来たらどうする?知っておきたい相続税の税務調査対策
1)相続税の税務調査が実施される割合
相続税の申告をした場合、どのくらいの確率で税務調査があるのでしょうか。国税庁の発表によりますと、平成26年に発生した相続のうち相続税の課税対象となったのは約54,000件、平成26年中に実施された相続税の税務調査は12,406件でした。つまり、約4~5件に1件の割合で税務調査が行われていることになります。
2)臨宅調査に至るまで
相続税について申告義務がある場合には、相続が発生した日の翌日から10ヶ月以内に、相続税の申告書を提出しなければなりません。
申告書を受け取った税務署は、まずはじめに、申告書の内容について計算に誤りがないか、申告書に記載された相続財産に漏れがないかなどについて、税務署内で事前調査をします。税務署は職権で通帳や不動産の情報などを収集できますので、これらの情報をもとに、相当に緻密な調査を行っているものと考えられます。この事前調査の結果、不審な点が出てこなければ、この時点で調査は終了します。しかし、明らかな誤りがある場合や、署内の調査だけではわからないことがある場合には、相続人に事情を聞いてみよう、ということになります。
臨宅調査が行われる場合には、原則として、自分で申告した場合には自宅に、税理士に手続きを依頼した場合にはその税理士宛に連絡があり、調査日程についての調整が行われます。一般的には、調査期間は1~2日間で調査官が相続人の自宅を訪問するかたちで実施されます。
3)臨宅調査当日
調査当日は、朝10時前後に調査官が2人でやってきます。最初は、以下のような事項について、口頭による質問・確認が行われます。
・被相続人に関して、出身地、家族構成、職歴、趣味、病状や経過等 ・相続人に関して、家族構成、職業、生前贈与の有無等
次に、現金や通帳、銀行印等の管理状況について確認が行われます。貸金庫を利用している場合には、調査官と一緒に銀行へ行って中身の提示を求められることもあります。一通りの確認が終わると、16時頃に臨宅調査は終了となります。
4)臨宅調査の結果
調査官は、臨宅調査で得た情報を税務署へ持ち帰り、1~2ヶ月ほどの時間をかけて、改めて修正すべき事項がないかどうかの確認を行います。その結果、申告漏れの財産があるなど当初の申告に修正が必要だと判断したときには、納税者にその旨を連絡し、修正申告をするよう指導します。
5)臨宅調査時における注意事項
税務署は、前述のとおり既に相当の時間と労力をかけて、家族間のお金の流れなどを緻密に調べあげてきています。ある時点においては、相続人よりも調査官のほうが一家の財産状況に詳しいと言っても過言ではないかもしれません。
ですから、質問されたことに対しては事実をありのままに伝えるようにしましょう。これは当然のことなのですが、税務調査という慣れない場面や調査官から質問されることによる緊張などにより、調査官に少しでも良い印象を与えようと事実と異なることを話してしまいがちです。しかし、調査官の方々は慣れていますから、嘘はすぐに見透かされてしまいます。
もし調査官が、相続人が悪意をもって事実を隠そうとしていると認めたときは、重加算税という罰金が課されることもありますので、注意しましょう。
6)指摘を受けやすい事項
相続税の調査において、指摘を受けやすいものの代表例として、「配偶者名義の預金」と「保険事故が発生していない保険契約」があります。
・配偶者名義の預金
たとえば夫が亡くなった場合に、専業主婦である妻名義の口座に数千万円の残高があったら、税務署はその残高の一部、または全部が夫の稼ぎにより蓄えられたものなのではないかと疑います。
妻が実家から多額の相続財産を相続していた場合など、その預金残高の出処がはっきりと証明できれば何ら問題はありません。しかし、多くの家庭においては、生活費などについて夫婦のお金を色分けしておらず、預金残高のそれぞれの所有額を明らかにすることが出来ないケースが多いのです。このような場合には、当該預金は夫の財産として相続財産に含めたほうがよいでしょう。
相続税法上は、夫婦を一体とみなして考え、夫婦か婚姻中に形成した財産の半分までを配偶者が相続しても、相続税は課されないこととなっています。上のケースで考えますと、夫名義の預金と妻名義の預金の合計額の2分の1までを妻が相続しても、相続税は課されません。これを「配偶者に対する相続税額の軽減」といいます。
配偶者名義の預金については、配偶者は自分のものだと思い込んでいることが多く、我々税理士からお話をしても、なかなかご理解いただけない場合が多いのが実情です。しかし、調査で指摘を受けてしまうと余計な税金を払うことになってしまいますので、申告前にはよく検討したほうが良いでしょう。
・保険事故が発生していない保険契約
子供を被保険者とする生命保険契約の保険料を父が負担していた場合において、父が亡くなった場合には、その保険契約については相続財産として申告しなければならない可能性があります。
父が亡くなったとしても、被保険者である子供は生きているので保険契約は継続します。しかし、父が亡くなった時点までに父が払い込んだ保険料相当額に相当する権利については、相続人の誰かが相続することになりますので、その権利相当額について相続税の申告をしなければなりません。財産が目に見えて動くわけではないので、つい失念しがちですが、忘れることのないように注意しましょう。
7)まとめ
相続税の税務調査は、納税者が提出した申告書をもとに調査が行われます。したがって、調査の連絡があってから対策を練ろうと思っても、取れる対策はほとんどありません。調査が来ても慌てないように、申告前によく検討することが大切です。