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2013年11月01日(金)

なぜ黒字倒産は起こる?航海の歴史から学ぶ黒字倒産の本当の意味

経営ハッカー編集部
なぜ黒字倒産は起こる?航海の歴史から学ぶ黒字倒産の本当の意味

「黒字」なのに倒産する会社、「赤字」なのに倒産しない会社

黒字倒産
黒字(利益は出ている)にも関わらず倒産してしまう事を「黒字倒産」といます。実は倒産する企業の半数近くはこの黒字倒産だというデータもあります。一方で、新聞で「○○自動車 営業赤字××億円」というような内容の記事を見かける事もあると思いますが、赤字になったからといって倒産しない(危なくない)会社も多くあります。

黒字なのに倒産する会社がある一方で、赤字なのに倒産しない会社がある。これは一体どういう事なのでしょうか?実はこの現象、会計上の収入と支出の考え方が、一般の感覚とは違うことに起因します。

普通の感覚であれば、お金が出て行けば、支出といいたくなりますが、会計には様々なルールがあり、それゆえ、黒字倒産が起こります。

今日はこの「黒字倒産する会社と、赤字なのに倒産しない会社」の不思議について纏めました。

倒産の本当の意味とは

まず「倒産」という言葉について見て行きましょう。
「倒産」は会計や法律の専門用語ではなく、明確な基準もないようなのですが、一般的には「返済義務のある借金が返せなくなって会社の経営が行き詰まった状態」の事をさすようです。そして会社が倒産状態に追い込まれた時に、裁判所を通して行なう手続を「破産」と言います。倒産と破産は同じような意味で用いられていますが、倒産とは会社が立ち行かなくなったその「状態」を指す一般用語であり、破産とは倒産状態にある会社の「破産清算手続」のことであり、こちらは法律用語となります。

黒字・赤字とは

次に「黒字」と「赤字」という言葉について見て行きましょう。
こちらも会計上の専門用語ではなく、簿記(帳簿記入)でプラスの額を黒で、マイナスの額を赤で記入する事から、それぞれ会計上で収入が支出を上回ったことを黒字、収入が支出を下回ったことを赤字と呼ばれます。一般に、健全な経営状態の会社であれば、黒字決算となり、経営が逼迫している会社の場合は赤字決算となります。

収入が多いと黒字...なのに倒産?なぜ!?

倒産、黒字、赤字のそれぞれの意味は分りました。

さて、最初の疑問「黒字なのに倒産する会社 赤字なのに倒産しない会社」に立ち返ると、どうも矛盾しているような気がするのではないでしょうか?だって、収入が支出を上回ってたらお金が手元に十分ある気がしますよね。しかし、黒字倒産がたくさん起こっている。。。「なぜ?」 そこで理解しなければいけないのが、会計上の収入と支出の考え方は普通の感覚とは違うということです。例えば、減価償却費については、実際に会社から現金が出ていくタイミングと、帳簿上経費として計上されるタイミングにズレが生じます。このように会計上は、必ずしもお金を支出した時に経費計上するとは限らないのです。 そのため、帳簿上と実際のキャッシュフローにズレが生じるため、キャッシュが潤沢ではない会社の場合は、帳簿上黒字でも、キャッシュがショートし黒字倒産に追い込まれてしまうのです。

支出がでれば、支出とつけたくなりますが、会計をする上では様々なルールがあります。

航海ビジネスで生まれた会計のルール

航海で生まれた会計のルール

むかしむかしのヨーロッパのお話です。当時のヨーロッパでは、アジアから輸入した物品がとても高く売れる時代でした。
しかし、航海のためにはたくさんのお金が必要だったため、複数の人からお金を募っては、航海終了後には船などを含めて全てを清算し、儲かったお金を配当として付け加えて出資者にお返しするという仕組みで運用されていました。

そんな時ある人が考えました。「今は一度航海が終わったら船を売ってるけど、その船を使い回せば二回目以降の航海では船の購入が必要ないから、儲けが大きくなるのでは?」と。
ところが、これには一回目の航海にお金をだしてくれた人達が猛反論。「二回目の航海へ俺たちの金で買った船で行ってるのに、二回目の航海への出資者は船のお金を負担していない事になる。公不公平だ。」と。

話し合った結果、一回目の出資者のお金から船は購入するけど、一回目の出資者と二回目の出資者が半分ずつお金は負担したと考えて配当のお金を決めるという事になりました。

つまり、出資者の配当を公平に計算するためには、支出はお金が出ていったタイミングではなく、収入を得るために使われた時期に適切に負担させて計算しましょうね、という考え方が始まり、これが「発生主義会計」という今日の企業で使われる会計のコンセプトになっています。

別の言い方をすると、会計において、支出(費用)が記録されるのは、実際にお金が出て行った時とは関係ないということです。

在庫の山が黒字倒産を引き起こすカラクリ

在庫の山
話を戻しましょう。

黒字倒産の理由としてよく挙げられるのが「在庫」ですが、「在庫」と黒字倒産はどのような関係があるのでしょうか?よく言われるのが、「在庫は売られて(または使われたり、廃棄されたりして)初めて支出になる」という事なのですが、これは船の話と基本的に同じです。

つまり、商品仕入のタイミングで支出として扱ってしまうと、商品売上の時点の出資者は、仕入代金を一切負担しない可能性が出てきてしまいます。そのため、商品が売れるまでは会計上の支出(費用)として記録しません。ということで、商品は仕入れれば仕入れるほどお金は出て行くのにも関わらず、売れるまでは会計上の支出として記録されず、在庫として管理されることになり、単純に収支だけをみると黒字なのにお金はなくなって倒産する可能性が出てきます。

この結果、黒字倒産になります

「赤字」なのに倒産しないカラクリ

黒字倒産の一方で、赤字でも倒産しない企業もありますよ。最近だと、大企業のパナソニックとシャープ、ソニー。それぞれ「減損」と「引当金」で話題になりました。

この「減損」と「引当金」について見て行きましょう。

減損とは

メーカーではモノを作るために工場を建てます(最近ではファブレスという、製造プロセスを外注するケースもありますが、、)。工場は何年にもわたって稼働し、販売用製品を作り続け、将来にわたってお金を生み出します。

工場を建てた時の出資者がそのお金を全額負担するのはアンフェアなため、その支出は将来の出資者も等分に負担するように計算を行うべきです(これが「減価償却」という考え方)。
ところが、その工場で作られる製品が全く売れなくなったらどうでしょう?将来の出資者は売れもしない製品を作り続ける工場の支出を負担すべきでしょうか?いえいえ、それでは納得してくれないため、残っていた支出を今の(出資判断を誤った)出資者に全額負担させてしまえ!というのが「減損」です。

引当金とは
では、工場で作った商品に欠陥がある事が分り、将来的に大規模な回収や修理のお金が発生すると分った場合はどうでしょうか?この場合お金が出て行くのは先ですが、考え方は減損の時と同じで、このお金を将来の出資者が負担するというのは公平ではないので、今の(出資判断を誤った)出資者に負担してもらいましょう!となります。これが「引当金」です(ソニーの引当金の原因と種類は少し違いますが)。

これらは支出を記録したからといってもお金は既に出て行っているか、将来的に出て行くことになります。そのため、大赤字が出たからといってたちまちお金がなくなって倒産につながるという事はないのです。

まとめ:会計の本来の目的とは

会計(決算書)の本来の目的は、お金を出資してくれた人への見返り(配当)を公平に計算する事であり、お金が増えた事と減った事を計算する事では必ずしもありません。

しかし、最近では株主が経営者であるような中小企業までが決算書を作成し、資金調達(銀行から融資を受ける)や税金計算など、様々なシーンで利用されるようになっています。そのため、赤字や黒字が会社の経営状態を必ずしも表さないからといって、会計をいい加減にしてよいという訳ではありません。「会計」と「現金収支(キャッシュフロー)」のそれぞれの違いを理解し、状況に応じて適切な経営指標として使い分けるというのが大切です。

このブログは、全自動の青色申告会計ソフト「freee(フリー)」が運営しています。
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