して売却したような場合は、親が購入時に支払った金額を取得費にすることができる、ということです。

ここで注意が必要なのが、「減価償却」の問題です。売却するものが、建物の場合、減価償却が発生するため、購入金額そのままの金額を取得費にできません(土地であれば、購入金額がそのまま取得費になります)。

建物には、老朽化等により価値が減っていく「減価償却」という考え方があり、毎年、取得費として算入できる金額が目減りしていくことになります。つまり、過去に1,000万円で建てた住宅でも、売却するときに取得費にできるのは500万円だけといったことが起こるのです。

減価償却の計算は複雑です。建売住宅であれば、購入費を土地の分と建物の分に区分する必要がありますし、不動産を取得した時期や、構造(木造、鉄筋など)などに応じて計算式が異なります。

国税庁ホームページより抜粋

中古住宅の場合や、建物の内部に事業用としている部分がある場合は、さらに複雑な計算になりますので、詳細な金額を確認したければ、税理士などの専門家に相談する必要があるでしょう。

ただし、税理士に依頼すると報酬が発生する場合がありますし、支払う報酬を確定申告の際に経費にすることもできませんので、まずは地域の税理士会が行なっている確定申告の無料相談会や、税務署の窓口などで相談されると良いと思います。

土地建物等の購入金額から、建物にかかる減価償却を差し引くと、取得費を求めることができます。以下の表は、確定申告の際に使う、「譲渡所得の内訳書」という様式を抜粋したものですが、この表に数字をいれていくと、取得費を算定することができます。

国税庁ホームページより抜粋

また、このような計算を省略し、譲渡収入の5パーセントを取得費にするという特例もあります。先祖代々引き継いでいる不動産で購入価額が不明なときや、購入額が5パーセントを下回るときは、特例で計算すると良いでしょう。

3つ目の要素として、「譲渡費用」について説明します。譲渡費用は、「資産を譲渡するために直接かつ通常支出した費用」と法律で規定されています。代表的なものは以下のとおりです。

  1. 登記費用
  2. 不動産売却の際に支払った仲介手数料
  3. 売買契約書に貼付した印紙代
  4. 建物の取り壊し費用

譲渡費用の範囲は狭く、「一般的な不動産取引であれば支払わないようなもの」や、「実際支払っていても不動産売却と関連性の薄いもの」は、譲渡費用とすることができません。

たとえば、部屋をクリーニングする費用などは、「売却のため」というよりは、「建物を維持管理するため」という扱いになるため、譲渡費用には通常認められません。

畳の張り替えや障子の交換などをすることもあるかもしれませんが、やはり、最初に買ったときの状態を維持するための支払いと見られるため、譲渡費用とはならないと考えた方が良いでしょう。

ただし、フローリングを交換するなど、ある程度大規模なリフォームをして、建物自体の価値を高めるような支出であれば、認められる可能性があります。この場合、譲渡費用ではなく、さきほど説明した取得費に加えることになります。

建物の取り壊し費用については、売却するタイミングでの工事であれば問題ないのですが、売却のタイミングより前に、「両親が亡くなって空き家になったから取り壊しておいた」ということでは、譲渡費用に入れることができません。

さて、ここまで、譲渡収入、取得費、譲渡費用について説明しましたが、譲渡所得を計算するためには、これら3つの要素が必要になりますので、関係する契約書や領収書は、大切に保管しておきましょう。

譲渡所得が発生した場合の手続き

譲渡所得を計算した結果、プラスになれば、土地建物等を売却先に引き渡した年分の所得になります。翌年の3月15日までに、給料などほかの収入を合わせて確定申告をし、納税をしなければなりません。

譲渡所得にかかる税率は、土地建物等の所有期間により異なります。売却した年の1月1日時点において所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得、5年以下であれば短期譲渡所得と区分され、税率は以下のとおりです。

長期譲渡所得:所得税15%・住民税5%・復興特別所得税2.1% 短期譲渡所得:所得税30%・住民税9%・復興特別所得税2.1%

このように、長期か短期かというだけで、税率に約2倍もの差を設けているのは、投資目的で短期間で売り買いをする場合を想定しているためです。不動産投資で税率の差を上回る利益が出せるような見込みがなければ、5年以内の売却は避けた方が良いでしょう。

譲渡所得がマイナスだった場合は?

一方、譲渡所得を計算した結果、マイナスになった場合について説明します。この場合、原則、譲渡所得はゼロとなります。損失はなかったものとみなされるため、申告する必要はありませんし、税額も発生しません。

ただし、譲渡所得がゼロとなる人でも、税務署から、郵便物や電話による問合せが来る可能性はありますから、契約書や領収書は保管しておき、「譲渡所得はゼロだった」という点を説明できるようにしておいた方が良いでしょう。

ちなみに、税務署がこうした問い合わせができるのは、法務局から登記情報の提供を受けているからです。不動産の売買に伴い名義変更をすると、その情報は必ず税務署に通知されますから、土地建物等を売却した人は、「申告が必要となる可能性がある人」として管理されます。

ですから、譲渡所得がプラスであるにもかかわらず、申告しないままでいると、後から税務調査を受ける可能性がありますし、追徴税が課せられるリスクもあります。申告期限前に譲渡所得を計算し、申告が必要なのかどうかをきちんと確かめておきましょう。

今回解説したのは、譲渡所得の基本的な計算方法です。譲渡所得には、さまざまな特例があり、譲渡所得が発生しても税額を軽減する方法や、売却損が出た場合に、ほかの収入と合算して所得税を減らす方法などがありますので、次回以降の記事でご紹介していきます。

1981年生まれ、福岡県北九州市出身。埼玉県八潮市在住のフリーライター。西南学院大学商学部卒。 2004年に東京国税局の国税専門官として採用。以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事する。2014年に上阪徹氏による「ブックライター塾」第1期を受講したことを機に、ライターを目指すことに。2017年7月、東京国税局を辞職し、ライターとして開業。
Twitter:小林義崇

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