相続人の中に認知症の方がいる場合の相続の仕方
65歳以上の「4人に1人」は認知症またはその予備軍
厚生労働者の公表データ(平成22年)によると、65歳以上の高齢者人口2,874万人のうち、認知症有病者は約439万人。認知症の前段階と言われる「軽度認知障害(MCI)」の人は約380万人となっており、実に65歳以上の「4人に1人」は認知症またはその予備軍と言われています。
そこで今回は、「相続人の中に認知症の方がいる場合、相続の仕方はどのようになるのか?」をご説明するとともに、今後注目されている「相続前10年問題」についてご紹介します。
目次 1)相続人の中に認知症の方がいる場合 2)「平均寿命」と「健康寿命」の乖離 3)今後注目される「相続前10年問題」 4)「不動産」の管理は要注意! 5)「家族信託」という解決策 6)まとめ
1)相続人の中に認知症の方がいる場合
高齢化が進む日本においては、相続人の方が認知症を発症している場合もあります。そのような場合、認知症がどの程度進行しているかによって、相続の仕方が変わってくることになります。
認知症の症状が軽く、本人に判断能力が残されている場合、その相続人の方も参加して遺産分割協議を行うことが可能です。しかし、認知症が進行し、判断能力を失っているような場合には「成年後見制度」を利用して後見人等を選任し、選任された後見人が本人に代わって遺産分割協議を行うことになります。
2)「平均寿命」と「健康寿命」の約10年の乖離
厚生労働省の公表データ(平成22年)によると、平均寿命は男性が79.55歳、女性は86.30歳。一方、日常生活に制限がない期間と言われている「健康期間」は男性が70.42歳、女性は73.62歳となっており、介護や医療の発達に伴って、平均寿命と健康寿命に約10年程度の乖離がみられています。
3)今後注目される「相続前10年問題」
今までの相続問題と言えば「節税対策」や「納税資金の確保」「遺産分割の争い回避」などが中心課題でした。しかし先ほど説明したような「認知症リスクの増加」や「平均寿命と健康寿命の乖離」という時代背景がある中で「相続前約10年間をどのように乗り切るか?」という問題が顕著になってきました。
具体的には「認知症を発症した後の財産管理の問題」や「体力が衰えた後の財産管理の問題」です。4年連続で被害件数が増加している「振り込み詐欺」問題も、実は「高齢者の財産管理をいかに行うか?」という社会問題と密接に絡み合っています。
4)「不動産」の管理は要注意!
特に問題が顕著に現れるのが、認知症を発症した高齢者の方が土地や賃貸アパートなどの不動産を所有しているケースです。例えば、介護施設に入居する資金を捻出するために不動産を売却したいと思っても、認知症が進行し、本人が判断能力を失っている場合には、本人確認ができないため、不動産を売却できないという事態に陥りかねません。
また、成年後見制度を利用したとしても、当該制度の趣旨が「被成年後見人の財産の保全」にあるため、家庭裁判所の許可が下りないと不動産の売却はできません。
5)「家族信託」という解決策
そこで今注目されているのが「家族信託」です。平成18年に行われた信託法の大改正によって、信託銀行等を利用せずに、子供や親族、友人など信頼できる者に財産管理を委ねる、いわゆる「家族信託」の利用が解禁になりました。
これにより、事前に信頼できる子供・親族・友人等に財産を信託しておくことで、その後認知症等により判断能力を失ったとしても、不動産をはじめとする各種財産の管理・運用・処分を委ねることが可能となり、「相続前10年問題」に備えることが可能となりました。
まとめ
2025年には65歳以上の高齢者のうち「5人に1人」が認知症を患う(厚生労働省公表)と予測されています。ですから「相続前10年問題」は、いつ、どのご家族に起こっても不思議ではない問題です。
もし、ご家族に認知症の兆候が見られたら、まずは「家族信託」の利用を検討してみる、そんな時代に入ってきたのかもしれません。