原稿料や講演料などの報酬は所得税(および復興特別所得税)を源泉徴収しなければならない?
源泉徴収とは、「個人や法人に対して報酬・料金等を支払う際、あらかじめ所得税や復興特別所得税を差し引いた額を支払う仕組み」のことです。多くの企業では、従業員に給与を支払う際、あらかじめ住民税(都道府県や市区町村に申告納税する税金)や社会保険料が差し引かれていますが(特別徴収)、それと同じ仕組みです。
今回は、支払う側の視点で、源泉徴収について確認しましょう。
そもそも、なぜ源泉徴収が必要か
個人の所得に課税される税金として、「所得税」があります。所得税は、「その年の1月1日〜12月31日までの所得に対して課税し、翌年1月〜3月の間に必要な納税額を申告して支払う」という仕組みになっています。しかし、税務は頻繁に変わるため、個人で対応していると間違いの元になりますし、徴税漏れが起きる可能性もあります。そんな微税漏れを防ぐために設けられているのが、「源泉徴収」です。
源泉徴収は、報酬を支払う側があらかじめ税額を計算して天引きしておき、まとめて納付します。そのため、より効率的に徴税できるのです。このような理由から、源泉徴収は支払い側の義務とされています。
源泉徴収が必要な範囲は?
所得税法の第204条1~8では、源泉徴収が必要な報酬の範囲を定めています。以下は、支払先が個人の場合において、源泉徴収が必要な業務です。
- 原稿料や講演料、デザイン料など(「足代」「取材費」などの名目で払う際も同様に源泉徴収が必要。懸賞応募作品の入選者などへの支払いは、5万円以下であれば不要)
- 弁護士、公認会計士、司法書士などの資格者に支払う報酬や料金
- 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
- プロスポーツ選手やモデル、外交員などに支払う報酬や料金
- 芸能人や芸能プロダクションを経営する個人に支払う報酬や料金。
- ホテルや旅館などの宴会で接客を業務とするコンパニオンや、ホステスに対して支払われる報酬や料金。(交通費や衣装代も含む)
- プロ野球選手やホステスとの契約金など、役務の提供を約束し一時に支払う報酬
- 広告宣伝のための賞金(クイズや売り出しのための懸賞金、コンテストの賞金など)
法人の場合は、馬主である法人に対して支払われる競馬の賞金のみが源泉徴収の対象になります。これらの源泉徴収の方法や範囲は、国税庁が発表している最新の情報に従って判断してください。
(出典:国税庁「No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」)
源泉徴収をしなかった場合はどうなる?
では、源泉徴収が必要な業務と定められているにもかかわらず、源泉徴収を怠った場合はどうなるのでしょうか。
上述したように、源泉徴収の制度では、「報酬を支払った側が天引きした税額を税務署に納める義務がある」と定められています。そのため、ミスが発覚した場合は、支払った側が速やかに納付しなくてはなりません。また、源泉徴収を知らずに天引きしていない金額を振り込み、あとで源泉徴収が必要だと発覚した場合でも、基本的にそれは支払い側のミスとなるので注意が必要です。
源泉徴収忘れを指摘された場合はどうなる?
税務署の税務調査があり、源泉徴収が必要な業務に対して「徴収し忘れ」が指摘された場合は、速やかに必要額を納付しなくてはなりません。また、ペナルティとして「延滞税」がかかります。
なお、多く納め過ぎた場合は、基本的に税務署は指摘してくれないため、きちんと必要額を計算し、間違いのないように納税しましょう。万一多く納め過ぎた場合は、「源泉所得税及び復興特別所得税の誤納額還付請求書」を提出して還付請求を行います。
源泉徴収に関して注意が必要な業務:WEBサイトの開発費はどうなる?
昨今、WEBサイトやECサイトなどを扱う企業が多くなってきています。そのため、こうしたサイトの開発費を外注しているケースも多いのではないでしょうか。
「デザイン料」の範囲は、所得税基本通達204の7で定められはいますが、WEBサイトのデザインについては、いまだ規定はありません。ただ、個人のデザイナーにWEBサイトのデザインを発注した場合は、源泉徴収が必要な報酬の範囲のうち「デザイン料」にあてはまるとして、源泉徴収が必要とされるケースが多いようです。
一方、WEBサイトのコーディングや開発は「デザイン」ではないため、個人のプログラマーに依頼した場合でも源泉徴収は必要ありません。もし「WEBサイト構築」という名目で、デザインからコーディングまで一貫して依頼している場合には、源泉徴収が必要な項目と必要でない項目について、それぞれ分けて考える必要があります。 (出典:国税庁「原稿等の報酬又は料金(第1号関係)」 )
源泉徴収に関して注意が必要な業務:海外居住者、外国机上への報酬支払いはどうなる?
グローバル化が進み、海外に住んでいる個人や、海外企業に業務を依頼するケースも増えています。こういった非居住者(日本国内に1年以上の住所や居住場所を持たない個人)や外国法人に業務を依頼する場合においても、源泉徴収は必要です。ただし、非居住者に対して課税されるのは「国内で生じた利益や収益のみ」です。
国内居住者と海外居住者では、源泉徴収の税率が変わります。また、二重課税を防ぐためにも、日本の国内法だけでなく、相手の居住国との租税条約を確認するようにしてください。もし不明な場合は、最寄りの税務署か国際税務に詳しい税理士に相談すると良いでしょう。
源泉徴収を怠ると損をする
ここまで、源泉徴収が必要な業務の範囲や、注意すべきポイントなどを見てきました。源泉徴収は、報酬を支払う側の義務であり、「知らなかった」「忘れていた」で源泉徴収を怠ると、支払側のミスとして損をすることになります。
WEBサイトのケースや海外への支払いなど、時代の変化とともに源泉徴収も複雑化してきていますので、受注側ときちんとコミュニケーションを取ったり、税理士などのエキスパートに相談したりして、ミスを防いでいきましょう。