退職所得とは?退職所得を受け取ったあと、確定申告はすべきなのか?
定年退職や転職などで会社を辞めたとき、一般的に日本企業では退職金を受け取ることになります。「退職所得」とは、退職により勤務先から受ける退職手当などの所得のことです。
社会保険制度に基づいて退職時に支給される一時金や、適格退職年金契約に基づいて生命保険会社や信託会社から受けとる退職一時金なども退職所得に含みます。
では、これらの退職所得を受け取ったとき、確定申告は必要なのでしょうか。
退職所得に対する課税額の計算方法
退職所得は分離課税なので、独自の計算方法によって課税されます。なお、退職所得の所得税額は以下の通り計算します。
・所得税 = (退職所得-退職所得控除額) × 0.5 × 所得税率 ・復興特別所得税 = 所得税額 × 2.1%(平成49年12月31日まで)
なお、退職所得控除は下記の通りです。
・勤続20年以下 = 40万円 × 勤続年数(80万円未満の場合は80万円) ・勤続20年超 = 800万円 + 70万円 × (勤続年数-20年)
では、勤続年数が11年3ヶ月の人の場合の退職所得控除額について見てみましょう。計算上、勤続年数は12年になります。
40万円 × 勤続年数12年 = 480万円
(出典:国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」 )
なお、障がい状態になったことが原因で退職した場合は、退職所得控除額に100万円が上乗せされます。また、以前働いていた会社で退職所得をすでに受け取っている場合や、同じ年に2ヶ所以上の会社から退職所得を受け取る場合は、控除額が変わる可能性があります。
退職所得を受け取る際、会社に「退職所得の受給に関する申告書」を提出すると、所得税、住民税、復興特別所得税を源泉徴収した額が支給されます。この場合、退職所得に関する課税手続きはここで終了となるため、確定申告の必要はありません。
死亡退職の場合の取り扱い
なお、死亡退職の場合、退職所得のうち相続税の課税の対象となるものについては、源泉徴収をする必要はありません。定年退職や自己都合による退職所得は、会社に勤務していた社員や役員に対して支払うものですが、死亡による退職所得は遺族に支払うものであり、取り扱いが異なるためです。
相続税の計算において、死亡退職金には非課税枠が設けられており、「500万×法定相続人の数」までは非課税となります。
もし、死亡退職金が没後3年を過ぎてから支給された場合は、遺族の一時所得となり所得税が課されますが、この場合も源泉徴収は必要ありません。
退職後に確定申告したほうが有利になるケース
ただ、中には退職後に確定申告をした方が、還付金が受け取れて有利になるケースがあります。
1.年の途中で退職した場合
年の途中で退職した場合、それまでの給与が年末調整されていないため、確定申告をする必要があります。ただし、同年末にはすでに別の会社に所属していて、年末調整を受けた場合であれば、確定申告をする必要はありません。
特に、年の始めのほうで退職して再就職しなかった場合、給与所得は少なくなります。一方で、さまざまな控除(人的控除や社会保険料控除、生命・地震保険料控除など)があり、所得額を大きく上回る場合は、退職所得と合わせて確定申告した方が還付を受けられる可能性は高くなります。
2.不動産経営などで赤字が出ている場合
本業の会社勤めのほかに、不動産経営などで所得を得ている方で、赤字が発生している場合は、退職所得と通算して確定申告することで、還付を受けられる可能性があります。
3.申告書を提出していなかった場合
上記の「退職所得の受給に関する申告書」を提出していないと、退職所得に対する源泉徴収は一律20%となります。申告書を提出した場合と比べて、かなり高い税金を取られることになります。この場合は確定申告が必要です。
退職所得を一時金ではなく「年金」で受け取る場合
退職所得を一時金方式ではなく、「年金」として受け取る場合はどうでしょうか。
退職所得を年金として受け取ると、公的年金(老齢基礎年金や老齢厚生年金等)と同じ「公的年金等の雑所得」扱いになります。公的年金等の合計額から公的年金等控除額を引いた額が、「雑所得」の額となります。計算方法は以下の通りです。
<65歳未満の場合>
70万円以下 : 0円 70万円超130万円未満 : 収入金額-70万円 130万円以上410万円未満 : 収入金額×0.75-37万5千円 410万円以上770万円未満 : 収入金額×0.85-78万5千円 770万円以上 : 収入金額×0.95-155万5千円
<65歳以上の場合>
120万円以下 : 0円 120万円超330万円未満 : 収入金額-120万円 330万円以上410万円未満 : 収入金額×0.75-37万5千円 410万円以上770万円未満 : 収入金額×0.85-78万5千円 770万円以上 : 収入金額×0.95-155万5千円
退職所得を年金方式で受け取った場合、公的年金の不足分を補えるというメリットがあります。総務省「家計調査報告」(2016年)によると、60~69歳の世帯の消費支出は、1カ月当たり平均27万7,283円。70歳以上の世帯は23万8,650円となっています。 (出典:総務省「家計調査報告」(2016年) )
これは、生活費など最低必要限の額を示した基準なので、夫婦で旅行を楽しんだり、孫や子どもにお小遣いや教育資金の援助をしたりするには、月35万円程度必要だと言われています。
公的年金で不足する場合は、貯金を切り崩していかなくてはならないため、退職所得を年金方式にして不足額にプラスできることをメリットと感じる方も多いかもしれません。
ただし、気をつけておきたいのは、「所得税」や「住民税」といった課税のほか、高齢になるにつれて受ける機会が増える「公的医療保険の保険料や介護保険料」「公的医療の自己負担割合」「高額療養費・高額介護サービス費のランク」などは所得に応じて決定されるため、「所得が多い=負担が増える」ということになる点です。
退職所得で還付を受けられる可能性があるなら確定申告を
退職所得には特別な計算方法が適用されており、税金も優遇されているため、還付されたとしても数万円程度かもしれません。
そのため、税務署も「退職所得」で還付を受けるために確定申告する人は少ないと考えているようです。ただ、上記の条件にあてはまる場合は、少しでも還付を受けられる可能性がありますので、ぜひ確定申告してみてはいかがでしょうか。